笑い逢う天使と魔族 下
■ 嘘をついた日
突然 暗闇が星を覆いました
黒い尾を引く流星が 再び舞い降りたのです
粉々に砕かれたはずの流星が 再び現れたのです
星のすべてを 無くすために
神は 死力を尽くして 善戦しているようでした
しかし 流星の力が弱まることはなく
いつしか 神がその戦いに押され始めたのです
明星の魔族は 堕ち行く星を悲しみながら 呟きました
『魔王』その人がここにいれば… と
歌姫は 明星の魔族の言葉に 笑いかけました
それなら 魔王を呼びましょう と
明星の魔族は 歌姫の言葉に 驚きました
けれど 魔王は星深くに封じ込められているのに と
歌姫は 明星の魔族を連れたって言いました
私たちなら 彼を呼ぶことができるから と
二人は 星の奥深く 巨大な門の前に降立ちました
そこは 南の守護者が閉じ込められている場所
決して開くことのないように 幾重にも 鎖がかけられた巨大な門
明星の魔族は 落胆するように 息をつきました
これは 神が施したものだから と
決して外れることのない鎖に 彼女は悲しんだのです
歌姫は それに笑いかけました
私の歌声は 全てを無くすことが できるのよ と
決して外れることのない鎖は 彼女には無意味だと言いました
明星の魔族は 歌姫の言葉に 驚きました
けれど あなたは 大丈夫なのか と
神が施した鎖を外すことで 友の身が心配になったのです
歌姫は 明星の魔族と門の前に立って言いました
もちろん 私たちなら 大丈夫よ と
歌姫の 屈託のない笑顔は 明星の魔族の不安を吹き飛ばし
歌姫の 透きとおった詩は 神の鎖を弾き飛ばしました
ダカラ アナタガ彼ヲ 連レテ行ッテネ
ソウ 彼女ノ囁キガ 風ニ乗リマシタ
大きく口を開けた門の中から 南の守護者が現れました
明星の魔族は 彼の姿に喜び 隣の彼女に笑いかけました
けれど 隣にいるはずの彼女は すでにいませんでした
明星の魔族には 理解できませんでした
隣で微笑んでいた彼女がいないことが
モウ 大丈夫ダヨ…
魔王は 古の姫を 愛しそうに抱きしめました
あぁ そうか
彼女は 全てを分かっていたのでしょう
神の歌姫である自分を 魔王がどう思うのか
魔王の思い出である友を 魔王がどう守るのか
あぁ そうか
私は 分かっていなかった 彼女の 言葉の意味を
魔王の腕の中 明星の魔族は 初めて涙を流しました
歌姫の 最初で最後の嘘に 涙を流しました
■ 繋がれた詩
流星に押される 北の守護者の前に
明星の魔族を従えた 南の守護者が現れました
神は 驚きとともに ひとたびに悟り 怒りました
神の歌姫が すでにいない理由に
明星の魔族が 二人の間に 割り込みました
昔のように 流星を打ち倒してほしいと
その言葉に しかし 神も魔王も納得しませんでした
当たり前です 長年 憎みあい争いあっていたのですから
それでも 明星の魔族は 諦めませんでした
ただ一度 二人の力を合わせてほしいと
けれど 神も魔王も頷きはしませんでした
明星の魔族は 悲しくてしかたありませんでした
歌姫の願いは 犠牲は なんだったのか
彼女は 神と魔王に 言い放ちました
どれほど長く別れても 再び繋がるのが友なのに と
明星の魔族は ただただ 友のために剣を振り上げました
敵うはずもないことは もちろん 分かっていました
けれど 彼女は 流星に向かって 飛び込んでいきました
無数の苦痛の中 彼女はもがきました
そして 力尽きる瞬間 流星に傷をつけたのです
神も 魔王も ただただ 無自覚でした
気も遠くなる昔 ともに 戦ったからなのか
彼女の言葉に 心打たれたのかは 分かりません
しかし 二人は手を繋ぎ 流星を粉々に砕いたのです
流星は再び きらきらと光りながら 星に降り注ぎました
すでに力尽きた 明星の魔族の上にも
そして 物語は 語り継がれていくのでしょう
再び 小指と小指を絡め 笑い逢うために