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30着目 告白! リリエンタール公爵の失態!!

~アルテンブルク大公side~


「ああ、もう! なぜこのような事が起こってしまうの!?」


 アルテンブルク大公は、自分の執務室で叫んだ。

 彼女の主義は、取り締まりを強化して法令の違反者をとにかく刑務所に入れて構成させる事に重きを置いていた。

 なぜなら彼女の父、先代アルテンブルク大公が同じ主義を掲げて方針を定めていたからだった。その結果、犯罪発生件数が劇的に減少していたし、それをリアルタイムで見ていた彼女は『父のやり方こそ正しい』と確信した。


 ところが、代替わりして自分がアルテンブルク大公を継いだ途端、犯罪件数の減少幅が鈍りだした。それどころか犯罪件数が増え出し始めてすらいた。

 それを解決しようと、さらなる取り締まり強化を実施した。しかしあまり効果が出なかった。

 それどころか監獄の収容限界が近づいているという新たな問題が浮上してしまい、最近はもっぱらそちらの対処に忙殺されていた。


「父のやり方が間違っていたというの? いえ、そんなはずが無い……。二度とこんな事件を起こさせないために、もっと取り締まりの強化を――」


「お言葉を返すようですが大公様。今回の事件で監獄が全て破壊されてしまいました。犯罪者を捕まえても、繋いでおく施設がない状態です」


 アルテンブルクは他の都市と比べ、監獄の数が多い。これはアルテンブルクが軍事に特化した都市であることも関係しているが、先代アルテンブルク大公から続く取り締まりの厳格主義によるものも大きい。

 そのため、たくさんの監獄を揃えるのに数十年という歳月を費やしている。


 ところが今回の事件により、全ての監獄が廃墟もしくは瓦礫と化してしまった。事件前と同じ水準に戻すには百年近い歳月と莫大な費用がかかるだろう。


 当然、犯罪者を捕まえても収容する施設がないので取り締まりを行うなど不可能であり、父の代から続いている取り締まりの厳格主義の継続は難しくなってしまった。


 自分の理想が一気に遠ざかってしまった現実を前に、アルテンブルク大公は心が折れそうになってしまった。




~レオナside~


 アルテンブルクの街のほぼ全てを巻き込む大事件が起こってしまったため、行っていた研修は全て中止。予約されていた研修も全てキャンセルとなった。

 そのため、オレ達はリリエンシュタットに帰ることになった。


 そして現在、リリエンタール大公へ研修中の出来事について報告している。


「……そうですか。いつかこうなるんじゃないかとは思っていましたが、まさかヴェラセネ・キンダーが関わっていたとは……。どうやら予想より悪い状況になっていそうですね」


「大公様はこの事を予測していたんですか?」


「はい。そして、過去に私が犯してしまった失態にも関係があります」


 リリエンタール大公の話によると、取り締まりの強化を打ち出したのは先代アルテンブルク大公らしい。

 先代アルテンブルク大公は、とにかく取り締まりを強化して片っ端から逮捕していけば犯罪は減少できると思っていたらしい。事実、確かに取り締まり強化を行った当初の犯罪発生件数は年々減少していたようだ。


 ところが、現在のアルテンブルク大公に代替わりしてから減少幅が縮小していき、ここ数年はとうとう横ばい、それどころか犯罪の増加の兆しすら見えている。

 これは現アルテンブルク大公の能力が足りないわけでは無く、取り締まり強化の効果が切れかかる時期だからという見立てが有力だ。


 しかしそれだけでなく、新たな問題も浮上してきた。監獄の重要人数の限界である。

 監獄にジャンジャン犯罪者をぶち込みまくったせいで収容施設も看守も足りなくなってきているらしい。


「そういえばアルテンブルク大公は、オレ達が面会した時もずっと机で仕事していたような……」


「アルテンブルク大公は軍系貴族の筆頭であり、その当主も軍の指揮や戦闘で能力を発揮するタイプです。それは現在のアルテンブルク大公も同じ事。ですがここ何ヶ月も屋敷から出ずに机にへばりついているそうですよ」


 つまり、軍や訓練所に顔を出さず書類仕事ばかりしており、アルテンブルク大公の仕事としては異常すぎる。

 それくらい、監獄問題が逼迫した問題だったという証拠だ。


「しかもアルテンブルク大公領の監獄では、囚人の超過収容に加え看守の人数が足りていないため、毎日どこかで問題が起きていますし、犯罪者同士のネットワーク構築の場にもなっていたそうですよ」


 どんな小物、もしくは冤罪で捕まった人でも、ひとたび監獄に入れば犯罪者ネットワークを構築し、あらゆる犯罪の手口を学び出所する。より凶悪な犯罪者として。

 もはやアルテンブルク大公領の監獄に更正機能なんか無い。あれは蟲毒だ。


 ここで、エルマとローザが口を開いた。


「そういえば、子供を働かせていた工房に踏み込んだ後、働かされていた子供達をほったらかしていたような……」


「アルテンブルク大公家のやり方かと思いましたけど、冷静に考えてみればあり得ませんよね?」


「……やはり、社会構造に向ける目を完全に失ってしまったのですね、アルテンブルク大公家は」


 犯罪が発生するメカニズムについては諸説あるが、社会問題や社会構造に起因するものもある。犯罪の減少や撲滅を目指すのならば、いつかは避けて通れない課題でもある。

 ところが、アルテンブルク大公家はそれに一切目を向けない。もしかしたら気付いていないのかもしれない。

 取り締まりの厳格主義による効果が限界に近づいており、もう社会問題に目を向けなければいけないのに、それが出来ていない。


 そして取り締まりの厳格化というのは庶民への締め付けと受け取られる場合もある。その結果、堪った不満が爆発してもおかしくは無い。

 しかもアルテンブルク大公領の場合、監獄もかなり危ない状態だった。爆発はより大きくなることは必至だ。


「それで私の失態というのは、取り締まり厳格化に手を貸してしまったことだったんです」


 先代アルテンブルク大公が取り締まりの厳格化を発表した際、リリエンタール大公はまだ大公位を継いだばかりの若者だった。

 先代アルテンブルク大公の発表資料を事前に入手したリリエンタール大公は、経済に詳しい貴族らしく試算を行った。その結果、取り締まりを厳格にした方が手間や費用の面で従来の治安維持費用よりも安く済むことがわかった。

 それを根拠に、先代アルテンブルク大公に賛成したのだ。


「ですが何年経ってもやり方を変えない当時のアルテンブルク大公に疑問を持ち、もう一度試算し直してみたのです」


 その結果、安く済むのは短期間で終わらせた場合の話であって、取り締まりの厳格化を長期間にわたって行うとどんどん弊害が顕著に出てきてしまい、最終的に治安維持費用がびっくりするくらい高つく事がわかったのだ。


 だが、意見を変えることは出来なかった。

 先代アルテンブルク大公に賛成の意を示したのは皇帝と三大公家が集まって話し合う、この国にとってトップクラスに重要な会議の場。

 そこで示した意見をひっくり返すとなると、最悪信用問題に関わってしまい、力を失ってしまう可能性があった。


 例外は学術系のシュピーケルマン大公家だけだ。

 学術の世界は、研究が進むことにより通説が覆ることがたまに発生する。

 そういう環境に身を置いているシュピーケルマン大公家は、しっかりした証拠さえ集まれば意見を変えることもいとわない。

 そのため、意見を変えることがあっても『確実な理由がある』と見られて信用を傷つけることが無いのだ。


「あなたたちにアルテンブルクへ研修に行って貰ったのは、純粋に技術を身につけて欲しかったからと言うのもありますが、私の失態の末路がどうなったかを見て欲しかったからです。結果として、かなり過激で強烈な教材になってしまいましたが」




~ヴェラセネ・キンダーside~


ヴェラセネ・キンダーのアジト。

 ここに、アイレンベルクで暴れ回った兄妹が到着した。


「カスパルとユリア、共に到着致しました、ボス」


「ああ、ご苦労だった。久しぶりだね、二人とも」


 兄妹が面会したのはヴェラセネ・キンダーのボス、マイスターだった。

 ちなみにレオナ達には名乗らなかったが、兄の方を『カスパル』、妹の方を『ユリア』と言う。


 カスパルとユリアは、実はマイスターと一度会った事がある。

 その時にマイスターの目にとまり、ジョブの能力、特にカスパルの『降霊師』の能力をより詳しく教えられた。

 その結果めきめきと実力を付けていき、ついにはヴェラセネ・キンダー最年少の四天王に抜擢されたのだ。


 もっとも、アイレンベルク治安維持隊の取り締まりが厳しく、なかなかヴェラセネ・キンダーのアジトへ合流できなかったが、つい先日暴動を成功させ、それに紛れて無事アイレンベルクを脱出できたのだ。


「まずはアイレンベルクの作戦成功、おめでとう。大方上手くいったようで何よりだ。……ところで、例の少女と交戦したようだね?」


「はい。俺とユリアの協力でこちらが優勢のまま戦闘を終えることが出来ましたが、ほんの少し対処を間違えれば負けていたかもしれません」


 『例の少女』とはレオナの事だ。

 ユリアに与える効果を何度も変えレオナを圧倒していた二人だが、本人達は綱渡りをしているような感覚で戦っていたようだ。


「ふむ、そうか。確かに君たちの能力では例の少女と相性はいいようだ。だが、ジョブはまだまだわからないことが多い。くれぐれも、油断はしないように。

 それと今後のことだが、どうやら帝都で何か動きがあるらしい。詳細はその動きが何なのか判明してからになるが、場合によってはマルガレーテが準備していたものを作動させるかもしれない。その時、君たちにも手伝ってもらう事になると思う。

 まぁ少し先の話だから、今は体をゆっくり休めるといい」


「わかりました。では」


 そう言うと、二人は礼をしてマイスターの下を去った。


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