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6-2 祝賀会

 スカイライン家で用意していた祝賀会は非常に大きい会場で行われた。立食パーティー形式となっており、それぞれが自由に移動出来る。

 会場両サイドの壁際に豪華な食事が並べられており、招待客にシェフ達が料理を取り分けていた。もちろん飲み物の提供もされている。

 祝賀会自体は準備していたが、急に決行したことがあり、参加者は少なめ。お抱え楽団の奏でる音色が静かな会場に響き渡っていた。

 この祝賀会には貴族達しか参加していない。スカイライン家が貴族でもあり、それらの関係性を重要視しているからだ。

 参加者は大きく三つに分けることが出来る。

 一つ目は、フローラ派の貴族。それぞれ自領の統治もあるので、自領から一次避難していた貴族と王都で用事があった貴族となる。急な呼び出しにもけっこうな数が集まっていた。

 二つ目が、アウスレンダーの名前を知っている貴族。ケルナンデの次は王都でライブをやると噂が流れていたので、それを期待して王都に待機していた。これもそれなりに数がいる。

 最後がイスメアルダ王女派。ハンターギルドでの騒ぎを聞きつけ、無理を押して参加表明している。その数は片手にもならなかった。

 フローラ派と王女派はそれぞれの派閥で纏まっており、お互いを牽制していた。とは言え、王女派はアウェイ感を強く感じている。この祝賀会で王女をもり立てるには使えるカードが少なすぎた。

 なお、イスメアルダ王女はハンターギルドから直接こちらの会場に来たため祝賀会にふさわしい格好では無い。お付きの者が大急ぎで走り回り、王城から衣装を持ち込み、控室を借りてドレスアップを行っている。


 祝賀会の名を借りた派閥争いで激しい火花を散らしている貴族達。

 そこにアウスレンダーが到着したことで、祝賀会は始まる。楽団の厳かな曲が流れ、盛大な拍手をもってアウスレンダーは迎えられた。


 先頭にたちアウスレンダーをエスコートするのは、祝賀会の主催であるフローラ嬢。

 出迎えたときとはまた別のドレスに着替えている。やはり赤を基調としていたが装飾品をより高価な物に変更し、己が持つ魅力と威厳を最大限引き出している。

 アウスレンダーを中央奥にある大きなテーブルへと案内すると、会場の貴族達に改めて紹介する。


「皆様大変お待たせしました。ここにいらっしゃるのが、本日昼過ぎに襲来した大型魔物を、王都に全く被害を出さずに撃退して下さったアウスレンダーの方々です」


 数年来友好を深めているかのように振る舞うフローラ。


「さらに本日は多忙の中、王宮からわざわざイスメアルダ王女がいらっしゃいました」


 フローラの案内により、イスメアルダ王女が会場に入ってくる。エスコートなし、単独での入場はかなり作為的。

 イスメアルダ王女は立ち位置が判らず戸惑っているのが見て取れる。エビスはあっきーを後ろからドついた。

 アウスレンダーの纏まりから押し出されたあっきー。これも注目を浴びている。


「自分でやりたくないからって、いきなり押し出すなよ」


 小さくぼやきながら、あっきーはイスメアルダ王女の元へ歩いて行った。そして手を取るとアウスレンダーの元までエスコートする。

 王女が無事到着したことで、祝賀を示す曲が流れ祝賀会は始まった。

 それと同時に貴族達が動き出す。それぞれが我先にとアウスレンダーの元へやってきて挨拶を行っていった。

 目端の利く者は、あっきーがリーダーであると理解し彼の元を尋ねる。その後、興味を持ったメンバーの元へと移動する。

 アウスレンダーファンの貴族達は、迷わず貴音の元へと詰めかけ大きな輪を作っていた。

 最初の挨拶による波が収まると、アウスレンダーの面々はそれぞれに散らばって貴族達に囲まれていた。




 フローラ派の貴族達は、フローラ嬢と一緒にあっきーを取り囲み、ただでさえ少ない王女派の貴族を近づけないようにしている。

 貴族達はこぞって今回の功績を称え、賞賛の言葉を浴びせていた。それに滑り込ませるようにフローラ嬢の良さをアピールしていく。


「いやぁ。あのとき見せて頂いた、あっきー殿の支配する魔物。素晴らしい強さでしたなぁ。大地を駆け、海を進み、空を飛ぶ。全くたいしたものです」


「全くその通り。これならばどこから何が来ても安心ですな。この勇者様に早くから目を付けていたとは、フローラ様の先見性には脱帽ですな」


「目を付けるなどと、大変恐れ多い。

 わたくしはただ勇者あっきー様の力を信じていただけです。

 あっきー様。これからも私たちをお守り下さいませ」


 フローラ嬢もあっきーをターゲットに捉え、会話をリードしながら積極的なアプローチをしていた。

 対するあっきーは、こう言う取り囲みに慣れているらしく、ジョークを混ぜながら会話を盛り上げる。その会話センスは貴族達に好印象で受け止められていた。

 とにかく次々と貴族達がやってきて、会話が途切れることは無い。上手く対処出来ているのだが、他のことに気づけるほどの余裕は無かった。




 貴音を囲むグループはもっと判りやすい。来ているのは貴音のファンばかりだ。ちなみに男女比で言うなら圧倒的に女性が多い。

 アイドルを取り囲むファン達。その様子はファン感謝祭のように見えた。

 貴族令嬢達は、自作の貴音ファッションに身を包んでおり、振り向かれる度に黄色い声を上げている。積極的と言うより熱狂的なアプローチで、貴音を奪い合う勢いだ。

 貴音は元の世界でも似たようなことがあったからだろうか、そのあたり上手く距離を取りながら対処出来ている。

 紳士達は、なんとか見よう見まねで作成したギターらしきものを持ってきており、ギターの弾き方や作成方法について聞き出そうとしていた。

 この世界にもリュートなどの弦楽器はある。その技法を元に、形だけギター風に変更している。軽く弾いてみたが、その音はギターと言うにはほど遠い。全く使い物にならなかった。

 その事は、これを持ってきた貴族も判ったようだ。


「うーむ。無理を言って作らせましたが、やはりこの短期間では無理でありましたな。貴音殿の楽器とは似ても似つかぬ音しか出ませぬ。

 これでも音量増強、雑音低減などの魔導具をこめてあるのですが・・・」


「ギターの音色は、見た目や音の大きさだけで決まるんじゃ無い。自分の思いを受け取ってくれる相棒は、沢山のギターの中から探し出すもんだぜ」


 そう言ってから貴音は気がついた。この世界においてギターはこの一本しか無い。作り方を知らないのだから当然だ。

 だがそれでいいのか? いや違うだろ。そうじゃない。この世界特有のギターがあってもいいはずだ。

 今はこれ一つしか無いからこれを使っているが、優れたギターリストならば弾く曲に合わせてギターを変える。それはむしろ当たり前のことだ。そんなことも忘れていたとは。

 この世界におけるこの世界のための曲。だったらそれを奏でるギターもこの世界で作られたギターであって良いはずだ。

 この世界のための曲を奏でるギターか。たしか風巻が連れてきた職人がいたな。そいつに相談してみよう。

 ギターが完成したら、今の曲もそれに合わせて微調整していく。

 貴音には次のステップが見えてきていた。


「決めた! 俺はこれから旅に出る!

 魔王がどんな奴か知らねぇが、俺の武器はこの歌だ! 俺はこの歌を完成させる旅に出るぜ!」


 そう叫んだ貴音に、周りの貴族達が盛大な拍手をしていた。




 エビスは、クラゲリオンとしてやるべき事をやっていた。客に対して一定距離をとらせ、パフォーマンスを行う。

 今回は子供がいないため、高めの年齢層に会わせた演目を選ぶ。

 簡単なマジックなどは大いに受けた。

 ボイスチェンジャーによるハスキーボイスで早口なトークも絶好調。流れるように次々とパフォーマンスを続けた。

 下手に会話されて、どっちの派閥かに引っ張られるよりはこうしている方が楽で良い。

 念のため会場に来ている貴族達の顔写真や声紋などを記録しておいた。




 キリマンは、貴族達の中でも一部の者に囲まれている。

 キリマンの扱う魔法。その威力に惹かれた貴族達に、是非当家の者達に指南願いたいと頭を下げられた。

 この世界にも魔法はある。魔導具とは全く別の系譜を持ち、どちらかと言えば先天的な能力である。魔法には地水火風など幾つかの属性が有り、そのどれを扱えるかは生まれたときに決まっている。威力や使用回数などは、後天的な努力による成長が多いらしい。

 キリマンの扱う魔法がどの系統になるのかも質問があった。

 一度に沢山の言葉が投げかけられ、どのように答えるべきか迷ってしまう。

 貴族達の賞賛はさらに続く。


「キリマン様の操る魔法はまさに天下一品。最強の魔法使いを名乗られてはいかがですかな?」


「おお、そうですな。キリマン様は最強と私も各地に話しをながしましょうぞ。

 そうすれば誰もがキリマン様に教えを請いにくるでしょう」


「いやいや、最強などと生ぬるい。まだまだこんな者ではありませんぞ。キリマン様はまだこの地に来て少ししか経っておらぬ。さらに上の力を手に入れる事でしょう」


「なるほど。まさにその通り。ではキリマン様。キリマン様の目指す最強のビジョンはどのような魔法使いなのでしょうか?」


 一度しか観ていないのに、凄い言われようだな。だが、その事なら答えはある。


[力なき正義(目的)は非力だし、正義(目的)なき力は暴力。だから正義を目指します]


「素晴らしい。これこそ勇者様である!」


 キリマンが貴族の輪から逃げ出すことは出来なかった。




 風巻は一人喧騒を嫌い、夜景の見えるテラスへと逃げてきていた。

 今回の戦闘では、他のメンバーの能力と比べて裏方のイメージが強かったからかも知れない。戦闘要員よりも、パーティメンバーを支える、サポート係と思われているようだ。

 もっとも風巻は、こう言う賑やかな場所は苦手なため、周りを取り囲まれずに済んだことに胸をなで下ろしていた。


「お一人ですか?」


 手にグラスを持ち、近づいてきたのはイスメアルダ王女だった。


「僕は華やかな場所が苦手なので」


「わたくしも同じです。暫くここにいさせて頂いても宜しいでしょうか?」


 風巻はそれには答えない。ただ、イスメアルダ王女の差し出したグラスは受け取った。手すりに両手を置き、外の景色をぼんやりと見続ける。

 無言の時間が過ぎていった。先に口を開いたのは、イスメアルダ王女だった。


「風巻様たちの勇姿、わたくしお城から拝見させて頂きましたわ」


 風巻はやはり答えない。


「あの、わたくし、何か失礼なことをしましたか?」


「いえ、とくには」


「よかった。もしかしたら嫌われているのかと思いました」


 不意に風巻が振り返る。その視線は王女を真っ直ぐに捉えていた。

 その視線に何かを期待する王女。ジッと見つめ返す。


「聞いてみたいことがあったのを思い出しました」


「聞いてみたいことですか? わたくしに判ることであれば何でもお答えします」


「今回の勇者召喚についてです。僕たちは魔王を倒したら元の世界に帰れるのでしょうか?]


「はい、もう一度召喚陣を使えば帰ることが出来るはずです」


「何か問題があるのですか?」


「勇者様を帰す術式は、一度しか使えません。帰りたい勇者様が全員お揃いになった時に使わなくてはならないでしょう」


「なるほど。

 それから気になるのは、過去例では一人だけ召喚されていました。何故今回はこれだけの人数が召喚されたのでしょう?」


「その事はわたくしも驚いておりますわ。

 でもこれは勇者タク様のお考えによるものだと思っております。タク様の時はお一人であったため、様々な犠牲を出しつつ魔王を倒したと言います。

 その時の反省を込め、多くの勇者を呼べるような召喚陣をお作りになったのだと。

 風巻様は何か他にも心当たりがございますか?」


「今回召喚された人達は、比較的近くにいた人達が纏めて召喚されたようでした。勇者はその中の一人で、僕を含んだ他の人はそれに巻き込まれたのかと思っていた」


 今度は王女が黙って聞いている。


「あなたたちもそう考えたのではありませんか? そして本物の勇者が誰なのか探っていた」


「そんなことはありません。わたくしは皆様が勇者であると信じております」


 そう答えた王女の瞳には、うっすらと涙が見える。


「貴方が思っていなくても、他の人達はそう考えた。本物の勇者は誰なのか。そしてそれは今後のことにも影響を与える」


「一部のものがそう考えているのは知っておりました。

 でもわたくし女王の座に興味はありませんでした。フローラ様がなると言われれば喜んで譲るつもりだったのです」


「だった・・・。今は女王になろうと考えている。そう言うことですね」


「判っております。フローラ様に比べると、容姿、政治的配慮、統治能力、威厳。どれをとっても私は足下にも及びません。

 それでもアカシュブレア王家は勇者タク様の血族がなるべきです。それだけは譲れません。

 その為であれば。わたくし、フローラ様と戦います。

 それだけが、今の。こんな私に出来ること、なのです」


「とりあえず理解しました」


「あの・・・。それで、風巻様はわたくしを応援してくださいますか?」


「僕の役目は魔王を倒すこと。その以外のことは、それから考えるよ」


「わたくしはずっとお慕いしております。それを忘れないで下さい」


「・・・そう言えば、王女は最初から僕たちのことを気に掛けていたように思います。何故ですか? 最初の段階でなら僕たちは勇者候補から外れていたはず」


「それは・・・。あの。」


 イスメアルダ王女は口籠もり下を向く。だが意を決したように顔を上げた。


「それは・・・。

 わたくし、勇者タク様の物語を沢山読んで勉強しました。元いた世界にあるゲームのこともです。

 他の勇者様達は、わたくしのことをNPCでしたっけ? そのように扱っており、人として観て下さいませんでした。

 一人の人として扱ってくれたのはアウスレンダーの皆様だけだったのです。

 ですからわたくし、皆様こそが本物の勇者であると、最初からそのように思っておりました」


 風巻に向けたイスメアルダ王女の笑顔。それは本物の笑顔であった。

 風巻は王女から視線を逸らし、また外を眺め始めた。またもや無言の時間が流れる。


「あの。もう少しお側にいても宜しいですか?」


 風巻は無言だったが、否定もしなかった。

 そして、王都の夜は更けていった。


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