魔力操作の極意
「あの·····何処へ向かっているんですか?」
「死の谷だ」
『死の谷』·····危険な魔物、それこそ、シャドウウルフのような魔物がゴロゴロいる谷。
そのあまりの危険度に国が許可を出した人物しか訪れるのを禁じている場所だ。
「俺が行ってもいいんですか?」
「あぁ、俺の同伴だからな」
こんな風に会話をしているが、俺の意識は離れていく村の方にあった。
来る時に乗ってきたという馬車に揺られながら、遠い故郷を見続ける。
「·····村が恋しいか?」
「··········はい。妹とか親とかに何も言わずに来たのもそうですが、あの村には色んな思い出がありますから」
だが、あの時自分で決めたことだ。
俺は自分の意思でこの場にいる。
「幼馴染はもういいのか?」
「·····アイツらのした事は許せません。確かに俺が弱いというのもありましたが、それでも手を出す奴とは思いませんでした」
「なら、幼馴染を見返せるように頑張らなきゃならないな」
「はいっ!」
そして俺は馬車に揺られながら死の谷にへと向かうのだった。
「さて、さっそく修行を始めようか」
あの後俺は馬車で眠ったので、体力は回復している。
準備万端ッ! さぁ、いつでも来いッ!!
「お前には『魔力操作』を極めてもらう」
··········『魔力操作』って、子供が遊びでよくやるアレか?
「フフっ、意外そうな顔をしているな」
「はい、なにか特別な力があるのかと思ってました」
「この世界は現実だ。属性適性が無ければ魔法なんて使えないし、死んだら死ぬ。まぁ、聖属性の奴は死を超越するとも言われているがな。基本は終わっちまうんだよ、そこで」
何気なく言われたこの言葉は俺の心に刺さった。
そうだ、これは現実なんだと。
だから、死んだら死ぬし。ご都合なことなんて有り得ない。
「分かったか?」
「はいっ!」
「じゃあ早速『魔力操作』をやってみろ」
俺は言われた通りに、魔力を全体に通して身体強化を促した。
「ほぉ、中々に綺麗じゃないか」
「ありがとうございます。小さい頃から最強に憧れて、『魔力操作』を頑張ってきたんです」
「そうか。じゃあ『魔力操作』の説明は出来るか?」
『魔力操作』の説明?
「自身の魔力を操作すること。練習し、コツを掴めば身体強化を促す基本中の基本··········ですかね?」
わざわざ聞いてきた事に不安が募るが、これで合っているはずだ。
「ふむ。説明としては60点か」
「えっ?」
「『魔力操作』ってのは確かに魔力を操作する行為。その肝心の魔力は自分だけしか扱えないと世間的には思われているが、実際、自身だけでなく他人又は魔物までも、その魔力を操作出来る」
そ、そんなこと──
「──誰も教えてくれなかった·····と?」
「ッ!」
「当たり前だ。この知識は俺しか知りえない、言わば『魔力操作の極意』みたいなものだ。まぁ、かく言う俺も偶然知った事なんだがな」
世界は狭いようで、広い。
俺の知らないこと、知りえないことが山ほどある。
こんなことがこれから知れるんだと、そして出来るようになるんだと思ったら胸が踊る。
「フッ、そんな焦るな。これからしっかりと教えてやる」
「お願いしますっ! 師匠っ!!」
「し、師匠?」
「はい、これから教えてもらうので」
「そうか。なら、師匠と呼べ」
「はいっ!」
すると、はしゃぎ過ぎたのか魔物たちが集まってきてしまった。
どれも国から危険視されている魔物ばかりである。
「丁度いい。コイツらを実験台として教えようか」
「うすっ!」
「極意その一だ。己以外の魔力を感覚として掴め」
師匠が右手を握ると魔物の一体が苦しみ始めた。
「今、オーガの魔力回路の一つをせき止めた」
あれはオーガというのか。
筋肉隆々の肉体に角が生えた人型の魔物。
「魔力回路というのは魔力が通っている回路のことを言う。このどれか一つでもせき止めれば、魔力が思うようにいかず苦しみ、もがき始める」
オーガのおっかない顔が蒼白にへと変色している。
「さて、魔力回路を弄る他にもまだやり方はある。それが、極意その二、相手の魔力の吸収と供与である」
するとオーガが突然痩せたり、太ったりし始めた。
「魔力が無くなるとどうなるか、分かるか?」
「·····魔力不足で死に至る、ですかね?」
「そうだ。逆に魔力の容量を超えると、それもそれで過剰摂取により死に至ってしまう」
これも知らなかった。
「『魔力操作』は確かに誰でも出来るが、知識や鍛錬によっては実用性も、危険性も大きく変わってくるものなんだ」
師匠の説明が終わったのと同時にオーガが絶命した。
げっそりとしている所を見ると、全部魔力を吸い上げたのだろう。
「師匠、質問があります!」
「なんだ?」
「師匠はオーガの魔力を吸収しても平然としていますが、師匠の魔力ってどれぐらい多いんですか?」
俺も魔力量には自信があるが、それでも師匠のようにオーガの魔力を吸収したら、死ぬ自信がある。
「その答えは、そうだなぁ·····龍一体の魔力を吸収しても平気だったからそのぐらいかな」
「えっ?」
「ハハッ、何も最初からこんな量って訳じゃない。これも修行だよ」
さっきから俺の知らないことばかり。
これが世界に広まれば、更なる発展が生まれる。
その第一人者になれるかもしれないのに──
「師匠はこの知識を世に広めることはしないんですか?」
「先程も言ったが癪だ。偶然とは言え、俺も苦労して知った知識だ。苦しみも、辛さも知ろうとしない奴らに教えるのは嫌なんだ」
かっけぇ。
素直にそう思う。
俺もこの人に恥じない弟子になろう。
そう決意した、その時、信じられない言葉が師匠の口から出た。
「じゃあ説明もしたし、これから約一年間ここでサバイバル生活をしていくぞ?」
「へっ?」
「魔力量も鍛えつつ、魔力回路の感覚を掴む修行と魔物との退治の仕方。これらを一年間で鍛え上げる。目指すは十六歳で受けられる冒険者試験で一位を取ること。幼馴染たちを見返しこう言ってやれ──」
「──ざまぁってな」
こうして文字通りの地獄のような日々が幕を開けたのだった。




