1:私、錬金術師になります!
「げっ。なんだよ、地雷じゃねえか」
一年前の人生初となるVRゲームで、初めてのパーティーで言われた言葉。
誰かの迷惑にはなりたくない。
そう思って、私の人生初のVRゲームは僅か一週間で終わった。
これが約一年前の事。
「キャラクターの容姿はこれでよろしいですか?」
薄暗い空間に機械的な女の人の声が響く。
ここは新しく「おーぷんべーた」というのが始まったVRオンラインゲーム『フロート コンティネント オンライン』のログインサーバー。
「は、はい。でも……ちょっと美化し過ぎですかね?」
目の前に置かれた、この空間に唯一置かれた大きな鏡に映っているのは、今作ったばかりの私のアバター。
髪は長くツインテールにし、ふんわりリボンで結びました。
現実でも長い髪をツインテールにしていたりするけど、アバターの方は実際よりも長く、膝あたりまで伸ばしてみた。
色は青紺。
ファンタジーなんだしと、赤だの水色だのオレンジ色だのにしてみたけど、なぁんとなく恥ずかしくなってやめちゃった。
でも黒だと味気ないし、だから青紺に。 少しだけ青よりにしてみました。
目の方もやっぱり黒だと味気ない。髪と同じ色にしてみたら、なんだか全体的に黒っぽく見えたからここは思い切ってオレンジにしてみました!
出来上がったのは、俗にいう美少女系……。
現実の容姿を元に、綺麗なCGアニメっぽく加工されたグラフィックではあるんだけど。私、こんなに可愛くはないと思うんだけどなぁ。
「VRギアに内蔵された小型カメラの撮影による容姿を、ゲーム用にデフォルメ加工したものです。どのユーザー様も行っている程度の加工レベルですので、美化というほどでもないかと」
「ほえぇ。そ、そうなんですか」
今私は、人生二度目となるVRゲームを始めようとしている。
名前を決め、そして外見も決まったわけだけれども……。
人生初のVRゲームを僅か一週間で終わらせた私が、何故二度目のVRに挑もうとしているのか。
それは――
志望校にも合格し、入学式まで約三週間。
暇だからっ。
更に私をVRに駆り立てたのは、卒業式当日、クラスメイトの男子が話していた新作ゲームの内容。
なんと、モンスターを仲間にすることで、他のプレイヤーさんとパーティーを組まなくてもやっていける職業が二つもあると!
しかも、二つのうちの一つはポーションを作ってお店屋さんをやったりも出来るって。
これなら人に迷惑掛けることなく冒険も、人との交流も楽しめるよね。
「容姿の変更を行いますか?」
「え……あぁ……いいです」
髪の色と目の色で散々悩んだんだもん。
周りから浮いてるようならと思ったけど、そうじゃないっていうならもう弄りたくない。
「では続きまして、職業を選択してください。各職業の説明を聞きますか?」
「いいえ。もう決まっているので大丈夫です。私がやりたいのは――」
他の人とパーティーを組まなくても一人で冒険が出来て、ポーションを作ってお店屋さんも出来て――。
「錬金術師です!」
モンスターを仲間に出来るのは魔物使い。
でもテイマーだとお薬は作れないんだよね。
で、クラスメイトの男子が話していたもう一つの職業が、このアルケミスト。
錬金術でホムンクルスを作って、そのホムンクルスと一緒に戦闘が出来る。
その錬金術でポーションも作れたりするから、お店を開ける、と。
可愛いお店を建てるんだぁ。
丸太を組んだログハウスみたいなのを。
それで、お花を飾ったり大きな猫のぬいぐるみを招き猫代わりに置いて――えぇっと、ぬいぐるみ、あるのかなぁ。
「アルケミスト……で本当によろしいですか?」
「はい、よろしいです」
「……本当に?」
「は、はい……」
こういうのには確認がつきものみたいだけど、二度も聞かれるものなのかな。
いや、もしかして。
冒険も生産もどっちもやれるハイブリット職のアルケミストが多すぎて、他の職業をやって欲しいとか、そういうのだったりするのかも!?
ふふふぅ〜♪
そんな言葉で自分の意思を曲げたりしないんですからねぇ。
「断固としてアルケミストです!」
「……職業、アルケミストで決定いたします。ではアビリティを五つお決めください」
「あ、そこはその……お勧めってありますか?」
実はこのゲーム、他のゲームにあるようなステータスというものが無い。
それもこのゲームを選んだ理由でもあるんだけど……でもアビリティという物で結局悩むんだよね。
「武器アビリティを選択する事で、該当武器使用時に攻撃力補正が掛かるようになります」
「武器アビリティかぁ。あの、アルケミストが装備出来る武器って何がありますか?」
「片手剣、短剣、鈍器、それと鞭がございます。よろしければ先にチュートリアルを行いますか? 使い勝手も重要になりますから」
「そうなんですか?」
「はい。戦闘行為は現実のユーザー様の運動能力にも左右されるところがございます。もちろんシステムでカバーできる部分もございますのでご安心ください」
うん。じゃあチュートリアル、やってみようかな。
ナビゲーターさんにお願いすると、何も無かった空間が歪んで草原になった。
私の目の前には緑色の肌をした小さな子供が立っている。
でもこの子……牙が生えてるし頭に毛は無いし、顔もちょっと……。
服装もヤバそう。
腰布だけって、今時こんな格好で歩いてたらお巡りさんに叱られちゃうよ。
「ゴブリンでございます。これと戦闘を行って頂きますが、通常の攻撃力の半分ほどしかございませんので、ご安心ください」
「はわっ。これがゴブリンさん!?」
ファンタジー定番のやられキャラだっていうゴブリンさんっ。
本当に緑色なんだぁ。わぁ、感動だぁ。
やられキャラだけあって、手にしている武器が木の枝ってのはさすがにちょっと可哀そう。
それからナビゲーターさんに言われて、片手剣、短剣、鈍器、そして鞭の四種類の武器を使って戦闘をしてみた。
結果――
「片手剣、短剣、鈍器での戦闘は、ワタクシの予想を遥かに超えて……その、なんと申しましょうか」
「い、いいの。自分でも分かってるから」
「左様でございますか。では正直に申し上げましょう。壊滅的にヘタレです。というより、恐らく直接斬る殴るというのが苦手なのでございましょう」
あぁ、そうかもしれない。
いくらゲームとはいえ、なんか斬った殴ったって感触が伝わってくるんだもん。
どこを殴ったら痛くなくて済むかなぁとか、モンスターの攻撃はいつ来るんだろうとか考えるとあたふたしちゃって……。
「遠中距離攻撃向けなのでしょう。鞭は中距離武器ですし、それ以上にユーザー様の適正が高いように思えます。現実でも鞭をお使いになったことが?」
「え、む、鞭……」
――おぉ〜っほっほっほ。女王様とお呼びぃ〜!
「ま、待ってっ。私、女王様じゃないから。普通の女子中学生ですからぁ〜」
「女王様……」
「はうぅ〜、違うんですってばぁ」