25着目 乱闘! ゴースト戦線!!
この世界には、『アンデッド』に分類される存在がいる。
本来死んでいる存在が動いて活動しているもの全般を指している。例えば、動く死体『ゾンビ』がその典型だ。
そして『ゴースト』も存在している。つまり幽霊のことだ。
何らかの強い思念を持った人物や存在が死亡した後、何らかの理由で魔力が集中すると生まれる――とする説が最も有力らしい。
そんなアンデッドだが、普通に人や魔物を相手にするような戦い方は通用しない。なぜなら、アンデッドはすでに一度死んでいる存在であるからだ。
ゾンビを例に挙げると、本来の生物であれば急所であるはずの心臓や脳がすでに動いていない。従って、心臓を付いたり首を刎ねたりしても全く倒れないのだ。
ではどうするかというと、動けなくなるくらいミンチにするか強力な炎で灰にするしかない。
とまぁ普通の生物を相手にするより難しいかのように説明したが、アンデッドの中で言うとまだ優しい方だ。
なぜなら、『死体』という『実体』があるからだ。なので普通の物理攻撃やあらゆる魔法攻撃が効く。
だが、実体がないゴーストになると難易度が格段に上がる。物理攻撃は全くと言っていいほど効かないし、通用する魔法もものすごく限られてしまうからだ。
では何も打つ手立てが無いのかというと、そんなことはない。むしろアンデッド専門に効く方法がある。
それが『光魔法』だ。光魔法は味方を治癒したり強化したりする、バフを中心とした補助魔法が多いのが特徴だ。
だが、アンデッドに向けて放つと最強の攻撃魔法になる。とんでもなく強力なアンデッドでもない限り、ほぼ一発で成仏させられる。
街にゴーストが出現すると、オレ達は出会った女の子達をとりあえず安全な場所へ隠しておき、そのまま宿へ向かった。
幸い宿の中までゴーストが出現しなかったので、そのままクローゼットを召喚。すぐさまある衣装を買った。
その衣装は『神官の衣装』。光魔法を使える衣装だ。
外見は女性物の神官なのだが、スカートが異様に短いことが少しだけ気になった。
「ま、そんなこと気にしてる場合じゃ無いか」
そしてオレ達はこの事態を調査、できれば打破すべく、宿の外へ飛び出した。
オレ達はゴーストとの戦闘を開始したが、全く思いもしなかったことが起こってしまった。
「なんで……光魔法が当たらないんだ……?」
オレがいくら光魔法で攻撃しても、なぜかすり抜けてしまう。
本来であれば、光魔法が当たった時点で消えるなりダメージを受けるはずなのに、全くそんな様子すら見せていない。
こんなゴースト、聞いたことがない。
そしてこちらの攻撃が通じず、ゴーストの攻撃がオレ達に通用するとなると、戦いは一方的だ。
オレ達はゴーストの攻撃にさらされボロボロになりつつある。オレなんて光魔法を使える関係で最前線に立っているせいか、衣装が布きれになりかけており、インナーが丸見えだ。
「とにかく、一度回復を……」
オレは光魔法を使ってダメージを回復したが、そこで信じられない事が起こった。
「衣装が元に戻った!? それに、ゴーストが消えてる……?」
本来、オレの衣装やインナーは回復魔法で元に戻る代物ではない。クローゼットに戻ることで修復される。
衣装が破壊されてしまった場合でも、衣装やインナーの効果や能力だけ残して後は自動的にクローゼットに戻っており、そこで自動的に修復されているらしい。
だが、今のはドレスアッパーのジョブのルールに反している出来事だ。明らかにおかしい。
「レオナ! 敵の目の前で何ボーッとしてるの!」
「そうですよ! 衣装ももう持たないでしょう!!」
エルマとローザがオレに向かって叫んだが、会話と現状がかみ合っていない。
今のオレの衣装は傷一つ無いし、敵もなぜか消え去っている。
(……もしかして)
オレは一つの可能性を考え、二人にある質問をした。
「エルマ、ローザ! 今のオレのブラとパンツの色と模様は?」
「ちょっと、こんな時に何言ってんの!?」
「いいから! 大事なことなんだ!!」
「わかったよ! 金色! まっ金金で高そうなヤツ!!」
「ちょ、ちょっと待って下さい! 私、青一色に見えていますが」
ビンゴ。オレの思ったとおりだ。
ちなみに、二人の答えはどちらもハズレだ。今のオレはパープル・ドット・パンツとブラ――つまり魔法使いの衣装を着ていたときに身につけていたインナーを選んでいる。
本当はきちんと神官の衣装様にインナーを用意したかったのだが、緊急事態で効果を付与している時間が無かったため、性質が似ている魔法使いの衣装の時に選ぶインナーをとりあえず着用しているのだ。
そして、エルマとローザがバラバラで間違った答えを言ったことで、オレも確証が持てた。
こうなったら、後は話が早い。
オレは二人にさっさと回復魔法をかけた。
「え? え!? ゴーストはどこ!?」
「レオナさんの衣装が破れていない? これは一体……」
「全部幻覚だよ」
そう。あのゴースト軍団は全て幻覚だったのだ。だからオレの衣装が破れたように見えただけし、オレのインナーも見る人によってデザインが違う。
唯一、正解を知っていたオレだけが正しいデザインのインナーに見えていた。
そして回復魔法をかければ、ゴーストも衣装のダメージも全て消えてしまう。
ただ、幻覚であればまた別の疑問も浮かぶ。
「しかし、街全てに発生させ、しかも痛覚まで感じさせる幻覚となると、不可能の域に近いですよ?」
ローザの指摘通り、幻覚を見せる魔法は範囲が広ければ広いほど、視覚以外の感覚を感じさせようとするほどより高度で難しくなる。
広範囲で痛覚を感じさせようとすると、まず不可能なのだ。
これは、何かカラクリがあるに違いない。
「ねえ、何か妙な風の流れを感じるんだけど」
エルマはブーメランガーというジョブが最近成長してきたせいか、風を読めるようになっていた。
そんなエルマが『おかしい』と言うのだから何かあるなと思い、オレ達はエルマの後を追った。
そしてとある路地裏に行き着いた。そこにあったのは……。
「なんかツボが置いてある!」
「それに、何か吐き出していますね……」
妙な煙を吐き出しているツボが置いてあった。
オレはそのツボに近づいたが……。
「な、ゴースト!?」
またゴーストの幻覚を見てしまったので、急いで回復魔法をかけた。
あのツボに近づいてゴーストの幻覚が見えたということは……。
「幻覚を見せる薬を撒いているのか!?」
そうとしか考えられなかった。
ただ、街中が全員同じ幻覚を見ていると言うことは、幻覚を見せる薬にさらに何か手を加え、見せる幻覚をコントロールしている。つまり魔道具である可能性が高かった。
とりあえず、魔道具であればスイッチを切るしかない。
下手に壊せば、内蔵している薬が大量にまき散らされ、どんな影響が出るかわかったもんじゃない。
幸いにも光魔法には状態異常に耐性を持たせる魔法があったので、それを利用してツボに近づく。
そして底にあった魔方陣に魔力を流すと、煙の発生が止まった。
「よし、これと同じ魔道具を探すぞ。さすがにこれ一台だけで街全体に効果を及ぼすなんて考えにくいからな」
そして、オレ達は幻覚を見せる魔道具探しに奔走することになった。




