29着目 驚愕! 兄妹は強大な敵!!
目の前の女の子としばしにらみ合う。どう見ても十歳程度の幼い女の子だが、精霊を一時的に戦闘不能にしてしまった。
もしかして、何か特殊なジョブの持ち主か? と思ったが、少女の後に少年が現れた。
その少年は姿を現すなり口を開いた。
「あんたらだな、ボスが注意しておけと言っていたのは。リリエンシュタット、シュピーケルンではかなり活躍したそうじゃないか」
こいつが言っているのは、おそらくヴェラセネ・キンダーがらみと思われる事件の事だろう。
そう考えると、一つの可能性が浮かぶ。
「もしかして、ヴェラセネ・キンダーの一員か?」
「そうだ。計画がご破算になったら堪らないからな。悪いが、ここで足止めさせて貰う。……頼むぞ」
「……わかった」
すると妹の方が、オレに向かって拳を振り上げながら突っ込んできた。
オレは気が進まなかったが、腕を切断するつもりで剣を振り下ろした。が、しかし。
ガキィン!!
なんと、オレの剣が拳に止められてしまった。手甲を装備しておらず、素手であるにも関わらずに。
そして疑問が一つ。
「なんだ? 明らかに剣と拳がぶつかった音じゃない。金属同士がぶつかった音……」
「おしゃべりしている暇、無い……」
次の瞬間、オレは無数のラッシュを受けてしまった。
「クッ……」
オレはなんとか剣で捌こうとしたが、相手のラッシュは以上に早い上に手数が多く、到底捌ききれるものでは無かった。
「レオナ、今助けるよ!」
「レオナさんから離れて下さい!」
エルマとローザが助けてくれたおかげで、オレはラッシュから抜け出せた。
そしてオレは自分のダメージを確認したが、そのあり得ない光景に驚いてしまった。
「なんだよ、これ……」
騎士の衣装は全身を覆う鎧だ。ただし、下半身は丈が短いスカートタイプの鎧で、生足がバッチリ見えてしまっているが。
だが鎧だけあり衣装の中では耐久力が高い方だ。
そんな騎士の衣装は、かなりボロボロにされてしまっている。左胸が破壊されブラが見えてしまっているし、右腰の部分が壊されパンツの一部が見えている。
本来なら下半身の鎧が脱げ落ちてしまうような壊され方だが、全く脱げる気配を見せない。ドレスアッパーのジョブの効果なのだろうか?
衣装はボロボロにされてしまったが、それは予想の範囲内。あのラッシュを受けてタダで済むとは思っていなかった。
オレが驚いたのは、衣装の壊され方だ。
右肩の一部を破壊されてしまっているのだが、その破壊された跡があり得ない。
ものすごく鋭い刃物で切られたような傷跡なのだ。
あの少女は拳しか使っていないはずなのに、この壊され方はおかしすぎる。
初撃で剣と拳を交えたときに異常な音がしたことと言い、謎が多すぎる。
「レオナさん、別に真正面から戦う必要はありません。要は相手の動きを止めればいいんです。エルマさん!」
「わかった! いくよ!!」
ローザはキノコを掲げ、エルマは風魔法を発動した。
あのキノコは睡眠効果を持つ胞子を飛ばすキノコで、さらにローザのジョブ能力で睡眠効果を高めたものだ。
それをエルマの風魔法で飛ばしたのだ。
「……無駄」
だが少女が拳を突き出すと、なんと突風が吹き胞子を乗せた風を霧散させてしまった。
この風の威力、どう考えても達人技とかで説明できるレベルを超えている。
オレが少女の攻撃に疑問符を浮かべているのを悟ったのか、少年がマウントを取るかのように開設した。
「俺の妹のジョブは『拳闘士』。素手を使った戦闘のスペシャリストだが、それだけだ。だが俺の『降霊術師』のジョブでゴーストを降ろすことにより、追加で能力が備わるのさ」
なるほど、読めてきた。
つまり、兄がゴーストを妹に憑依させることで、あの拳に色々な効果を付け加えていたのか。
オレの剣と素手で打ち合えたり衣装に切り傷を付けたりしたのは、剣士なんかのジョブを持ったゴーストを憑依させて拳を剣にしたから。
エルマの風魔法で飛ばした胞子を同じく風で打ち消したのは、風魔法使いのゴーストを降霊させたのだろう。
相手のネタは割れたが……対処法が見つからない。
あの兄妹は、ある意味手段を豊富に持ち、いつでも切り替えられる状態に等しい。
対してオレ達はそんなに手段はない。オレの場合は一応手段をたくさん持っているジョブだが、一々戦闘から離れなければ切り替えられない。
ローザも手段をたくさん持っているようなジョブであるが、敵の能力の熟練度を見るに、きちんと対応出来るのかどうか不明だ。
あとは兄の方をさっさと始末出来ればいいのだが、妹を出し抜いて兄を倒す手段が思い浮かばない。
ここで先日手なのか、とにらみ合いが続いたが、若い男性が乱入した。
その男性は戦闘に参加せず、兄の方へ何か耳打ちすると、どこかへ去ってしまった。
「作戦は達成した。俺達もここを離れるぞ」
「……わかった」
すると妹が地面を殴りつけ、盛大に土埃を巻き起こした。
土埃が晴れると、兄妹の姿は消えてしまった。
「……逃げられたか……」
兄妹の姿が消えると同時に、この騒動もほぼ収まった。
しかしアルテンブルクは復旧に時間がかかるほどボロボロになり、周辺にあった刑務所は廃墟と化してしまった。




