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3-2 港湾都市ケルナンデ

 日が暮れかけたころ、一行は港湾都市ケルナンデに到着した。

 チェリュノのオススメの宿があるというので泊まる場所はそこにする。なんと支払いもチェリュノがやってくれた。

 その事を喜んだのはあっきーくらいだったが。


 とにかく海を見たいと貴音は出て行ってしまった。チェリュノも噂の音楽を聴けるかも知れないと後についていく。

 エビスはキリマンを連れてハンターギルドへ向かう。魔力片の買い取りと海の魔物について調べる役目。

 残されたあっきーと風巻は市場へ向かう。情報収集と買い物、そして船の運航状況を確認する為だ。


 風巻はこの世界における魔導具について興味を惹かれていた。王都で見たときも実に様々な魔導具があったからだ。水を出したり火を起こしたりする生活魔導具。物品の切れ味を上げたり軽量化する付与魔導具。それらを組み合わせて武器にしている兵器魔導具など。他にも実に多彩な魔導具が作られていた。

 単純に旅をするにも便利だし、上手く使えば戦闘の補助にも使える。使えそうな品を吟味して買っておくべきだと考えていた。

 物を入れても重さも大きさも変わらないマジックバック。野営時の料理や灯りに使える火の出るコンロと水の出る水筒。この辺りは良いものを揃えたい。

 金額を見て予算を考え必要な物とそうでないものを選別する。お金については現在の持ち金もあるし、魔力片の買い取り金を当てても良い。

 魔導具を使用するのに魔力片を使うことは判っていたので、少量ではあるが魔力片も確保しておいた。




「と言うことはやっぱり今は船がほとんど出ていないんですね」


 あっきーはそれらしい格好の船乗りを探し、やっと船長を名乗る男にたどり着いた。


「ああ、大きくて頑丈な船でも壊されるし、小さくて速い船でも逃げ切れない。試しに5隻ぐらいでバラバラに出向してみたが、魔物だって一匹じゃ無い。結局全部壊されちまった。あいつらをどうにかしない限り船は出ないぞ」


「自分は勇者です。魔物を倒そうとここへ来ました。なのでどうしても船を出して欲しいんです」


「魔物を倒すのか。そりゃあありがてえ。

 だがな。今まで何人ものハンターが挑んでは負けてんだ。あんたらがそうならないと何故言える。どうしても船を出して欲しければ船代を貰うぞ。金額は前払いで500ゴールド。

 無事魔物を倒して帰ってきたら修理代を差し引いて残りを返してやる。それでどうだ」


「500ゴールド!? ちょっと考えさせて下さい」


「ああ、こっちはいつでも良いぜ。頼みたくなったら俺を訪ねてきな」


「うう、どの世界でも必要なのはお金だったか。一気に使ったのは失敗だったなぁ。ギルドに素材を売った金額はどのくらいになったんだろう。それで間に合えば良いけど」


 沈む心にうなだれながらあっきーは宿へと戻っていった。

 スマホの画面を覗いてみると、エノクサウルスが一生懸命トレーニングしている姿が見えた。こちらが見ているのに気がついたのか、トレーニングを休んで手を振っている。

 画面のエノクサウルスを指先でなでてやると、とても嬉しそうにはしゃいでいる。


「コイツにつぎ込んだ金は無駄じゃ無い。必要経費なんだ。きっとコイツのすごさを見ればみんな判ってくれる。後悔なんかするものか」


 そう呟きながら一人寂しく市場を後にする。並んでいた露店から流れてくる美味しそうな臭いが鼻をつく。だが今は我慢だ。それらに気を取られてはいけない。

 なお、この時既に風巻のことが頭から抜けていたのは言うまでもない。




 ハンターギルドに到着した二人はまず魔力片と素材の買い取りをお願いした。

 買い取りはすんなりいったが、ハンターギルドが注目したのは王都との街道沿いで大量の魔物が出たという部分だ。王都との街道は現在もっとも安全と言われている。それが変わってしまったのだ。理由が魔王の影響なのは判る。

 だが往来する商人達の安全を確保出来なくては物流が止まってしまい、王都を含め大きな問題が発生してしまう。その為大至急対策を練る必要があった。

 魔物がどこから来たのか。どのくらいの規模で存在するのか。その種類は? 判る範囲で良いので全て教えて欲しい。ハンターギルドの職員からそう言われる。

 それらに対する事情説明に思ったよりも時間を取られてしまったが、代わりに素材の買取額に情報料を追加してくれた。

 その後改めて海の魔物について聞いてみた。ハンターギルドにおいても海上の魔物については特別報酬を出していて、なんとか処理したいと考えていた。


 まず、港湾近郊に生息する小型の飛魚や海鳥は対処出来ている。だからこれは気にしなくて良い。

 現在もっとも困っているのは海竜だった。何組かのハンター達が挑んでいるのだが未だに討伐出来ていない

 他にも巨大なタコ。クラーケンがいるのだが、攻撃範囲内に入ってしまったら逃げること叶わず。しかし移動速度が遅いので見かけたら全力で逃げれば振り切れるらしい。俺が倒すと言って港を出たハンターは一人も戻ってきておらず具体的な攻撃方法は判っていない。

 クラーケンが出現するときは、前兆として黒い霧が発生する。それを少しでも感じたら大急ぎで逃げること。そう教えられた。

 ハンターギルドとしては退治出来るのならばしたいところだが、一応の対処法があるので優先度は低い。


 ともかく今は海竜を倒すことに専念しよう。わかっている情報は以下の通り。

 全長おおよそ10m。長いヘビ状の体をしており体をくねらせながら海を泳ぐ。体重を乗せた体当たり。強固な船底を数回の体当たりで破壊する。小型船なら一撃で穴が空いてしまうほどだ。次は口から真っ直ぐ吹き出す水流ブレス。威力は鉄盾でなんとか防ぐことは出来るぐらい。

 使用頻度は少ないが高さ5m、幅10m程の大波を発生させ船を転覆させることもある。

 咬みつきで直接船員を狙うことも出来るようだが、これは船員の戦闘能力が高いとまずやらない。

 海竜の問題点としてはまず何より移動が速い。逃げられると追いつくのが大変。

 海に潜って隠れ、死角から近づいての体当たりや、水流ブレスによる遠距離攻撃を繰り返される。

 頭も良く、船の操舵や帆を狙って攻撃し、それらを破壊すると、そこから先はジックリ削るような攻撃を行い危険を回避してしまう。

 そもそも船の破壊に主眼を置いていて船員にはあまり興味は無いようだ。

 最初は協力的だった船乗り達も、船を失うことを恐れ最近では簡単には協力してくれなくなっていた。


「海竜と戦うなら、船上で待ち構えていたら負けるなぁ。こっちから攻め込まないと。私は水中で戦う事も出来る。聞いた話を信じるなら速度も私の方が少し速いと思う。キリマンは?」


[水中戦の魔法はない。魔球を機雷の用にばらまくことは可能]


「あとは他の連中と相談だな」


 そう言うと必要な資料を纏め、ハンターギルドを後にした。




 港へやってきた貴音はその状況に少しがっかりした。

 海は良い。潮の香りも波の音も想像通りだった。しかし港は違っていた。船の灯りは消え、港を行き交う船員達も少なく、みなうなだれ元気が無い。

 そう言えば海路に問題が発生したと言っていた。それが原因なのかも知れない。


「ふん。初めての単独ライブは客なんて数えるくらいしかいなかった。ここにはその数倍の人が居る!


 やってやるぜ!!


 いくぜ! 俺の力はステージを支配する!」



 人が居て、場所があり、そしてギターがある。熱いロック魂が、俺の力を新たなステージへと進化させた。

 港に放置されて積み上がっていた木箱のてっぺんに登るとギターを振り上げた。


 ギュウィイーン・・・タラタラタラティーーーン


 ギターの音が真っ暗な港に吸い込まれていく。ここからが俺の本気の見せ所だぜ。

 強烈なスポットライトが、木箱に起つ貴音をチカチカと照らし出す。左右に置かれた木箱の表面にスピーカーが浮き出てきた。


「聴け! 俺の歌! 響け俺のハート!!」


 貴音のライブは唐突に始まった。

 波の音。風のうねり、それに合わせるように流れるハープ。いつの間にかいたチェリュノが曲に合わせていた。

 音に釣られて船乗り達がやってくる。元々彼らは歌も好きだしノリも良い。あっという間に足踏みや手拍子で曲と一つになった。


 ライブは熱狂のままに終了する。アンコールもこなし、観客は各々自由に礼を述べた。


「あんちゃん。良い曲だったぞ。久しぶりに胸がすかっとしたぜ。俺の名はトゥヴァイク。トゥヴァイク号の船長だ。何か困ったことがあったら俺に言いな。俺に出来ることだったら何でもやってやるよ」


 この時、当然貴音は何も思いつかなかった。己の曲を楽しんで貰えればそれで良かったからだ。




 市場で魔導具を見ていた風巻は、背中にちりちりとした視線を感じた。誰かがこちらを監視している。

 出来るだけ自然に、そしてバレないように魔鳥を召喚。魔鳥は先程の戦いで記憶し、使えるようになっていた。

 夜間でもよく見える目を持っていて、それらを複数飛ばして相互に監視させる。その視線を自分と共有することで広範囲を余すこと無く監視することが出来る。

 それでも監視者を発見することは出来なかった。相当隠れ身の能力が高いのだろう。そこで次の手段を考える。

 狭くて人通りの無い路地を幾つか歩き、周囲の気配が無いのを感じたら足を止める。振り返ってある一点で視線を止めた。追跡者はそこにいる。間違いない。


「そこにいる人。話があるのでしょう? ここなら二人だけで話をすることが出来ますよ」


 もちろんその姿を視認することは出来てなかった。だが魔獣の嗅覚は誤魔化せない。追跡者は臭いの対策を怠っていたらしい。

 そう、魔鳥の他に魔獣も召喚し、周辺を探らせていたのだ。


「俺の穏行を見破るとはなかなかやるな」


 影の中から人がぬるりと現れた。判りやすく忍者っぽい格好をした男。しかし戦う気は無いと確信する。


「それで、要件は何ですか?」


「俺の任務はこの街の情報収集。貴様の監視はそのついでにすぎん」


「情報収集? 何の為に」


「それが俺達の武器であり、商品になる。商品を買う気があるなら取引をしても良いぞ」


「情報が商品。なるほど理解しました。それで金額はいくらぐらいになりますか」


「聞きたい内容による。調べにくいことならそれなりに金額がかかる」


「とりあえず他の勇者達がどうしているか知りたいかな」


「10、20,100。どれもゴールドで前払い。どのコースにする。デバイスがあるなら、通信機能でこっちに送ってくれ。その方が速い」


 風巻はスマホを操作して20ゴールドを渡す。


「20ゴールド。確かに受け取った。

 さて、他の勇者のことだったな。

 一つ目は砂塵の狐傭兵団。銃火器を得意とする軍団。キシャナ大森林での魔物討伐を開始した。

 次はセイントナイト。戦士や魔法使いなど、冒険者風。これは城塞都市クロームに向かって移動中。

 それからスカルブラッド。異形種の集団。魔王城方面に移動中。

 最後にシャドウ・リミット。俺達のことだ。さて、話はここまでだ。俺は任務に戻る。それと情報が欲しくなったら俺を呼べ。専用アプリをそっちへ送る。それを使えば呼び出せる。1回呼び出すごとに基本料金として5ゴールド。あとは商品の内容次第だな。

 それからこれだけは覚えておけ。シャドウ・リミットは誰の味方でもない。取引と契約にのみ従う」


 一方的にそれだけ言うと、男は姿を消した。臭いによる追跡も出来ない。転移系の移動手段を使ったのだろう。

 今後の為にもある程度の金を準備しておく必要がある。

 そう考えながら宿へと戻ることにした。




 夜。宿の個室に全員で集まり作戦会議を始める。

 もちろん議題は海竜を倒す方法について。


 話の最初はエビスから。海竜についての情報をざっと話す。


「海竜との戦いは水中戦になる。私はそれが可能だが、他に出来る奴はいるか?」


「エノクサウルスには水中適応の能力を持たせてあるんだ。期待してくれて良い」


「どこにいようと俺のハートは変わらないぜ」


「海面で立てた音は海中にほとんど届きませんよ。あんまり期待出来ないですね。僕の場合、今は無理ですけど海竜との戦いまでに海系の魔物と戦えればそれを使えるかも。」


 きわめて冷静に風巻が言う。


「それから、市場で魔導具を見つけました。便利な物をリストアップしたので出発前に購入しませんか。」


 お金の関係する話が出たことで思いだしたのかあっきーが口を開く。


「買うと言えば船が出せるか港で船乗りに聞いてみたんだ。そうしたら500ゴールド出せって言われてしまった。みんなの残金はどのぐらいあるかなぁ?」


「船なら貴音が確保しました。トゥヴァイク船長。覚えていますよね?」


 それに反応したのはチェリュノ。記憶を探りながら貴音は答える。


「トゥヴァイク? ああ、さっきのノリの良い奴か。あいつ船乗りだったんだな」


「船長と言っていましたし、たぶん貴音が行けば話を聞いてくれることでしょう」


「そっか。助かった。これ以上金が掛かると厳しくて。そうだ、素材の買い取りはどうだった」


 お金の心配が一つ減ってほっとしているあっきー。その質問に答えたのはエビスだった。


「素材は全部で50ゴールドになりました。それよりも海竜退治が証明出来れば、1000ゴールド。素材次第では1200ゴールドぐらいになるという話です。あっきーさんもこれで借金返せますね」


 エビスの言い方に苦笑いするあっきー。


「1200ゴールド。一人なら240ゴールド。これでしばらくはなんとかなりそうだ。海竜様々だな」


「それだけみんな海竜に悩まされていると言うことです。必ず倒しましょう。さて、他に何か話し合うことはありますか?」


 エビスが締めくくろうとする。その時風巻が手を上げた。


「他の勇者達について情報を仕入れました」


 そう言うと先程のことをみなに伝える。もちろん情報源とアプリのことも。


「すごく怪しい連中じゃん。信用するのは問題ありそうだけど、嘘をつく必要も無いはず。状況にに応じて上手く付き合うと良いかも。取りあえず知りたいことが出来たら風巻に聞けばいいな」


 あっきーは無駄に表裏が無い。まぁでもそれが良いところなのか。そう風巻は思いながら苦笑いを見せた。


「じゃぁ、明日は買い物行ってそれから海に出よう」


 あっきーがそう言って作戦会議は終わった。




 次の日、貴音を先頭にみんなでトゥヴァイクに逢いに行った。

 そして海竜退治の為に船を出して貰うことを交渉する。


「ははは、そうか。あんちゃんハンターでもあるのか。海竜退治だと。よし、のった。俺はあんちゃんのハートを信じるぞ。いつでも出発出来るように準備しといてやる」


 船の問題はこれで解決した。後は海竜を倒すだけだ。


 この作品はPBM-RPGです。

 リプレイでも通常の小説でもありません。

 物語はプレイヤーの手にゆだねられており、

 プレイヤーの意思決定により変化し進められていきます。


 参加プレイヤーは「あっきー」「風巻豹」「キリマン」「エビストウスケ」「貴音大雅」以上5名となります。

 その他の人物はマスターである私が一元的に管理しています。


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