37:レッツ錬成♪
受け取ったエンブリオ。
この中にラプトルさんが……。
「慎重にね。普通のエンブリオとは違う。それは君のホムンクルスだった物だ」
「し、失敗すると、どうなりますか?」
「そこは普通のエンブリオと同じさ」
普通の……あのどろどろとした何かに代わるってこと?
そのまま消えてなくなるってこ……と?
「やだっ。そんなのやだっ」
「そうだね。エンブリオの蘇生を依頼してくるアルケミストは、みんなそう思っているよ。だから慎重に」
今までは誰も再錬成に成功していないってヴェルさんが言ってた。
どうして成功しなかったのか。
「それからもう一つ。蘇生できるのは一度きり。もし万が一ここで再錬成が成功したとしても、次はもう無いからね。今度こそホムンクルスが死なないよう……」
ホムンクルスのお兄さんが念を押すようにして言う。
そ、そんなの分かってるもん。
二度と……二度とラプトルさんを!
やっぱりここはラプトルさんをもっと頑丈にしてあげよう。
『硬い甲羅』を増やして、防御力を高くすれば……。
――忘れないで。君が失ったホムンクルスは、唯一無二の存在であることを。
この世に二つとない、エンブリオであることを――
ホムンクルスのお兄さんの言葉が脳裏に浮かぶ。
唯一無二……この世に二つとない……ラプトルさん。
「うん。そうだよね。ラプトルさんはラプトルさんなんだから……」
「今度こそ、君のホムンクルスが死ぬことのないよう」
「ミントちゃん。素材は決まった? NPCが言うように、もう二度と死なせないための素材は?」
「はい!」
ヴェルさんの言葉に自信満々に応える私。
その私に、ホムンクルスのお兄さんは「本当にそれでいいのかい?」と確認するように尋ねてくる。
惑わされないもん。
私――。
「レッツ『錬成』」
ラプトルさんの再錬成に必要な素材は――。
『草原ザウルスの皮』十五個。
『草原ザウルスの爪』二個。
『一角キャンサーの角』一個。
『硬い甲羅』五個。
『ふわふわな毛』二個。
最初に錬成した時とまったく同じもの。
用紙に両手を突き、ラプトルさんの事を思い浮かべる。
ふふ。今度モヒカンにリボンを結んであげようっと。
カっと光った錬成陣の中。素材が合体し、錬成陣と同じ光を発して――ある形に仕上がっていく。
きっとお兄さんの言葉は、たんなる戒めの言葉なんだ。
ホムさんを死なせてしまったアルケミストへの。
だけどホムさんを生き返らせたくて必死なアルケミストさんは……きっと惑わされちゃったんだろうね。
私も、もっと頑丈にしてあげればって思ったもん。
でも、それよりも前のアドバイスにあった「唯一無二の」っていう、あれば再錬成の為の真実だったんだ。
ね、そうでしょ?
お兄さんを見ると、にっこり笑顔で頷いていた。
「最初にかける言葉はなんだい?」
そう笑顔で質問され、私は今錬成し終えた光に向かってこう声をかける。
「おかえり、ラプトルさん」
〔あぎゃ〕
光が収まり、そこに現れたのは――まぎれもなくラプトルさんだったん。
「きゃあぁぁぁぁっ、ラプトルさあぁぁぁぁん」
〔あっぎゃあぁぁっ〕
「ヴェ……ヴェルさん……」
ヴェルさんはタックルに近い強烈なハグをし、更に頬ずりしまくり。
ラプトルさんは助けを求めるように私を見つめる。
うん。いつものラプトルさんだね♪
〔あぎゃあぁぁぁっ〕
困惑するラプトルさんを、ヴェルさんがぎゅうっとハグ。
私も……と思ったけど……あ、れ。ラプトルさんとヴェルさんの姿が滲んで見えるんだけど。
「おめでとう。君が初めて再錬成に成功したアルケミストだよ」
お兄さんの笑顔も滲んで見える。
私が……再錬成に成功した初めてのアルケミスト。
つまり、これまでホムさんを生き返らせたアルケミストさんは居ないってこと。
ラプトルさんは生き返ったけど、他のホムさんは生き返れなかったってこと。
そんなの……そんなの……。
「ぅぇぇぇん……」
〔あぎゃっ〕
「え、ミントちゃん? え? えぇ? な、泣いてるのかい?」
「うえぇぇぇん」
死んでしまったホムさん、助けられなかったアルケミストさんの事を考えると悲しい。
生き返ったラプトルさんの事を考えると嬉しい。
再錬成の素材を覚えてて良かった。
間違えなくて良かった。
ホムンクルスのお兄さんの言葉を、間違った解釈しなくて良かった。
悲しいと嬉しいと良かったという気持ちが混ざり合って、どうしていいか分からないけど、涙が止まらない。
「今まで死んじゃった、ヒック、ホムさんの事とか、アルケミストさんの事とかぁぁぁぁん」
あたふたするヴェルさんに、なんとか気持ちを伝えようとするけど……上手く話せない。
そのうちヴェルさんの目にも涙が浮かんで――。
「うん、うん。君は優しい子ね。他のアルケミストの為に泣いているんだね。ありがとう……ありがとう」
ラプトルさんを解放したヴェルさんは、今度は私をぎゅっと抱きしめてくれた。
そして小さな声で、ヴェルさんがくろーずどべーたっていうテストプレイの時に、アルケミストだった事を話してくれた。
「私ね、ホムが強くて、それが嬉しくて……無茶しちゃった。無茶して、初めて錬成した子を死なせてしまったんだ」
「……うわぁぁぁん。ヴェルさぁぁぁぁん」
「うん、うん。ありがとね」
お兄さんは言った。
再錬成に成功したのは私が初めてと。
つまりヴェルさんは……失敗したってこと。
ヴェルさん、だから知ってたんだ。
お兄さんがエンブリオの蘇生が出来る事を。そして再錬成という試練を。
ホムさんの死が辛くて、だからヴェルさんはアルケミストを辞めたんだって。
じゃあ、ここに来るのってきっと辛いはず。
それなのに、ラプトルさんの為に案内してくれて……。
「ヴェルさぁぁん」
「あぁ、もう。そんなに泣かないでよ。ね?」
「だって、だってぇぇ」
ヴェルさんも泣いてるじゃないかぁ。
お互い慰め合うようにぎゅっとすると、突然横に黄色い服の男の人が湧いた!?
「何か問題が発生しましたか!?」
それは、頭の上に『GM』と書いた看板を刺した、黄色いタキシードのゲームマスターさんでした。
「出たっ。黄色い変態!」
「へんたっ。ひ、酷い」
ヴェルさんの一言で打ちひしがれるゲームマスターさん。
だけどすぐに立ち直り、辺りをきょろきょろし始めた。
「えぇっと、感情パラメーターに異常が発生したようなので、問題解決の為に参上したのですが……何故泣いていらっしゃるのですか?」
「パラメーター?」
「えぇ。プレイヤーの感情が高ぶった際……まぁ簡単に説明しますと、今回のように泣いていらっしゃったり、激怒している状態ですと、プレイヤー同士の揉め事などが発生しているかもと判断し、GMが現場に赴くシステムになっておりまして」
私が泣いたから、ゲームマスターさんが来たの?
私、ゲームマスターさんにまで迷惑かけちゃったよぉぉ――。
「ふえぇぇぇぇん、ごめんなさぁい。うえぇぇぇん」
「あっ、いや、あの、その。な、泣いている理由は、その……」
「あんたたちのせいよっ。ホムの死亡システムなんて作ったから。作ったりするからぁぁぁ。あぁぁん」
「えぇぇぇ。ふ、二人してぇ〜っ」
困って叫ぶゲームマスターさん。
私とヴェルさん、そしてゲームマスターさんの声が聞こえたのか、一階に居たんだと思う他のアルケミストさんが階段を上がって来た。
「え、ゲームマスター?」
「黄色いタキシードのあれが?」
「ちょ。ゲームマスターが女二人を泣かしてるぞっ」
「え、なんで運営がプレイヤーを?」
「ち、違います! 私じゃないですってば」
「おぉーい! ゲームマスターがプレイヤーの女の子二人を泣かしてるぞぉ〜っ」
そのうち、アルケミストさんじゃない、他のプレイヤーさんもどんどん集まってきて……。
その後の事は、正直よく覚えていない。
たくさん人が集まって来て、その中にヴェルさんみたく、前はアルケミストをやってたって人が居て。
その人の話を聞いては大泣きし、その元アルケミストさんとも一緒に泣いて……。
ただ、困った顔のゲームマスターさんが、
「正式サービスでは、貴女が泣かなくて済むように尽力しますから。だから泣かないで」
そう言ってすぅっと消えたのだけは覚えてる。
お読み頂きありがとうございます。
ブクマ評価増えるとお腹の調子も良くなると思います。
*活動報告にその謎の解明が。
カクヨムでも公開中。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054887678483




