表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

前編。チョコと手紙がなんセット?!

「黄龍さま! 黄龍さまっ! 大変ですよぅ!」

 澄んだ青い空の見える、小高い丘に建つ一軒家。

 一人の青年に、小さな赤毛緋眼の少女が声を書けている。

 その声の大きさと、せわしなくまばたきを繰り返している様子は、

 とても冷静ではない。

 

「どうしたすずめちゃん? そんなに慌てて」

 なだめるように、少女の頭に手を置く青年。

 慣れたとはいえ、すずめの自分への呼び方には

 未だにおおげささを拭いきれていない。

 

「今、りくちゃんたちが取りに行ってるんですけど、

すごい数なんですよぅ」

 少女赤井すずめは普段と違い、青年に頭に手を置かれても落ち着くことがなく、

 両腕と同時に、背中にある小さな羽をもバタバタさせながら、

 要領を得ないことを伝えている。

 

 

「ち、ちょっとまった。話が見えない。落ち着いて話してくれないか?」

 再度、今度は両肩に少し強めの力で手を置く青年。

「あ、ぁぅ……ごめんなさい黄龍さま」

 ようやく落ち着いたすずめは、しょんぼりとして頭を下げた。

 

「まったくなぁ」

 疲労感を僅かに含んでいるものの、その表情はにこやかだ。

 すずめの小ささと騒がしさは、この青年に大した不満を

 感じさせないようである。

 

 

「で? なにがどうしてどうなってるんだ?」

「あ、はい。黄龍さまは、今日が何日だか知ってますか?」

「何日……二月十四日、だよな?」

 

「え、あ、違います違います」

 青年の答えに、自分が聞き方を間違えたと、両手を顔の前で左右に振る。

 真っ赤になったその顔は、しかし青年にまで熱を伝えていて。

 

「あちゃちゃちゃ。温度の上がり方が非常識なんだよなぁ。朱雀なせいなんだろうけど」

 青年は左腕を顔の前へ持ってきて、すずめの熱を顔に来ないようにする。

 そう、このすずめと言う娘。実は朱雀なのである。

 見た目には、小さな羽が背中にある以外は、赤毛の小さな少女であるが。

 

 青年の態度を見て、しまったと思ったか、すずめは数歩後ろに下がって

 まだ収まらない熱が、相手に届かないようにする。

「えと、聞き直しますね黄龍さま。今日、なんの日かご存じですか?」

 

「二月十四日。バレンタインだな」

「です。それで、リカネさんを通じて 例の物が大量投下中なんです」

「リカネ……ああ、なるほど。送り主と中身の予想はついたわ」

 青年は自嘲の笑みを浮かべた。

 

 リカネとは、青年 扉神とびらかみプライマルが管理する無数の世界において、

 もっとも自分に近しい存在であり、それら世界の転生を一手に引き受けている女性だ。

 言い換えれば、リカネはつまり、女神である。

 

「どうしたんですか?」

「いや、まあ。な、うん」

 歯切れが悪すぎる青年の言葉に、すずめは首をかしげるしかなかった。

 

 

「あけてー! ドアあけらんないー!」

 外から少女の叫び声がする。

「りくちゃんたちです」

 

「俺も行く。改修してもらっといてドアすら開けないとか、

りくたちにぶっ飛ばされるからな」

 小走りで玄関に向かうすずめを追って、青年はゆっくりした歩調で歩く。

 

 

「大量投下って、いったいどんだけあったんだよ。

って言うか、手が空いてないんなら、このドンドン言ってるノックは

……頭突きか」

 りくと呼ばれている少女のお転婆っぷりに、青年は苦笑いする。

 

「おか……えええっ?!」

 ガチャリと扉を開けて、声をかけかけた青年は、そのままびっくり絶叫。なぜなら。

 

 

「ちょっと、モテすぎじゃない? P」

 白髪はくはつに翠色の瞳をした少女が、呆れた表情を浮かべている。

 両手に二つ袋をぶら下げており、軽く上下に動かすと、

 ガサガサと、いかにも中身が詰まってますと言う音がした。

 

 この少女 白走りくしろばしりりくの頭には、ぴょこりと猫のような耳があり、

 よく見れば足の間から尻尾が見えている。

 彼女もまた、すずめ同様に四神の少女で、こちらは白虎である。

 

 

「わたしたち三人でようやく持ちきれたぐらいの量。

ほんとに、節操ないんだからPさんは」

 柔らかな声色の少女が、りくの後ろから顔を出した。

 透き通った青い髪の少女は、穏やかな表情でりくの後に続き家に入る。

 

 彼女はりくと違い、両手に袋を一つずつ持っている。

 それを見て「うわぁ」と顔をしかめるPと呼ばれている青年。

 

 この紫の瞳の少女東あお巳あずまあおみは、長い髪がうねるように体に巻き付いており、

 前髪が、まるで龍の顔のように前に突き出して延びている。

 この娘もまた四神であり、髪型が彷彿とさせる通り、青龍の少女だ。

 

「寝癖付くと一日なおらないのよねぇ」

 前髪を腕で下に押さえつけようとしながら、そう苦笑する。

 

 

「寝癖ついた髪型が龍のようとは、すずめやりくのような

象徴的な姿にならんかったものかのうあお巳?」

 すずめより若干背が高い程度の、ショートカットの黒髪少女が、

 そう言いながら家に入り、やはり両手に持った袋を、

 一度床に置いてドアをしめた。

 

 この少女もまた四神であり、北鹿目玄武きたがめくろたけと言う。

 名前の表記の通り、玄武だ。背中に亀の甲羅のような物を背負っているが、

 これは甲羅ではなく手製のリュックである。

 

 

「くろたけちゃん、人の事言えないじゃない。

自分の姿には、どこにも亀要素ないんだから」

「この蛇の如く細い目を見ても、要素がないと言えるかのう?」

 したり顔であお巳を見る玄武くろたけに、「ああ、言われてみれば」と

 あお巳は今気が付いたと言うリアクションを返す。

 

「ぐぐぐ……人の姿になってから、それなりに時は経ておると言うのに……!」

 地団太踏んで悔しがる玄武くろたけを見やり、Pと呼ばれる青年は

 ぼそりと言った。

「なら、ドヤ顔でその目を見せつける必要も、ないんじゃないのか?」

 

 

「ぷらいまる殿。余計なことを言うと、ワシの力が火を噴くぞ」

 蛇のように細い目が、今度は青年Pこと扉神とびらかみプライマルに向く。

 

「あの黒神滅衝波こっきめっしょうはとか言う、無駄にかっこいい名前のエネルギー波か。

そいつは勘弁してもらいたい」

 両手を合わせて頭を下げた青年を見て、玄武くろたけはやれやれと息を吐いた。

 

 

「で、どうすんだよ こんな大量のチョコ……」

 丸テーブルに置かれた六つの袋を見て、プライマルはうんざりを吐き出す。

「食べなさいよ、Pの責任なんでしょ?」

 りくはビシっとプライマルに指を差す。

 

「お前……中身見たな?」

「うん、チラッとね。概容は取り行った時にリカネさんから聞いたの。

みんなから愛ノ籠ッタメッセージカード入りよって」

「リカネらしい表現だな」

 苦笑いし、プライマルはチョコの入った袋に視線を落とす。

 

 袋の一つのジッパーをペリっと開封し、りくはその中身

 ーー袋いっぱいに詰め込まれたチョコレートのうちの、その一枚を手に取った。

 どれも簡易にビニール袋のような物に包装されているが、

 りくが抜き出した物は、既に袋が開いている。

 

 

「実はりく、中身食ってたりしてな」

 試しに言ってみたP。そしたら、

「だ、だだ だってっ。甘い臭いがして……おっ おおおおなかすいてたし!」

 りくは猫耳をしきりにぴこぴこと動かし、

 尻尾もブンブン振り乱して、顔を真っ赤にしながらわたわたと言い募り出した。

 

 そんな白虎娘に、一同和やかに笑った、

 

 

「んがー! なによっ! 女の子はスイーツには弱いんだってばー!」

「スイーツ括弧笑い」

 ニヤけて呟くように発したプライマル。

 それを見て、りくのテンションが急変。

 

 

「その顔、八つ裂きにするわよP」

 

 

 突然じとめで睨まれ、更に両手から鋭い爪が飛び出した。

 それを見たプライマルは、

「冗談のわからん奴め」

 言葉は強気でいながら、顔をぶった切るのはやめてくださいの思いをこめて

 否定のジェスチャーをする。

 

「ったく」

 本当に八つ裂きにできそうな爪をシャキっとしまい、りくはふっと小さな溜息を吐いた。

 

 

「で、ついでだから読むわね、メッセージカード」

「内容の想像はつくがなぁ」

 苦い顔をするプライマルを、「黙って聞いてなさい」と一喝し、

 りくはその袋に入った、折りたたまれているメッセージカードを取り出し、開いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


関連作品。

転生待合室のトラック転生者たち
リカネが文句を言っている、あっちでもこっちでも。
 
サモナーな俺の、よくある異世界交遊録 第七回に四神娘が登場。


小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ