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11着目 全裸の帰還!! その頃……?

 この世界は中世ヨーロッパ風ファンタジーな世界だ。なので、それなりの規模の街には必ず城壁があり、門を設けてそこに衛兵を置き、街に出入りする人を管理し、安全を守っている。

 当然、アイレンベルク帝国の重鎮である三大公家の領地の一つリリエンタール大公領の中心地であるリリエンシュタットは帝国の中でも屈指の大都市だ。

 つまり、リリエンシュタットの城壁は非常に立派で大きく、門も数カ所も受けられている。


 オレ達冒険者の主な仕事場の一つである魔物の領域は、当然ながら街の外にある。そのため日常的に門を出入りしている。

 本日、オレは初めて衣装を全て破壊され、全裸にされた。

 今はエルマから借りたタオルを巻いているが、注目を集める格好であることは言うまでもない。


 そして、その状態で門を通ろうとすれば当然――。


「君! なんて格好で歩いているんだ!!」


 この通り、衛兵に止められてしまう。

 後は門に設けられた詰め所に連れて行かれ、調べを受ける羽目になった。

 ただ、不審者扱いしている訳ではなかった。


「――では、野盗に身ぐるみを剥がされたり、暴行を受けたりしたわけではない、と」


「はい。詳しく話すと長くなりますが、簡単に言えばジョブの能力で衣服を身代わりにダメージを受け流した。その結果がこれです」


 どうやら、オレが野盗なんかの犯罪者に襲われたり、変態に性的暴行を受けたりしたのではないかと心配してくれたようだ。

 オレの姿が十二歳の女の子の姿だから、そういう発想が強く出たようだ。

 オレは詳しい説明を省いたが、ジョブ能力で服を犠牲にして身を守ったと説明した。別に嘘ではない。


 そして、オレを心配してくれた衛兵がギルドに迎えを頼みに行ってくれた。




「――で、何か言うことは?」


「全裸になるハメになったのはあの男のせいです。好き好んで全裸になる趣味はオレにはないですよ」


 無事にギルドに帰れたと思ったら、なぜかヘルミーナさんに叱られてしまった。

 しかし、オレが全裸になったのはあの男のせいなので、オレに責任を問うのは間違っていると思う。


「……確かに、今回の件を聞く限り、レオナさんに責任を全て問うのは難しいわね。だったら、こういう事態に備えて替えの着替えを持っておくとかしておきなさい」


「そんなことしたら、荷物がかさばりますよ?」


 冒険者の常識として、任務に持っていく荷物は必要最小限に留めておくというのがある。

 荷物を持ちすぎると重くなるし、カバンが大きくなるので戦闘の阻害になりやすいのだ。


「……全く、しょうが無いわね。エルマさん、これあげるから、レオナさんの着替えを管理しておいてくれるかしら?」


「これ……『魔法の袋』ですか?」


 『魔法の袋』。一見すると腰に巻き付けておく小さい袋だが、錬金術を使って内部の空間を思いっきり拡張しており、見た目以上の収納力を誇る。

 値段は収容能力があるほど高くなり、さらに時間停止効果を付与させた物は目玉が飛び出るほど高額になってしまう。


「そこそこ安い物だから納屋程度の収容力しかないけど、着替えを入れておくんだったらまぁ十分でしょ」


 簡単に言うが、実は魔法の袋は安くても初級をようやく脱した冒険者が三ヶ月必死に仕事してようやく買える値段だ。

 その価値があるのをわかっているので、エルマは慎重に自分の腰に結びつけていた。


「さて、お説教はこれくらいにして、あなたたちが見た不審な男についての話ね」


 ヘルミーナさんの表情が、あきれ顔からシリアスな顔に変化した。


「あなたたちから報告を受けてすぐだから、まだ色々とよくわからないわ。不可思議な点も色々とあるし」


 魔物の生息域で襲ってきたあの男、今にして思えば不思議に思う点がいくつもある。

 そもそもあの場所で何をしていたのかというのも気になるが、それ以外にもなぜオレ達に嘘をつかなかったのかというのがある。

 あのまま嘘を突き通し、魔物の生息域に迷い込んだ一般人を装えばあんな騒動にならず、オレ達から不審に思われなかったはずだ。

 それなのになぜ、わざわざ俺達を襲い危険視される行動をしたのか。そこがよくわからなかった。


「とりあえず、この件に関してギルドは領主様と連携して情報収集に努めることを決定したわ。一応全ギルド登録者に注意喚起するけど、もし不審に思うことがあればすぐに報告してね」



~??? Side~


 リリエンシュタットにある、高級ホテル。

 貴族や大商人御用達であり、犯罪とは無縁そうな場所である。

 そんなホテルの一室に、一組の男女がいた。


 一人は二十歳の女性、もう一人は十五歳の少年。

 二人は家族でもカップルでもなく、上司と部下のような会話をしていた。


「あなたねぇ、どうしてわざわざ怪しまれるような行動を起こすの?」


「仕方ないだろ! ボクが何か仕掛けていたのを見られたと思ったんだよ!」


 どうやら女性の方が立場が上のようで、少年を叱責している。

 それに対して少年は弁明や反論をしていた。


「……とりあえず、顔は見られなかったのね?」


「ああ。フードを深くかぶってたし、外套を花火にしたときは煙を多めにしておいたからな。それにもしバレてたら、街に入るときに止められるか捜査の手がここまで来ているはずだしな」


 実はこの少年、名前を『ボニファーツ』と言い、レオナ達に魔物の生息域で発見され、一戦交えたあの少年である。

 そして女性の方は『マルガレーテ・シュトラウス』。代々優れた音楽家として活動し男爵位を賜ったシュトラウス男爵家の現当主で、彼女自身も音楽家として知られている。

 また、10年前に首都アイレンシュテットのシュトラウス男爵邸で起こった、一家や使用人など屋敷にいたほぼ全員が謎の死を遂げた事件『シュトラウス邸の悲劇』の唯一の生還者としても有名である。


 マルガレーテは『巨大な貿易港を持つリリエンシュタットで外国の音楽について取材する』という名目でリリエンシュタットに滞在していた。ボニファーツはマルガレーテの従者という立場で行動を共にしているのだ。


「それで、一番重要な事なのだけど、例の装置はきちんと設置してきたのでしょうね?」


「ああ。ボクを追ってきた奴らも、それには気付いてなかったようだしな。そうそう見つかりやしないさ」


「そう。私はあの装置についてあまり詳しくは知らないけど、ボスがお墨付きをしていたから、とりあえず信じましょう。ボニファーツ、あと数日滞在して装置の起動状況を確認したら、さっさとアイレンシュテットに戻るわよ。魔力の変化を読み取るだけだから、この部屋にいるだけで出来てしまうし。それにボヤボヤしてたらスタンピードに巻き込まれてしまうからね」


 あ、それと……と、マルガレーテは思い出したように付け加えた。


「ボニファーツ、あなたは上手く嘘を言えるようになった方がいいわよ。今回の件も、上手く嘘をつけていれば怪しまれずに済んだかもしれないわ」


 レオナ達はボニファーツが嘘をつかなかったことを怪しんでいたが、真相はボニファーツが未熟だったばかりに嘘でやり過ごせなかっただけであった。


「……ああ、わかった。今度から気をつけるよ」




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