36:私……
「早くっ、早くミント!」
「ま、待ってヴェルさん。アルケミスト協会で、何をするんですか?」
手を引かれてファネスの町を走らされる。
その道はまっすぐアルケミスト協会に向かっているのは分かるんだけど……行ってどうするの?
「ホムンクルスは戦闘不能になると、それはすなわち死を意味する。プレイヤーの戦闘不能とは違う。セーブポイントに戻っても復活しない」
「知ってますっ。ホムンクルスのお兄さんに教えて貰いました……」
だから、ラプトルさんは戻ってこない……死んだなんて思いたくないけど、私があの時もっと無理やりにでもエンブリオに戻していたら――。
「でもね、一つだけ復活させる方法があるんだよ」
……。
「え?」
方法が……ある?
「クローズドベータでも、誰も成功させてない方法なんだけどね。あるんだよ」
「ど、どんな方法ですか!? 私、なんでもしますっ。教えてくださいっ」
「まずは協会のホムンクルス担当NPCの所に行かなきゃね。ホムが死亡して時間が立ちすぎると、復活そのものが出来なくなるから」
あのお兄さんがラプトルさんを生き返らせてくれるの!?
時間制限付き?
じゃあ、急がなきゃ!
「わっ、お、急に早く――」
「急いで、ヴェルさんっ」
ヴェルさんの手を引いて走り出したけれど、目的のアルケミスト協会はすぐ目の前だった。
そのまま二階へと駆け上がり、ホムンクルスのお兄さんを目指す。
「お兄さん! ラプトルさんを――ラプトルさんを生き返らせてっ」
「エンブリオの再生を――」
私とヴェルさんが別々に訴えます。
お兄さんは私たちを交互に見て、まずヴェルさんに、
「あなたはアルケミストではありません。エンブリオの再生は不可能です」
と告げた。
そして私に、
「ホムンクルスを生き返らせることは、僕には出来ません」
「そんなっ」
「ミントちゃん、エンブリオの再生依頼をして」
「え? エンブリオの再生……お願いしますっ」
その言葉が正しかったのか、お兄さんは私を見て幾つかの条件を付けてきた。
「まずエンブリオの再生は100%成功するものではありません。ホムンクルスが死亡して、三十分経過すると不可能になります。時間は――大丈夫ですね」
「早くお願いしますっ」
「時間内であっても成功確率は低いんです。更に再生費用として一万Rを頂きます」
「い、一万!?」
「え、クローズドでは無料だったのにっ」
ヴェルさんも驚いて声を上げる。
一万なんて……そんなお金、無いよぉ。
「アイテムの買取も行っています。それで足りなければ諦めてください」
「アイテム……」
売れる物は全部売っちゃおう。
「ミントちゃん、ポーション貸して。すぐに売りさばいてくるから。あと私の分のドロップアイテム預けるから、それを売却して。あとね――」
ラプトルさんを錬成するのに使った素材は、残しておくように。
それだけを言い残してヴェルさんはポーション瓶を持って足早に出て行った。
残された私はアイテムボックスの中身をどんどん売っていく。
余っていたエンブリオ――250R。
空のポーション瓶――5R。
ドロップアイテム……ラプトルさんの錬成に使った素材。
私、ちゃんと覚えてるもん。
『草原ザウルスの皮』十五個。
『草原ザウルスの爪』二個。
『一角キャンサーの角』一個。
『硬い甲羅』五個。
『ふわふわな毛』二個。
ヴェルさんから預かったアイテムの中に『ふわふわな毛』以外全部揃ってた。『ふわふわな毛』は私が持ってたし、これで大丈夫。
エンブリオの再生ってことは、それをまた錬成すれば良いってことなのかな?
だったら――もう二度とラプトルさんが死なないように、もっと頑丈になって貰った方がいい?
『硬い甲羅』を増やした方がいいのかな。それとも『草原ザウルスの皮』のほうがいいのかな。
「お待たせミントちゃん! その辺歩いてる連中に売りつけてきたよっ」
「う、売り付けて……う、ううん、今はラプトルさんの為だもん」
ヴェルさんから受け取ったお金は4000Rちょっと。
アイテムを売って集まったお金も同じぐらい。
足りない……あと1000Rぐらい足りない!
あと売れる物は――。
武器のリボンは壊れちゃったから無いし、じゃあ、防具!
貰いものだけど、後で二人に謝っておこう。
「これとこれも買い取ってくださいっ」
「合わせて1583Rだよ」
「お願いしますっ」
「え、ちょ! ミントちゃん、防具売ったのっ。もうOKしちゃった? 待って、私が――」
「再生、お願いしますっ」
「あぁぁぁぁっ。取引完了させてるしぃぃっ」
だって一秒でも早くラプトルさんに生き返って欲しいんだもん。
一万Rをお兄さんに渡し、早く早くとお願いする。
「もう一度言うけど、100%成功するとは限らない。成功したとしても、その後、エンブリオを使って再錬成しなきゃならない。つまりホムンクルスの蘇生には二段階の成功判定があるという事。いいんだね?」
「はい!」
だってやらなきゃ、そもそも生き返るチャンスすら無いってことなんだから。
ここはやる以外の選択肢なんて無いでしょ。
「じゃあ……まずあ第一関門。エンブリオの蘇生を行うよ」
お兄さんが私の頭に手を乗せ、何かぶつぶつと呟く。
何を言っているのかほとんど分からなかったけど、何故かラプトルさんの事が頭に浮かんだ。
ヴェルさんにぎゅうってされて困ってるラプトルさん。
風のように疾走して、モンスターを攻撃するラプトルさん。
迷子になった私に帰り路を教えてくれるラプトルさん。
手作りの花冠を嬉しそうに被ってくれるラプトルさん。
また……一緒に冒険……したいな。
そんな私の中のラプトルさんの記憶が、どことなく吸い取られるような感覚になって――それから――。
ものすごく眩しくなって、ぎゅっと目を閉じた。
段々とその光も弱くなっていくのが閉じた目でも分かったので、そぉっと開けてみる。
私の目の前には、宙に浮かんだオレンジ色の球体が……。
「成功……したんですか?」
「うん。エンブリオの再生には成功したよ。さぁ、次の段階だ」
ごくりと息を飲んで、ぷかぷかと浮かんだエンブリオを手にする。
「ここで失敗すると、もう二度とホムンクルスは戻ってこないからね。慎重に。そしてよく考えて」
お兄さんは私の目をじっと見つめ、こう言葉を続けた。
「忘れないで。君が失ったホムンクルスは、唯一無二の存在であることを。この世に二つとない、エンブリオであることを」




