9-1 戦闘準備
アウスレンダーは、ミスリルゴーレムとの戦いの後、ひとときの休憩を味わっていた。
前回の戦いもそうだったが、これから先もドンドン厳しくなることは目に見えている。
攻めるにしろ守るにしろ、最低限の準備が必要。なんにしても時間が足りない。みんながそう思っていた。
「いつまでも向こうの好きにやらせているのは気に入らない。こっちから攻めに行こう!」
あっきーがそう主張した。
「魔王城に行く? あのリョフってヤツも敵の罠に載せられたんだぜ? そもそもそこに魔王がいる保証なんてあるのかよ? 時間の無駄だぜ」
貴音が言い返す。
[都市が心配で、護りに徹した為に対策されてしまったので、攻めに転じるしかないのかな? と思います]
キリマンの答えにも、貴音は譲らない。
「デーモン。アイツは絶対に俺の土俵で勝負を仕掛けてくるぜ。
分かるんだよ、アイツも音楽が好きだって。自分の音楽にプライドを持ってるヤツだなって。
歌うとすればやっぱり観客がいる場所で。つまりこの城塞都市クロームにやってくる。
俺との勝負で歌以外を持ってくるようなヤツなら所詮は雑魚だ。俺達の敵じゃねぇ。
逆にアイツが真正面から来たら…。正真正銘のデスメタルだ。
だからその準備が必要なんだ!」
「準備ってどんなことです? 例のギターの製作だけでしょう」
風巻が聞いてくる。
「本物悪魔のデスメタルと対バンするんだぜ?
そんなこと経験したロック野郎は誰もいない。悪魔のデス声に俺のハートを重ねてやるぜ!」
「そう言うことを聞いたわけではないのですが…」
貴音の言葉にあきれる風巻。貴音はいつもマイペースだった。
「テレポートみたいに、出かけても城塞都市クロームにすぐ戻れるような手段がないものか。特攻とまで行かず、威力偵察をしたいところ。このまま何も判らず待っているだけでは、どうしても後手になってしまう」
エビスが意見を言った。風巻がそれに答える。
「その事ですが、新しい合成召喚が出来るようになりました。ミラージュ・ホエールにウォーターエレメントを足して作るクリスタルミラー。そのスキルはゲート・オブ・ミラー。
ミラージュ・ホエールのリターン・トゥ・ポートと違って、海で無くても使用出来ます。出口側に場所の判っている大きめの姿見が必要ですが、王城の客室にそれがあるので、戻ってくるには困りません。
それと手間ではありますが、姿見を持って行けば、次からはそこへ移動することも可能です。
ただし、次に呪文を使うまで相手に割られないことが前提ですけど。
欠点としては移動容量があまりないことです。鏡を抜けて移動するので、大きさは人間サイズまで、時間も30秒くらいで終わってしまいます。
あと、一度ミラージュ・ホエールを召喚する関係上、入口側に広いスペースが必要なのも欠点ですね。
何度も使用すれば量の問題は解決出来ますけど、敵がいる場合、相手にも通り抜けられてしまうかも知れません」
エビスは満足そうに頷いた。
「それは助かる。まずは調査に行く。少しでも情報を集めて対策を考えるんだ。
具体的に知りたいのは敵の兵力。もしくは幹部クラスの能力とかだ」
[隠れて探る方法は? 私の携帯羊の射程距離は、せいぜい200mまでです]
「僕の召喚獣もだいたい同じくらいですね」
「自分はそう言うことは出来ないです」
エビスの問いかけに、キリマン、風巻、あっきーが答えた。
「そこは臨機応変。行き当たりばったりしかないな」
「行く前に少し休憩を入れよう。
最近休憩が無くてみんな疲労が溜まっているみたいに思います」
あっきーが提案した。
「では準備と休憩を兼ねて、出発は明後日にしよう。それでどうだろうか」
エビスの答えにみんなが頷いた。
それぞれが、それぞれの想いを込めて、城塞都市クローム内にて忙しなく行動していた。
休憩の予定だったが、やるべき事はこなさなくてはならない。
「原因はなんだす? 原因は。なんでこの【剣虎の牙】が余ってるんだべ? この牙はブリッジ部分に使う予定だったべ」
「それはもっと良い材料が手に入ったから交換したんです。大丈夫、強度も性能も問題ありません」
「当たり前だべ。質の悪いパーツを使うなんてあり得ないだ。どんな牙を使ったんだぁ」
「スカイライン家のお嬢様が持ってきてくれた【隻眼黒狼の王牙】です。方々探し回って見つけたらしいですよ。これによりブリッジ部の強度が30%は上昇しています」
ヒェジュスンが楽器職人と激しく言い合っていた。そこに貴音がやってくる。
「どうだ。完成したか?」
「あ、貴音さん。ほら、これなんだな」
ヒェジュスンが貴音にそれを見せた。
「全力でやってます。ただ予定より納期を繰り上げられちゃぁ。終わるわけがないですよ」
楽器職人が頭をかきながら答える。
「それは魔王とやらに言ってくれ。最終決戦はもう始まっているんだ。これだな。よし、よこせ」
「ああ、ちょっと。だからまだ調整が…」
貴音は軽く音を出してみた。それからペグを廻して何度か弾いてみる。
「音色調整終了。よし持って行くぜ」
「そんなぁ。磨き上げとかまだやりたいことが…」
「駄目だ。行くぞ、ヒェジュスン」
貴音は楽器工房を後にした。
後に一人残された楽器職人。慌ただしく出ていく貴音をボウッと見ていた。
ハッと気がつき、いつもの仕事に戻ろうと思ったその時、一枚の紙切れを見つけた。貴音が先程ギターを弾いていた時に見ていたものだ。
紙切れに書かれていたモノの意味に気がついた時、彼は大慌てで走り出していた。
キリマンは都市大通りの商店街を歩いていた。
前回戦ったミスリルゴーレム。それはタンタリタに持って行かれてしまったが、材料としてミスリル銀は有効だ。
あっきーのバーモンに使うことが出来たらそれだけでかなり強化出来るはず。
そう思って商店や職人街を歩き回り、買えるだけのミスリル銀を調達した。戦時でもあり、値段が高騰していたが、元の相場を知らないし、適正価格と言われたら支払うしか無かった。
だが、そもそも流通量が少なすぎる。結果的に予定していた量は買えなかった。
その足であっきーのところへ向かう。こう言うときスマホのマップと位置表示は便利だ。
あっきーは広場でやっている炊き出しを手伝っていた。料理が得意なのは分かっていたが、こう言うあっきーを見るのは初めてだ。
どうやら何日か前からやっていたようだ。その場に居る人と笑いながら作業をしていた。
そして料理を作るだけで無く、渡す時にも一言添えている。その一言によって辛そうだった市民が笑顔を取り戻す。さすがのコミュニケーション能力である。
こちらの姿に気がついたのか、あっきーが手に料理を持ってやってきた。
広場の端に座り込んで、二人で料理を食べる。食べながらあっきーにミスリル銀のことを話した。
「なるほど。前回はエノクサウルスの強度不足が原因で負けた。
だけど装甲にそれを使えばそれも解決ですね」
[残念だけど全身を被うほど材料は手に入らなかった]
「そうですか。じゃぁ頭とか重要な部分だけ強化すれば良いのかな?」
[それもありですが、私は武器にするのはどうかと思います]
「エノクサウルスに剣と盾を持たせるのか。
うーん。でもそれもありっちゃありだな」
剣と盾を持つエノクサウルスを想像しているあっきー。
[手持ちの資金も少ないですよね。それはこちらで作って後で渡しますよ]
「そうしてくれると助かります。
あ、僕はもう少しここで料理を作りますけど、キリマンさんはどうしますか?」
[私は城に戻ってどんな武器が良いか考えておきます]
そう言うと、キリマンは広場を離れた。
あっきーは調理場へと戻っていった。待っていたとばかりに都市民が殺到する。
あっきーの料理は大人気。その姿を見てふと思った。
魔王退治が終わって元の世界に戻れなかったとしても、あっきーならこの世界になじんでやっていけそうだ。
イスメアルダ王女は帰る方法はあると言ったそうだが、それが必ず成功すると保証はないそうだ。
そうなった時自分はどうするのか。この世界には自分と同じ獣人は一人も居ない。そう考えると少しだけ不安になった。
エビスは、ハンターギルドに来ていた。ここにいればセイントナイトから連絡があった時、すぐに情報が貰える。
ただ、ここに居るととても目立つ。クラゲリオンのボディは隠しようがない。
今ではこの都市に居る誰もがアウスレンダーの事を知っているし、クラゲリオンも勇者として認められている。
もっとも、逆に有名になりすぎた為、ハンターたちから崇められることはあっても、無為に話しかけられることはなかった。無駄な会話をしなくてすむのは有り難いが、刺さるような視線が多いのはいただけない。
さて、それはともかく。セイントナイトのダンジョンアタックは順調なようだ。
毎日数フロアクリアしているようで、このまま行けば100層突破は時間の問題だった。
現れたボスの情報や、魔物の話を聞いていたが、風巻を連れてこのダンジョンを踏破すれば、かなりの魔物データーが得られる。そうすれば召喚のバリエーションが多彩になるだろう。
あるいは、ミンウか誰かから魔物データーをコピーして貰うだけでも良い。
前回の話し合いの時は忙しなくてそれをやるのを忘れていたのだ。
その他、砂塵の狐傭兵団から先行してやってきた一人と、ハンターギルドの顔合わせをし、汎用ライフル銃の作成打ち合わせなどもしている。
このライフル銃は、魔力を弾丸に変える特性から、物理ダメージに加えて魔力ダメージも発生する。
風巻に頼んでウォーターエレメントを召喚して貰い、それをターゲットに実射測定したが十分な効果があった。
これが量産出来れば、ウォーターエレメントのような物理攻撃が効きにくい相手でも十分戦えるようになる。
ハンターギルドも協力して、研究開発を行うことが決定した。ギルドの技術者達は非常に熱心で、さらに意欲も高い。教えたことをベースに発展改良もやれそうだ。
他にも、現代錬金術(石灰+粘土+水+砂利=コンクリート)のうち、この世界でも出来そうな事を伝え、実践も行う。
電気系は磁力の維持問題があり難しいが。蒸気機関はなんとかいけると思う。伝えられることは、出来るだけ多く言っておこう。
風巻はあてがわれた客室に、今日もこもっていた。残念ながらアプリ開発は滞っていた。
どうしても1人では限界がある。もう一人か二人助手が欲しかったが、プログラムの知識がある人など、この世界には居ない。
その時ノックの音が聞こえた。またフローラ嬢なのか? 何も考えず答える。
「どうぞ。開いていますよ」
すると部屋の影から一人の男が現れた。どこかで合ったことが有る?
ああ、港湾都市ケルナンデで会った、シャドウ・リミットの一人だ。
「城内とは言え、一人とは無防備だな」
「他の皆さんも、僕も、やることが多くて。それで、なんのようですか?」
「素敵なプレゼントを貰ったお礼に、お返しをしようかと思ってね。10、50、200。どれが良い?」
「お金を取るプレゼントって初めて聞きましたよ。では200で」
彼の言い分、自分が作ったアプリに気付かれたことを理解した風巻は、持っていた資金をほぼ全額突っ込んだ。ここで金額をケチることは得策ではないと悟ったのだ。
「アプリを仕込むのに成功したのは堕天使一人。そこから他の転移者へ移っているかは不明。
なお送り込む時、勝手ながらこっちで鍵を追加して掛けた。これがその解除キーだ。そっちへ送っておこう」
「あなたたちの使っている追跡アプリは貰えないのですか?」
「それは渡せない。商売導具だからな。判っていると思うが、防御コードはそれなりに課金してある。簡単に解析出来ないだろう」
「その通りでした。なぜ解析出来ないのか。それが判っただけでも儲けものです」
「では話しは終わりだ。何かあればまた連絡する」
「少し聴いても良いですか? 僕たちの側について手助けをすることは出来ますか?」
「前にも言った通り、我々は誰にもつかない。
ただそうだな。資金を渡すならアプリの開発代行を請けることは出来るだろう」
「判りました。必要になったら連絡を入れます」
その言葉が終わらないうちに、彼は部屋からいなくなった。
風巻は改めてアプリ開発に戻った。
フローラ嬢から言われていたNPC用スマホ。
課金リストを見ながら検討したが、スマホ自体を作るには1つあたり50ゴールドもあれば出来る。
問題はスマホと個人を結びつける方法が判らないと言うことだ。これは異世界人特有の何かが働いているらしく、それを知るには誰かのスマホをバラバラに分解するでもしないと判らない。
それが出来ないなら、ただの小型パソコンでしかない。時間との兼ね合いで当面はやめることにした。
それよりは、今貰ったアプリの解除キーについて検討する方が先だろう。
今夜も眠る時間はなさそうだった。
この作品はPBM-RPGです。
リプレイでも通常の小説でもありません。
物語はプレイヤーの手にゆだねられており、
プレイヤーの意思決定により変化し進められていきます。
参加プレイヤーは「あっきー」「風巻豹」「キリマン」「エビストウスケ」「貴音大雅」以上5名となります。
その他の人物や事象はマスターである私が一元的に管理しています。




