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3着目 追放! 新たなる旅立ち!

 今生のオレには、2つ年の離れた妹が居る。名前はクリスタ・エーベルハルト。

 クリスタは色々な部分がオレと正反対だ。

 まず体型。オレは小柄で体のラインに凹凸がなく、胸は申し訳程度にしか膨らんでいない。

 だがクリスタはオレよりも背が高いし、10歳にしては体のくびれが出てきているし、すでに胸の大きさはオレを上回っている。


 顔立ちについては、オレはかわいい系の男の子っぽい感じで、ショートヘアにしている。

 対してクリスタは美少女の中の美少女って感じだし、髪はロングにしていた。街を歩けば必ず同年代の男子の視線を奪うような美少女だ。


 性格も、オレは男勝りなのにクリスタは貴族令嬢らしい振る舞いを身につけていた。


 とまぁその他にも正反対な部分があるが、それくらい方向性が全く逆を向いているしまいなのだ、オレ達は。

 そんなクリスタがどうしたのかというと、そいつがジョブ神託の儀を受けたとき、引き当ててしまったのだ。


「告げる。汝のジョブは『勇者』。……おお、なんと!」


 エーベルハルト家の力の源でもある勇者のジョブ。それをクリスタが授けられたのだ。

 もう神殿の中はお祭り騒ぎ。両親も泣いて喜んでいた。


 逆に言うと、2年経っても何の力も発揮できていないオレの風当たりが強くなる事が確定してしまった瞬間でもあった。


 屋敷に帰ると、オレは両親に呼び出された。


「レオナ。お前を廃嫡する」


 父親の書斎には行って早々、親子の縁切りを宣言されてしまった。


「……理由をお伺いしても?」


「神託の儀の見届けに来ていた方々から言われたよ。『下のお子さんは勇者を引き当てて良かったですね』、『エーベルハルト家は安泰ですね』と。だが同時に『上のお子さんは残念でしたね』、『ジョブの力がわからずご苦労なさっているんですね』と皮肉交じりにな。よって、お前は一族の恥だ。迷惑になるから、さっさと出て行くが良い」


 これだ。オレの両親の本性。

 オレの両親は、自分自身が持っている芯の通った価値観を持っていない。他人からの評価が全てなのだ。

 オレは他者の評価に依存しているんじゃないかと考えている。あらゆる存在に関して自分で考えて評価するという事を放棄し、他人の考えに寄生し、他人の評価に流されて生きているのだ。


 以前、オレの性格の事を『武人らしい』という理由で特に何も言われなかったと説明したが、実はその評価、両親が判断したものではない。

 父親の同僚がうちの屋敷にやって来たときに、その人の口から出た言葉なのだ。

 その言葉を両親が鵜呑みにしたから、何も言われなかったのだ。


「……ところで、私を駒として使うというお考えは?」


「婚姻を結ぶための駒になるという意味か? そんなこと出来るか。そんなことをして、嫁ぎ先の家に変なジョブを持った子が生まれたらどうする。迷惑を掛け、うちの評価が下がるだろう」


 偏見甚だしい言葉に聞こえるが、ジョブに関してはあながち間違っているとは言えない。

 ジョブはある程度の遺伝性を持つことがわかっており、子供は両親やご先祖のジョブを受け継いだり、あるいは先祖のジョブがミックスされたかのような性質を持つジョブを授かることがある。

 もちろん、オレのように両親や先祖関係なく突発的に現れるジョブも存在しているが。


「……そうですか。では、曲がりなりにも今まで育てて下さりありがとうございました」


 オレは最悪こうなることを予期して準備していたので、単純に今まで計画していたことを実行するだけだと考え、特に何の感慨もなく屋敷を出る準備をした。




 準備を終え、屋敷の玄関に差し掛かったとき、後から声を掛けられた。


「聞いたよ、お姉様。屋敷を出るんだってね」


「珍しく見送りに来たのか、クリスタ?」


 声を掛けたのは、妹のクリスタだった。

 もちろん、あいつがわざわざ廃嫡されたオレを見送りに来るような殊勝な人間ではないことくらいわかっている。


 そもそも、このアイレンベルク帝国は皇帝の一族の家訓が『弱肉強食』であることも影響し、特に上流階級では次期当主の座を争って熾烈な競争が繰り広げられている。

 エーベルハルト家も例外ではなく、オレとクリスタは生まれつき当主の座を争うライバルなのだ。

 だから、別にオレとクリスタは仲がいいわけではない。むしろオレよりも要領がいいクリスタは、オレのことを見下していた様なのだ。


「そんなわけないでしょ。ちょっと聞きたいことがあって。あんた、女の子が好きなくせにお父様に嫁入りの打診をしたんだって?」


「ちょっとした興味で聞いてみただけだ」


 クリスタは、オレの恋愛対象が女子であることを知っている。いいカードになると思って周りには話していないらしいが。

 ただ、その原因がオレの前世にあるとは見抜いていないようだが。むしろ、オレの前世について気付く人なんているのか? とも思うが。


「あっそう。でも良かった。いつ私が手篭めにされるんじゃないかと怖かったんだけど、これで安心して夜眠れるわね」


「お前みたいな性悪女、一夜の関係でもごめんだね」


「あら、そうだったの。ところで、これからどこに行くわけ?」


「お前に言う義理はないが、一応言っておく。南のリリエンタール大公領だ。あそこは少し前から興味があったからな」


「ずいぶん遠くに行くのね。ま、せいぜいのたれ死にしないようにがんばってね」


「言ってろ。いつか吠え面かかせてやるからな」


 そういうわけで、エーベルハルト家の屋敷で最後に行ったことは、仲が悪い妹との言い合いに費やされた。



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