11-2 勇者送還
勇者を帰還させる召喚陣。いよいよそれを発動させるその日がやってきた。
帰る勇者と、残る勇者。それぞれがその意思を決め。そして一つの場所に集まった。
帰る者は勿論、残る者もまた見送りを兼ねて召喚の間に集まっている。
ただ、シャドウ・リミットのメンバーは影に潜む事を決めたようだ。ここには来ていない。
結果的に、帰ると決めた者の方が少なかった。
貴音、エビス、キリマン、堕天使、砂塵の狐傭兵団から二人。この二人は最終決戦の時、貴音の曲を聴いて、やっぱり帰るべきと決めたそうだ。
残りの勇者は全て、この世界に残ると決めた。
セイントナイトのリョフは、相変わらず声が大きい。
「折角異世界に来たんだぞ。素直に楽しんだら良いじゃねぇか。それともママが恋しくなったのか」
西瓦が間に入ってくる。
「お前と違って、帰る連中には、向こうに残してきた彼女とかがいるんだよ。
このリア充どもが。爆発してしまえ」
キリマンが申し訳なさそうにカンペを掲げる。
[召喚目的も達成できましたし、また転移者がこの世界に干渉するのもどうかと思いますので、元の世界に戻ります]
ミンウがそれを見て口を出す。
「言い訳なんて良いんですよ。別に羨ましいなんて思っていませんからね」
エビスが間に入ってきた。
「みんなの連絡先をお互いに交換しましょう。
向こうに戻ってから連絡できるかどうか試してみたいので」
この世界から元の世界に連絡することは出来なかったが、勇者同士なら上手くいくかも知れない。連絡が取れるようならやれることも色々増えるだろう。
駄目で元々、やるだけやってみることになった。あっきーがエビスにアドレスを送りながら言った。
「クラゲリオンのぬいぐるみは、大人気なんだ。みんな欲しがっている。生産が間に合わないほどさ。
今は、他の勇者達のデフォルメ人形を企画しているんだけど、こっちも大当たりになるだろうな」
その言葉を聞いてリョフが吼えた。
「おい。試作品を見せて貰ったが、俺のヤツは出来が悪いじゃねぇか! もっとちゃんと作りやがれ! 自分のエノクサウルスだけは格好良く作りやがって、この野郎」
あっきーの頭をグシャグシャとかき乱すリョフ。
「しかも美人の嫁さんまで貰いやがって、いつの間に口説き落としたんだ」
「まぁ、色々思うところがあったんですよ」
あっきーが答えた。これ以上はたまらないと、話を変えるあっきー。
「貴音は帰るんですよね。みんながさみしがるなぁ」
「俺の歌を伝えたい場所は、この世界だけじゃねぇ。元の世界でだって歌いたい場所が沢山あるんだ。
帰る、って言うよりは、留まることを知らない。ってやつさ」
「貴音の作った【この世界の歌】も、楽譜の配布をやっているし、音声魔導具の開発も進めてるんだ。
まぁ、やっているのは風巻とヒェジュスンなんだけどな」
横で聞いていた風巻が答えた。
「開発は順調です。そう遠くない未来に、どこででも聞けるようになりますよ。
以前のようにアプリを作ることは出来ませんが、魔導具の開発ならやれますからね」
エビスが聞いてくる。
「あっきーも風巻もこの世界に残るんだよな。元の世界で何かやって欲しいことはあるかい?」
「欲しいことも何も、僕は元の世界のことを全く覚えていないんですよ。
ですから、何もありません」
風巻が答えた。
「自分もありませんね。これからはここが自分の生きていく世界です。
そうやって生きていくと決めたんですよ」
あっきーも答えた。その答えが、どこか記憶を失った風巻に対して配慮しているように感じたのは、エビスだけではないだろう。
これが最後になるだろう。アウスレンダーのメンバーはそれぞれが手を握りあい。そして2つのグループに分かれた。
キリマンは出迎えに来てくれたチェリュノ王子に、気になっていたことを質問した。
[初めて会った時に第3王子って聞きましたけど、本当は第2王子と聞きました。どういうことなんですか?]
チェリュノ王子は、苦笑いをしながら答える。
「ああ、その事ですか。あのときは嘘をついてごめんなさい。
事前に言われていたんですよ。
勇者様達は、王家の者達に対して不信感を持っているから、もしも正体を聞かれた時には第3王子と名乗りなさいってね。
それぐらいなら大きな違いがないから真実みもあるし、勇者様達の不信感も少しは晴れるだろう。
そういう風に、姉から忠告されていた。それだけのことです。
実際は、指摘の通り第2王子です」
横で聞いていたイスメアルダ王女が口を挟んでくる。
「そんな。それは言わないでってお願いしてあったでしょう。
もう、本当にすみません。でもアウスレンダーの皆様には信用の出来る誰かを付けておきたくて。
最初の城内での会話から、そうするべきだと感じてしまったのです。
本当に、悪気はなくて。すみませんでした」
その言葉をチェリュノ王子がフォローする。
「結果的に僕がついて行くことを了承して貰えたのだから、あながち間違いではなかったと思いますよ」
キリマンがそれに応えた。
[確かにあの頃は警戒心がありましたから。第三王子ならまぁ良いかな? と思えたのは確かです]
会話を聞いていた周囲からも、笑い声が漏れ聞こえてきた。
その頃、一人の男が城を訪ねてきていた。ヒョロッとした小柄で貧相な男。何者か不明であったが、その手にはスマホが握られている。
スマホを見て勇者の一人であると解り、急ぎ召喚の間へと案内されてきた。
たどり着くなり男はこう言った。
「待ってくれ。俺も一緒に帰りたいんだ」
その声は変わり果てていたが、あっきーには聞き覚えがあった。
「その声。もしかして妖蟲王??」
「ああ、そうだよ。そのとおりだ。覚えていてくれたんだな。助かったよ」
「そうか。コンティニューだな。それで生きていたんだ」
「その通りだ。だけどコンティニューすると、装備や成長状態も全てリセットされてしまう。
だから元の姿に戻ってしまったんだよ。妖蟲王になるには資金が足りなくてさ」
貧相な小男は頭をかきながら、言い訳していた。剛胆な妖蟲王とのギャップが凄い。
「とにかくここにはもういられない。だから俺も元の世界に帰してくれ」
あの時は敵として戦ったが、今となっては同じ異世界からの来訪者。そして元の世界に帰りたいという気持ちがあるなら、それを汲んであげるべきだ。
そう思って、あっきーは手を差し出した。
「これでもう妖蟲王と戦う事はなくなりそうだな」
「ああ、あれと戦うのはもうごめんだな。勝てる気がしねぇ。同じように課金しているはずなのになんであんなに強かったんだ?」
「仲間を信じていたから。じゃないかな」
あっきーは笑って言葉を返した。
「じゃあな。自分はここに残るからもう会うことも無いだろう」
そう言って改めて握手を交わす。その手が離れると、妖蟲王だった彼は、陣の中へと入っていった。
イスメアルダ王女は、勇者同士の話し合いを、少し離れた場所から見ていた。その隣にはフローラ嬢もいる。
少し前の事だが、イスメアルダ王女はあっきーとの婚姻を正式に発表している。それと同時に、アカシュブレア王国の女王になることも宣言した。
勇者との婚姻。さらに魔王戦に自ら出向き、その戦闘に参加。魔王に対して大きな一撃を与えた活躍が勇者達から知らされたことで、王女の人気は急上昇していた。
今ならイスメアルダが女王になることをとがめるものは少ない。考え得る最高のタイミングで発表が出来た。
また、イスメアルダ王女は、自分が女王になるにあたりフローラ嬢を、女王付きの相談役に任命する。財政的な問題で傾きかけたスカイライン家に、積極的な支援を送った王家。
これらの総合的な活動により、女王レースにも決着がついたのだった。
なお、フローラ嬢を相談役に強く推薦したのは、あっきーだったという噂もあった。
本当は女王の戴冠式が終わってから、送還の儀式をする予定だったのだが、各方面の復旧作業等に時間を取られていて、戴冠式は暫く先になりそうだった。
召喚陣を調べてみると、魔王が倒されたことで少しずつ魔力が減ってきていることが解り、あまり長く時間が経つと、送還の儀式が出来なくなる可能性が出てきた。
そこで、十分な魔力が残っているうちにそれを行うこととなったのだった。
術式の準備が終わり、イスメアルダ王女が手を上げる。
「勇者の皆様方。本当にどうもありがとうございました。
アカシュブレア王国すべての国民に変わりまして御礼申し上げます。
元の世界に戻られましても、どうぞご健勝でいて下さい」
そう言うと深々と頭を下げた。
それから、手にした錫杖をゆっくり大きく振る。錫杖の先からキラキラとした何かが零れだし、それが部屋の中に広がっていく。
始めは宙に舞う粉雪のようだったキラキラは、徐々にその数が多くなり、その輝きを増していく。
やがて目を開けていられないほどに光が強くなり、全ての景色を消し去っていった。
もう自分の姿を見ることも出来ない。ふわりと宙に浮いていくような感覚。
上下に引っ張られ、左右に伸び縮みする。
そして意識が遠のいていった。
この作品はPBM-RPGです。
リプレイでも通常の小説でもありません。
物語はプレイヤーの手にゆだねられており、
プレイヤーの意思決定により変化し進められていきます。
参加プレイヤーは「あっきー」「風巻豹」「キリマン」「エビストウスケ」「貴音大雅」以上5名となります。
その他の人物や事象はマスターである私が一元的に管理しています。




