妖刀『星喰』の記憶〜終幕〜
思えば長かった。
たった二日しか経過してないと思うと、おかしな感覚になるが、それでも濃密な二日間だった。
「ルーロ殿、もう行くのでござるか?」
カグヤが悲しそうな顔で見つめてくる。
最初は記憶の存在であると思っていたが、今ではもう一人のカグヤ本人であるとさえ思えてくる。
「あぁ、俺の目的は果たせたからな」
そう言って『星喰』を掲げる。
苦し紛れに吐いた嘘ではあるが、それでもサイケの件を乗り越え、勝ち取ったものだ。
多分、これで認めてくれるだろう。
「ルーロ殿、世話になったな·····」
「·····ルーロくん。本当にありがとう」
「いえ、俺は冒険者ですからね。当たり前のことをしたまでです」
オボロさんとヤマトさんは無事に生きている。
やはり、カグヤの諦めない力が奇跡を呼んだのだろう。
二人とも歩けるまでには回復した。といっても、一日しか経ってないので純粋に自己治癒能力が高くてビックリしている。
「オボロさん。貴方と戦えたこと、誇りに思います。技もなんやかんやで使ってしまってすみません」
「いや、大丈夫だ。ルーロ殿もあの化け物にトドメを刺した時の<流星>。実に見事だった」
「あははっ、そう言われると照れますね」
あの一年間の修行も浮かばれよう。
師匠と必死に考案した〝見栄えがあって、カッコイイ技〟だからな。
「ヤマトさんも傷が残らなくて安心しました」
「うふふっ、あの化け物から助けてくれた時のルーロくんはかっこよかったわよ。思わず、惚れちゃいそうになったわ」
「おいおい、俺を目の前にして·····」
「あら、ごめんなさい。私はオボロくん一筋よ?」
「俺もだよ」
「「·····」」
やっぱりどこかついていけない。
そこはカグヤと似ているなと思いつつ、夫婦とは素晴らしいものだなと感心する。
「ルーロくんも素敵な女性が見つかるといいわね。私的には是非娘を──」
「母上ッ! 冗談はそこまででござるっ!」
ちょっとカグヤに強く否定されてのが悲しいところだが、まぁうん。無理だろう。
「·····あれ? 俺の刀が··········」
「あら、気づいたかしら。『鬼神の牙刀』は折れてしまったけれど、私たちを守ってくれた神聖なものよ。ルーロくんさえ良ければ、このまま私たちの里の名物にしたいのだけれど」
「えぇ、大丈夫ですよ。その方がアイツも浮かばれますよ」
さて、そろそろ行くか。
「·····ルーロ殿」
「ん? どうした」
振り向くと真剣な表情をしたカグヤが立っていた。
どことなく頬が染まっているようにも見える。
それが朝日によるものでないことを祈りつつ、返事を待った。
「·····いつかルーロ殿を越えられる女性になってみせるでござる」
「·····そうか」
「だから、今度会ったら手合わせ願いたいでござる。それでもし勝ったら──いや、これは·····」
「どうした?」
「続きは会った時に·····ね?」
可愛らしい女性の口調で上目遣いからの小首を傾げる姿。
うむ。実にたまりませんな。
「そうだな。その時に続きを聞かせてくれよ」
「承知したでござるっ!」
あっ、それなら·····
「カグヤにこれを渡しとくよ」
「·····これは?」
取り出した魔石のペンダントを渡す。
「『氷猫のペンダント』。アイシングキャットっていう魔物の素材から作ったペンダントだ。能力は『氷剣』。剣を使うお前にピッタリかなって」
「ありがたく頂戴するでござるっ!」
喜んでくれて何よりだ。
実は結構前に作ってはいた魔道具なんだが、うちのパーティに剣を主に使う奴がいなくてな。
俺もその時は『鬼神の牙刀』があったし、誰にも渡す機会のないまま時間が経っていた。
「再会した時にもっと凄いのを、カグヤだけの魔道具を作るから、それまで目印として付けていてくれよ」
「そういうことなら無くす訳にはいかないでござるな。肌身離さず、首からかけているでござる」
そう言って目の前で首にかける彼女は、美しかった。
「じゃあ今度こそ行くな」
「では達者で」
暖かい家族に見送られながら、俺は星喰を抜いた。
「·····ここか」
二度目だから驚かない。
ただひたすらに真っ暗な世界に、俺はまた訪れていた。
「いるんだろ? でてこいよ」
『うむ。実に見事だったな。最後の一撃は』
「そりゃあどうも」
俺の姿をした星喰は笑って言う。
『少年。君は合格だ』
「ということは、力を貸してくれるのか?」
『剣は道具。俺はどこまでいっても道具だ。俺を使うのはお前で、上手く扱えれば精霊界の道は開けるし、下手をすると前所要者みたいなことになる』
俺の脳内には、昨日のサイケの姿が思い出される。
「魔王の手下って一体なんなんだ?」
『ふむ。俺も全部が全部知っているわけではないが、悪とは総じて人間から生み出されたものだ。恐怖然り、傲慢然りだ』
·····魔王、か。
『魔力操作の極致』に関係している謎が多い存在。
死門の彼らと関係しているとなると、かなり厄介な存在であろう。
「──そのためにも強くならなくちゃな」
サイケにも言ったとおり、これからどんどん強い奴らが出てくる。
結局、オボロさんには勝ててないしな。
「·····そう言えば、やっぱり記憶なんだよな」
現実であると錯覚するほどにリアリティのある感じだったが、記憶である。
実際のカグヤたちは·····そう思うと、体が震える。
『まぁその事は戻って確かめるんだな』
「·····?」
疑問符しか浮かべられない俺に星喰は笑って、そして手を差し伸べてきた。
『さて、新しき主よ。これからも宜しく頼む』
「あぁ、ちょうど俺の愛刀が折れちまったんだ。星喰には働いてもらうぜ」
握手を交わした瞬間、世界が色あせていく。
黒が消えていく中、星喰の笑顔だけが鮮明に見えた。
「·····帰ってきたのか?」
辺りを見渡してみると引き抜く前の平原と同じ。
どうやら、ちゃんと帰ってこれたようだ。
「案外早かったのね」
「そうか?」
「さっき入ったばっかよ」
レーデの言葉の言う通りなら、あの世界はさしずめ精神と○の部屋と言うところだろうか。
「ん。おかえり」
「ただいま。しっかりと星喰を手に入れてきたぞ」
「んっ!」
クナイが頭を撫でてくる。
俺の方が身長が高いので、必然的に背伸びして頑張って撫でてくる姿は非常に愛おしい。
いつも俺がやってるお返しだろうか。
「ルーロ様、ルーロ様っ! 星喰は斬○刀のように人型でしたか?」
「確かに人型だったな」
「やっぱりっ! 是非、話を聞きたいですっ!」
俺も星喰の記憶を語ろうとしたのだが、先程から黙っているカグヤが不思議でならない。
「大丈夫か?」
「·····うぐっ·····ぐす」
「っ!?」
待って!? めっちゃ泣いてるんですけど。
「お、おい。本当に大丈夫か!?」
「カグヤっ! また、この変態に何かされたの!?」
おい、レーデ。またとはなんだ。それに変態って·····否定しないけど。
「違うでござる。なんか、頭が真っ白になって、そして·····家族を思い出したんです」
家族──
「オボロさんたちのことか?」
「──ッ!! やっぱり·····」
そう言うとカグヤは胸元からあるアクセサリーを取り出した。
それはペンダントで、綺麗な雪の結晶がトレードマークの見慣れたものであった。
「·····アイツ。やりやがったな」
妙にリアリティがあったのも、記憶の中で折れたはずの牙刀が実際に折れてしまったのも、全部、あれが現実だったから。
全てを切り刻むスキル──『斬刻』を用いて時空を切り、過去を変革させやがった。
「·····でも、そうか。嬉しいよ。俺のやった事が現実であってくれて」
「拙者も嬉しいでござるよ」
涙を拭いながら、カグヤは笑みを浮かべる。
こうして、星喰の記憶は幕を閉じた。
四章が終わりました。
是非、第五章も引き続きお楽しみください。
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