35:私たち、番人を倒しました…でも
「レッツ『錬成』!」
手持ちの材料で作れそうなリボンを錬成。
正直、さっきまで使ってたのと比べると、あんまり頑丈そうではないけど……。
「30%、来るよ!」
ヴェルさんの声が上がり、慌てて「えいやっ」ってリボンを投げる。
まずは前足にリボンを絡めて、それから――えぇっと、棒ごと投げればいいんだよね?
〔ブッギャァアァァァッ〕
どどどどっと走ってくる番人に向かってリボンをぽーんっと高く投げつける。
そして見事にリボンが両前足に巻き付いた!?
やったぁ♪
「でかした、ミントちゃん! はぁぁっ『紫電っ』」
〔おぉぉぉぉんっ〕
ヴェルさんとワンワン王くんが攻撃を開始すると、ラプトルさんもなんとか必死に立ち上がろうと――。
「ちょっと、ラプトルさんダメだってぇ。エンブリオの中に戻りたくないのなら、せめてじっとしててっ。私が代わりに頑張るから」
と言ったものの、武器が無い。
せめてアルケミストにも攻撃スキルがあったらよかったのに。
どうしてアルケミストには錬成スキルしか無いのぉ。
錬成だけで何でも出来る訳じゃ……錬成……。
ううん。錬成スキルしかないなら、錬成スキルで攻撃から防御まで、全部やっちゃえばいいのよ!
出来るもん。
だって、アルケミストなんだから!
辺りを見渡し、手ごろな石を見つけたら錬成陣用紙の上に置く。
「レッツ『錬成』!」
イメージしたのはラバークラブ――の石版!
これなら使い慣れてるし、石なら投げて攻撃にも使えるもん。
完成したラバークラブは物量1の、ほとんど実物と変わらない大きさ。
ただし石。
回転させ、弧を描くように投げると、狙った頭にヒット!
ちゃんとダメージ出てる、よかったぁ。
新体操辞めて暫く経ってるから、ほんと言うとちょっと自信なかったんだ。
「錬成を攻撃に!? アニメじゃないんだから、そんな使い方出来ないと思ってたけど」
「でもこれ、ゲームですよ。アニメと変わんないんじゃないですか?」
「ま、まぁ、そう言われるとそう……かも?」
「です♪」
でも……。
石一つでクラブ一本。
もっと。もっと錬成しなきゃ!
幸い石はたくさんからまとめて錬成して、どんどん投げちゃおう。
あ、もしかしてこれ、応援しながら投げられるんじゃ?
『応援』ダンスの中には、何度も屈むシーンがある。そのタイミングでクラブを拾い、そして体勢を戻すときに投げる!
「ミントちゃん。器用な事するねぇ〜。よぉし、ワンころ、行くよ!」
〔おぉん!〕
ヴェルさんとワンワン王くんが駆け出す。
私はダンスしながらクラブを投げ続ける。
一本もミスは許されない。一本も!
あともう少し。
番人のHPはほとんど黒くなって、残りほんの少しだけ赤いラインが残ってる。あれが全部黒くなれば――。
手元のクラブが無くなっちゃったから、また錬成しなきゃ。
まとめてやってる時間も無い。あともうちょっとなんだもん。
錬成しては即投げ、また錬成しては即投げ――はぅっ残り錬成陣用紙が十枚に!
お願い、なんとか足りて!
残り九枚――八枚――七枚――六枚。
ヴェルさんとワンワン王くん二人の攻撃もずっと続いてる。
パーティー欄から分かる。ヴェルさんもスキルをずっと使い続けてて、MPが残り少なくなってるのが。
残り五枚――四枚――お願い、早く倒れて!
番人のHPバーは、私の目から見るともう真っ黒なのにっ。
三枚――二枚――嘘、やだっ。
これが最後!
「お願いっ『錬成』!」
パンっと紙に添えられた両手に力を込め、今までの石の中じゃあ一番大きいやつをクラブに錬成。
普通のラバークラブの五倍ぐらいの大きさになっちゃったけど、両手でえいやって投げれば!
「うぅぅぅぅえぇいやっ!」
弧を描くことなく、真っすぐ番人に飛んで行ったストーンクラブ。
番人の足に絡まっていたリボンを掠めて命中!
その拍子にリボンが切れちゃったけど、大丈夫だよね?
もう倒せてるよね?
見上げた番人は未だに倒れないし、光になって消えようともしない。
そればかりか、鼻息を荒げて私を見下ろしてるし。
「ミントちゃん、下がって!」
ダメ。下がれない。
下がればラプトルさんが居るんだもん。
「ミントちゃん!?」
「早く倒れてよぉっ。早く、早くっ!」
両手で必死に番人を殴るけれど、非力な私だと1しかダメージを出せない。
それでも殴り続けるんだもん。
早く終わらせて、ラプトルさんには安心してエンブリオに戻って貰わなきゃ。
〔ブッゴオォォォォッ!〕
前足がガシガシと地面に打ち付け、猪突猛進の動作に入った番人。
早くっ、早く倒れてえぇっ!
次の瞬間――
拳を突き出す私の頭上を、小さな何かが飛び越えていった。
〔クァッ〕
ダメ……行っちゃダメッ。
見上げた私の視界に、番人の眉間に鋭い爪を立てるラプトルさんの姿が――。
もがく番人。
「止めてっ。もう倒れてよぉっ」
〔あぎゃっ――〕
短い悲鳴。
宙を舞うラプトルさん。
番人はその牙で宙を舞うラプトルさんを仕留めようとしている。
「止めてっ!」
「いい加減、死になっ!」
私の拳が――ヴェルさんの蹴りが――。
そのどちらが決定打になったのか分からないけれど、番人はようやく激しい音を立てて倒れた。
「ラプトルさんっ」
地面に叩きつけられたラプトルさんの下に駆け付け抱き起こす。
大丈夫だよね?
「ラプトルさん」
どうして? 呼んだらすぐに返事してくれてたでしょ?
「ラプトルさん?」
目を開けないの?
「ラプトルさん!?」
どうして……どうして透明になっていくの!?
【『草原のファネス01』エリア番人が討伐されました】
【これより三十分間、『草原のファネス02』エリアへの道が解放されます】
「ねぇ、ほら。私たち頑張ったんだよ。頑張って番人倒せたんだよ。三十分以内に向こうのマップに行かなきゃ、また番人が出て来ちゃうんだよ。早く起きてよ、ラプトルさん。消えちゃダメだよ。ねぇ、ねぇっ」
「ミントちゃん……ごめん。私のせい。強引に誘った私のせいで……」
「ううん。そんな事ないです。だって、誘って貰えたの嬉しかったし。ラプトルさんだって嬉しかったはずだもん。ね、そうでしょ?」
でも答えてくれない。
薄くなって、光になって、そして空に舞い上がっていく。
ダメ、行かないで。戻ってきて!
「ミントちゃん……行こう」
嫌。
「今すぐ行かなきゃ!」
「嫌っ。ヴェルさん行ってください」
「私が行っても仕方ないんだよ。君が行かなきゃ!」
どうして私が?
「ファネスの錬金術師協会に行って、ホムンクスル担当者の所に行くんだよ!」
「アルケミスト……協会?」
「そう。早く! 帰還押してっ」
言うが早いか、ヴェルさんはすぅっと消えてしまった。
アルケミスト協会でどうするの?




