ゴージャス♨三助 愛の女三助編 A
三助とは、銭湯で客の背中を流し、マッサージを施術する、今はなき男の職業である。
ゴージャス♨三助のテーマ
♪ さ、さ、三助三所責めだ、さ、さ、三助サービスするぞ♪
以下でたらめに続く。
ボーカル、歴代三助、パーカッション、ケロリンズ。
かこーん、ケロリン桶が転がる音がはだか湯の洗い場に響く。
丸首シャツにステテコ姿の三太郎がぶつぶつ言いながら、デッキブラシで洗い場を流している。
「俺は三助で、風呂洗いじゃないんだ」
三太郎の父三助が後ろで三太郎を諭している。
「こら、俺たちがタダで脱衣所に住まわせていただいているのを忘れるな」
三太郎はふてくされて、デッキブラシにあごを乗せ、寄りかかり、ぶらぶらさせた。
「三太郎さあん」
はだか湯の入り口に、恋人の絆サクラが来ている。
白いひらひらのワンピースを夏の風にひらめかせ、青いリボンを巻いたハットをかぶり。
その姿はまるで別荘地のお嬢さんのようであった。
「また、来ちゃった」
絆は体をくねらせながら三太郎に声をかけた。
「き、き、絆さん、ここへは来ちゃダメだって言ったじゃないか、それにここは男湯だよ」
「きゃー」
手のひらで顔を覆いながら、その隙間だらけの指先から、男湯を見ているサクラであった。
絆は唇をとんがらせた。
「だってー、私、三太郎さんのことをもっと知りたいの」
「その気持ちは、ええ、その」
父親三助の前で自分の恋心などいえるわけもない18歳の三太郎だった。
「エクボーのー、秘密あげたいわー」
三助が後ろで昭和歌謡の鼻歌を歌っている。はだか湯の高い天井にそれはよくエコーした。
その様子をはだか湯オーナーである鶴亀万蔵が老眼鏡をずらして番台の上から眺めている。
「おじょうさん、そこは男湯だ、女人禁制だよ」
「ううん、おじいさん、私はお客じゃないわ」
「じゃあ、何しに来たのかね」
しばらくくねくねしていた絆はまなじりをきっと決して叫んだ。
「おじいさん、私三助さんになる」
三太郎、三助、万蔵、男湯にいる三人がずっこけた。
「な、なにー」
三助がエコーを聞かせて叫ぶ。
「絆さんや、三助は男の職業で女の人はなれないんだよ」
「そ、そ、そ、そうだよ、三助が何をする仕事かわかっているの」
何をするも何も、基本客の背中を流してマッサージするだけ。やましいことなど何もないのだが。
普段仲の悪い風呂井親子が珍しく意見を同じくした。
「なによ、この男女平等にご時世に、職業差別するなんて」
絆は顔を真っ赤にして怒りの表情をした。
「だいたいおじさんの本当の名前は了で、三助じゃないじゃない」
「そ、それは、わしが三助に誇りを持っているから」
絆サクラは、お嬢様ルックに合わない腕組みをして,反撃した。
「プライドを持っている仕事に女がつけないなんておかしいわ」
「それに」
「それにー?」
絆サクラはまた身をくねらせながら告白した。
「私、三太郎さんの事は何でも知りたいの」
「あわわわ」
三太郎はデッキブラシごと、男湯の洗い場に倒れた。
「人間、誰しも知らなくていいこともあるんだ」
その情けない風体の三太郎を絆サクラはきっとにらんだ。
「何よ、私に隠し事しようとしてるの?」
「私が逆に三太郎さんに隠しごとがあったとしたら、どうなの」
「むぎゅ」
三太郎はやり込められ、ぐうの音も出なかった。
「いいじゃないかね、女三助」
いつもは番台に座って借りてきた猫みたいに寝てばかりいる鶴亀万蔵が初めてこの物語の中で役割を果たした。
万蔵はずれた眼鏡をきちんとかけ、あろうことがわずかに残った白髪頭を手でなでつけた。
「わしがはだか湯のオーナーだ、誰にも文句は言わせない」
「ありがとう、おじいさん」
絆サクラはぺっこり番台に向かって頭を下げると、振り返って、三太郎に言った。
「いろいろ教えてね、三太郎さん」
一陣の風が豪壮な唐梁作りの屋根をふいて、絆サクラ、風呂井三助三太郎親子、そしてはだか湯オーナーの鶴亀万蔵達にこの夏の騒動を予感させた。
おかしい、鶴亀万蔵の60年前の恋人であった、現女房のトラは,口の下にある大きな、いや大きすぎる艶黒子をなでながら独り言ちた。若いころははだか湯のあるかっぱ町のかっぱ小町と呼ばれ、老若男女を虜にしたトラであった。
あまりにもモテるので、あの艶黒子から何か出ていると評判であったその大きな黒子ロをなでながら、おかしいとトラはつぶやいた。
どんな男がものにするのかと皆が噂しあったが、トラを篭絡したのは何のことはないかっぱ町内銭湯オーナーの鶴亀万蔵であった。
若いころから万年年寄りと呼ばれた鶴亀万蔵がトラをものにできたのは何のことはない、人並み外れた凶暴なモノのお陰であった。♪モノで許婚をめとるとは、これいかにー、タコ♪とかっぱ町ざれ歌にはやされたモノであった。
さらにトラはかっぱ小町と呼ばれた美貌に、なまめかしい体をしていたが、男は万蔵一人しか知らず、まさに肉体の悪魔にて糟糠の妻であった。
御多分に漏れず、万蔵夫妻も倦怠期を迎えて、手を握ったり、肩を抱いたりするような接触も失われ、会話はおい、ハイで済む領域にまで達していた。
そんな夫、万蔵が急にはだか湯の番台に活き活きと登り、あろうことか白髪頭を撫でつけている。
「おかしい」
トラの独り言が遂にはだか湯の脱衣所に響いた。
だが番台の上にいる万蔵は柱時計を眺めては、いそいそし、トラの独り言には全く反応を示さなかった。
そのときはだか湯に扉がガラッと開いて、あいかわらずお嬢様ルックの絆サクラが入ってきた。
「おじいさん、こんにちは」
「おお、おお、ごくろうさん」
万蔵の鼻の下の口吻がこれ以上ないほど伸び、にやにやしている。
「こ、こ、この娘は」
「はだか湯の新しい三助です、奥さん」
絆サクラの後ろについて、このはだか湯の主任三助である風呂井了こと風呂井三助が入ってくる。