5-2 王都にて
図書館に興味がなかった貴音は一人王都を歩いていた。
そして考える。アカシュブレア王都だろうと、港湾都市ケルナンデだろうと、それ以外のどこだろうとやることは同じ。歌を歌い続けるだけだ。
でも本当にそれだけでいいのか? いや、歌を歌うことに疑問を持っているわけではない。この前やったケルナンデのライブは、仲間の協力もあって最高に盛り上がった。やっぱりライブは仲間と共にやった方がいい。
だから考えたのはその事ではない。
なんで俺みたいな奴がこの世界に来たのかってことだ。
皆、この世界で戦う術を持っている。恐竜を呼び出したり、ボールを投げたりな。
でも俺はこいつを使って歌うことだけだ。別にそれが悔しいとか思っちゃいない。音楽こそが俺の全てで有り生き様だからな。
だったら魔王という恐怖におびえる人たちに歌のパワーを届けるのが自分の役目に違いない。
そう考えたとき、もう一つのことが頭をよぎった。このままライブをやるだけで本当にみんなに歌を届けることが出来るのか?
だから俺はここに来た。王都の中でも人通りも少なく活気もないところ。スラム街と呼ばれている場所だ。
魔王に恐怖し部隊から逃げてきた兵士。
傷を負い戦えなくなった為、誰からも相手にされなくなったハンター。
全てを諦めて生きる気力をなくした人。
やけになって酒に酔いふらふらと歩く者。
そんなやつらから最後の金を搾り取ろうと近づいてくる悪党ども。
ここは底辺の奴らが彷徨う魔窟だ。
「お前らは見ず知らずの相手にこんな場所で怯えてるだけじゃねぇか?
お前らが飲んでる間でも働いて、子育てして、病気に苦しんでいる人だって居る! そんな奴を俺は歌で応援してるんだ! 歌の力は時には人を助けるんだぜ! お前らも俺の歌を聞け-!」
最初は誰も聴いていないように思えた。だが俺は信じてる。歌の力を。
だから俺は歌うんだよ! 精一杯でかい声で!
スラム街ゲリラライブが終わったとき、いつの間にか多くの人が集まっており、幾多の拍手をもって称えられた。
生きる気力を失っている人たちが、それを取り戻したのだ。彼らが何故ここに来たのかは知らない。だがやり直すチャンスがあってもいいはずだ。
俺は懐に手を入れると、手にゴールドを掴む。そしてそれを高く放り投げてばらまいた。
今までなら争うようにゴールドを取り合ったはずだ。だが彼らはそれをお互いに譲り合う。チャンスは皆平等にある。その想いがちゃんと伝わったのだ。
ふと思い立って貴音は観客達の輪に入っていった。
ライブ終了後に観客との歓談をするのは当たり前のことだったが、それだけではなく、この世界のことについて少し聞いてみようと思ったのだ。クラーケンに聴かせる新曲はまだ完成していない。ただ自分の思いを歌に乗せるだけでは駄目なのだ。観客のこと、この世界のことをもっと知る必要があった。
観客の誰かが先程ばらまいた金を使って、食べ物や飲み物を買ってきた。小さな広場に車座になって皆が語り合う。彼らの今の思いを一つ一つ聴いていった。
王都ではそれほど被害がでてないが、城塞都市クローム以北では殆どの町や村が壊滅している。
魔物は以前よりもさらに凶悪化し、倒すのは困難になっている。城塞都市クロームも度重なる襲撃で疲弊しており、都市が奪われるのも時間の問題と思われ、そこから逃げてきた者も多い。金のある貴族ならともかく、何も持たない平民はこうしてスラムにたむろするしか無かったわけだ。
ただし、最近になって勇者パーティが城塞都市クロームに到着し、魔物を追い払っているらしい。
これも噂ではあるが、魔物のボスを倒したともいう。もしそうならこの先城塞都市クロームを拠点として復興が始まるかも知れない。
とは言え、一般人にとって魔物は恐怖の対象だ。最前線である城塞都市クロームに戻ることは今のところ考えていないそうだ。
貴音はそれ以外にも、この世界に流れる音楽のこと。普段の生活様式。愉しいことや悲しいことについて聞いて廻った。
昼過ぎ、あっきーはハンターギルドからの紹介で、宿屋ハルヨコイに来ていた。王都で一番大きな宿屋で、高級感は無いが大勢のハンターが集まることで有名だ。ハンター同士の情報交換も盛んに行われている。
だがここに来た目的は砂塵の狐に合うためだった。
砂塵の狐傭兵団は、ハンターギルドに所属し正式な依頼を請けて活動している。
ハンターギルドや何人かのハンターに聞いてみたところ彼らの評判はかなり高い。戦闘力、依頼の達成度、部隊としての士気。どれをとっても良い話を聞く。砂塵の狐に入隊し、それによってハンターランクが上がったものもいる。現在は追加募集していないようだが、追加募集が来たら参加したいと思っているハンターは多いようだ。
現在の主な活動内容は、キシャナ大森林での魔物退治。魔王の登場により、キシャナ大森林での魔物が活性化し、森林内を通る街道の危険度が増したため、通行が困難になってしまっている。
このように魔物が増えて強くなった場合、その近くにボスと呼べる強力な魔物がいる。それを探し出して退治するのが最終目的となる。
彼らは魔物を退治しながらレベルアップを行い、自分たちを成長させながらボスを探していた。
現在森の南側の探索をほぼ終え、次は森の北側へ行く予定となっている。
十分な休養と、物資の補充、装備の確認、そして探索範囲の計画は作戦遂行におけるもっとも大事な要素である。
それを満たすことの出来る宿屋ハルヨコイを彼らは拠点としていた。
あっきーはすぐに砂塵の狐に出会えた。明日には出発する予定らしいので運が良かったと言えよう。代表の西瓦が手を差し出した。
「代表の西瓦だ。君たちの噂は聞いている。音楽隊として活躍しているそうだな」
あっきーはそれを嘲るような口調と感じる。
「アウスレンダーのリーダーを務めるあっきーです。そちらもご活躍しているようで、何よりです。ところで森の探索は順調ですか?」
「当然だ。今、裏の演習場を借りて最終調整をしている。折角だから見てみるか?」
そう言って演習場に案内される。この演習場もハンター達に人気なハルヨコイの施設だ。しっかりした防壁があるので多少あらっぽく動いても回りに迷惑を掛けることは無い。
砂塵の狐傭兵団は総勢12人で構成される。3人一組を4つ作り、互いをカバーし合いながら行動する。インカムを使った連携。アサルトライフルを基本とした面制圧。状況に応じた多彩なフォーメーションの使用。特殊装備として戦術支援コンピューター。爆弾。ドローン。スナイパーライフル。ロケットランチャー。チェインガン。ナイトゴーグル。サーモグラフィー等々。携帯可能な近代兵器を多数所持し、それらの訓練を重ねていた。
「驚いたか。俺は軍事オタクだったんだ。しかも来春自衛隊に入る予定だった。けどよ、まさかの異世界召喚とはな。まぁ、こっちの方が好きにドンパチやれるから俺向きかもな」
圧倒的な火力と、部隊戦術、情報収集による優位性をもって敵を殲滅する。
西瓦は仲間からも大きな支持を受けていた。キシャナ大森林で退治した魔物の数も既に数百を超えており、ハンターギルドからも絶賛されている。
異世界のからのメンバーに加え、砂塵の狐に賛同するハンターを追加し、召喚当初6名だったメンバーも12名に増えていた。場合によってはさらに追加する可能性もあるが、異世界特有の兵器をこの世界のハンターが使う場合、弾薬の補充が面倒なため、当面は12名が適正だと考えたようである。
その様子をスマホで写真や動画に収めておく。
「これらの銃器はやっぱりスマホで取り出したんですか?」
「ああそうだ。弾薬とか電源は各自のMPを消費すると補充出来る。グレネードなど、一部の兵器で呼び出しに金が掛かるのもあるがね」
「今まであった魔物について情報交換しましょう。こちらはこんな感じです」
スマホを操作して討伐記録を呼び出す。お互いの討伐データーをリンクさせると、討伐データーを交換することが出来た。なお、登録されているのは退治した魔物だけなのでクラーケンのデーターは無い。
西瓦は几帳面なようで、退治した魔物にそれぞれ弱点や主な攻撃方法などを追記していた。これを見ることで今後同様の敵に出会った時の対処が楽になるだろう。
このデーターを風巻とリンクさせたら、召喚出来るようになるのか? あとで確認してみよう。
「ところでキシャナ大森林に、強い魔物はいましたか?」
「強い魔物? ああ、ボスキャラのことだな。今のところ会えていないが、それをあぶり出すのも時間の問題だ」
「自分たちは海でクラーケンに出会ったのですが、とても強くてなんとか逃げてきた感じです。このままでは勝てないとクラーケンの弱点を探しに王都に情報を集めに来た次第です」
「お前達は音楽隊だろ。ライブでもコンサートでも好きにやればいい。戦闘は俺達戦闘のプロに任せればいいんだよ。そのクラーケンとやらもこっちが片づいたら俺達が倒してやるよ」
「クラーケンは本当に強かった。こっちの魔物も同じように強いかも知れない。もっと気をつけた方がいい」
「判っているって。だが俺達はもっと強い。相手の情報を集め対策も立ててある。
いいか、勝つべくして勝つ。それが戦闘のプロってヤツだ」
「では、どんな敵か判っているのですね」
「当たり前だ。ボスは大きなヘビの化け物だ。堅い鱗をもち、うねる体は木々の間も素早く移動出来る。さらには毒のブレスを吐く」
「話だけ聞くとドラゴンみたいですね」
「まぁな。勿論その可能性も考えて対策してあるから問題ない。俺達が負ける可能性は200%無い! どうだ。安心したか」
「最後にお互いのアドレスを交換しませんか? 何かあったときの連絡用です」
「いいだろう。一応言っておくが、俺の軍隊に音楽隊は必要ない。だからそっちはそっちで好きにやってくれ。こっちを頼るとかは無しだ。ま、情報交換ぐらいなら暇なときにやってもいいけどな」
そう言うと西瓦は、スマホのアドレスを教えてくれる。それから部隊の訓練に戻っていった。彼の背には自信が溢れていた。
数日後、彼らは準備を終えてキシャナ大森林へと旅立っていった。
森の北側までは距離もあるので、移動も時間が掛かる。予定では15日の行程だ。ボスの居場所については何カ所か当たりを付けてあるのでまずはそこから攻めるという。かなりの確率でボス撃破をなせるだろう。
ハンターギルドでも彼らの目標達成を多くの者が信じているようだった。
風巻は自分の召喚術についての問題を感じていた。
パーティで戦い倒した相手を記憶し、召喚出来るようになる。さらに今回あっきーから砂塵の狐傭兵団が倒した魔物のデーターももらい、それらも召喚出来るようになった。
だが、逆に言うと既に倒したことがある、パーティよりも弱い魔物しか召喚出来ないとも言えた。
実際前回のクラーケン戦では、ほとんど攻撃に参加していなかった。今後のことを考えてもさらなるパワーアップの必要がある。
新たな力の取得。その方法とは・・・。その時、脳裏に閃きが走った。
この世界の魔導具は、複数の魔物の素材を会わせることで全く違う性質の効果を生み出している。
それと同じで、複数の魔物を召喚し、それを合体させることで、別の能力を持つ魔物を呼び出せないだろうか。魔導具は魔石の力を中心に制作されていた。それならば召喚時に魔石を使用すれば2体、あるいは3体合体が可能になるだろう。
現在記憶している召喚魔物の全ての組み合わせを試すのは時間も掛かるし大変だ。けどやるしか無い。ハンターギルドにある個人用の演習場を借りるとそれを一つずつ検証していく。
それから、ハンターギルドで魔導具職人を一人紹介して貰った。魔導具作成時の組み合わせについて知ることが出来れば召喚魔物の組み合わせの参考になるかも知れない。
その職人の名前はヒェジュスン。新進気鋭の魔導具職人で、まだ若いがその腕は確か。彼の特徴としては、魔物狩りに同行し直接魔物の動きを観察することでインスピレーションを高る。そこから新しい発想でより精度の高い魔導具を作り出そうとしていた。勿論そんな簡単に新しい魔導具が作れるわけも無く失敗も多い。
魔物が強くなってしまった今では、足手まといとなる彼を連れて魔物狩りに行く者はいなくなり、それを受けてくれるハンターを探しているそうだ。
まずは会って話を聞き、それを元に仲間に確認をしてみよう。
あっきーは宿屋の個室でひたすらスマホをいじっていた。
素材の整理や強化ツリーの確認。クエスト周回。エノクサウルスの強化にはこれを繰り返すしか無い。
進化に必要な素材を書き出し、クエストで手に入るモノとそうでないものを分ける。
手に入らない素材をハンターギルドで照会してこの世界のどの魔物から手に入るかも確認していく。
スマホのストレージに堪っていた素材の売却で、今は少しだけどお金に余裕がある。もちろんすぐには使わない。今度はジックリと計画を立てて強化プランを練らなくては。
そしてもう一つ思いついたことがある。バーモンの追加だ。現状よりも多様性を持たせるにはエノクサウルスの強化だけで無く、他のバーモンを使うという選択肢も忘れてはいけない。
使える金額と相談しながらどうするべきかを検討していった。
エビスはカウンターだけの小さな酒場「ヘリオン」に来ていた。シャドウ・リミット、情報屋に接触するためだ。風巻からコピーさせて貰ったアプリを利用したところ、ここを指定された。
目立たないようにこの場所を指定したのだろうが、その判断は間違いだと思う。ハッキリ言ってどうしようも無く目立っているのだ。クラゲリオンの着ぐるみはこの場に似合わない。
だが脱ぐつもりは無い。断固拒否させて貰う。
暫く時間が経った。飲み物は最初の一杯を頼んだのみ。むしろ一口も飲んでいない。普通に考えれば嫌な客だ。
いつの間にか客がいなくなり、マスターと私の二人だけになっていた。
「それで・・・。ご注文は何にしますか?」
マスターが聞いてくる。置かれたコースターにシャドウ・リミットのマークが入っていた。
「王女とその周辺の関係性について。反王女、反勇者を名乗る者達の存在はあるのか。あるならどのくらいの規模なのか?」
「10。50。どちらにする?」
「100払う。リボ払いで」
「うちは即金、一括払いしか認めない」
「しかたがない。即金で100払う」
マスターは自分のスマホに入金があったことを確認する。
「いいだろう。判っていることを教えてやる。
まず、反王女のグループについてだ。
知っていると思うが、この王国は代々女王が統治している。当然イスメアルダ王女は次期女王候補の一人。これに対抗しているのはソーンダイク第1王子とその婚約者フローラ・スカイライン。魔王が現れるまではこちらの方が女王候補筆頭だった。フローラは才気に溢れ人望も厚い。さらにスカイライン家は貴族同士の繋がりも大事にしており誰もが女王になることを望んでいた。
対してイスメアルダ王女は、女王になるための教育はされていたが、夢見がちなところがあって女王の器では無いと周囲から思われている。
だが、状況が変わってしまった。第一次魔王討伐にソーンダイク王子は参加していたのだが、部隊は敗走。撤退戦の中で行方不明となった。
この王国では王族の血を絶やさない事を重んじている。そうなると状況は一転。イスメアルダ王女の女王がほぼ確実となってしまった」
「王子は他にもいるだろう? そっちはどうなんだ」
「第二王子のチェリュノのことか。たしかにそっちへ鞍替えさせるという話もある。
それについてはチェリュノがノラリクラリと逃げ回り、先延ばししていると聞く」
「待った。チェリュノは第三王子と聞いていたのだが?」
「誰からの情報かは知らないが、チェリュノは第二王子。間違いない。
だがこの王子は女王レースから外れていた事もあってかなりの遊び人らしい。しょっちゅう街へ出ては問題を起こしていると聞く。
まぁ、その事はいい。話を戻すぞ。このまま行くとイスメアルダ王女が女王になるだろう。だが本人に自信が無い。そこで目を付けているのが勇者達だ。過去の勇者召喚でも、勇者が女王の伴侶として活躍している。だからイスメアルダ王女は優秀な勇者と一緒になることで解決すると考えた」
「フローラの方はどう動いているんだ」
「躍起になってソーンダイク王子の死体あるいは死んだ証拠を探している。その上でチェリュノに乗り換える気だ。大穴として魔王を倒した勇者を伴侶に迎えるって言うのもあるな。王家の血を繋げているのは勇者の血を絶やさないため。ならば魔王を倒した勇者が伴侶なら問題ない。と丸め込むことは可能だろう。」
「フローラについて資料はあるか?」
「追加で10」
エビスはすぐに追加料金を支払う。
「ふん。迷いが無くていい。ほら、写真と資料を送るぞ」
現在フローラは王都にあるスカイライン家に滞在しているようだ。王宮にも距離が近い。その立ち姿は威厳が有り、女王を目指して努力しているのも理解出来る。
学力テストなどは無いから、その実力は判らないが、王国の統治や整備といった内政にスカイライン家は関係しており、その各所に出向いて状況を知ろうとしている事も判った。少なくともお飾りだけの人物ではなさそうだ。
「そっちに関してはだいたいこんなところだろう。そしてもう一つの話し。反勇者グループのことだ」
「それも別にあるのか?」
「この王国には無い」
「つまり王国外にあると」
「まだ確証が取れていないが、勇者パーティの一つ。スカルブラッドが魔王軍に入ったと思われる。おそらく最初からそれが目的で魔王城を目指していたのだろう」
「それでいつ確証がとれるんだ」
「前金は貰っているからな。わかり次第そちらへ連絡するよ。さて、話しはこれで終わりだな。営業の邪魔になるから出てってくれないか」
そう言われては仕方が無い。チップとしてコインを何枚かテーブルに置くと、店をあとにした。
この作品はPBM-RPGです。
リプレイでも通常の小説でもありません。
物語はプレイヤーの手にゆだねられており、
プレイヤーの意思決定により変化し進められていきます。
参加プレイヤーは「あっきー」「風巻豹」「キリマン」「エビストウスケ」「貴音大雅」以上5名となります。
その他の人物はマスターである私が一元的に管理しています。