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5-1 王宮図書館

 アウスレンダーは、イスメアルダ王女の案内で、王宮図書館へとやってきた。この王宮図書館には古今東西の書物が所狭しと蔵書されている。因みに現在の蔵書数は10万冊を超えると言われている。

 印刷技術の発達しているアカシュブレア王国内では、書物の作成時にこの図書館へ一冊寄贈することになっている。その数は年間500冊程。

 書物は記録、勉学、娯楽等、その地位を確保されていて、アカシュブレア王国になくてはならない存在である。

 設立当初から随時拡張されてきた図書館ではあるが、ここ数十年は書物を受け取るだけの場所となっていて整理を怠ってきた。だいたい年代ごとに並べられているが、近年の本は床にも散らばっている。


「古そうなところから、順番に見ていくしかないか。」


 そう言ってエビスが動き出した。あとの者もそれに続く。それらしいタイトルの本を見つけては中身を確認していく。

 しかし整理されていないことが致命的。フィクションとノンフィクションの本が隣り合っているのは当たり前。種別もバラバラ。ここから目的の書物を見つけるには時間と根気が必要だった。


「俺にはこういうのは向かない。後は任せるぜ。適当に王都をぶらついてるからな」


 すぐに匙を投げたのは貴音。夜に宿で会おう。それだけ言うと出て行ってしまった。


「これは時間が掛かりそうだなぁ。こういうのは自分に向いてないや。ここは任せて、旅の買い物したり、王都でやれることをやっておくよ」


 文字疲れしたのか、目頭を押さえながらあっきーがため息をついた。

 そんなあっきーの前にキリマンが立ちふさがった。


[でしたら、砂塵の狐傭兵団と会ってみては? 王都に来ているはずです]


「砂塵の狐に会うなら、折角なので連絡手段を確保しておいてはどうですか?」


 二人の会話に気づいて声を出したのは風巻。それに追加するようにエビスも声を投げかける。


「それに砂塵の狐の評判なども調べてみてはどうですか?」


「いろいろ一気にきたなぁ。まぁ、自分にはそっちの方が向いていそうだしな。判った、やっておくよ。他にも何か出来ることがないか考えてみる。夜に宿で会おう」


 そう言うと、あっきーも図書館を後にした。




 本の探索は困難を極めた。それらしいタイトルの本をある程度ピックアップして、次はその中身を確認していく。

 本のどこに該当する記述があるか判らないため、流し読みとは言えそれなりに時間が掛かる。

 そうやって持ってきた本を読み終えたら、次の本を探す。その繰り返しだ。

 発見された一つの記述をそのまま信じても良いのだが、別の本では全く相反することが書いてあったりもする。

 そもそもフィクションとノンフィクションが入り交じっているので、全くの創作であることもある。

 そこで複数の書籍を検証し、似たような記述が複数あるものが正解であるとした。




 エビスは本を繰り返し確認し、手元のメモに書き写す。ノンフィクションと思われる複数の本を何冊も並べてそれらの親和性を検証。

 それをまとめたメモがこれだ。



 【神の眼】


『かつて勇者が魔王を倒したとき、その死体には禍々しい魔力が残っていた。

 それは放っておくといずれ厄災を招く。そう考えた勇者は、強い力を感じた三つの部位をそれぞれ別の場所に封じた。

 一つは瞳。海の向こう。誰も近づけないところへ。

 二つ目は心臓。勇者のみが知る場所へ。

 最後のパーツは背骨。これはもっとも魔力が高く、動かすことが出来なかった。その為、魔王の間ごと、その場に封印する。


 神の眼とはこの一つ。瞳のことを指すと思われる。なぜ魔王の瞳が、「神の眼」と称されるようになったかは不明。


 また、この三つの部位はそれぞれ周期的にその力が増減する事を勇者は突き止めた。その周期は空に輝く星と大きく関係している。

 瞳は碧星。碧色から灰色へと40日周期で変化する。明るく碧色に近いほどその力は強くなる。

 心臓は赤星。赤色から灯色へと30日周期で変化する。明るく赤色に近いほどその力は強くなる。

 背骨は母星。藍色から白色を24時間周期で変化する。この輝きによってアカシュブレア王国は昼と夜が変化する。背骨は明暗が逆で暗く藍色に近いほどその力は強くなる』



 神の眼と書かれた資料には、それが力のある魔石だと記されている。この記述を信じた者達がそれを手に入れるためにナジカカル島へと向かったようだ。もちろんそれを手に入れた者は一人もいない。

 これらの記述を複合すると、ナジカカル島にある洞窟の奥底に瞳は封じられていたと考えてよいだろう。どうにかして封印を破ったのか、あるいは全く別の方法でアプローチしたのかは判らない。ともかくクラーケンは【魔王の瞳】を入手しその力を我が物とした。

 因みに前回クラーケンと戦ったときは碧の7弦。最も碧いところから3日経った時と判った。これはかなり力が強かった時となる。

 あの日から20日が経過しているので、今は魔力が弱い時期。この先は日毎に魔力が強くなっていく。

 次に最も魔力が弱まる日は37日後。戦うならその日かも知れない




 キリマンは神の眼が記述されている本の他に、魔導具についての資料を漁っていた。

 以前勇者が戦ったときの事も調べ、魔王と戦うときに特別な魔導具を使っていなかったかを確認したかったのだ。

 もしかしたらその中に、クラーケンの力を弱めるモノがあるかも知れない。そう考えていた。



 【魔導具】


『これを最初に考案したのも勇者であったと言われている。

 出来たばかりのアカシュブレア王国は、未だ各地に生息する魔物の襲撃におびえ、さらに慢性的な人手不足となっていた。それを解消するために、勇者が魔物の素材を流用した魔導具を発明した。

 一部は武器となり、魔物へと対抗手段となった。これによりより安全に魔物を倒すことが可能となる。

 一部は生活用具となり、料理や洗濯、上水下水網の構築に役立った。これにより今までとは比較にならない程、衛生面の向上が図られる。

 さらに勇者は農耕へも着手する。今まで誰もやったことがない、食べられる植物を育て、増産するという事をやった。

 もちろん最初は失敗が続き、成功には数年を要した。だが女王は狩りと採取だけではいずれ限界が来ることを粘り強く訴え続け、ついにそれを成し遂げたのである。


 その他、灼く、煮るだけだった調理法に、蒸す、冷やすと言った方法や、それらを組み合わせて使うことも開発する。

 食文化は飛躍的に発達し、王都の民に楽しみと希望をもたらしたという。

 今では無数の調理法と魔導具が当たり前のように存在するが、これも全て勇者のお陰であることを忘れてはならない』



 【唯一無二の魔導具】


『勇者は、偉大な魔法使いであると同時に魔導具開発の第一人者でもある。生き残った人々が生活に困らぬよう実に様々な魔導具を開発した。

 その中でも最大の魔導具は、王家のみに使用が許される勇者召喚陣。世界が真に困窮したとき、それを使用することで世界を救う勇者を呼び出すことが出来る。

 王国創立以来、今のところそれが使われたことはない。魔王が現れなかったからである。

 今回の勇者召喚においてこの装置が使われたことは間違いないだろう』



 魔導具自体が、魔王討伐以降、勇者によって作られたもの。このことが事実なら、戦闘用の魔導具はよくて、勇者の劣化的能力しか無いと理解出来る。

 クラーケンに有効な魔導具の存在は期待出来ないだろう。




 風巻は過去の勇者召喚について何か参考にならないかを調べていた。その結果、思っていたよりもこの国の歴史が短いと思った。


 【アカシュブレア王国】


 300年以上前。その頃は王国もなく、小さな都市群がそれぞれの領地を治めており、領地ごとに発展していった。

 一つの領地は大きくても1万人ほど。領地同士の争いは殆ど起きなかった。

 農耕はされておらず、狩りや採取、放牧等よって食をまかなっていた。

 生きていくのは大変であったが、少しずつ発展しており、人々はその生活を楽しんでいた。


 そこに突如魔王が現れる。魔王は野に生息する獣を魔物へと進化させ、人々は獣とは全く違う力を持つ魔物を前になすすべはなかった。

 人々は多数の死傷者を出し、生活圏を失っていく。

 誰もが全てを諦め掛けたその時、一人の勇者が現れた。その名をネクラオ・タクと言う。

 異なる理を持つ勇者の力は凄まじく、あらゆる魔物達を撃退していった。

 しかし勇者は一人。全ての町や人を守る事は出来なかった。そこで勇者は魔王を直接倒しに行った。そして激戦の上、魔王退治に成功したのだった。

 魔王を失った魔物達はその力を半減させる。簡単に、とまではいかないが、なんとか抵抗することが出来るようになった。

 勇者はもっとも人が多く集まっていた場所を中心として復興していく。それが現在のアカシュブレア王都である。

 そして当初より勇者を献身的に支えていた女性を女王として掲げ、ここにアカシュブレア王国が誕生したのである。

 なお、勇者はアカシュブレア女王の伴侶となり、生涯をアカシュブレア王国の為に捧げたという。勇者は奥ゆかしい人物らしく、表に現れたことは少なく、その人物像を知るものは少ない。

 その分女王が表に起ち、その才能を遺憾なく発揮し、民を纏めて王国を発展させていった。

 以降、アカシュブレア王国では女王が納めることとなっていった。



 要約するなら、前回魔王が現れるまで大きな国は無かったことになる。魔王退治後に勇者とその協力者が王国を作っていった事も判った。

 この協力者が勇者を召喚したのだろうか? それとも全く別理由? それについて記述されている本を探してみたが、なかなか見つからなかった。

 因みに最初に勇者が現れて以降、僕たちが最初の召喚と判る。最初の勇者については魔法使い。それ以外に過去例が無いのだから、勇者の能力について調べたければむしろ現状存在している人に聞いて廻るしか無い。

 また、この世界の魔物は、野生の獣が変異進化派生したものと考えて良さそうだ。

 魔王の力は、魔力を生物等に付与して、魔力を持つ魔物に進化させる。こう考えると判りやすいかも。

 魔王一人でそれをやろうとするとあちこちに移動しなくてはならないから大変だろう。それを補佐するのが魔王の側近。クラーケンのような高レベルモンスターとなる。

 魔物が活性化している地域にボス級の魔物が存在するのはこう言う理由。さらにそれを倒すことが出来れば、周辺の魔物が弱体化することと繋がっていく。




 連日図書館にこもり本を漁っていたパーティの元に、イスメアルダ王女が差し入れをもってやってきた。

 軽食と飲み物。それに甘いお菓子がテーブルに並べられた。

 時間を有効に使うため、殆どの時間を図書館で過ごしていたメンバーにとってそれは有り難いことだった。

 軽食を食べ出した三人に、イスメアルダ王女は一冊の本を手渡す。


「こちらの本をお見せするかどうか、実は迷っておりました。

 ですが少しでも皆様のお役に立てればと思いお持ちしたのです。

 この本は300年前この世界を救ってくれた、勇者タク様が直筆されたモノです」



 【勇者召喚について】


『勇者は異なる世界からやってくる。その考え方、生活様式、世界の知識、戦いへの心得や興味、あらゆることがこちらとは違っている。

 またいきなり見知らぬ土地へ呼び出されて困惑していることだろう。

 もちろん召喚した人物を全く知らないし、強い警戒心を持ってしまうのは間違いない。出来る限り丁重に扱い、まずは勇者の信用を得るべきである。

 勇者は僕が召喚されてきた世界と同じ場所から来る。今まで戦うことなどなかったはずだ。急に戦うことを強いられても受け入れられないかも知れない。必要に応じて、戦いの心得や、補助を積極的に行うことが望ましい。

 また、勇者には特殊な力が授けられる。どのような力になるかは勇者ごとに異なる。その才能が開花するよう援助しなくてはならない。

 僕の生涯を掛けて作った魔導具。勇者召喚陣の起動には、僕の血を引く者が操作する必要がある。そのものに流れる僕の血が、僕の居た異世界とを繋ぐ鍵となる。

 勇者を思い、強く願うこと。思いが強いほど効果が高まるはずだ。

 いつの日かまた魔王が現れたとき、この魔導具を使うことになるだろう。その時には僕はもう死んでいる。

 次に来る勇者にこの国を託す。孤独だった僕に優しくしてくれた、女王アカシュブレアの作ったこの王国を。

 2017 本郷 勝利』



 最後の署名のみ元の世界の母国語で書かれている。アカシュブレア王国の人にそれを読むことは出来ないだろう。おそらく勇者の本名であると思われる。どう見てもネクラオ・タクとは読めない。

 本を読み終えたことを見てイスメアルダ王女が話し出す。


「わたくしは今回の召喚に先立ちこの本を読み、そして精一杯の援助をするべく努力しているつもりでした。

 ですが、どの勇者様もそれについて言及されておらず、わたくしの努力が間違っているのではないかと不安に思う毎日です。勇者様のお力になるべく、出来る限りのことをさせていただきます。

 わたくしに出来ることがあれば是非おっしゃって下さいませ」



 イスメアルダ王女はどこか焦っているようにも見えた。

 そんな姿をみてエビスは気がついた。おそらくこの王女は、昔の勇者と女王みたいにラブロマンスとかを期待しているのかも知れない。

 勇者について書かれた物語は、そう言う物語が多かった。ときには過剰に美化された話もある。確かに王女は年頃だし、ロマンスを期待していてもおかしくはないだろう。

 まぁ、私には関係ないけどな。他の連中はどうなのだろうか。それは各人に任せればいいや。そう思いながら口を開く。


「今のところ特にないな。ただ、この本のように他に持っている資料があるなら見せて欲しい」


「そうですわ。例えばお金などは足りていますか?」


[問題ない。倹約を美徳としているから]


「そうですか」


 寂しそうに落ち込むイスメアルダ王女。さすがに可哀想と思ったのか、キリマンは追加のカンペを立てた。


[倹約を美徳としていますが、そうも言っていられない時も来るかも知れない。その時は相談します]


「はい。是非ご相談下さい!」


 キリマンの言葉に笑顔で返すイスメアルダ王女。全く面倒な王女だな。念のためエビスはもう一度聴く。


「私たちに見せていない資料。他にはないのですね。どんなものでも構いません。あるのであれば見せて貰えませんか」


「・・・申し訳ありません。これ以外には無いのです」


 エビスは理解した。間違いなく他にも何かの資料がある。だが何かの理由で見せたくないのだ。これは正面からお願いするだけでは見ることは出来ないと確信する。今はこれ以上の追求をやめておこう。

 そこで話題を変えることにした。


「私たちの世界にあって、この世界にないものがあります」


 そう言いながら元いた世界のことについて話しをする。マヨネーズ等の調味料。石けん・シャンプー等の衛生用品。圧力鍋などの調理器具。

 どれもあれば便利なものだ。他にも、味噌や醤油、温泉、浴衣など元いた世界特有の文化についても話をしてみる。ただ提案のみで実践するつもりは無い。


「どれも興味深い話しばかりです。例えばすぐに出来そうなものはあるのですか?」


 イスメアルダ王女はこの手の話に興味津々だ。これも以前の勇者が新しい技術をもたらしたことと重ねているのかも知れない。

 まぁ、何もしないのもあれなので、簡単な食べ物を作ることにした。

 おからとジャガイモをふかしたものを混ぜて丸めて油で揚げる。


「どうぞ。ゼリーフライです」


「これがゼリー? どこにもゼリーが入ってないよ。コロッケに思えるけど、少し食感が軽い」


 風巻は初めて食べるようだ。まぁ、地域限定商品だからそれもそうか。


「形が銭に似ている。銭がゼニ-、そしてゼリーに変化したと言われている」


「わたくしも初めて食べます。ふんわり柔らかくて優しい食感です。とても美味しいですわ」


 高評価なのか? まぁ珍しいと言えばそうだからな。


「私が知りたいことはだいたい調べ終わった。なので王都を見て回ろうと思う。二人はどうする?」



 この作品はPBM-RPGです。

 リプレイでも通常の小説でもありません。

 物語はプレイヤーの手にゆだねられており、

 プレイヤーの意思決定により変化し進められていきます。


 参加プレイヤーは「あっきー」「風巻豹」「キリマン」「エビストウスケ」「貴音大雅」以上5名となります。

 その他の人物はマスターである私が一元的に管理しています。


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