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狙う目・スタンバイ!

 翌日は土曜だが、母は仕事がある。

 だから二人は睦希に見送られて家を出た。そして駅から今度は別の路線に乗る。


 行き先は、遊園地。

 この世界の人間が、誰も彼も文句なしに楽しめるところだ。それにやはり外国人の観光客も多いから、カモフラージュにもいい。


 シィカにとっても遊園地は楽しいもののようだった。そのものの存在理由など聞かれなかったから、似たようなものは彼女の世界にもあるのだろう。

 彼女は様々なアトラクションであるいは笑い、あるいは悲鳴をあげ、ほぼ期待通りの反応をして、その全てを楽しんだようだ。

 お金の方は、これはやむを得ないから彼女に頼んだ。この場合、彼女自身の目的に沿ったものだから、問題はないだろう。

 二人は昼食を屋台でとり、午後もまた乗り物を探して歩き回った。


『みんな気楽に遊んでやがる』

 グレーのスーツに身を包んだ男は二回転ジェットコースターを見上げながら英語で呟いた。

 その顔立ちは明らかに白人系、ただし日本での中肉中背程度、髪も褐色を短く苅ってあり、この人混みでは目立たない。

 同時に手の中の時計のような文字盤を見る。その針が微妙に揺れている。

『くそ、また電子レンジ探してるんじゃねえんだろうな』


 彼はジョー・マクミランと言った。

 彼の所属はアメリカ情報局特殊捜査班第四存在情報班である。早い話がエイリアンや異星人を捜す担当である。


 いや、彼自身、完全に信じているわけではない。

 アメリカ政府が本気で宇宙人やら地底人やらを探しているというのは、単なる都市伝説だ。政府なんてものはもっと現実的なものだ。


 にもかかわらず、こんな組織が存在するのは、それでも怪しい兆候そのものがかすかながら存在するからだ。

 具体的には、それは異次元世界からの侵入者だ。その確たる証拠を掴んだと称し、その探知を可能にする機械を発明したという学者の言葉を受け入れ、この班が出来たのは一〇年とちょっと前。


 だが、学者の提案通りに調査を進めても、問題の証拠は少しも見つからず、その学者自身も研究中の事故で死亡した。

 その結果、理論研究は滞り、実働部隊も当然ながら成果を上げられなかった。それによって組織は年を追って縮小され、そしてとうとう今年は彼一人だけ。来年か再来年には解体される可能性が高い。


 彼とてこの仕事が成果を上げるなど、本気で考えてはいない。だが、仕事であれば、最低限はこなさなければならない。

 逆に何か仕事をしていないと、ただでさえ風当たりが強い中で居心地が悪すぎる。予算は出来るだけ使っておきたいという事情もある。


 それに前任者から説明を受けた内容には、荒唐無稽ではありながら、どこかに現実的な感覚、かすかながらの脈絡感があった。

 つまり取り組むのがあまりに馬鹿馬鹿しいとは、必ずしも言い切れないのだ。

 そんなわけで、問題の科学者が残した機械、次元変動探知機に何らかの兆候があれば、そこに出向いて調査をするのが彼の仕事だった。また何らかの兆候を探して国内各地を歩き回り、その機械で確認をするのも仕事のうちだ。


 今回は伝手があって日本に来て、ついでのつもりで計器を見ると、久しぶりに反応があった。

 国外ではあるが同盟国でもあり、今年の予算もまだ余っていることもあり、調べ始めたのが昨日のことだった。

 ただ、この機械、少々高電圧の機械があると、かなり頻繁に反応してしまうのだ。特に調子の悪い電子レンジには再三反応し、そのたびに恥をかいたものだ。


 しかし今回の反応はいつになくはっきりと出た。

 もし発見捕捉できれば大手柄だし、せめて兆候が確実につかめれば新たな人員や予算が付くかも知れない。当てにならないとはいえ、それでも期待はするのだった。



「今度こそ、本物だと思うんだけど」

 巨大な海賊船が旋回する側で呟いたのは黒いパンツスーツ姿の女性。黒髪はストレートで背中に流れている。

 彼女は礼宮かがりと言った。所属は内閣調査室特殊存在情報課。


 厳めしい名前だが、仕事の内容は異世界人、異次元人の侵入を探知し、封じることにある。

 お役所仕事に怪しい部分があるとはいえ、生真面目で気の利かないという定評がある日本政府がこんなものに手出ししているなど冗談のようだが、本当のことなのだ。


 彼女は今、右手に小さな機械を抱えている。

 スマートホンに虫籠のようなアンテナが付いたもので、この空間ホール探知機が異界人の存在を探し出すアイテムだ。


 異界人というとひどく唐突だが、もちろん一応の根拠はある。

 実は彼女の実家は古い陰陽師の家系なのである。先祖から伝承された話には、異界の人類の侵攻を思わせる証拠が無視できない程度の数で存在したのだ。


 残念ながら霊能力のたぐいは何代か前に消え失せ、彼女自身もかけらも持ってはいない。

 だが、家系伝来の人脈は、今も広く政府要人の間に結びついていた。そんな中、彼女は異界人の侵入の可能性と危険性に注目し、その性質を伝承から探り出したと信じた。


 彼女は件の人脈で若い天才科学者を紹介して貰い、彼に自説を説明し、そんな侵入を探知できる機械を開発させた。それがこの空間ホール検波計である。

 彼女はそれを使って異界人を監視警戒することを政府に説き、五年前に今の組織が作られた。


 残念ながら、この計器はひどく過去のそれに対しても反応するらしく、妙な伝説のあるところでは頻繁に反応するので、なかなか実用にはなりがたかった。

 さらに残念なことに、その天才科学者はその後すぐ、天才と紙一重になってしまい、それ以上の研究の発展は見込めない。


 だから彼女はこの計器に頼るしかないのだ。

 それにこの組織、実績が上がらぬままに人員削減の嵐を受け続け、今では彼女一人。このままでは遠からず解体の憂き目を見るだろう。

 だが一昨日、これまでにないはっきりとした反応が出たのだ。今度こそ異界人を掴まえる好機、そして組織防衛の最後のチャンスなのだ。


 その時、葉月はシィをお化け屋敷に案内するところだった。そんな二人が海賊船と二回ループコースターの間を通り抜けた時、二人の諜報員の手の中でそれぞれの計器が大きく反応した。

『「見つけた」』

 二人は異口同音、ついでに異言語でそう言った。そして同時に、二人は同じ対象を発見したお互いを認識し合ったのだ。


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