32着目 開幕! 帝国武術大会!!
帝都の屋敷に帰ってきたリリエンタール大公の話を聞いて、唖然としてしまった。
ヴェラセネ・キンダー対策の会議をしていたはずなのに、なんで武術大会の開催になっているんだよ。
「ヴェラセネ・キンダーの活動により不安になっている帝国民の不安を払拭するためです。『帝国にはこれだけ腕のいい人材が揃っている。だから安心して欲しい』と宣伝するのです」
だが、これは表向きの理由であるらしい。
「盛大なイベントにする予定です。人もたくさん集まるでしょう。こんなに人の耳目を大量に集めた場は、テロリストにとって絶好の機会です。例え罠だとわかっていても」
つまり武術大会でヴェラセネ・キンダーをおびき出す作戦らしい。
そしてしっぽを見せたところを追跡し、なんとかヴェラセネ・キンダーの組織内に付け入る隙を見つけ出す。
そして情報を集め、本格的にヴェラセネ・キンダーを叩き潰す魂胆のようだ。
「それで武術大会に各貴族家から数名選手を出すことになりましてね。レオナさんに出場して貰おうかなと」
「まぁいいですけど……オレだけですか?」
「それは、あなたたちの立場がネックになっていまして……。本当はエルマさんとローザさんにも出場して欲しかったのですけど」
オレ達の今の立場は『嘱託冒険者』。つまり非常勤でリリエンタール大公に仕えている身だ。なのにフルタイムで働いている家臣の人達を差し置いて複数人出場させると、不満に思う人達も出てくる可能性があるそうだ。
それを危惧した結果、三人の中でオレ一人だけの出場となったわけだ。
「では、私達はレオナさんのサポートに入ります」
「あたし達も協力するから、優勝目指してがんばろう!!」
単純に大会に出場するだけでなく色々と警戒が必要だが……ま、出るからにはベストを尽くすか!!
数週間後。
「親愛なる帝国民の諸君! この度、我アイレンベルク皇帝アレクサンドラ・アイレンベルク五世が武術大会を開催することになった! 昨今、ヴェラセネ・キンダーなるテロリストが跋扈し、帝国民の諸君にも不安が渦巻いていることだろう。あらゆる対策が後手に回ってしまっており、帝国民に対して謝罪しても仕切れない。だが、我がアイレンベルク帝国が誇る武勇に優れた人材を集め、卑劣なテロ行為にしか走れないヴェラセネ・キンダーを怖じ気付かせるのだ! 帝国民諸君は、今一度我が帝国の武力を再確認し、どうか安心して日々の生活を送って欲しいと願うばかりである」
武術大会の会場である闘技場にて、皇帝陛下が開会の宣言を行った。
しかし、流石は『指導者』のジョブ持ち。宣言の中に民衆への謝罪の文言が入っていたが、それでも威厳が少しも欠けることは無かった。
むしろ皇帝を擁護する声が観客席の至る所から上がり、人気が上がり続けていた。
「レオナさん、そろそろですね」
「まずは予選なんだっけ?」
「そうだ。ま、ここで脱落するつもりは無いけどな」
ちなみに予選内容は、闘技場内に設置された石の舞台上で一斉に戦い、戦闘不能になったり舞台から落ちたりすると脱落。最後に残った選手が本戦出場となる。
もちろん、全員一斉に試合出来るほどのスペースは無いので、何グループかに分けて行われる。
そして結果だが、無事本戦出場を勝ち取った。
今回は武闘家の衣装で挑んだのだが、この衣装はある程度自分の気配を消すことが出来る。
自分の気配を消して他の選手にオレのことを察知されにくくし、舞台から落ちそうな選手を見つけては落としていくという作戦で勝ち残ったのだ。
と言うわけで、オレは明日から開かれる本戦に向け準備を始めたのだった。




