4-1 ヌカラベ島の晩餐
圧倒的な力を見せつけたクラーケン。
敗北必至の状況から風巻の課金召喚獣ミラージュ・ホエールによってケルナンデまで戻ってきたアウスレンダー。
今後の方針について、宿屋にて打ち合わせを行っていた。
切り出しはいつも通りあっきーだ。
「クラーケンは強かった。それは認めよう。だったら自分たちも強くなればいいんじゃね」
「問題はどこでレベルアップをしていくかですね。僕は別の都市へ行きたいです。いろんな魔物と戦うことで、召喚できる魔物が増えますので」
[クラーケンの情報を集めよう。何か特別な弱点などがあるかも知れない]
「その通り、なんとか倒す方法を探ろう。最終目標ははるかに強いのにこの程度で逃げていたらいつまでも勝てないぞ。
ハンターギルドでは、以前調べた情報しか無かった。船乗り達も同じ。あと他に聴くとするなら、例えば諸島の長老みたいな人物とかはどうだろうか?」
「俺の歌はあいつに届いていた。でも響いていなかった。当たり前だ! 俺の歌は人に聴かせる歌だったからな!
だけどあいつには俺の歌が聞こえていたように思えた。世界は広いぜ! あんな化け物みたいな奴でもちゃんと歌を聴く耳はあるんだからな!
時間はまだある。俺はあいつにも届く歌を創る。その為にいろんな奴に出会って、この世界のことをもっと知る必要があるな。
あいつにも俺の歌を響かせてやる。歌の力は無限大だぜ。
おっと。どこかへ移動するなら、場所を教えてくれ。次のライブの場所を伝えるのも演者の役目だからな」
意見が出そろったところで、みんなの視線があっきーに向かう。
「クラーケンの情報を集めよう。倒せる方法が見つかればいいし、駄目そうなら別の場所へ行って見たいと思う」
「だったら先程言った通り、一度諸島へ行こう。海竜が現れたら引きつけて倒せばいいし、ケルナンデよりは情報がありそうだ」
エビスが改めて提案する。まずはそれを実行することになった。
トゥヴァイク船長に、諸島へ行く為の船を用意して貰う。トゥヴァイク号は修理が必要だが、知り合いの船を出すことで決まった。クラーケンは近づかなければいいし、海竜は倒せることが判っている。
ハンターギルドには海竜退治の報告、クラーケンの情報提供。それから素材の売却を行う。
ギルドに向かう移動途中であっきーはいつものようにスマホをいじっていた。
「クエスト終了、報酬は。・・・また魔石(小)かぁ。魔石(大)出ないなぁ。仕方が無い。もう一度同じのやるか」
「何をやっているんですか?」
何かに興味を引かれたのか風巻が訪ねる。
「エノクサウルスの強化。イベントクリアの報酬を集めると強く出来るんだよ」
「魔石(大)がどうとか言っていましたよね」
「そう。だいたい20%位で1個出るかなぁ。あと5個は欲しいんだ」
「魔石(小)が余っているとも言いませんでした?」
「そうなんだよ。もうMAXの99個になってるんだ」
「もしかして、その魔石、取り出したり出来ませんか?」
「ええと、やったこと無いけど。・・・こうして、ここを操作すれば。・・・お、でたね」
そう言うとあっきーは魔石(小)を10個取り出した。
「これ、売却出来ますよ。買値で1個10ゴールドはするので、売れば5ゴールドくらいです」
「ええっ。そうなの? もうけっこう溢れて捨てちゃってた」
「あの、もしかするとなのですが、この素材をアイテムストレージに入れてみませんか?」
そう言って風巻は海竜の鱗と牙を一つずつ渡す。
あっきーは慣れた手つきでスマホを操作し、それをアイテムストレージへと移動させる。
「あっ。新しい強化ツリーが出てきたぞ」
「やっぱり。魔石で強化出来るなら、一部の素材でも強化可能なのでは? と思ったのですが当たっていたみたいですね」
「なんでそう思ったんだ?」
「魔石ってこの世界の魔道具に使われている重要パーツなんです。魔力片がエネルギーで、魔石は動力って言えば良いのかな。そして魔物の素材が道具の方向性を決める。だから強化にも使えるかと」
「なるほどぉ。これからは素材も欲しいな」
「それで強くなれるなら、そうするべきだと思います」
ハンターギルドについたあっきーは、ギルドとの交渉をエビス達に任せ、素材による強化の組み合わせ検証を始めた。
一部のキー素材をストレージに入れると強化ツリーが開放され、強化に必要な素材も判る。
これにより重課金でのみ手に入れることが出来た特殊能力が、素材+軽課金で出来るようになった。
エノクサウルスは今後大きく成長していくことだろう。
また、イベントクエスト時に余った報酬を売却することでお金も手に入れることが出来る。イベント周回するのに課金が必要なので、プラスになることは無いが、金銭的負担を軽減出来るようになった。
手空きになっていたキリマンはチェリュノの指示でアウスレンダーのライブチラシを書いていた。それを貴音に見せながら細かい修正をしていく。見本が完成したら、印刷機で増産し、街でばらまくのだ。
「たしかにこの世界で俺達は無名だからな。こう言う宣伝も必要だ! お、キリマンはイラスト書くの上手いな」
文言はチェリュノが考えたが、書くのはキリマンだ。印刷機の関係上一色しか使えないが、貴音の特徴を捉えたイラストが描かれていて、それが曲を弾いていることがすぐに判る。
諸島への往復には5日間を予定する。なので、余裕も持って10日後に港でライブを行う内容にした。
エビスはどうせなら海竜退治記念ライブをと称して食事や酒を振る舞うのはどうかと提案する。アウスレンダーの名前を知って貰う為の努力も必要だと考えているからだ。この辺り、元の世界でのゆるキャラ営業の苦労が垣間見えるところだ。
食事や席のセッティングなどは泊まっている宿屋の協力を得ることが出来た。
問題は参加費用を取るかどうかなのだが、今回は特別記念として参加無料とし、飲食費のみ宿の方で徴収して貰うこととした。
そして船で出発。目的地はヌカラベ島。大きな火山がありそこからとれる希少鉱石が特産品だ。
途中海竜と接触したときの対応がスムーズに行くようオブザーバーとしてトゥヴァイク船長も同船している。
沖に出て1日ほど。案の定海竜が現れた。今回は夜戦になったが、事前に打ち合わせしていたお陰で逃がすこと無く退治する。
時間の無かった前回とは違い、素材もかなり手に入った。特に海竜の鱗はハンターギルドから熱望されている。この鱗を使って作った装甲は海竜の攻撃をかなり防ぐことが判っている。
それに加えエビスが提案し作成中の大型銛討ち器が完成すれば、腕の良いハンターならば海竜とも十分戦えると予想されていた。
そこまで来れば諸島との海路が開放され、物資が滞りなく流通するようになる。誰もがそうなることを待ち望んでいた。
ヌカラベ島にたどり着いたアウスレンダーは、改めてクラーケンの情報を集めることにした。
島の長老の元に案内して貰い話を聞く。島民及び長老は、海竜退治に成功したことを知っており、アウスレンダーを温かく迎えてくれた。
「それでは、改めてお聞きします。クラーケンについてです。何か弱点のような物は知りませんか?」
代表して話をするのはやはりあっきーになる。
しかし残念なことにクラーケン及び海竜に対する情報は何も無い。知る限りの過去に、同様の魔物の存在は無かったのだ。
クラーケンは魔王の出現後、暫くして現れた。魔王が作り出した魔物の可能性もある。諸島においては魔王に関する情報はほとんど無い。それを調べるならむしろ王都の方が有益だと言うことだった。
残念がるアウスレンダーに対して、長老はナジカカル島に注目するべきだと話をする。
ナジカカル島は昔から危険な暗唱地帯として有名だが、それ以外にもある伝承がある。
神の眼と呼ばれる、巨大な魔石が島のどこかにあるという話だ。そしてそれは通常の魔石に比べてはるかに強力な魔導力を持つという。
クラーケンは神の眼の力を得て強くなっているのではないのか。
その力を得続けるためにナジカカル島から動けないのかも知れない。もしそうだとすれば、神の眼を奪う、もしくはナジカカル島から引き離すことが出来れば弱体化させることが出来るかもしれない。
過去、幾多のハンター達が一攫千金を求めてナジカカル島に入っていったが、神の眼にたどり着いた者はいない。今ではその伝承が間違っていると思われているほどだ。だが、クラーケンの圧倒的な力のことを聞くと、それぐらいしか思いつかない。
最後に神の眼についてもっと知りたければ、ここよりも王都の王宮図書館にある文献を調べることをお薦めする。
長老はそう締めくくった。
その後は、島で数日過ごすことにした。この島には島特有の魔物が多種いるからである。
海辺の魔物、火山系の魔物、坑道系の魔物などなど。様々な攻撃方法と多様性は各人が経験を積むのに丁度良い強さだった。
また、パーティ全体としての連携力を上げるにも役だった。
戦闘の繰り返しに貴音は不満があるようだったが、様々な変化を見せる島の観光と割り切ってついてきてくれた。
青く広い海には珊瑚や熱帯魚が溢れており、川沿いを上っていけば小さいながらも美しい滝。緑溢れる森には鳥や獣が行き交う。そうかと思えば激しく噴煙が吹き上げる火口もある。この島は自然に溢れており、見るだけでも来たかいがあった。
島の宿に戻り、戦闘時の連携やフォーメーションについてみんなで話をする。お互いの技の利点や、欠点の洗い出し、今後の成長方針など。
そう言えば、こういう風に話し合うのは初めてかも知れない。
異世界に来てから今まで走り続けてきた感じで忙しかった。ゆったりした島の雰囲気にあてられ、改めてこう言う時間が持てたのかも知れない。
そんななか、貴音が口を開いた。
「なぁ。お前らは戦いたいのか? それとも殺し合いたいのか? 敵ってなんだ? 自分以外は全部敵か? お前らのハートが全然わかんねえ。
歌の世界にもバトルはある。互いの感情のぶつかり合いだ。
でも相手を敵と思う奴はバトルには勝てない。自分の歌を、自分の気持ちを伝え、それを聞く人に響かせて、そしてより観客に自分の思いを伝えた方が勝者なんだ。
だからそれは敵じゃねぇ、歩く道は違っても仲間だ。
俺の歌は誰かを拒否したり殺す道具じゃない。誰かと繋がるのが俺の歌だ。
化け物と戦うのは構わない。でも、歌が判る相手を殺すのだけはごめんだぜ!」
偽ることの無い本心がそこにあった。貴音の言いたいことは理解出来る。
だが、きれい事だけで話しが済むわけでも無い。
「貴音はそれでいいんじゃね。誰だってやりたいこととやりたくないことがあるもんだ。難しいことは判んないけど、自分は貴音の歌が好きだよ。それで、自分は自分に出来ることをやるだけかな」
いつもと変わらぬ調子であっきーが答えた。
[こちらもやれることをやるだけ]
キリマンも同意する。
「私は人々の笑顔が見たい。そして困っている人が居たら助ける。それが基本。
だからクラーケンは倒す。ただしクラーケンが無力化されると言うならそれでも同じこと」
エビスは見ての通りゆるキャラだ。本来は戦っているよりもおどけていた方が似合うだろう。笑顔が見たいと言う気持ちが本心だ。
「僕は戦います。あのクラーケンは話し合いが通じるとは思えない。もちろんそれを試すのはかまわないです。けど全力で挑まなければやられるのは僕たち。だから僕は戦闘になったら全力で戦うつもりです」
風巻は判りにくいところはあるが、真面目で正直者。偽ること無く素直に答えた。
それぞれの想いが交差するヌカラベ島の晩餐。窓の外から聞こえる波の音が優しく唄っていた。
一夜明けて、アウスレンダーはヌカラベ島をあとにした。
そろそろケルナンデに戻らなくては、予定していたライブに間に合わなくなる。
帰る途中にも海竜を一匹退治し、土産の素材を増やしていく。
予定通りケルナンデに到着した。やることはいっぱいある。
ハンターギルドへの素材の持ち込み。試作型銛討ち器の動作確認と量産化。
港湾野外ライブの準備と宣伝。
魔物駆除による海域の魔力量減少を行う旨をハンター達へ告知。
ナジカカル島の伝承を調べるため王宮図書館へ向かう。これはケルナンデでやることを終わらせたらすぐに行きたいところ。
海竜退治記念ライブと称した、野外コンサートは大勢の船乗りと貴族達で賑わう。
貴族対応で正面の宿の2階を借り、個室の特別席も作った。
宿の屋根に上がって見る者もいた。
歌の中心は貴音になるが、合間にチェリュノ他で構成された音楽隊の調べや、クラゲリオンのパフォーマンスなども行われる。
格安で振る舞われた酒と肴。時に踊り、時に叫び。一緒に歌を歌う。
男も女も子供も大人も。みんなから笑顔がこぼれた。
大興奮の末、あっという間にライブは終わってしまった。みなが名残惜しみ、次回を待ち望むようになった。
次の日からは、大型銛討ち器と海竜の鱗で強化した装甲を付けた船数隻で沖へ出る。それぞれの船にはアウスレンダーの面々が乗り込む。
数日掛けて海を回遊し海竜を探す。戦うのはベテランハンターを含むハンター達。アウスレンダーはもしもの時の保険である。
そして十分な武装と訓練を積んだハンター達がいれば海竜を撃退することは可能と判った。船を強化する海竜の鱗も少しは手に入る。
海竜が倒せないのは、船の速度の関係上、海竜が逃げ出すと追いつくことが出来ないから。それでもこの船とハンターがいれば諸島を廻ることは出来る。
クラーケンには十分注意する必要があるものの、封鎖されていた諸島の物流は回復していった。
当座、海のことはハンターギルドに任せることにしてアウスレンダーは王都へと向かう。
久しぶりについた王城。そこではイスメアルダ王女が出迎えてくれた。
「皆様、お久しぶりです。ご活躍のお噂はこちらにも届いております。ですがもう日も暮れてまいりました。皆様お疲れでしょう、本日はユックリお休み下さい。王宮図書館へは明日ご案内致します」
この作品はPBM-RPGです。
リプレイでも通常の小説でもありません。
物語はプレイヤーの手にゆだねられており、
プレイヤーの意思決定により変化し進められていきます。
参加プレイヤーは「あっきー」「風巻豹」「キリマン」「エビストウスケ」「貴音大雅」以上5名となります。
その他の人物はマスターである私が一元的に管理しています。
各プレイヤーの行動基準。
折角なのでプレイヤーから頂いた行動指針を追加することにしました。
全部を書くと量が多いので、指針のみ記載します。
キリマン
貴音のライブを行う。港湾都市でクラーケンの弱点を探す。
あっきー
他の都市へ向かいながらレベルアップを目指す。
風巻
ひとまず他の都市へ。召喚魔法を強化していく。
エビス
クラーケン退治を続行。海竜を倒して弱体化を狙う。
貴音
クラーケンと対峙したい。