10着目 ブーメランガーの力! それと不審者!?
今日は、エルマと一緒にマジラビットを狩りに近くの農家へ来ていた。
もちろん、この依頼はエルマの実戦の第一歩という面が大きい。オレは不測の事態に備えたフォロー役として参加している。
なぜ、オレの時は一人で狩りに行かせたのにエルマはフォロー役を付けるか疑問に思う人もいるだろう。もちろん理由がある。
オレの場合、幼少期から戦闘に関する訓練を受けていたことが理由として挙げられるが、最も大きいのはヘルミーナさんが正確にオレの腕前を見極められたというのがある。
オレのジョブは非常に特殊で前例がないが、戦い方は剣、槍、斧というオーソドックスな武器を使うし特殊な技を持っているわけではなかったので、ヘルミーナさんの経験から簡単かつ正確にオレの強さを推し量れた。
だが、エルマの場合は違う。
彼女が使っているブーメランは、この世界ではまだ一般的に知られていない武器だし、ヘルミーナさんも触ったどころか存在すら知らなかった。
そのため、エルマの強さがよくわからないのだ。
現在、ヘルミーナさんはエルマが使っているタイプと同じブーメランを工房に発注して手に入れ、練習している最中らしい。
ある程度自分で扱うことが出来ればエルマの強さがよくわかるという。しかも、その『ある程度』であればトレーナーのジョブの能力を使えばすぐその領域に到達できる。
エルマの腕が正確にわかる日は、そう遠くないだろう。
「よし、また一匹討伐!」
「ホント、みるみるうちに上達するよな」
依頼を始めて早々、エルマはマジラビットを何体も討伐していた。
しかも討伐する回数を重ねるごとに、単にブーメランを投げて命中させるだけでなく帰ってくる軌道に当てたり、何回かブーメランをマジラビットの周りを回らせて惑わせたところを当てるなど、高度かつ有効な技を次々に習得していった。
これがブーメランガーのジョブの力なのだろうか。
「レオナの方も新しい衣装の戦い方、馴れてきたんじゃない?」
実は、エルマにはオレのジョブのことを伝えてある。
それを聞いたエルマは『いろんなお洋服をタダで着られるって事? いいなぁ』とうらやましがっていた。
そして、オレは新しい衣装を買っており、それを今回の依頼で試そうとしていた。
衣装の名前は『武闘家の衣装』。ミニと言える丈の短いチャイナドレスに、側面に金の竜の刺繍が入った黒いスパッツというデザインだ。値段はドレスメダル150枚。
名前の通り、武術を使った戦闘を得意とする。素手や蹴りが中心だが、武器としてヌンチャク、トンファー、棍も使用可能。
戦士の衣装よりも耐久力が弱いが、素早い動きが出来るので防御よりも回避に重点を置いている。また、一気に間合いを詰めて多量の手数で反撃の隙を与えず倒すという戦法も採れるのだ。
さらに、新しい衣装を新調したため、新たなインナーを取り寄せた。
インナーはデザインごとにカテゴリーが分類されている。最初に取り寄せたシンプル・ホワイト・パンツとブラは『シンプル』というカテゴリーに属していて、装飾がなく一色だけというシンプルなデザインのインナーだ。
今回取り寄せたのは『ボーダー』カテゴリーから取り寄せた。縞模様のインナーだ。
『ホライゾンボーダー・レッドアンドブルー・パンツ』と『ホライゾンボーダー・レッドアンドブルー・ブラ』。赤と青の横縞のパンツとブラだ。それぞれドレスメダル10枚。
パンツの方には『素早さ上昇』、ブラの方には『身軽さ上昇』を付与しておいた。『身軽さ』とは、障害物の上り下りや木登り、建物と建物の間を飛び越えるといったアクションがやりやすくなるパラメーターの事らしい。
『身軽さ上昇』を付けておけば、前世の投稿動画でたまに見るスゴ技パルクールを軽くこなしてしまえるそうだ。
つまり、素早さと身軽さを上げ、武闘家の衣装の長所を徹底的に上げるという戦略をオレは描いたのだ。
「レオナ、これくらいでいいかな?」
「依頼されていた討伐数はとっくに達成したし、お互いの戦い方についてある程度確認できたんだ。そろそろ引き上げるか」
オレ達は今日の依頼で自身の戦い方をしっかりと把握できたと感じたため、狩ったマジラビットを解体しギルドへと引き上げた。
それからというものの、オレとエルマは常に行動を共にしており、一緒に依頼を受けていた。
事実上パーティーを組んでいるような状態だ。
オレとしては、カワイイ女の子と一緒に居られて嬉しいけどな。
「依頼の獲物は……これくらいでいいんだっけ?」
「ああ、十分だ。そろそろ戻ろうぜ」
この日、オレ達は依頼されていた討伐任務を終えリリエンシュタットへ帰ろうとしていた。
だが、帰る途中に出会ってしまった。
「レオナ、あれ……」
「ああ、冒険者っぽくないな」
魔物の生息域の中なのに、冒険者っぽくない身なりの人物がうずくまっていた。
見た感じ、10代半ばの男性のようだ。
魔物の生息域は、冒険者や兵士といった戦闘職に従事しているか戦闘系のジョブを持っていなければ原則入ってはいけない。理由は危険すぎるからだ。
中には調査のために学者などが入る場合もあるが、その場合はギルドに許可を取り、冒険者を護衛に付ける事になっている。
だが、魔物の生息域は珍しい物がたくさんある。
中には非常に貴重な薬草や薬の原料となる物も存在する。
家族が危篤に陥ったりすると、金銭的な問題もしくはギルドに依頼する時間が残されない場合に自力で魔物の生息域に入り、薬草を入手しようとする人が少なくない確率で現れる。
一応ギルドとしてはそのような人を見受けた場合、速やかに保護して魔物の生息域から出すように言われている。
オレ達もその指示に従い、保護しようとした。
「あの、すみません。ここは危険ですから一緒に出ましょう」
(ヤバい! 見つかった……。どうする、どうする!?)
何か小声でつぶやいているが、周りが見えていないのだろうか?
ひょっとしたらこの人の身に何か緊急事態が発生していて、焦っているのかもしれない。
とにかく自分たちの存在を気付かせようと、今度はエルマが声をかけた。
「あのー、何か困っているのでは――」
「クソッ、こうなったら!」
「危ない、エルマ!!」
なんとこの男、いきなりエルマに何かを投げ付けやがった!
オレはすぐにエルマを押し倒し、かばった。
――パーン!
「グッ!?」
「今の、火の玉……ってレオナ、大丈夫!?」
「オレの体の心配はいらねぇ。だが、衣装が少し焦げた」
右肩の部分が焦げ、大きく穴が空いてしまった。
戦士の衣装であれば防げたかもしれないが、あいにく今回は武闘家の衣装を着ていた。あまり攻撃には当たりたくない。
「エルマ、あれはどう考えても怪しい人物だ。すぐ捕まえてギルドに突き出そう」
「うん、わかった」
「それと、相手のジョブ能力が何かわからない。慎重に行くぞ」
そして、オレ達は怪しい男を追いかけた。
エルマは地上から、オレは衣装とインナーの能力を駆使して木の上を飛び移るように追跡した。
「おとなしく捕まれ!」
「捕まってたまるか!!」
エルマは様々な軌道でブーメランを投げるが、男はセンスがいいのかブーメランをいい所まで引きつけてから手に持った物を投げ、爆発させてブーメランを打ち落としていた。
よく見ると男の手には石、草、泥団子などその辺で拾ってきた物ばかりだ。それを投げ付けて爆発させているらしい。
しかも爆発は、色とりどりの火花を円形に飛ばしている。どう見ても花火だな。
おそらく、あの男の能力は拾った物を花火にする能力だと思って間違いないだろう。
ただ、花火だと思って甘く見ない方がいい。
そもそも花火は火薬の一種だ。しかも前世ではでかい花火だと直系700メートル以上も開くという。
おそらく、奴が本気を出せばそれと同等、もしくはそれ以上もの大きさの花火を作り出せる可能性が高い。
しかしそれが弱点となる。
大きく威力が高い花火は、自分が近くに居ると自爆してしまう可能性が高いのだ。
ということは至近距離での戦闘は苦手なはずで、いかに素早く相手の懐に飛び込めるかが鍵となるだろう。
「なら、もっと早く追いつくぞ!」
オレは木々を飛び移るスピードを速めた。
そして――。
「――取った!」
「なにっ!?」
刹那、オレは相手の頭上から飛びかかり、男を取り押さえることに成功した!
「さぁ、何でオレ達に危害を加え、逃げようとしたか話して貰うぞ!」
「クソッ……今日は厄日かよ……」
男は消え入りそうな声でつぶやいた。
オレは男の手を後ろ手にし、立ち上がらせようとした。
その時だった。
「本当は痛いのはイヤだけど……こんなところで終われない……。まだ始まってすらいないんだから!!」
「なんっ……?」
その瞬間、男のコートが爆発した。しかも白い煙が大量に発生し、男の姿を見失ってしまった。
そして、オレは爆発の直撃を受けてしまった。
「レオナ! すごい音がしたけど……って、キャアアアアァァァァァ!!」
エルマがようやく追いついてくれた、が、すぐに悲鳴に変わってしまった。
一体何が!? もしかしてオレ、瀕死の重傷!?
「なんで、なんで――全裸になってるの!!」
「ん? あー、やっぱ爆発が直撃したからかー」
そう。あの直撃を喰らい、衣装が全て破壊され全裸になってしまったのだ!
もっとも、ドレスアッパーのジョブの効果で胸と股間は白い煙に包まれ見えなくなっている。お尻は隠されていないが、それは前世のオレが『尻を隠す必要ってあるか?』的な価値観を持っていたからだと思う。あまり尻に性的魅力を感じないからな。
なお、衣装やインナーが全て破壊されてもその効果がなくなることはない。きちんと武器は呼び出せるし身体能力も衣装やインナーの効果がきっちり出ている。
ただ、防御手段が皆無な状態であるので致命傷を負いやすくなっており、その点は非常に不利だ。
ちなみに、破壊された衣装やインナーはいつの間にかクローゼットの中に完全な状態で戻っている。なので買い直す必要はない。
それと胸と股間を隠す煙だが、これが発生するのは戦闘中やギルドの依頼を遂行している時だけだ。
それ以外であれば煙は出ないので、日常生活に支障は無い。
「と、とにかく服を着て! クローゼットにまだ衣装があるんでしょ!?」
「ああ、今は無理」
実はクローゼットは、街や村、あるいはキャンプ地といった本格的に休める場所でなければ開けないのだ。
つまりオレは今、着替える術を持っていない!
「堂々と言うことじゃないってば。ほら、コレ付けといて」
エルマが汗ふき用として持っていたタオルを貸して貰ったので、それを体に巻き付けた。
エルマのいい匂いに身を包まれている気分になり、不覚にも少し興奮してしまったことは秘密だ。




