7-4 魔王のダンジョン
城塞都市クロームに戻って来るまで3日間を必要とした。
前回王都から5日間かかったことを考えれば、かなりのハイペースだ。正直少し休みたいところだが、待っている人達のことを考えるとそうも行かない。
急ぎ夕食を取り、その後会議室へと案内された。
そこで待っていたのは、フローラ嬢、領主メントス、ヒェジュスン、最後にセイントナイトの4名だった。
セイントナイトのリーダー【漆黒無双のリョフ】は身長2mを越える偉丈夫で、全身筋肉の塊だった。
見た目に違わず声も大きく、体の芯に響いてくる。
「初めまして。と一応言っておこう。初見で無いかも知れんが、実際こうやって話すのは初めてなのだからな」
そう言って右手を差し出した。それを受けて握手を交わすあっきー。リョフが力を込めたのかあっきーの顔が歪む。
それを確認した上で、すぐに手を離すリョフ。お互いの上下関係を教えるための一手。脳筋が良くやる戦法でもある。
痛む右手を振りながらあっきーが答えた。
「こちらこそ、初めまして。アウスレンダーのリーダーをやっているあっきーです」
「おお、そうだった。こちらも名乗らなくては。セイントナイトのリーダー、リョフだ。名前の由来は、わざわざ言わなくても解るだろ?」
「由来は別として、とても強いとは聞きました。これからの戦いでは頼りにしています」
「ああ、そうだ。頼りにしてくれて良い。むしろお前達には迷惑を掛けてしまったな。
もっと早く終わらせるつもりだったのだが、思ったよりも時間が掛かってしまった。そのせいで手を借りることになってしまった。
いや、申し訳ない」
まったく申し訳ないところが感じられないし、完全にこちらを下に見ているのが判る。
だけど、それを言っても意味が無いし、この後協力していくためには譲歩も必要だ。
チラリとフローラ嬢を見ると、少し眉を寄せている。フローラ嬢もセイントナイトの強さを知っているので強くは言えないが、どちらかと言えばアウスレンダーのことを買ってくれている。
砂塵の狐傭兵団と話をしていたときも最初はこんな感じだったし、他のメンバーもそれについてはあまり気にしていないようだ。
「自分たちはやれることをやっているだけなので、謝ってもらうほどのことでは無いです。
それよりも、連絡がつかなかったとき。コルベール魔境山脈でなにがあったのかを教えて貰いたいですね」
「はっはっはっ。そうだな。すでに他の奴らには伝えてあるのだが、まぁ良いだろう。教えてやる。
俺達は魔王のダンジョンに潜っていたのだ。中には様々なモンスターがいてなぁ。ま、俺達にかかれば敵では無かったのだが、その突破に時間が掛かっていたのだ。
階を降りるごとに強くなる魔物。10階層ごとに現れるボスモンスター。実に様々な種類の敵と戦ったものだ。
フロアごとにインターバルが取れるので、そこで休息を取りながらドンドンと降りていった。今回は70階まで降りてきた。もっと降りることも可能だったが、休憩がてらいったん地上に戻ったら急いで帰ってきて欲しいと言われたので仕方なく戻ってきたというわけだ。
追加で説明するとボス部屋には、地上と行き来出来るゲートあって、ボスを倒すとそれが使えるようになる。
また、ボスを倒すと特殊な魔石が手に入るんだ。俺達の予想では、ダンジョンの深さは100階層。それぞれのボスを倒すことで手に入る魔石を全て集めると、魔王部屋の扉が開くという寸法だ。
一気にクリアしても良かったのだが、何しろすぐに戻ってきて欲しいと言われてしまったのでなぁ。仕方なく、本当に仕方が無く戻ってきたというわけだ」
あれか? 大事なことだから2回言ったとかいうやつなのだろうか。
「それで、そのダンジョンの中にいると連絡が取れなくなる。と言うことだったのですね」
「どうやらそうらしい。こちらから連絡する必要が無かったので気がつかなかったのだ」
もしも本当に一気にクリアするつもりなら、地上に戻ってくる必要は無かった。疲労とか食糧他のリソースが足りなくなって地上に戻ってきたのではと邪推してしまう。
だが、今それを言う必要は無いだろう。
「それで、この後の予定を聞いても良いですか?」
「簡単だ。ダンジョンアタックを再開する。あのダンジョンは次で突破確実だからな。そしてそのまま魔王を倒す。
なぁに、俺達の強さをもってすれば造作も無い。
それで、お前達には引き続きこの街を護って貰いたい。適材適所というやつだな。
どうだ、完璧な作戦だろ」
「既に聞いているかも知れませんが、勇者パーティの1つ。スカルブラッドが魔王軍に手を貸しています。
その対抗策を練るべきだと思いますよ」
「問題ない。どんなやつであっても、正面から踏みつぶす。それで終わりだ」
「自分たちはスカルブラッドと交渉を試みようと考えます。
なぜ、魔王軍についたのか。
こちらに戻ってくることは出来ないのか?
出来れば無意味な戦いを避けたいのです」
「なら、それはお前らに任せる。俺達が魔王を倒す前に急いでやってくれ。
いや、俺達の前に立ちふさがる前に。かもな」
「交渉の余地は無いと思っているのですか」
「そうじゃない。俺達は一刻も早く魔王を倒してこの国の平和を取り戻そうとしているだけだ。
最も速い方法。つまり最短距離で魔王の所まで行ってぶち殺す。
それ以上に速く魔王を倒す方法があるか? 無いだろう。そう言うことなんだよ」
リョフのテンションがあがってきた。ここで言い方を間違えると怒らせてしまうかも知れない。
あっきーは下手に出ることで怒らせないようにしていたが、想像以上に単純。手強い性格だ。
その時、後ろで黙っていたエビスが前に出た。正確に言うと、風巻が出ようとしたのを押しとどめて前に出たようだ。
確かに風巻の真面目な性格で話をした場合、かえってややこしくなるかも知れない。
ボイスチェンジャーを使ったハスキーボイスが場に流れる。
「折角なのでダンジョンについて教えて下さい。
ほら、もしかしたら補給物資を届けに行く必要があるかも知れないですよね?」
「なんだぁその声。てめぇやる気あんのかよ!」
「違います。コレ、地声ですよ。ほら、クラゲなので」
コミカルな動きを混ぜながら、元祖ゆるキャラポーズを取る。
瞬間的に切れたリョフがクラゲリオンに殴りかかった。それを避けずにくらい、反動で床を転がっていくクラゲリオン。
壁の端で止まったら、すくっと立ち上がる。
「もう、痛いじゃ無いですか。頭が凹んでしまったじゃぁ無いですか」
「ちっ。お笑い芸人か」
リョフは舌打ちする。気を削がれ話しをする気も無くなったのか、選手交代。
セイントナイトの【聖者ミンウ】が前に出てきた。ターバンを頭に巻き、白いマント。右手には幾つかの宝石が光るロッドを持っている。
「リーダーが失礼したようで代わりに謝ります。さて、ダンジョンについて聞きたいのですね」
ミンウは物腰も柔らかく控え目な性格。セイントナイトの良心と言えた。彼は丁寧な口調で語り始めた。
「ダンジョンは魔法の石造りで、その壁を壊すことは出来ません。何度かメテオが当たりましたが、傷1つ無かったので間違いないでしょう。
その大きさは1階層辺り、一片500mの四角形に収まります。
縦横高さ全てが5mで1つのブロックになっていて、その組み合わせで構成されています。それが100×100ブロックで1フロアになっています」
「おい、なんでそれが解る。知っていたなら俺達にも教えて置けよ」
途中でリョフが突っ込みを入れる。
「貴方が聞いていなかっただけでしょう。私はマッピングしていて気づき、休憩時に皆さんにも伝えましたよ」
セイントナイトの残り二人はうなずき合っていいる。どんな突っ込みにも冷静沈着。落ち着いて対処するミンウ。
「さて、話を戻します。
このダンジョンはフロアが綺麗な平面上に作られていて、それが綺麗に繋がっています。一層のどこかに次のフロアへと降りる階段があり、降りた位置は上の階のそれから階段を移動した分、つまり2ブロックずれた場所になります。
それを前提にしておくと次のフロアでマッピングをするときに端が解るのでとても便利です」
「なんだかゲームみたいですね。
ちなみに扉はどうなっていますか? それも1ブロック使うのでしょうか?」
エビスは気になったことを確認していく。
「基本の扉はブロックとブロックの間に設置されています。ただし、ボス部屋の扉は1ブロック使用していますね」
「部屋の大きさは色々あるんですよね?」
「そうですね。部屋の多くは5×5の正方形でした。ボス部屋は10×10でしたね。
道とダンジョンの端、そう言う部分を考えると、その先に部屋があるかどうかが予想出来ます。
これを元に怪しげな場所を探ると、隠し部屋を見つけることが出来るのです」
「隠し部屋もあるんですね」
「それ以外に隠し通路もあります。まぁ私も途中から慣れてきましたからね。怪しそうなところはすぐに解るようになりました」
「もしかして宝箱とかもあるんですか?」
「もちろんです。トラップもありますので注意して下さい。
ちなみに私が罠解除の魔法を使えるので、私たちはそれで対処しました」
「その中身は一体何が?」
「ふふ、やっぱり気になりますか。
多くは金銭や宝飾品ですが、魔法の武具やポーション、特殊な魔導具などがありました」
「おいおい。ダンジョンアタックをやりたいのは解るが、それは俺達に任せなって。
お前らは魔王が倒れた後でユックリチャレンジすれば良いじゃねぇか。
あれか、魔王を倒したらダンジョンも無くなっちまうかも知れない。それを心配しているのか。
俺達はこの国を救うのが使命じゃねぇか。ダンジョンアタックが目的じゃねぇだろ」
言っているリョフ本人が一番ダンジョンアタックを楽しみにしているように見える。
エビスはそう思った。もちろんそんなことは言わない。
「もう一つ確認を。ダンジョンでモンスターを倒すと何かドロップアイテムとか出ますか?」
「多くは金貨ですが、まれにレアアイテムが出ることがあります」
控えめな調子でミンウが答えた。
それを聞いてエビスは確信出来た。このダンジョンはそれ自体がトラップだ。いやもちろんそうで無い確率も少しはある。でもその可能性は低い。
ダンジョンの構造があまりにもゲーム的すぎる。私たち同じ転移者。つまり勇者の誰かが作ったと思って間違いない。
ふと思いついて、最後の確認をする。これがあまりにもだったとしたら…。
「そのダンジョン。どうやって見つけたのですか?」
「ダンジョンの入口ですか。
それは魔王城にありました。魔王城の中は誰もおらず寂しい限り。私たちは警戒しながら奥へと進みます。
その一番奥にある玉座の間。そこにたどり着いてもやはり気配はありません
ですが私たちは慎重に捜査を続けます。そして玉座の下に隠されていたダンジョンの入口を発見することが出来たのです。
他の人達であれば騙せたかも知れませんが、私たちを誤魔化すことは出来ない、と言うことでしょうね」
予想通り、あまりにもな展開だ。やはりこれは罠だ。セイントナイトは強い。無理に戦って消耗しては、その後に続く勇者パーティを倒せない。そこでスカルブラッドはセイントナイトと当面戦わない方法を考えた。
それっぽいダンジョンを見つけさせて、その探索に時間を掛けさせる。消耗したらそこを狙っても良いし、そうして置いて別の目的を達成する事も出来る。
あるいは分散各個撃破を狙っているのかも。実際今回、砂塵の狐傭兵団が各個撃破されるところだった。
一歩間違っていたら、後々大きな問題になったことだろう。
セイントナイトをダンジョンに向かわせてはいけない。だがどうやって説得しよう。それが一番難しい。
「どうしました。黙り込んでしまって。何か問題でもありましたか?」
「いや実は。ここに来るのに凄く急いできたので疲れが溜まっていたようです。だから眠くなってしまいました。
申し訳ないのですが、続きは明日にしませんか?」
「俺達は明日朝一番で出発する予定だ。話はこれで終わり、お前達はユックリ休んでいれば良い」
リョフが吼える。
「そう言わずに。出来ればダンジョンに出てきたモンスター、特にボスモンスターについて聞いておきたいのです。
セイントナイトの皆さんがいないときにそれらが大挙してやってくるかも知れないでしょう。
ボス連戦と言うやつです。
その時、ボスの特徴や弱点を知っているかどうかで勝率が変わります」
そう言われて、その可能性もあるか。とリョフが頷いた。
「全く仕方がねぇな。1日だけだぞ。それ以上は時間をやらないからな。
俺達はとっとと出かけたいんだ」
なんとか時間を稼いだエビス。
自分の考えをみんなに伝え、どうやってセイントナイトを説得すれば良いか話し合わなくては。
寝ると言って別れたのに、今夜は寝ないで作戦会議になるかも知れないな。
まったく困ったものだ。
この作品はPBM-RPGです。
リプレイでも通常の小説でもありません。
物語はプレイヤーの手にゆだねられており、
プレイヤーの意思決定により変化し進められていきます。
参加プレイヤーは「あっきー」「風巻豹」「キリマン」「エビストウスケ」「貴音大雅」以上5名となります。
その他の人物や事象はマスターである私が一元的に管理しています。
各プレイヤーの行動基準。
折角なのでプレイヤーから頂いた行動指針を追加することにしました。
全部を書くと量が多いので、指針のみ記載します。
キリマン
城塞都市クロームで防御を固めて、情報収集を行う。
貴音
基本的にいつもと同じ。街中でライブを行う。
風巻
セイントナイトと情報交換を行う。スカルブラッドのスマホへのハッキングをやりたい。
エビス
情報収集に注力するとして、クラーケンは放置。セイントナイトとは情報交換をしたい。
スカルブラッドを含め全てのチームと対話を望む。
あっきー
砂塵の狐傭兵団には任せられない。クラーケンを倒しに行く。