37着目 フィナーレ! 感動の表彰式……?
予備の服に着替えたオレは、試合場のステージの方へと向かう。
そこではすでに表彰式の準備が整えられており、表彰台と授与者が立つ台が用意されていた。
なお、表彰されるのは優勝者のみらしい。クリスタがあの状態なので、仕方ないのだろう。
もっとも、後日賞状とメダルは贈られるらしいが。
「これより、第一回帝国武術大会の表彰式を開催する。優勝者、レオナ・エーベルハルト」
「はい」
司会者に呼ばれ、オレは表彰台に立った。
オレの目の前、表彰を授与する人が立つ台には、一般的に見て美しい女性の姿が。
この人こそ、このアイレンベルクを収めている皇帝、アレクサンドラ・アイレンベルク五世だという。
なるほど、この美貌に加えて肩書き抜きで『この人のためならどんな労力も惜しくない』と思わせる雰囲気がある。
かなり卓越したカリスマ性の持ち主のようだ。
「表彰、レオナ・エーベルハルト。貴殿の帝国武術大会における成績を評価し、ここに表彰する。――ただ、うら若き少女が素肌を何度も晒すのはどうなんだ?」
「すみません。オレのジョブ能力の使用なので、なんとも――」
「そうか。だが、君の能力そのものはすばらしい。おそらく今大会で見せたのは力の一端に過ぎんのだろうが、ヴェラセネ・キンダーに対する強力な戦力には違いない。そう考えれば、肌を見せることぐらい安いものなのだろうな。今後もリリエンタール大公共々、この国のために力を貸して欲しい」
お、もしかして皇帝陛下、オレのジョブに理解を示してくれるのか?
意外と使える物は何でも使うという考えなのかもしれない。
しかもオレの雇い主であるリリエンタール大公にも言及するなど、政治的感覚が非常に優れているようだ。
そして皇帝陛下はオレに賞状とメダルを授与すると、会場全体に届くように演説した。
「今大会で披露したように、この帝国には粒ぞろいの戦士達が揃っている! ヴェラセネ・キンダーに負けることはないと全国民に対しこの皇帝が保証しよう! そしてこの国の不安要素を早急に排除し、平和を必ず届けると約束する!!」
皇帝陛下の演説が終わった瞬間、会場に壮大な音楽が流れた。
なんでも今大会のために、マルガレーテ・シュトラウスという帝国内で有名な音楽家を招き、大会のフィナーレを飾る音楽の指揮を依頼したらしい。
この音楽を聴きながら達成感に包まれていると――なぜか人を殴る音が聞こえた。
それが伝播し、いつしか会場全体に暴動が発生していた。
「うああああああぁぁぁぁ!!」
オレの目の前にいた皇帝陛下も例外では無く、正気では無い目と叫び声を上げ、帯びていた儀礼用の剣を抜き、オレに襲いかかってきた。
「ちっ、仕方ない」
オレは剣に拳を叩き付けて波を砕くと、そのまま皇帝陛下のみぞおちを軽く殴り、意識を刈り取った。
まだベルセルクの衣装が解除されたわけでは無いので力加減が難しかったが、なんとか最小限のダメージを与えるだけで済んだ。
そのまま陛下を脇に抱えると、闘技場の出口を目指して急いだ。
「うううううぅぅぅぅぅ!!」
「ああああああぁぁぁぁぁ!!」
「……やっぱりそうだよな」
控え室に入った途端、やはり理性を失っていたエルマとローザと出くわした。
二人とも控え室まで一緒に来ていたので、当然と言えば当然だが。
そしてエルマはブーメランを思いっきり投げ付け、ローザはツタを無限に生やす植物をまき散らしていた。
「早い! だが、直情的すぎる!!」
幸いブーメランは単純な軌道でしか飛んでこなかったので、開いていた腕で難なくはじき返す。
はじき返されたブーメランはローザの頭に当たり、ローザは意識を失った。それと同時に伸びまくっていたツタが元の普通のツタに戻った。
そのまま流れるようにエルマに接近し、一撃入れて意識を刈り取った。
「ほら、二人とも早く起きろ。脱出するぞ」
「う、うーん……。あれ、あたし、今まで何を?」
「なんか、途中から記憶がなくなったような……」
「時間が無いから詳しい説明は割愛するが、闘技場中がおかしくなった。みんな理性を失って暴れ回っている。なんとか皇帝陛下だけは助けたから、このまま脱出するぞ」
二人はオレに抱えられている陛下を見て一瞬ぎょっとしたが、問答している場合ではない事を直感的に察知したのかすぐ頭を切り換え、脱出に同行した。
「ところで、どうしてレオナは暴れてないの?」
「わからない。もしかしたら、一応着ているままになっているベルセルクの衣装が関係しているのかもしれない」
ベルセルクの衣装も理性を奪い取ってしまう機能を持つ衣装だ。
もしかしたらそれが逆説的に働いて、他者からの精神干渉を防いでいるのかもしれない。
ちなみに、今オレはベルセルクの衣装を上手い具合にコントロール出来ている。
おそらく、回復途中で適度に体がダメージを受けている状態だから、痛みによって上手い具合に戦闘への集中しすぎを避け、狂化スピードを遅くしているのだと思う。
エルマとローザを回収した後、オレ達はあと少しで外に出られる場所までたどり着いた。
だが、その時。
「危ない、避けろ!」
――花火だ。
花火がオレ達に向かって飛んできた。
「あーあ、おとなしく当たっとけば楽に死ねたのに」
「お前は、リリエンシュタット近くの森で魔道具を仕込んでた男!」
忘れもしない。あれがオレの初めての対人戦闘だったんだからな。
あの時は不審者だと思って追跡したが、後でスタンピードを発生させる魔道具を仕込んでいたとわかった。
「名乗るのは初めてだね。ボクはヴェラセネ・キンダー四天王の一人、マルガレーテ・シュトラウス様の右腕、ボニファーツ。よろしくね」
こいつ、やはりヴェラセネ・キンダーのメンバーだったか。
しかし、こいつの上司だというマルガレーテ・シュトラウス。どこかで聞いたような……?
「……なるほど。あのシュトラウス男爵がヴェラセネ・キンダーの仲間、しかも幹部格の四天王だったとは。我の人を見る目もまだまだだな」
「陛下!? お気付きになられたのですか!」
いつの間にか、オレが抱えていた陛下の目が覚めたようだ。
陛下は自分の足で立つと、威厳を内包した声で会話を始めた。
「我を正気に戻し、助けたことに感謝するぞ、レオナ。しかし、あのような悲劇を生き残った令嬢が、なぜテロリストに入ったのか……」
「それは私の口からご説明しましょう」
ボニファーツの後からカツカツと足音が。
そして姿を現したのは――。
「さっきぶりですね、陛下。呼ばれては居ませんがこのマルガレーテ・シュトラウス男爵、ここに参上致しました」




