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パングを楽しもう2


 お食事処セイレンか。

 ·····というか、昼時なのに客が一人もいないな。


 そんなことを不思議に思いつつ、俺たちはのれんをくぐった。


「お、お客さんですか!?」

「えっ、そうですけど」


 入った瞬間に目に入ってきたのは寂しい店内と目の下に隈のある中年の男性。


「やってますか?」

「もちろんです。はいっ!」


 見たところ従業員もいないし、ここを一人で切り盛りしてるのだろうか。

 まぁあんまり広くはないので、二人だったら事足りるお店だろう。


「·····大丈夫でしょうか。あの人、目の下とか特に不健康そうでしたけど」

「それは俺も思った。どうしたんだろうな」


 サクヤの指摘に再度見てみると。


 多分、お冷とかの準備をしているのだろうが動きとかぎこちない。

 まるで久しぶりの作業に緊張しているかのようだ。


「話だけでも聞いてみる方がいいでござるよ。星詠の力がそう言ってるでござる」


 カグヤの言葉をきっかけに、戻ってきた店長さんに聞くことにした。


「すみません。お待たせしました」

「はい。ありがとうございます。·····あの、目の下とか隈ありますけど、大丈夫でしょうか?」

「あ·····これですか。最近ねれなかったもんで。すみません。見苦しかったですよね」

「そんなことはないと思いますけど、なにか悩んでいるのなら聞きますよ」

「··········聞いてくれますか」


 余程思い詰めていたのか、ポツリポツリと話し始めた。


「ここパングは飲食店の激戦区でね。僕は当時、ここで頑張るんだって意気込んで店を開いたんですけど、見てわかる通り客足が、ね」


 ·····経営か。


 完全に専門外だな。


「そしてつい先日、僕はそろそろお店をたたむべきだと妻に提案したら、猛反対されてね。挙句の果てに出て行ってしまいましたよ」


 店長さんの目に一切の光が入ってないことから、相当重くとらえているようだ。


 それも当たり前か。

 経営も難航してて、加えて心の拠り所であったはずの奥さんに出ていかれてしまったんだから。


「·····と言っても、これは」

「分かってます。お客さんに話しても変わらないってことぐらい。でも、聞いてくれて嬉しかったです。少し心がスっとしました」


 無理に笑っているように見える店長さんは実に危なげだった。


 ··········やってみるか。


「出来ることを手伝います。何かやって欲しいことはありますか?」

「お客さんはご飯をいただきに来ただけですよ。こんな問題に巻き込む訳にはいきません」

「ここまで話を聞いて引き下がれるわけないじゃないですか」


 クナイたちも頷く。


「そう、ですか。では·····新メニューを考えてはくれませんでしょうか」

「新メニュー·····?」

「はい。このパングは米という特産物がありましてね。他のお店は創意工夫を凝らして、米を使った料理を販売しているのですが、僕のお店は昔からずっと定食だけなんですね。なので、他の誰もやってないようなメニューを考えたいのです」


 米を使った他の店にない料理、か。


「ちなみにどういった要望があるんですか?」

「やっぱり定食だと時間がかかるので、お客さんが来て早く作れるやつとかいいですね。あとはもちろん美味しいやつとか。·····これは出来ればですけど、材料も安い方が」


 結構難しいな。


「お前らは何か浮かんだりしたか?」

「兵糧丸·····?」


 兵糧丸か。たしか腹持ちがいいんだっけか。


 忍者であるクナイならではの発案だな。


「んー、他にはあるか?」

「私は料理出来ないから、前もって用意してたのを焼くだけとかにするやつがいいわね」

「お前の話かい」

「でも、早く作るにはいい事でしょ」

「そうだけど。問題はそれが何かって話だよな」

「そうなのよね」


 レーデもいい所まではいってるんだが、まだピンときてないようだな。


「ルーロ様。ならこういうのはどうでしょう──」

「あー、いいかもしれない」

「拙者も浮かんでござる──」

「それは俺も知ってるやつだな。よしっ、人数が多い分早くに考えついた」


 なら、早速厨房を借りようか。

 レシピはサクヤとカグヤの頭の中にあるし、俺も一ついいのがあったからな。


「店長さん。厨房を借りますね」

「もう思いつたんですね」

「はい。あとは食べて判断して下さい。お前らも昼飯がてら食べていいからな」


 クナイとレーデにそう言い残し、俺たちは厨房の中へ入っていった。






 三十分ぐらいで全ての品が完成した。


「おぉぉおおっ! これは──っ!」


 店長さんが目の前の光景に思わず、よだれを垂らす。


「順番に説明します。まずはこれ──」


 クナイの兵糧丸を聞いて、サクヤが思い浮かんだというスイーツに近いかな。


「団子と言います。もち米を使っているので、弾力があって何よりレパートリーに富んでいます。大豆を砕いたきな粉や、醤油に付けたりするとまた別の味に変わるものです」

「では早速──んっ!」


 口の中に入れた瞬間、いつもと違う食感に驚いたのだろう。


 もちもちと弾力のある噛みごたえに加えて、甘味や塩味など様々な味に変えることが出来る。


「美味しいですね。どうやって作ってるんです?」

「もち米を叩いてます。これだけですね。朝のうちに仕込みとしてやっておくのが便利です」


 レーデの焼くだけという案もこれで採用している。

 焼き団子もあるからな。


「お次のこれは·····?」

「それはカグヤの地域である。おにぎりです」


 簡単、お手軽な食べ物だ。


「これも中に入れる素材を変えることによって季節感のあるものになります」

「そうですか。では一口」


 店長さんが頬張ると、口をすぼめた。


「酸っぱいっ!」

「それは梅といいます。ご飯とよく合うご飯のお供と言うやつですね」

「本当だ。美味しい·····」


 そして最後が俺のやつで──


「丼ですっ!」

「丼ですか」


 今回はファングボアーのステーキ丼だ。

 さっぱりと食えるようにご飯におにぎりで余った梅を混ぜてある。


「これなら器も節約出来ますし、何より簡単です。早くて美味い。最強の食べ物ですよ」

「確かにそうですね」


 味は言わずもがな。


「美味しいっ!」

「そうでしょう。俺が師匠とよく食べていたものです。それを思い出したんですよ」


 魔物の肉を食べている生活の中、師匠が持っていた米に乗っけて食べるという男飯である。


「以上が俺たちの新メニューです。試しにやってみてはいかがでしょう?」

「ありがとうございますっ!」


 やっと店長さんの笑顔が見れた。


 しっかりと昼飯を食べたところで、俺たちは店長さんに別れを告げた。


「今度いらした時はごちそうしますよっ!」

「ありがとうございます。では」


 




 後日談ではあるが、お食事処セイレンは見事に大盛況した。


 冒険者にはおにぎりを。道行く食べ歩きを目的とした人達には団子を。店内でがっつりと食べる人には丼をと、その人にあった料理を提供しているとの事だ。


 ちなみに奥さんとはしっかりと仲直りをしたらしい。


 また今度来店することになるのだが、それはまた別のお話である。

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