7-1 作戦会議
城塞都市クローム内部及びその周辺の、ウォーターエレメントを全て撃退したアウスレンダーは作戦会議を兼ねてクローム城の一室に案内されていた。
フローラと都市領主及びその側近達による対策会議が始まる。事務的な処理とその対応部分ではアウスレンダーの出番は無い。暫く待機となるため仮眠も出来る来賓室にて待機となった。
食事と飲み物をテーブルに置くと、メイド達は退室していく。一人は扉の外にいるようだが、他のものはそれぞれ自分の仕事に戻っていったようだ。
「我々も今後の方針を決めておかないか」
パーティメンバー同士であれば打ち解けてきていることも有り、エビスが音頭を取る。
「まず他の勇者パーティについて確認しよう。
砂塵の狐傭兵団は連絡も取れるし、クラーケンに向かっているから取りあえず置いておく。
セイントナイトについては都市のハンターギルドに聞けばある程度判ると思う。都市領主やギルド長が向こうでやっている会議にも参加しているようだから後で聞いてみよう。
問題はスカルブラッド。これについて全く情報が無い。それを知る必要がある」
「またシャドウ・リミットに連絡を取りますか? もしそうするなら1つ試してみたいことがあるんです」
エビスの話に風巻が手を上げた。
「相手のスマホに入り込んで、課金や成長の記録を採取するウイルスソフトを作ってあるんです。後は動作チェックさえ終われば使えます。
ウイルスを流し込んだ後、情報を回収するのにどこかで通信処理が必要ですがやっておいて損は無いと思います」
「いつの間にそんなものを・・・? というか良く思いついたなぁ」
あっきーが感心している。
「かなり急いで作ったので、上手くいくかは運次第です。あまり期待しないで下さい」
「そう言うことならシャドウ・リミットとあったときに仕掛けてみるとしよう。
そこからスカルブラッドにたどり着けるかは不明だけどやってみる価値はある。
あと、そのウィルスソフトを全員に配っておいてくれ。
城塞都市クロームには魔王軍あるいはスカルブラッドの一員が潜んでいる可能性が高い。
遭遇したときにそれを送りつけることが出来ればその方が確実だからな」
[スカルブラッドに出会ったときは対話をするでOK?]
キリマンが確認してくる。
「相手が理性的で会話が通じるなら出来るだけ対話していこう。
魔王軍の手助けをしているのも何か理由があるかも知れないからな」
「行動するときは、単独にならないようにした方が良いかなぁ。急に襲われたりしたら危険だよな」
あっきーが慎重論を上げる。
「向こうが単独行動しているとしたら、こちらが複数で行動しているところに現れないのでは?」
「風巻の言う通りだな。だったらこちらも単独で動くことにしよう。何かあったとき出来るだけすぐに駆けつけられるようにしたいが良い方法はあるだろうか」
エビスの視線は風巻を見ている。
「僕が緊急ボタンのアプリを作ってみます。ワンボタンで現在値を他の人に知らせるだけで良ければ大して時間は掛かりません」
どうやら風巻は元の世界でアプリ開発の仕事をしていたのだろう。この手の開発、作成は経験が無いと簡単にはいかないと思う。
「よく判らねぇけど、ようはいつも通り好きにやって良いってことだな。
俺は都市を巡って歌を歌うことにする。何かあったら呼び出してくれ」
貴音はそう言うと、ギターをもって外へ出て行った。
「貴音は大丈夫かな。今回はいつもと違って危険な気がするけど」
あっきーが心配そうに見送る。
[ああ見えて、大事な部分はちゃんと判っていますから大丈夫。
むしろ危険なのは、単独行動になれていないあっきーですね]
キリマンが指摘した。あっきーは苦笑いで返す。
「あと、行動の基本方針として、城塞都市クロームで防御を固めつつ、今言った情報収集を集めていく。それで良いか」
みんなが頷き、同意を示した。
「他に何か忘れていることは無いか?」
エビスがみんなに確認していく。
[第一王子の捜索もした方が良いのでは?]
キリマンがそっとカンペを掲げた。
「そう言えばそんなやつもいたな。忘れてたよ」
あっきーが思いだしたように答えた。
「余裕があったらやりたいけど、今は難しいか。
心に留めておいてチャンスがあったら実行する。そんなところか」
エビスは忘れてはいなかったようだが、乗り気では無いようだ。
そして思いだしたようにあっきーに聞いた。
「イスメアルダ王女とフローラ嬢。二人とのつきあい方について、少し考えておいた方が良い気がする
基本対応はあっきーにまかせるにしても、派閥争いに巻き込まれないようにするべきだろう。
この間あった二人の対決は、あっきーがなんとかしたけど、ああいうのはそう何度も出来ることでは無いからな。
因みにあっきーはどう考えているんだ?」
「どちらかに肩入れするのはやめた方が良いと思うんですよ。近寄らないのがベストなんだろうけど、相手の方から迫って来るだろうなぁ。特に風巻に…」
「僕はどちらにも手助けする気はありません」
「それなら何かの折にハッキリ言っておいた方が良いかもしれない。時間が経つほど後戻りが難しくなるからな」
エビスが風巻に忠告する。
「わかりました。そのようにしておきます」
「自分も必要以外で関わらないですむよう気をつけて見るよ」
風巻とあっきーが返事をする。だが相手の出方もある以上、どうしても臨機応変になるだろう。
そして時間は経過していく。フローラ達の対策会議は長引いていた。隣の部屋から会議の様子を伺ってみる。
「戦闘による混乱はだいたい収まりました。現在は被害状況を調査しているところです。
勇者アウスレンダーがすぐに対処してくれたお陰で建物の被害は少なく済みましたが、逃亡時の混乱による人的被害がけっこうありそうですな。病床が足りないかも知れません」
都市領主のメントスが報告する。方針を決めて指示をするのはフローラ嬢。それを行うだけの力も人望もある彼女が来ていたことは幸運だったのかもしれない。
「大きな広場を利用して、簡易治療所を複数設営するのです。まずは都市民に安心を与えなくてはなりません」
「判りました。都市大市場に治療所を開設し、対処するよう指示しておきます」
「警戒網の作成もしなくては。今回のことを行ったのが、魔王軍の一人によって成されたとするなら、これを完全に防ぐことは難しいでしょう。当面は警戒チームを複数巡回させて、発生後の対応を出来るだけ速くするようにしましょう」
「昼夜間断なく巡回させるとなると人数が足りません。兵士にも休息が必要です」
「それでは丈夫な建物を避難所に指定し、兵士達をそこに待機させる。何かあったらそこへ逃げるようにしてはどうかしら」
「なるほど。どこへ逃げて良いかわからなかったからパニックになった。避難所が判っていればそこまで行けばよい。
待機中に少しは休養もとれますし良い案だと思います」
「避難所の選定と人員配置についてはお任せします」
「かしこまりました。早速手配させましょう」
次々と議題があがり、それを手早く解決させていくフローラ。普段から各方面の人々と連絡を取り合っているのは伊達では無く、必要な人材との連携も的確に判断している。
領主他、都市政策に関わるメンバーのフローラに対する信頼の厚さも見て取れた。
一通りの指示と状況判断が終わったのか、会議は終了した。後は担当部署で実務をこなしていくことだろう。
「申し訳ありません。皆様、大変お待たせいたしました」
休むこと無く、指示を続けていたフローラ。
彼女が待機していたアウスレンダーと会話が出来るようになった時には日付が変わっていた。フローラと共に都市領主も来ている。
「さすがに急がしそうっすね。お疲れ様でした。これ、蜂蜜とオレンジで作ったホットティーです」
しゃべり続けで息の上がるフローラに対して、あっきーがねぎらいの言葉と共に温かい飲み物を差し出す。
フローラはホットティーを飲んで一息ついた。やはり疲労が溜まっているのだろう。
それに引き替え、こちらはただ待っていただけなので疲れは無い。
辛そうにしているフローラに対してあっきーが提案する。
「どうします。いったん休憩を入れて朝になってから打ち合わせにしますか?」
「いえ。これぐらいは問題ありません。それ程時間も掛からないでしょうし、皆様さえ宜しければすぐに始めましょう。
フローラは先程までの会議内容を判りやすく要約し伝えてくれた。
ではまず今後の対応につきまして皆様のご意見を伺いたいと思います。何かお気づきの点などありませんでしたか?」
問いかけに対してあっきーが話し始めた。
「セイントナイトとは連絡が取れないんですか?」
「はい。魔導具による通信を行いましたが、連絡が取れません。それを阻害する何かがあるようです」
「魔王軍は明らかにセイントナイトが出て行った隙に攻撃して来た。
セイントナイトと連絡が取れないのは足止めまたはそれに類する何かを仕掛けられていると考えます」
「私もその意見に賛成ですわ」
「自分たちの集めた情報だと、魔王軍に協力している勇者達はスカルブラッドと名乗っており、こちらの戦力についてもある程度知っていると思います。
その事から考えると、無暗に戦線を広げては相手の思う壺。ここはいったん防御に専念する。
それと平行して相手の情報を集め、対抗手段を考えましょう」
「判りました。とにかく今は魔導具を繰り返し操作して、セイントナイトには連絡が取れ次第戻ってくるように伝えようと思います」
「それでお願いします。ところでセイントナイトのことについて知っていることを教えて貰えませんか? 自分たちは彼らのことをよく知らないのです」
「それについては私よりも都市領主の方が詳しいでしょう。メントス。お願いします」
「判りました。それではフローラ様に変わりご説明します。
セイントナイトのメンバーは全部で四人。
リーダーは【漆黒無双のリョフ】と言いまして、長柄の武器を両手で振り回します。戦っているときは黒いオーラを発していて、それが2つ名の由来となります。
戦っている時の鬼気迫る顔と迫力は、鬼神と呼ぶ者もおるようです。
二人目は【灰色のマーリン】。名前の通り灰色のローブを纏った魔法使いです。隕石を降らせるなど広範囲に破壊を及ぼす魔法が得意なようですな。
今は湖のようになっている都市の周りに出来た大穴も、マーリン様の魔法によるもの。判りやすくて派手ではあります。
三人目が【聖者ミンウ】。聖属性の魔法が得意で、回復や防御を担当しています。
都市の壁が一部破られたとき、それを即座に補修して貰えました。修復した場所は他の場所よりも強固になったほどです。
他にも怪我をした兵士達を一度に数十名治癒したとも聞きました。
最後の一人は【絶剣のムツ】と呼ばれています。
無手で戦う武道家で、あらゆる格闘技に精通していると聞きます。目にもとまらぬ素早い動きで戦い、まるで四人に分身しているかのように見えるそうです。
ざっとこんなところですが、参考になったでしょうか?」
エビスは話しを聞きながら思った。
セイントナイトと言うわりにファンタジー感が少ない気がするが、個々の名前からして一癖も二癖もありそうだ。
さらにその戦闘力はアウスレンダーよりも高いと思って良いだろう。
都市領主に幾つか質問してみたが、こちらよりも重課金している様子も無かった。そこから察するに戦闘特化、高火力シフトのパラメーターを採用しているに違いない。
この手の特化型は、正面から戦うと凄まじいが、搦め手で仕掛けられると脆いところがある。
正面から襲いかかるだけの魔物なら圧勝出来るだろう。だが、スカルブラッドが加わり、こちらの能力をある程度判って対処法を考えられたなら危険な気はする。
「貴音は都市内のあちこちで、いつも通りゲリラライブをやると思います。それにより多少は士気も回復していくことでしょう」
「あの方の歌はそう言う力があると聞きました。それではその事に対して支援などは必要でしょうか?」
「余裕があるならそれも考えますが、現状ではそちらに回す力を他方に廻した方が良いでしょう。貴音は一人でなんとでもなります」
「判りました。御言葉に甘えます。他には何か?」
あっきーが手を上げる。
「自分たちの力が必要なら言って下さい。エノクサウルスなら力もあるし、物資の運搬も速くすむはず」
「そんなところでしょうか。それではいったん休むことにしましょう。こちらでも集めた情報はそちらに提供することにします。何か判ったことがあったら私にも教えていただけるようお願い申し上げます」
そう言うとフローラは去って行った。我々もあてがわれた部屋で休むことにしよう。
この作品はPBM-RPGです。
リプレイでも通常の小説でもありません。
物語はプレイヤーの手にゆだねられており、
プレイヤーの意思決定により変化し進められていきます。
参加プレイヤーは「あっきー」「風巻豹」「キリマン」「エビストウスケ」「貴音大雅」以上5名となります。
その他の人物や事象はマスターである私が一元的に管理しています。