6-1 ハンターギルドにて
緑龍を退治したアウスレンダーが王都の北門に到着すると、万雷の拍手に迎えられた。
今まで王都は魔物とはほぼ無縁であった。それがあの巨大な龍が目の前までやってきたことで危機感が一気に上昇したのだ。
それが王都に全く被害を出さずに退治された。緑龍の襲撃が現実ではなく夢のようにも思えたことだろう。
しかし龍の死骸は北門からすぐのところに残っている。それを見れば今回のことが紛れもない事実であると再認識出来た。
人々はアウスレンダーの強さ、勇者達の強さを見て確信した。必ずや魔王を倒し王国に平和を取り戻してくれることを。
北門をくぐり、ハンターギルドまで向かう。その途中、沿道沿いに沢山の人が一目アウスレンダーを見ようと押し寄せていた。その中には先日貴音に勇気づけられたスラム街の人達もいた。そして手を振る人々はみな笑顔だった。
貴音はその気持ちに応えるようにギターを弾いた。人々も手を叩き、足を踏みならしてそれについてくる。
クラゲリオンは歩きながら簡単なパフォーマンスを行う。その姿は戦っていたときとは別の一面を見せる。クラゲリオン本来の、愛らしさ、親しみやすさだ。
今回ばかりはと、あっきーもエノクサウルスと共に歩き、その勇姿を見せつける。人々の熱い視線を受けたエノクサウルスは、時折頭上に火を吹いて見せた。
その後ろをついて行く風巻とキリマンは特に何もしない。こう言う賑やかな雰囲気と人々の賞賛があまり得意では無いのだ。
けれどその姿はどこか誇らしげに見えた。
そんなわけで王都はお祭りのように賑わっていた。
観客に答えながら移動するアウスレンダーの目的地はハンターギルド。緑龍を倒した報告と報酬を貰う必要がある。
もちろんハンターギルドでもアウスレンダーの動向は掴んでいる。
報酬の支払いや退治確認処理は、思いの外速く済んだ。
緑龍退治について、砂塵の狐傭兵団との間で報酬関係の取り決めを終わらせており、それをそのままアウスレンダーに移行する事で処理を簡略化したのである。
さらに、後の問題が無くなるように、ハンターギルドでは魔導具を使って砂塵の狐傭兵団と連絡を取ってくれていた。
連絡先の相手は西瓦だ。
「なるほど。ハンターギルドからの連絡でも聞いていたが、お前達が緑龍を倒したのは間違いないようだ。
そしてそれがキシャナ大森林のボスと言うことも確定事項だ。
お前ら、思っていたよりもやるようだな」
「獲物を横取りしようとしたわけではありません。
急なことだったのでこちらで対処したまでです」
「ああ、その事についてはお前達に問題は無い。むしろ俺達が間抜けだっただけだ。
おそらく俺達が準備万端で出かけたことが、魔王側に漏れていたのだろう。
このまま戦ったら負ける。それを理解した緑龍は俺達との戦いを避けることにした。
それで俺達が王城にすぐ戻れないところまで引きつけたところで、機動力を活かして一気に王城を襲った。
緑龍の失敗はお前達の強さを見誤ったって事だ」
「とにかく緑龍はこちらで倒しました。ハンターギルドではそちらに対して緑龍退治の依頼を撤回するそうです。そして当初そちらに渡す予定だった報酬もこちらで受け取りました」
「ああ。それについても、ハンターギルドと話がついている。俺達はそれで構わない。倒してもいないモンスターの報酬まで貰おうとは思わんよ。
それにキシャナ大森林の捜索も打ち切っていったん王都へ戻る。
何度かモンスターと戦ってみたが、この辺りのモンスターは一気に弱くなった。
当分俺達の出番は無いな」
「そうですか。それではキシャナ大森林の魔物対応に関しては問題なくなりましたね」
「そうだ。だからそっちは城塞都市クロームへ向かえ。セイントナイトを援護してやるといい」
「え? ケルナンデへ行こうと思っていたのですが。何故クロームなのですか」
「ふん。緑龍はそっちへ譲ったんだ。クラーケンはこっちによこせ。それぐらいはかまわんだろう」
「あいつは本当に強いです。一度相対した経験のある自分たちが戦いますよ」
「言っただろ。勝つべくして勝つと。ハンターギルドから情報は全部受け取った。既に作戦は考えてある。今度は出し惜しみ無しでやってやるさ。
どうもお前は心配性だな。判った判った。それならこっちの秘策を少しだけ後で教えてやる。
だから安心しろ。まずは祝賀パーティを楽しみな。それからクロームへ向かえ。じゃあな音楽隊! こっちも準備があるから通信を着るぞ」
あの様子では、クラーケンと戦わなくては収まりがつかないかも知れない。自分で倒すつもりでいたからどうするべきが悩むところだ。
取りあえずみんなにも相談してみよう。
「秘策と言うのが気になりますが、あれだけ言っているのだからその連絡を待ちましょう」
エビスが答えた。
さらに貴音が追加で答える。
「俺達が音楽隊? 最高の褒め言葉じゃねえか! その賞賛。有り難く受け取ろうぜ!
俺は歌を歌い続ける。そう決めたんだ。
歌には歌にしか出来ないことがある。やつらにだって奴らにしか出来ないことがあるんだろ。
だったらそれでいいじゃねぇか。やつらにもやりたいようにやらせてやれよ」
他のメンバーもそれでいいようなので、これ以上諫めるのはやめることにした。
だが、あっきーにモヤッとしたモノが残っているのも確かだった。だから西瓦に一つ伝えていない事があったのを忘れていた。
もしかしたら無意識のうちに伝えようとしなかったのかもしれなかった。
それからアウスレンダーは幾つかの書類にサインをしていった。これだけ大きな仕事だったので金額も多いし確認用の書類もいくつかあった。
ハンターギルドで報告処理をしていたアウスレンダーの元にイスメアルダ王女が訪ねてきた。
急いできたのか少し息が上がっている。先程の戦闘もバルコニーから見ていたのだろう。興奮しているのか、いつもより顔が赤い。
「あの、お見事でした。もう驚いてしまって。どのように讃えたらよいのか思いつきません。
とにかくこの気持ちを速くお伝えしたくて。
あなた方なら間違いなく魔王も倒すことが出来ると確信しました」
イスメアルダ王女は捲し立てるように一息でそう言った。
「自分たちは勇者だからね。このぐらい当然。この勢いでドンドン行くから、期待していいよ」
人々の賞賛を受けて調子に乗っているあっきーがそう答える。
それを受けてイスメアルダ王女が、あっきーに真っ直ぐ向き直る。
「あっきー様。そしてアウスレンダーの皆様。この王国をお救い下さい。よろしくお願い申し上げます」
そう言うと、イスメアルダ王女は最敬礼のカーテシーを見せた。
ユックリと立ち上がり、何かを言おうとしたその時。
バタンッ!
ハンターギルドの入口が大きく音を立てて開く。突然の物音に皆が入口に振り向いた。
礼服を纏った男が数人入って来ると、素早い動作で室内にスペースを確保し外に合図を送る。
ゆったりとした優雅な動作で入ってきたのは一人の女性。炎のように赤いドレス。整った顔立ち。ブロンドの髪は綺麗にまとめられ後ろに流れている。背も高く凜とした立ち姿は気品があり観る者全てを引きつける。
一言で表すのであれば、燃えさかる炎。立ちふさがる者は焼き尽くし前へと進む。そして導きの目印として辺りを照らす。まさに圧倒的存在感! そう言う女性だった。
威風堂々、あっきーのもとへ真っ直ぐに歩いてきて、これまた見事なカーテシーを披露する。
イスメアルダ王女は押しのけられるように部屋の端へと移動していた。
「初めましてアウスレンダーの皆様方。
私の名はフローラ・スカイライン。スカイライン家の長女になります。簡単に申し上げますと、スカイライン家は王国にて政を納める地位に就いております。
このたびの魔物討伐、誠にお見事でした。民を代表し御礼申し上げます。
つきましてはささやかではありますが祝勝会のご用意をさせていただきました。急なお誘い誠に勝手ではございますが、是非ともご参加いただきたく申し上げます」
フローラは完璧なる造形と、隙の無い所作。その全てに高貴さを持ち威厳を纏っていた。
確かにこれなら次期女王と言われているのもうなずける。
ここにイスメアルダ王女がいることは十分承知のはずなのだが、全く知らないかのような立ち振る舞いだ。
むしろイスメアルダ王女の方が恐縮し、部屋の端によって小さくなっている。よく考えれば王族が供回りも殆ど連れずにこのような場所まで来ていることの方が間違いなのかも知れない。
二人の力関係が判るほどに、激しい火花が散っている。それは片方から一方的に吹き出しており、どちらが優勢かは一目瞭然だった。
それを傍で見ていたエビスは思った。イスメアルダ王女はフローラと同じく、我々を王宮で行われる祝勝会へ誘おうとしていたのだろう。
急いできたのはフローラ嬢がこのように動くことを知っていたから。なんとか勇者を王女側に引き込もうと必死なのだ。
フローラ嬢も表には出さないが、やはり勇者を引き入れようと思っている。
これは予想だが、砂塵の狐傭兵団がキシャナ大森林のボスを倒しに行くことを知っていて、祝勝会の準備を進めていた。
アウスレンダーが緑龍を倒してからここに来るまでの時間だけでは時間が少なすぎる。
そこから察するに、フローラは女王レースに勝つため砂塵の狐傭兵団だけでなくセイントナイトとも繋ぎを取っているはずだ。
アウスレンダーは、魔王退治の面で他のパーティよりも目立たなかった。だから今まで近づいてこなかった。
ところが今回の緑龍退治達成。フローラはアウスレンダーに対して大急ぎでアプローチしてきたと言うわけだ。
これはある意味大事な選択だ。この様子を多くの人が観ている。
次期女王決定レースにおいて、イスメアルダ王女につくか、それともフローラ嬢につくのか。我々の意思とは別に、王国の人々がアウスレンダーを見る目が決まる。
さて、我らがリーダー、あっきーはどう答えるのか。
「マジっすか! それは嬉しいですね。是非参加します。みんなもそれでいいよな」
フローラ嬢を選択したか。たぶんあっきー自身は何も考えていないんだろうな。
「誠に有り難うございます。外に馬車を待たせてあります。皆様どうぞこちらへ」
それを受けたフローラ嬢は勝ち誇ったような笑顔。対するイスメアルダ王女は俯き、さらに小さくなっていた。
「イスメアルダ王女も当然祝勝会に参加されるんすよね」
続くあっきーの一言に、フローラ勢の動きが一瞬固まった。イスメアルダ王女も何を言われたのか理解出来ずに戸惑っている。
ここは何も知らない振りをして動くべきだ。どちらか一方についていると思われない方が何かと良いだろう。
「あっきー。こう言うときは男性から女性の手を取ってエスコートするのが一般的だと聞いた」
「ああ、そうか。それでは一緒に行きましょう」
あっきーはイスメアルダ王女の手を取ると外へと歩き出した。王女はかなり動揺しており、トテトテとした足取りでエスコートされている。
さて、では我々も後に続くとしよう。
フローラ嬢は、笑顔を崩さないようかなりの努力をしている。僅かに肩が震えているのが見えた。
うん。それは観なかったことにしよう。
この作品はPBM-RPGです。
リプレイでも通常の小説でもありません。
物語はプレイヤーの手にゆだねられており、
プレイヤーの意思決定により変化し進められていきます。
参加プレイヤーは「あっきー」「風巻豹」「キリマン」「エビストウスケ」「貴音大雅」以上5名となります。
その他の人物はマスターである私が一元的に管理しています。