始まる悪夢
本編に繋がる話ですので閑話と書いてませんが、ギル目線です。
産まれた時から、自分は勝ち組だった。他の奴らに比べて才能も容姿も全てにおいて勝っていて、自分が負ける事なんて万一にもなかった。
だからこそ、こんなエリートな自分であるからこそ叶えたい最強の冒険者というのは最高のパーティでなりたかった。
別におかしくないだろう。エリートについてこれるのはエリートだけ。自分程では無いにしろまぁまぁ出来る程度でならカバーも出来る。
そこで、産まれた村の幼馴染で結成してみた。おっとり系で容姿に恵まれたリット。リットは自分に釣り合うだけの魅力があったからお気に入りだった。
次に気は強いが顔だけは良いレーデ。胸こそはリットに及ばないものの、それでも顔は良い。愛人にならしてやってもいいという評価だ。あの気の強さは教育してやれば良かったしな。
そしてルーロだ。全てに恵まれた自分よりも遥かに劣っている少年。顔も別に良いという訳でもなく、魅力が感じない凡人。だが、魔力だけは自分に引けを取らない程度にはあった。たったそれだけだった。
最強の冒険者になるために既にB級が確約されていたが、周りに自分が一番であると見せつけるのと同時に自分のパーティを見せびらかしたかった。
邪魔者は追放した。無適性者であることを理由に強制的に。
残ったのは容姿が整った女二人。それを侍らしている自分は優越感に浸っていた。少し歩けば人集り、女からは黄色い声援。男からは尊敬と嫉妬の目線。
だが仕方ないのだ。なぜなら天才でエリートなのだから。地に這う凡人には到底理解出来ないものであるがゆえに醜い部分も受け止めるのが自分の役目である。
だが、ここで予想外の出来事が起きた。冒険者試験の会場に邪魔者が──アイツがいるじゃないか。
凡人のくせに何かと目につく目障りなアイツ。魔力しか取り柄のない没個性が。
アイツは不特定多数からモテることはなかったが、近くにいると人を惹きつける。しかしそれを認めては駄目なのだ。
なぜならそれは自分の専売特許だから。人を惹き付け、魅了するのはあくまで天才で顔の整った自分。それ以外が似たような事をするなんて笑止千万。
アイツは『化け物』とパーティを組んだ。いい気味だ。が、それでは足りない。もっと徹底的に潰さないと、追放した程度では足りなかったのだから。
ゆえに、近づいた。まぁ仕方ないことだ。天才である自分にまた仲間に入れて欲しいんだろ。だから、それを拒否する為に第一試験次にわざわざ出向いたのだ。
だがどうだ。会ってみたら──
「あっ、それは無いわ」
天才でエリートである自分を拒否しただと?
凡人で取り柄のない奴が?
「だってネクストドラゴンキラーって、さ。本当にダサすぎだろ。まだドラゴンキラーだったらマシだけど、ネクスト付けることによって長いしダサいしで本当にダメダメだわ」
何故、そんな凡人に駄目だしをされる?
何故、リット達も目を逸らす?
周りの声がどうでもいい。ただ無性に腹が立つ。
うるさい。うるさい、うるさいッ!!
もう黙れ。冒険者試験だ。死体が一つ増えても問題ない。
「ルーロ、私が殺っちゃっていい?」
·····女の子?
八ッ、女の子に守られているなんて所詮は凡人。なのに、何故周りはそんなに焦っている?
しかし刹那。その理由は判明した。猛烈な殺気、凄まじい怒気。放たれた短刀は自分を掠める。
「逃がさない。ルーロをバカにした罪は、重いッ!」
おかしい、おかし過ぎる。こんなのあっていいはずがない。
化け物だ。人間じゃない。
一気に劣勢になった自分は逃げるように退散した。そう戦略的撤退である。
今回負けたのは相手が化け物だったからだ。ルーロ一人だったら殺れていた。
この時の自分はそう思っていた。
冒険者試験の第三試験。自分はこの時を楽しみにしていた。
何故なら、あのルーロを公開処刑出来るからだ。何をしても構いやしない。自分は勇者候補で、女を侍らす英雄になる男なのだから。
試験が開始する。
そうあの時と何も変わらない。追放したあの時と。
自分が強者でアイツは弱者。自分は狩人で相手は獲物だ。だから、その命を刈り取るように魔法を放つ。
あの時と同じ魔法を。アイツには一生使えることの無い無縁の奇跡に近しい英雄の一撃を。
「『聖なる槍』」
これで勝った。一撃だ。たった一撃により、アイツは為す術なく死ぬ。
あの時は慈悲で逃がしたがもうそんな事はしない。もう殺すと決めたのだから。
「<魔力・絶>」
そんな自分の耳にアイツの声が入ってくる。
この期に及んで何を·····?
「なッ!?」
消えた。英雄の一撃を。エリートの技が凡人によって消された?
そんな馬鹿なことは無い。そんなはずはないんだ。
だから笑うのを止めてくれよ。なんだその笑みは──
「俺は昔の俺じゃない。あの時は憎かったが、今は少しだけ感謝しているんだ」
感謝だと? そんな事を言われる筋合いはない。
自分が最強でアイツが最弱。なのに──
「ありがとう。俺を強くしてくれて、そしてさようなら。てめぇは今ここでぶっ飛ばすッ!」
なんでこんな強気でいれられる。自分が目の前に立っているんだぞ?
許してくれなんて言われても遅い。絶対、殺してみせる。
そう意気込んだその後からの記憶はあまり思い出せない。
「どうかな? 結構、体には慣れてきたはずだよ?」
目の前で長身の男──ライナが自分の目を覗き込んで言う。
体が慣れてきた。そんなことは分からない。分からないが、一つだけ言えるのは頭が酷く落ち着いている事だ。
「連れ去ってからずっと眠っていたけどいい夢は見られたかな?」
「·····ゆめ?」
「そうだよ。昔の夢。君は憎きアイツに負けたんだけど、覚えてる?」
「あいつ·····アイツ──ルーロッ!!」
今まで冷静だった頭に急に熱湯がかけられたかのように熱くなる。
ルーロ。アイツだけは許してはならない。自分を、エリートであるこの自分をコケにしたアイツだけは──ッ!
「うんうん。いい感じに怒ってるねぇ。そして──恐怖している」
「きょう、ふ·····? このぼくが?」
「そうだよ。君はルーロに恐怖心を抱いているんだ。だけど、それは悪いことじゃない。それは君を助けてくれる力さ」
「ちから·····そう、ぼくは強い」
「その意気だよ。さて、アルカくんに体の所有権を渡すためにもそろそろ仕掛けないとね」
アルカ、それは自分の名前。
体の所有権·····? 疑問に残るがどうでもいい。ルーロが殺せるのならそれで。
「あの師弟を殺せてアルカくんは戻り、僕たちの目的──魔王様復活に近づく。力も元に戻り一石二鳥どころか、一石三鳥だよっ!」
「はやく、早く殺す」
「言語もようやく安定してきたね。じゃあややこしいけどアルカ(仮)くん。早速、王国そして帝国を攻めちゃおうね」
ライナは両手を広げて宣言する。
「さぁ魔物達の蹂躙祭の幕開けだ」
六章が始まりました。これからもよろしくお願いいたします。
更新頻度は度々空いてますが、これから先も似たようなことが多くあるかもしれません。リアルが忙しいのでご了承ください。
なるべく毎日投稿頑張ります。




