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運命の出会い


 森へ逃げてから随分と経った。

 

 もう、すっかり日も落ちて夜になっている。


「··········どうすればいいんだよ」


 村へは帰れない。

 一体、どんな面さげて幼馴染に顔合わせなきゃいけないんだよ·····。


 家族には悪いが、俺も十五歳だ。

 自立する年頃か。


「──だからといって、自立するほどの力なんてないのにな」


 俺は自嘲するように呟いた。


 属性適性というのは五属性と珍しい二属性で構成された七属性のことを指す。

 属性は魔法の基盤となるもので、その適性がないというのはイコール、魔法が使えないということだ。


 出来るのはレーデも言っていた『魔力操作』のみ。それも子供が遊びによくやるものである。

 悔しいが、ギルの言っていた通り、人より魔力が多かった為、宝の持ち腐れというのも間違いじゃない。


「もういっそ──」

「GAAAAッ!」


 ──死のうかなと思った瞬間、魔物が現れた。


 シャドウウルフだ。

 影の狼で恐れられる夜の王者。この森の主がなんでここにッ!?


 ··········だが、これはチャンスかもしれない。


 この状況で生きていける自信がない。


 どうせ死ぬなら魔物に喰われた方がマシだ。


「·····殺してくれよ」


 餌でもなんでもいい。俺を殺してくれ。


 ──そう願っているはずなのにッ!


「どうして俺は逃げているんだ!?」


 俺は無様にも背を向け、逃げ出していた。

 

 あのシャドウウルフにスピードで勝てるわけないと理解しているのにも関わらず、俺は生きようと必死に逃げている。


 怖いんだ。

 

 生きることも死ぬことも。


 どちらの覚悟も持たない俺はただただ逃げることしか出来ない。


「どうすればいいんだよぉぉッ!!」

「──強くなればいいだけだ」


 知らない男の声。


 それが聞こえてきたと思ったら、シャドウウルフは突然と動きを止めた。


「どうして急に··········?」

「シャドウウルフの魔力を操作したからだ」


 いつの間に俺の隣に居たんだ、この人はッ!?


 ··········全然気配を感じなかった。


「森羅万象、全てのものに魔力は存在する。それを己のものと言わんばかりに操作すれば──」


 突然、シャドウウルフが苦しそうにもがき始めた。

 

 そして次の瞬間、シャドウウルフが一瞬で絶命した。


「──あんな犬っころを殺すのは造作もない」

「·····は?」


 試しに近づけばピクリとも動かない。

 

 本当に死体なんだ·····。


「どうだ、驚いたか? 小僧」

「はい。貴方、は? ──ッ!?」


 俺は男の容姿に見覚えがあった。

 

 ここは田舎の村だが、一度だけアイツら(幼馴染)と一緒に王都に行ったことがある。


 その時、王都では祭りが行われていたんだ。

 人類初めて龍殺しを成したパーティたちの凱旋パレードの中に彼は居た。


 全身を包帯で覆い隠し、黒いボロボロのマントを羽織った男。

 それがこの人──


「──『黒き亡霊(ブラックファントム)』」

「俺の名は知っているようだな」

「もちろんです!」


 あの時のパレードがきっかけで、俺たちは最強の冒険者パーティを目指した。


 俺も世界最強の冒険者を目指すようになったのは、他でもない『龍殺し(ドラゴンスレイヤー)』を見たからだ。


「··········なんで貴方ほどの人がこんな田舎に?」

「この森はな。俺のお気に入りの場所なんだ」


 着いて来いと言われたので着いていくと──


「わぁ·····」


 そこから見えたのは澄んだ夜空だった。

 煌めく星々たちが、幻想的だ。


「綺麗だろう?」

「はい! この森にこんな場所があるなんて。しかし、今まで森に訪れても貴方には会えませんでしたよ?」

「当たり前だ。俺が会わないように隠れているからな」


 ·····それだと、なんで──


「なんで、俺のときは助けてくれたんですか? 隠れていても良かったはずなのに」

「··········小僧が俺に似てたから」


 あの『黒い亡霊(ブラックファントム)』と俺が似ている?

 そんな馬鹿な·····


「もちろん、今の俺じゃねぇよ? 昔の俺にだ」

「昔ですか?」

「あぁ、俺も属性適性が無いからな」

「えっ!?」


 確かに『黒き亡霊(ブラックファントム)』の属性適性はどんな人が質問しようと、調べようと、結局、属性適性は謎のままだったのに。


 それがまさか、属性適性がないなんて·····


「じゃあ、どうやってさっき!」

「言っただろ? 魔力を操作したんだ」

「··········俺にも教えてくれませんか?」


 気づいたら俺はそんな事を口走っていた。

 

 バカにされて、ギルに殺されかけて、追放された。

 アイツを、ギルたちを見返せるなら──


「俺は頑張りますから、どんな過酷な修練だって積みますからッ!」

「·····先に要件を言われたな」


 ··········えっ?


「俺はもう冒険者を引退したんだ」

「どうして?」

「この包帯、なんでしていると思う?」

「えっと·····ファッション?」

「そんなわけあるか!」


 ごほんと咳払いをすると、気を取り直し、続けた。


「これは龍との戦いの後遺症だ」


 すると、突然と腕の部分の包帯だけを解き始めた。


 そして現れたのは──


「──ッ!」

「酷いだろう? 龍に全身を焼かれたんだ」


 ──酷い火傷の後だった。

 

 だから、包帯を巻いていたのか。


「龍ほどの魔物になるとその威力は人智を超える。どの医療機関も医療魔法術士もお手上げだとよ」


 包帯で隠された顔だが、それでも落ち込んでいることはわかる。


「だから、後世のためにもこの技術を伝授したかった訳だが、属性適性がある奴に教えるのは癪でな。そんな時に小僧、お前が居たって訳だ」


 そして、俺の目の前に手が差し出された。


「どうだ? 小僧には俺の火傷と比べ物にならないほどに過酷な修行が待っている。それでも、修行を、地獄を生き抜く覚悟はあるか?」


 俺は冷静になって、考えてみた。


 本当は逃げたい。俺は生きる覚悟も死ぬ覚悟もない弱い男だ。


 ギルの言う通り、確かにかっこ悪い。


 それでもッ!


 バカにされたまま終わるのは嫌なんだッ!

 

 そこに力がある。

 歩き続ければ、それが例え地獄の道でも、その先に力が待っているなら。


 歩き続けなければならない。

 前へ突き進むしかないんだッ!


 だから──


「もう一度言います。俺に教えてください。どんな地獄だって生き抜いてやるッ!」


 俺の言葉にニィと怖い笑みを浮かべた。

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