日本ダービー前夜
前日、生産牧場パワーファームはてんやわんやであった。
自分の生産した馬がダービーに出る!
しかも上位人気で!
清のテンションは上がりっぱなしであった。
『お父さん、落ち着いて。まだ一日あるんですよ。』
妻の弘子に言われた。
しかしやはり落ち着けない。
『ダービーだぞダービー!日本一のレースだ!しかも乗るのは清弘!俺がダービー乗った時の1000倍は緊張しているわ。』
清はダービーに騎乗経験がある。
ちなみにその時は2着であった。
部屋の中をぐるぐると回っていると
『明日は早いんだからもう寝なさい!』
清は怒られてしまった。
布団に入る前に風に当たりたいと言い清は外に出た。
『ダービーか。そういえば、俺が乗る予定だったのはエルドランセンデだったな…』
エルドランセンデは当時、清が乗っていた馬である。
ホワイトジェムと同じく零細血統そして皐月賞の2着。
しかし、清はエルドランセンデに再び乗ることはなく、エルドランセンデもクビ差の2着に敗れた。
もし、清が乗っていたら---。
『清弘、お前なら勝てる。絶対にだ。』
清は満天の星空をみて呟いた。
ーーー中島はすでに寝ることを諦めていた。
皐月賞で寝られなったのだから、ダービーで寝られるわけはないと。腹を括っていた。
後12時間か。
時計はすでに3時半を指していた。
すでに中島は自分の準備は終わらせていた。
担当馬がダービーに。想像しただけで気を失いそうになる。
後は自分のできることを全力で。
大きく深呼吸を繰り返す。
その後に中島は厩舎の方へ向かった。
ーーー清弘も寝れていなかった。
明日の騎乗を繰り返し考え続ける。
スタートの位置取り、折り合いの付け方、コーナーの周り方、仕掛けるタイミング。
考えれば考えるほど分からなくなって行く。
『あーどうすれば良いんだ…。寝方を忘れた。』
ダービー初騎乗の時とは全く違う緊張感だ。
あの時はただ乗っていただけ。
今度はダービーを勝ちに行く。
ふと、父のジャパンカップ制覇の時の動画を思い出す。
大本命馬をひっくり返した騎乗をだ。
『俺にならできるか…。』
清の言葉を思い出し眠りについた。
---雄太は昔のコハクを思い出していた。
雄太も明日は観戦する予定。
がんばれよ、コハク。
ベストスマッシュの分も。
ベストスマッシュは2年前にコハクの弟を出産した後、体調を崩して亡くなった。
雄太はホワイトジェムが生まれた日のことを思い出した。
応援していてくれベストスマッシュ、息子を日本一にしてくれ。
雄太は祈るように目を瞑った。




