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6:私、町へやってきました!

「ほえぇ~。人がいっぱい」


 逃げた先は目的地の町。

 右も左も前も後ろも人、人、人!

 これ全部プレイヤーさんなのかなぁ。


 前にやったVRゲームは、正式サービスが始まって半年ぐらいのやつ。

 だからなのか、最初の町はこんなに人で溢れかえってなかったんだよね。


 ふぬぅ、少し歩けば人にぶつかっちゃうぐらい多いんだけどぉ。

 その度に「ごめんなさい」と謝りながら歩かなきゃいけない。

 何度謝ったか、そろそろ覚えきれなくなってきた頃、突然視界にメッセージが浮かんだ。


【クエスト:アルケミスト協会を探せ】


 はわっ。

 歩いてるだけでクエストが出ちゃった!?

 あ、これアルケミスト協会をってあるから、職業限定なやつかな。

 これからお世話になる所だし、探して損はないね。


 と言っても、どうやって探せばいいんだろう。

 え、ええっと、こんな時はマップを開けばいいんだよね。


「システムメニュー」


 からのぉ、右下にあるマップアイコンをタップして――。

 わぉ、タウンガイドみたいなのが出てきた。

 雑貨屋さんや武器防具屋さん、買取商人さんの位置まで書き込まれてる。

 私、ちょっとだけ方向音痴だからすっごく助かる~。

 他にも冒険者ギルドや教会、生産組合なんて建物もあるみたい。

 でも肝心のアルケミスト協会ってのが見つからないよぉ。


 はっ。

 まさかこの町には無い、とか?

 ど、どうしよう。


「面白いほど表情がころころ変わるね」

「ほえ?」


 システムメニューの向こう側に立つ人と思いっきり目が合ってしまう。

 さっきは男の人だったけど、今度は赤茶色の髪の女の……人?

 え、この人――。


「ほええぇぇっ、エ、エルフさん!?」


 耳が長くて尖ってる!?

 このゲーム、選べる種族がなくって、プレイする人は全員人間だったはず。

 え、じゃあこの人――。


「あぁこの耳ね。クローズドベータの参加特典で貰えるアバターガチャから出たヤツだから」


 目の前の綺麗な人はそう言って耳を触ると、その耳がポロっと取れちゃった!


「ほえぇっ」

「あははは。面白いほどよく驚く子だねぇ」

「はぅ、すみません」

「いやいや、そういう反応ある方が面白いからいいよ。で、なんか困ってたりするとか?」


 ケラケラと笑いながらそう尋ねてくるお姉さん……でいいんだよね?

 凄く綺麗な人なのに、カッコよくも見える。

 不思議な人。


「あ、あの、クエストでアルケミスト協会を探せっていうのが出たんです。でもマップで探しても見つからなくって」

「あぁ、職業クエストか。君、アルケミストなんだ?」

「あ、はいっ」

「ふぅ~ん……」


 な、なんだろう。

 凄くじろじろ見られてる。


「その服、錬成したのかい?」

「あ、はい。その、初期装備が可愛くなかったので……」

「ほほぉ、いいねぇ。そういう発想。私もこのハーフパンツがねぇ……」


 背が高くてスラっとしているお姉さんは、さっきまで私が着ていた服と同じデザイン。

 ショートパンツなら似合ってたかもしれないけど、ハーフはお姉さんには子供っぽ過ぎる気はするなぁ。


「よ、よかったら錬成しましょうか?」

「お、いいの? でも布足り無さそうだけど……あ、このベストいらないからさ、これパンツに回してスパッツにしてくれないかな」

「長い方がいいんですか?」

「ん、そうだね。七分丈ぐらいかな」


 じゃあってことで路地裏に移動し、置いてあった樽の影でレッツ錬成!


「あの、パンツとベスト、貸して貰えますか?」

「ん、ほいさ」


 そう言うと、突然お姉さんの腰にモザイクが掛かった!?

 え、ナニコレ?


「あぁ知らないんだね。装備を脱いで下着姿になると、他人の目にはモザイクが掛かって見えるようになるんだよ」

「ほえぇ~」


 じゃあさっきの私も……あの人の目にはモザイクしか見えてなかったのかぁ。

 えへへ、ちょっと安心。


 錬成したのは紺色と白が合わさって、青っぽくなったスパッツ。


「デニムっぽくなっていいねぇ」

「本当はふりふりにして可愛くしてみたかったんですけど」

「いや、それ止めて。私のキャラじゃないから」


 ですよねぇ。

 だってこのお姉さん、カッコいいんだもん。


「これで恥ずかしいハーフパンツともおさらばだ。お礼にアルケミスト協会まで案内するよ」

「本当ですか!」

「あぁ。実はね、職業クエが出た時点で該当施設がマップでは分からなくなるんだよ。そのクエを受けていないプレイヤーのマップでは、ちゃんとアルケミスト協会が表示されているっていう」

「ふえぇ、なんだか意地悪ぅ」


 だから知らない人にどこかの施設を尋ねられたら、教えてやると喜ばれるよ、とお姉さんは言う。

 そしてスタスタと歩き出すお姉さんについて行くと、どんどん町の奥へと向かっていった。


 町は高い壁に囲まれていて、ちょっとした城塞みたいな感じ。

 今向かっているのは壁が目と鼻の先にある、まさに町の隅っこ。

 歩きながらお姉さんにいろいろ質問され、それに一つずつ答えてく。


「なるほどねぇ。初めてのパーティーで地雷認定かぁ」

「はい……でもVRゲームで遊んでみたくって、それで――」

「ホムを錬成して疑似パーティープレイねぇ。でもまぁ、VR初めて二日三日で上手い奴なんて、そうそういやしないよ。誰だって最初は不慣れな初心者なんだ。まぁサービス開始して半年経ってるゲームなら、いろいろギスギスしたのが居ても仕方ないんだろうけど」


 お姉さんは「初心者相手に地雷認定するような馬鹿こそが、地雷なんだよ」と笑いながら話してくれた。

 それに――。


「MMOだった頃と違って、VRになると戦闘で戸惑う子も多いんだよ。特に女はね」

「どうしてなんですか?」


 と質問してみたけど、確かに私はすっごく戸惑ったかも。

 こう……ぐにゅっていうか、ずぶっていうか……触感かちょっと、ね。

 お姉さんの答えもまさにその触感だった。


「攻撃した時の手ごたえっていうか、斬った感触っていうのかね。まぁリアルで人を斬った事のある人間なんて、この日本じゃそうそういないし」


 だから最初の戦闘で足がすくむ子は少なくないってお姉さんは言う。


「触感だなんだのも含め、なんでも慣れるもんさ。だから気にせず、君は君の思うままに楽しめばいい。さ、着いた。ここがアルケミスト協会の建物だよ」


 お姉さんに案内されたそこには、二階建ての煉瓦造りの建物があった。

 大きさはコンビニぐらいかな。


「これも何かの縁だ。フレンド登録、してくれないかい?」

「え、フ、フレンド!?」

「そう。ほら、また装備を錬成して貰いたいし。もちろんお礼はするよ。錬成に使えそうなアイテムとか、取っておくからさ」

「ほ、ほえぇ~っ」


 ピコンっという音が聞こえ『ヴェル』って人からフレンド申請が来ていますというメッセージが浮かんだ。

 は、初めてのお友達……。

 緊張しながらOKボタンを押すと、お姉さんがにっこり笑って手を差し出してくる。

 その手を握ると、


「チョコ・ミントか。アイスって言ったらやっぱこれだよねぇ」


 そう言ってお姉さん――ヴェルさんは微笑んだ。

お読み頂きありがとうございます。

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