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38着目 マルガレーテの過去! ヴェラセネ・キンダー本格始動!!

 この国の、特に上流階級の間で今なお語り継がれる怪事件がある。

 『シュトラウス邸の悲劇』として知られている事件だ。

 この事件は、シュトラウス男爵の屋敷で催された演奏会の最中、なぜか突然屋敷中の人々が殺し合いを始め、たった一人を除いて全員死亡してしまった事件だ。

 その生き残りは恐怖がフラッシュバックするせいか、事件に関して一言も口にしなかったという。


 そして、その生き残りこそ、シュトラウス男爵家の令嬢にして、事件後シュトラウス男爵位を継いだ、今オレ達の目の前に居る女、マルガレーテ・シュトラウスだ。


 だが、そのマルガレーテ曰く、シュトラウス邸の悲劇には少々裏話があるらしい。


「皇帝陛下はご存じかもしれませんが、我がシュトラウス男爵家は音楽家として貴族位を授かった身。当然、音楽に対する情熱は常人よりも高いものがありました」


 そんな家風を持つシュトラウス男爵家だったが、マルガレーテの両親は異常なほど高い情熱を持っていたらしい。

 その情熱は娘のマルガレーテにも向けられ、『教育』という形で表わされた。


 だが、その教育が常軌を逸していた。

 ちらっと聞いただけでも、明らかに『虐待』だとわかる。オレのいた世界なら、いつ児相に通報されてもおかしくないほど凄惨なものだった。


「私が十歳になって『ミュージック・サイコロジスト』というジョブを授かりました。全く前例のないジョブでしたが、音楽に関するジョブとだけはわかりました。ですが両親は、自分の娘のジョブにもかかわらず深く調べようともせず『音楽関係ならなんでもいい』と言い放ったのです」


 ジョブを授かった後も、マルガレーテの生活は変わらず、両親から暴力的な教育を受け続けていた。

 強いて言えば、ジョブを授かってから時々演奏会で自分の腕前を披露するようになったくらいか。


 だが、過激な教育はマルガレーテの心身を蝕んでいき、限界寸前まですり減らされていた。


「そんなとき、私は救世主と出会ったのです!」


 その人物との出会いは本当に偶然だったらしい。

 だが、その人は瞬時にマルガレーテのジョブ能力を解析し、その力の使い方を教えたらしい。


「その時ほど、演奏会を心待ちにしたときはありませんでした! なにせ、私の音楽を聴いただけで私の意のままに操れるのですから!!」


「貴様、まさか!?」


 皇帝陛下はマルガレーテのジョブ能力に感づいた。

 いや、陛下だけじゃ無い。オレもエルマもローザも、今の闘技場の状況を考えれば予想は付く。


「私のジョブ『ミュージック・サイコロジスト』とは、音楽を媒体にして他者をコントロールする能力! 手始めに、私の自邸で開かれた演奏会で、両親や集まった客人諸共、殺し愛を演じていただきました」


 そう。『シュトラウス邸の悲劇』の真実とは、マルガレーテがジョブ能力で殺し合わせていたのだ!

 そのことにショックを受けたローザが反論する。


「あなた、両親を恨んでいるのはまだ理解出来ますけど、使用人や客人まで殺し合わせる必要があったのですか!?」


「当然です。身分に関わらず、私への異常な教育を『教育熱心ですね』で済ませ、あまつさえ煽るような言葉や行動をした者もいたのですから、同罪です。ですが、そうやって身につけた私の音楽で命を落とすなんて、最高に皮肉が効いているとは思いませんか?」


「……なるほど、それがシュトラウス男爵の考えなのだな。まぁ、今はそれはいい。それよりも、なぜ貴様はヴェラセネ・キンダーに力を貸しているのだ? お前の復讐は両親を殺した時点で終わりだろう?」


「恩返しのためです」


 皇帝陛下の質問に、マルガレーテは即答した。


「私にジョブ能力の使い方を教えてくれた人物こそ、我らがボス『マイスター』なのです。それに、同じようにジョブに悩みを持った方々をボスはお救いしており、ボスに忠誠を誓っている方は多いです。このボニファーツもその一人ですよ」


 マルガレーテの右腕と言っていた少年、ボニファーツもマイスターに救われたらしい。

 なんでも、ジョブの力がわからなかったため出身地の村で何の仕事も出来なかった。

 そのせいで村八分状態に陥っていたところをボスに助けられたらしい。


「そういうわけで、我々にはボスに恩と義理がありますし、あの方の思想に共感しています。なので、ここであなた方を逃がすわけには参りません」


 マルガレーテはヴァイオリンを取り出した。ボニファーツも花火を発射する構えを見せている。


「そうはさせないよ!」


 マルガレーテが何かをする直前、エルマがブーメランを投げ、相手とオレ達の間に巨大な空気の渦が出来た。


「あたしだって何もしなかったわけじゃ無いよ。ローザと勉強したんだから。空気が無いと火は燃えないし、音も伝わらないって!」


 つまり、この風は中心が真空状態になっているのか?

 であれば、あの二人相手にはかなり有効だ。音も火も、空気が無ければ伝わらないし燃えない。


「でかした。皆、こっちに来てくれ。非常用の抜け道があったはずだ」


 皇帝陛下は、闘技場の構造に詳しいようだ。普通なら知らないはずの抜け道を知っていた。

 オレ達は皇帝陛下に導かれ、外に出るための抜け道を目指した。



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