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ロード・オブ・佐賀  作者: うさみみ軍曹
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【第一話】チェリーボーイ・ミーツ・ヨシノガリ


 業火に巻かれた家々が、黒い灰に変わって行く。逃げ惑う人々、敗走する兵達。ーーそう、我々は負けたのだ。

 ずるずると巨躯をうねらせ、全てを飲み込む災厄。盲目の巨大(うなぎ)・土石竜ワラ=スーボは、ずらりと並んだ牙を見せ付けるように大口を開け、俺を丸呑みにした。


「ああ、畜生……。」


 優しかった母上、聡明であった父上、勇敢だった兄上。みんなみんな、呑まれてしまった。俺は何もーー守れなかった!

 唯一守れた物といえば、童貞くらいだ。いや、卒業しようとしたさ。金に物を言わせて、夜の街で綺麗所とベッドインしたまでは良かった。

 あの麗しい美女の顔にかけられた整形魔術が、溶けていなければ。……今頃俺は、立派な男として。くそっ。あの店、俺が王位を継承したら真っ先に摘発してやる!

 化け物の腹の中で、後悔と絶望と、諦め切れない思いが渦を巻く。がむしゃらに藻掻(もが)いて腰の剣に手を掛けると、俺は最期の力を振り絞り叫んだ。


「ただの一度でいい!もう一度!あと一度!ーー俺に、チャンスを!!童貞のまま死ぬのは嫌だぁああっ!!」


 薄れ行く意識の中、焼け落ちた故郷の街並みと、あの日抱くはずだった理想の美女の顔が、いつまでも脳裏で(くすぶ)っていた。


 ーー暗い海に沈むような、孤独と冷たさに流される。水面は遠く、体はどんどん重くなって行く。

 ふと手を伸ばした先に、巨大な鏡が現れた。そこには、緑豊かな見知らぬ土地が映し出されている。その景色はじわじわと周りを吸い込み始め、遂には俺の体を引き寄せて。

 俺の意識は、そこで途絶えた。



 あたたかい。柔らかく、あたたかな何かに包まれる感覚が心地好い。

 俺は、死んだのだろうか。そうか、ここは天国か。ふわふわと良い気分を堪能していると、バシバシと顔をはたかれて飛び起きた。


「お兄さん!大丈夫ですか!!アーユーオーケー!?」

「痛い痛い!!何だ!!」


 ぼんやりとしていた意識が、激痛とともに覚醒する。どうやら俺は生きているらしい。

 鮮明になった視界一杯に広がる、豊かな乳。なんだ、やっぱり天国じゃないか。服の生地をはち切れんばかりに膨らませた乳のせいで、書いてある文字は最早原型をなしていない。

 たゆんたゆんと揺れる巨乳を鑑賞していると、横たわる俺の頭を膝に乗せた娘は、なおも顔をはたき続ける。


「大丈夫ですか!救急車呼びますか!!ジャパニーズアンダスタン!?」

「痛い!クソっ!やめろ!……大丈夫だ!!」


 なんだこの娘は。下から見上げるとろくに顔も見えない大きさの乳を見るに、エルフ族ではなさそうだ。ドワーフの亜種だろうか。

 いやそれにしても。見事な乳にむっちりとした白い太股(ふともも)が眩しい。我がエルフ族の女は、顔立ちは美しいがどこも膨らみに欠けるのが難点だ。

 そんなことを考えている場合ではない。後頭部の柔らかな感触は名残惜しいが、いい加減起きなければ。よっこいしょ。


「ああ、よかった!お兄さん、ここで倒れていたんですよ。覚えてますか?」


 ビリビリと痛む頬をさすりながら身を起こして、俺は息を飲んだ。


 ……一目惚れって、本当にあるんだな。


 先ほどまで俺に膝枕をしていた巨乳娘の顔は、あの日俺が童貞を卒業するはずだった美女に瓜二つだったのだ。いやむしろ、化粧もなく幼い印象のこちらの娘の方が、数倍は可愛い。あとおっぱいがデカい!

 俺は急に恥ずかしくなり、しどろもどろになりながら目を泳がせる。とにかく、お礼を言わなくては。


「だっ……!なっ……あっ……!」


 緊張のあまり、ありがとうの一言が言えない。美少女への免疫のなさ(ゆえ)の、悲しき童貞の(さが)である。


「金髪に(みどり)の目……やっぱり、外国の方ですよね?観光ですか?」


 艶やかで長い黒髪をさらりと揺らしながら、澄んだ瞳の美少女が俺の顔を覗き込む。


「あっ、いや……その!よく分かんないけど、助けてくれてありがとう!」


 早口でお礼を述べて、辺りを見回すふりをして目をそらす。

 見慣れない土地だが、ここは集落のようであった。木と藁で組まれた、粗末な造りの住居が立ち並んでいる。

 どうやら、かなりの僻地らしい。王都で化け物に呑まれた後、どこぞの田舎に落ち延びたのだろう。


「あの、乳っ……じゃない。お嬢さん!ここはどこでショウ!」


 いかん、乳にばかり目が行ってしまう。その上いまだに緊張が解けず、どう見ても挙動不審だ。


「ちち……?ここは、吉野ヶ里公園です!お兄さん、日本語お上手ですね!」


 娘は外国人らしき俺に気を遣ってか、とても親身に接してくれる。ああ、なんていい子なんだ。

 それにしても。ヨシノガリ=コーエン。知らない地名だ。もしや、国境を越えてしまったのか。娘は嬉しそうにヨシノガリの歴史を語り出したが、何を言っているのかさっぱり分からない。でも、笑顔は可愛い。

 そうだ、名前が知りたい。俺は深呼吸をしてから、できるだけ爽やかに自己紹介をした。


「俺の名は、ヨカト。エルフ王国の王子です!」


 キラキラ、シャララーンと、光のエフェクトがかかり優雅な効果音が聞こえるようだ。やだ、鏡の前で夜な夜な練習した俺のスマイル、完璧すぎ?

 ーーそう、王子!王位継承権が今のところ兄上にあろうとも、俺の顔がエルフにしてはそこそこの美しさでしかなくとも。その上童貞だろうとも、王子は王子なのだ!

 いや、待て。急に身分を明かして、警戒されたらどうしよう。もしかすると、ここは王国と敵対している国の領土かもしれない。そうなれば、俺は引っ捕らえられて、拷問の上(さら)し首?父上母上、俺は世継ぎを残すことなく死んで行くダメ王子(プリンス)なのでしょうか!?

 軽率な発言を後悔しつつ、娘の顔を(うかが)う。すると、少々頭のゆるそうな娘は、ふわふわと微笑み俺に救いの手を差し伸べた。


「わぁ、王子様だったんですね!私、吉野里子(りこ)って言います!」


 嗚呼(ああ)……!森羅万象の神よ、ありがとう!俺は見事、晒し首を免れました!

 リコ……いい名だ。確か古代エルフ語では、希望とか、光とか、そんないい感じの意味を持つ言葉だった気がする。女神のようなこの娘にぴったりじゃないか!


「いやー、王子様って初めて見ました!やっぱり王族の墓って大きいんですか?副葬品は何ですか!」


 リコはまたもヨシノガリの話に花を咲かせている。よほど自分の郷土が好きなのだろう。我が国の領民にも、こうあってほしいものだ。

 それにしても、やはり良い乳をしている。助けられた恩もあることだ、王都を奪還した後に、側室に迎えてはどうだろうか。そうすれば、夢のボインボインでバインバインなライフがスタートだ。うへへ。

 ……いや。エルフたるもの乳に惑わされることなかれ、と兄上も言っていた。今は、王都に戻ることを考えねば。


「王子様ってことは、あそこにいるお姫様みたいな子とお知り合いですか?」

「ん……?」


 リコの指差す方を見ると、我が許嫁(いいなずけ)スイ=トートが鬼の形相で弓を引き絞っていた。


「ヨカト様の、裏切り者!!浮気者!!サイテー!!死ねー!!」


 怒号とともに連射された矢が、恐ろしい精度で眉間と心臓に向かって来る。俺はとっさに剣を抜こうとしたが、腰に伸ばした手は虚しく宙を(かす)めた。


「おや……?」


 剣が、ない。我が父より賜りし聖剣、エルフカリバーはいずこへ。このままでは、浮気の果てに許嫁に射殺(いころ)された王子という、恥ずかしい歴史の1ページに俺の名を刻んでしまう。


「王子、これを使ってください!」


 やんわりと死を覚悟していた俺に、リコが細長い金属を投げて寄越した。


「これは……!?」

「細形銅剣のレプリカです!本物は吉野ヶ里遺跡の墳丘墓から1991年に出土しました!」


 何だかわからんが、助かった!俺はホソガタ=ドーケンとやらで間一髪矢を弾き、一命を取り留めた。しかし、スイの怒りは収まらない。


「私という者がありながら、よその国の乳デカ牛女に手を出すなんて……!やっぱり巨乳が好きだったのね、ヨカト様のウソつきー!」

「待て、誤解だ!落ち着けスイ!」


 嘘ではない、決して嘘ではないんだ。巨乳は堕落の象徴であり、品のある慎ましやかな胸……貧乳もとい、品乳こそが至高であると言ったのは嘘ではない!

 だが、俺は知ってしまったんだ。巨乳という名の、禁断の果実の味をーー!

 一度現物を目の前にしたが最後、男としての本能とか何かそういうのにダイレクトに訴えてくる、恐ろしき巨乳の魔力。ぱふぱふの魔力の(とりこ)にならない男など、いるだろうか!(いや、いない!)


「大丈夫だ!お前は胸はなんかアレだが、顔は美しいと評判だ!必ずや嫁の貰い手が……」

「うるさい、うるさーい!奥義、五月雨(さみだれ)打ち!」


 天高く放たれた無数の矢は、五月雨などという可愛い名称に反して土砂降りのように降り注いだ。


「ヨカト様なんて、一族で一番カッコ悪いくせに……!この不細工エルフ!」

「ーーぐっ、黙れ!俺の容姿はそこそこ美しいわ!」

「嘘よっ!私、知ってるんだから!」


 スイはありったけの矢を打ち切ると、わんわん泣き出した。


「幼い頃から美しいお母様やお兄様と比較されて、醜いアヒルの子って呼ばれて!」

「ぐっ……。」


 俺の心に、50のダメージ。


「どれだけ美容に気を遣っても、城の兵士やメイド達には雰囲気イケメンと揶揄されて!」

「ぐああっ……!」


 何それ、知らなかった。

 俺の心に100のダメージ。


「それでもカッコよくあろうと無駄な努力を惜しまない、馬鹿なヨカト様なんて!……私くらいしか、婿の貰い手がないんだから!うわああん!」


 泣き崩れるスイに、リコが慌てて駆け寄る。

 親同士が勝手に決めた許嫁なんていう、腐れ縁ではあるけれど。なんだかんだ言って、あいつの事は心配なんだ。俺が守ってやらないとな。……しかし。


「スイ……お前。」

「ヨカト様ぁ……。」

「お前……言い過ぎだ。ぐはっ。」


 そう、俺はメンタルが弱い。スイの度重なる暴言に、心はもうボロボロだった。散々矢を弾き切った体も、疲労困憊。()ちそうにない。

 それでも俺は。夕陽を背にできる限りのイケ顔を保ちながら、ヨシノガリの地に優美に崩れ落ちた。





~続く~


【おまけ】


各キャラクターのイメージイラストです。

萌え絵が描けなくてもどかしいです。

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

皆様初めまして、うさみみ軍曹です!

本作をお読み頂きありがとうございました!


小説は初めて書くので、遅筆だったり

勝手がわからなかったりしますが、

次回もぜひよろしくお願い致します!

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