7-2 それぞれの出来ること
貴音はいつも通り、街角でゲリラライブを行っていた。この都市に来てから、もう何度目かのゲリラライブになる。毎回違う場所でやっているが、どの場所の住人も似たように沈んでいる。
ここの住民は皆怯えている。もちろん今までの都市でも怯えていたのだが、それとはレベルが違った。
それもそのはず、都市内に魔物が侵入してきたのは今回が初めて。これまで住民は魔物を恐れていたが、直接的な被害は無かった。
目の前に魔物が現れ襲われる。このことはあらゆる意味で衝撃的だったに違いない。
人々を助けると言うことは、戦って敵を倒すだけでは無い。むしろ戦闘が終わってからの方が本当の戦いだ。その事を改めて痛感した
魔王だけじゃ無い。この世界には俺の歌を聞かせたい人が沢山いる。
貴音には次々と新しい歌のイメージが湧いてきていた。
新曲の完成まであと僅かだった。
貴音の歌を聞いている観客の中に、灰色のフードを目深にかぶった人物がいる。他の観客にくらべ、ちょっと違和感があり少し気になっていた。
曲が一通り終わり一息ついていた時、その者が貴音の元へやってくる。
「この曲はロックなのだろう? 私もロックは好きだ」
「ああ、その通りだぜ。最高にイカしているだろ」
貴音はそう答えてふと思った。ロックが好きと言うこと。それはロックを知っていると言うことだ。
深く考える暇も無く続けて質問される。
「ロックとはモノを壊すことではなかったか?」
「良い質問だな! ロックってのは確かに壊す歌だ。でもそれは既成概念を壊す歌であって、人を殺す歌じゃない。くそったれな社会に風穴を開けることと、目の前の何かを壊すって意味は全然違うんだ」
「既成概念を壊す、か。良い響きだ。気に入ったぞ。ではその力、既成概念を壊すために使わせてやろう。どうだ我が輩の元に来ないか?」
そこまで言われて貴音は気づく。この人物は転生者だ。
俺を引き抜きに来たって言うのか。今のアウスレンダーのライバルとなる勇者パーティとは誰か? なるほど。魔王軍に移籍したスカルブラッドの一人とみた。
「我が輩は貴様の潜在能力、そして成長性に期待している。今はまだだが、いずれ凄い歌い手になると感じた。
我が輩についてくれば最高のステージに最大の観衆を集めてやろう。いかがかな? 悪い話しでは無いだろう」
「悪いが俺は俺のやりたいように、歌いたい場所で歌いたい歌を歌う! 誰の指図も聞かないぜ!」
「貴様の力では今のまま活動していてもすぐに限界が来る。それで宜しいのか。
我が輩の支援があれば、もっと多くの人の前で歌うことが出来ようぞ」
「自分の内から湧き出る言葉にならないモヤモヤや、溜め込んだ衝動をリズムに乗せるのがロックなんだ!
誰かに言われて歌うなんてごめんだぜ!」
「そうか。それは残念だ。貴様ならば我が輩達の考えにも同意するやもと思ったのだが」
「それは、魔王の考えってやつか?」
「さあな。だが我が輩は、信念に基づいて行動している。その為に利用出来る者は利用する」
「その考えってやつを聞かせてくれないか?」
「今までの会話で十分判った。言ったところで貴様は我が輩達のところへは来ないだろう。ならば言うだけ無駄と言うものよ」
「この世界は魔王ってヤツに怯えてる。
この淀んだ世界をぶちこわすのもロックなんだと俺は思うぜ!」
「怯えてる? それでは言葉が足りんな。大いなる恐怖をもって全てを支配する。必要なのは絶対の服従だ」
「力で突きつけられる言葉に人の心は届かない。それは言葉じゃ無くて力に怯えているだけだ。そんなことは力にしか頼れない臆病者のすることだぜ。
でも音楽は違う! 音楽は人と繋がることが出来るんだ!
魔王に怯えるこの世界に俺の歌を響かせてやる! 歌の世界は無限大だぜ!」
「ならばやれるだけやってみるが良い。我が輩の力がその歌を凌駕するところを見せてやろう」
そう言うと、そいつは去って行く。その背に声をかけた。
「まて。お前の名はなんだ! 俺は貴音大雅だ!」
「我が輩はデーモン。大悪魔とも呼ばれている」
「なるほど。デーモンだな。覚えておくぜ」
「貴音大雅。貴様の名も覚えた。次に会うときを楽しみにしておるがよい」
今度こそデーモンはこの場から立ち去っていった。
風巻はヒェジュスン、キリマン、あっきーと共に部屋にこもっていた。
ウイルスソフトの動作チェック、ワンボタンコールのプログラム開発。どちらも一人でやるには時間が足りなかったからだ。
それぞれが風巻の指図でソフトの動作チェックを繰り返している。このプログラムは相手のスマホに侵入した後、一度幾つかのパーツに分散し名前を変えて潜む。スマホを操作して成長操作やステータスチェックをしたときに目覚めてそのログを記録する。
最後に近くのスマホから特定の信号を受け取ると持っていた記録データーをそこへ送り届けるのだ。
ログを記録するとき、使っているアプリに違和感を感じてしまうようでは、ウイルスがバレるかも知れない。また頻繁に稼働していると、エネルギー消費が多くなりやはりこれも発見される可能性が高くなる。
実際に操作することでそのような違和感が無いかをチェックしているのだ。
違和感を感じたら、プログラムを見直してそれが無いように改変する。他にも一度バラバラになったプログラムが戻ったとき、正常に稼働するかも大事なところだ。
あらゆる可能性を考えながら不具合を潰していく。しかしそのことに時間を掛けすぎるといつまでも完成しなくなる。
時間は遅くてもエビスがシャドウ・リミットに会うまで。足りない時間の中、急ピッチで開発を進めていった。
エビスは今回もまた小さなカウンターだけのバー「ヘリオン」に来ている。と言ってもここは城塞都市クローム。名前も形も似ているが、アカシュブレア王都にあるヘリオンとは別の場所だ。
前回と同じく飲み物を頼んではいるが、一口も飲んでいない。ただアクションがあるまでじっと待ち続ける。
やがて客が自分だけとなった。
「ご注文はこの間と同じで宜しいでしょうか?」
マスターが抑揚の無い声で、例のコースターを差し出してきた。マスターももしかしたら同じ人物なのか? まぁ、それはどうでもいい。
「まずはそれから貰おうか」
「スカルブラッドは完全に魔王軍の一員になりました」
「それはもう判っている。この間、敵として現れたからな」
「スカルブラッドは全部で4名。邪精霊。大悪魔。妖蟲王。堕天使。この前クロームを襲って来たのはこのうちの邪精霊と思われる」
「他の奴らの能力は判っているのか?」
「詳しくは不明だ。だが、彼らのうち誰かの力でセイントナイトが不利な状況になっているのは間違いなさそうだ」
「不利な状況? どういうことだ」
「セイントナイトは現在消息不明。だが誰も死んではいない」
「何故それが判る? 消息不明では無く全滅したとは考えられないのか?」
「死んだら判るようにしておいた。だが誰も死んでいない。しかし連絡も取れない。どこかに閉じ込められていると考えられる」
死んだら判るようにした? エビスはその台詞に想いを馳せる。これは風巻の作ったウイルスソフトと同じようなことをしているのかも知れない。
勿論そんなことを思っているとはおくびにも出さずに、質問を続けた。
「誰か一人の能力なのか? それとも複数の能力なのか?」
「それも不明だ。だがセイントナイトが消息不明となってから、アカシュブレア王国内で見かけることが出来たスカルブラッドのメンバーは、邪精霊と大悪魔のみ。残る二人の内どちらかあるいは両方が関係しているとみていいだろう」
「二人で四人を対処出来るとしたら、これはやっかいだな」
「それからをスカルブラッドを束ねる魔王の副官。これは転生者では無い。真黒の完全鎧を着用していて、魔王とスカルブラッドを繋いだ人物と思われる。もちろん強いのは間違いないな」
「出来ればスカルブラッドと話し合いがしたい。彼らの言い分を聞いてみたいと思う。繋ぎを取ることは可能か?」
「最低でも100。場合によっては追加料金もかかる」
「100払おう。追加が欲しければ、その時連絡をよこすといい」
そう言いながらアプリを操作する。果たして風巻の作戦は上手くいくのだろうか? 取りあえず仕掛けがバレた様子はなさそうだ。
後はシャドウ・リミットが上手くスカルブラッドと接触出来れば良いのだが。その時に金銭の授受など通信が起きればウイルスソフトは流されていくはず。彼らの働きに期待しよう。
「それから、アウスレンダーについての情報。これを隠蔽して貰うことは可能か?」
「規定の料金、500を支払えば可能だ。今後その情報を外に出すことは無い」
「既に渡っているとしたら無意味と言うことか」
「それは想像に任せる。とにかく契約した場合、我々はそれを守るだろう」
「最後に行方不明のソーンダイク第一王子。これについて何か知らないか?」
「それなら20。どうする?」
「たいしたことは判らないと言うことか。まぁ払っておくか」
「行方不明になったのは勇者が転生する前。
城塞都市クロームを出て行った討伐隊は、途中で魔物の集団に出会って戦闘となった。
既に強化されていた魔物を前に討伐隊は壊滅寸前。その時王子が王家の秘術とやらを使って自分を強化。一時的に魔物を押し返した。
その隙を突いて第三騎士団のオブルシュが陣形を整え、無事撤退出来たと言うことだ。
王子は一人で戦い続けたらしいが、その後はだれも生死を確認出来ていない。
幾つかの町や村を探ってみたが、そのどこにも戻ってきていないのは確実。
現在城塞都市クローム以北は魔王軍の領域。そこに死体があったとしてもそれを探すことは難しい。
討伐隊が魔物に襲われたという場所までは行ってみたが、そこにも死体は無かった」
「なるほど。まぁ、だいたい判った。ではスカルブラッドとの件、よろしく頼む」
そう言うとエビスはヘリオンを後した。
風巻はフローラ嬢に呼び出され応接室に来ていた。あまり気乗りはしなかったが、ウイルス開発を理由に何度も断っていたのだが、開発が終わった直後を狙って誘われた。
あっきーに断りすぎるのも問題があると言われ、仕方無くここに来たのだった。
「魔王軍への秘策が完成したと聞きましたわ。ずいぶん必死そうでしたもの。まずはお疲れ様でした」
少し嫌があるように感じたが、それは何度も断ったことに対するものだろうか。
「やりたいことはそれだけではありません。他にもすべき事が沢山あります」
「時には休息をして体に気を遣われてはいかがですか? それにちゃんと栄養は取れていますの?」
「その言葉は、むしろ貴方に必要かと思いますが? 殆ど休んでいないのでしょう」
「今は非常事態ですもの。多少の無理は承知です」
「それよりも僕を呼んだ理由はなんでしょうか」
「風巻様とお話しするのが、心の癒やしになるから。と言う理由ではいけませんか」
「僕にはストレスになります」
「そうですか。ではそれについては追々話をしましょう。本題に入ります。
勇者様達が持っている魔導具。スマホというのですか? それを私たちにも使えるように作ることは出来ませんか?
それが出来ればとても便利だと思うのです」
「難しいですね。おそらくこれは召喚された勇者のみに与えられた特権でしょう。
…待てよ。絶対とは限らない?」
「可能性があるのであればお願いします」
「一応考えてみましょう。ですが期待しない方が良いですよ」
「それで構いません。よろしくお願いしますわ。
それから取りあえずこの魔導具をお渡しします。これがあれば距離に関係なく私と連絡を取ることが出来ます」
フローラ嬢は2つで対となる通信用魔導具を渡してきた。風巻も仕方なく受け取る。
実際何かあったとき、緊急で連絡する必要があるからだ。
それを受け取った風巻を見てフローラ嬢はニッコリと笑った。立ち上がり窓の外を見る。
「今日の碧月は満月。とても綺麗ですね」
その言葉に何かを思い出した気がするが、少し苛立っていた風巻はそれを無視した。
この作品はPBM-RPGです。
リプレイでも通常の小説でもありません。
物語はプレイヤーの手にゆだねられており、
プレイヤーの意思決定により変化し進められていきます。
参加プレイヤーは「あっきー」「風巻豹」「キリマン」「エビストウスケ」「貴音大雅」以上5名となります。
その他の人物や事象はマスターである私が一元的に管理しています。