入団と希望
〈4章〉 入団と希望
淡々と先頭を歩くシドについていくようにして後ろを歩いているトウキ。その空気には緊張感がある。
歩き続けるトウキは一つ疑念を抱いていた。それはなぜこんなにも緊張しているのかということだ。自分の恐怖心から来ているものなのか、はたまた別のなにかなのか、それはトウキにもわからない。
そんな不安や恐怖を抱いているトウキをよそに、
「さ、着いたよ。ここがシルテティアだよ 」
シドがそう言って立ち止まった場所には他の建物とは一回りも大きい建物がある。その壁には左右対称になるように旗が二つ掲げられていた。
トウキはその大きさに圧倒されてか、また不安感や恐怖心を覚える。
シドが扉を開けてこちらを向く。
「どうしたんだい? 早く入って 」
「は、はい! 」
目に見えるもの、耳に聞こえるもの全てが怖くなる。
門をくぐり、建物内に入ると沢山の人たちがいる。中にはもちろん街で見かけた獣人や竜人、エルフ、ドワーフなど沢山の種族がいた。中はまるで酒場のように騒がしい。
入ってすぐのテーブルに座っていた人間に話しかけるシド。
「グラドさんを見なかったかい? 」
「あ〜、グラドさんならいつものとこだよ 」
「いつものとこ」と言って建物の二階を指差した。
シドはその指差された二階へ向かう。その後をロエド、スター二そしてトウキが歩く。
2階の奥にある一つの扉をシドがノックする。中から応答があり、シドが答える。
「グラドさん、シドです。お話があり参りました 」
「入れ..... 」
中から聞こえるグラドと呼ばれた男の声は重たく、トウキの緊張感をさらに高ぶらせた。
シドがドアを開け中に入って行く。
「失礼します。グラドさん、今日は新人を連れてきました 」
そう言ってシドがこちらを振り返る。
まだ部屋に入っていなかったトウキの背中をロエドが背中を押す。
「ほら、お呼びだぞ 」
ロエドのその言葉でトウキは部屋の中に入る。ロエドとスター二は部屋には入らず、スター二がにこやかに手を振ってドアを閉める。
トウキが渋々中に入ると、そこには人間とは思えないほどの大きな体で筋肉質な人物が椅子に腰掛けていた。長めのヒゲを生やし、髪やヒゲは白くなっている。その風格はまるで百獣の王のようだ。
「グラドさん、こちらが新人のトウキ君です 」
シドに名前を呼ばれたトウキはビクビクしながらグラドに名乗った。
「はじめまして..... アマネ・トウキと申します…... 」
名乗るトウキを目を細くしながら見ているグラド。長いヒゲをさすりながらシドに話しかける。
「ふぅ〜、シド、コイツは何が出来るんだ? 見ただけでは何も出来ない子供のように見えるが..... 」
その言葉にシドが受け答える。
「はい、このトウキ君はなんと治癒魔法が使えるのです。これは貴重な人材だと思い、こうして連れてまいりました 」
「ほう? 治癒魔法とな、これはまた珍しい..... 」
そう言ってグラドは椅子から立ち上がり、トウキに近づいてくる。
「では早速..... 」
トウキの前まできたグラドは腰にささった短刀に手をかける。グラドのその動きに身の危険を感じたトウキはとっさに手で頭を守るような姿勢になる。
怯えるトウキが恐る恐る目を開けるとグラドは自分の短刀を握りしめていた。その手からは赤い血が流れている。
「この傷を治してみろ..... 」
そう言って切れている手を差し出してきた。
「えっ..... でも..... 」
「いいから.....!」
トウキは差し出された手を見てあたふたしてしまう。治癒魔法は使える、自分でもそれはこの目で見た。だがしかし、
(お、俺どうやって魔法とか使うか知らないんですけど!? くそっ! どうすりゃいいんだ..... とりあえず前みたいに傷口に手でも当ててみるか..... )
グラドの手を両手で握ろうと手を前に出す。その時さっきまで感じていた恐怖心や不安感がなくなっていることに気付くトウキ。それがどういう事なのか全くトウキには理解できない、が何故か何処と無く自信が湧いてきた。
(行ける! 今なら行ける気がする! )
根拠の無い自信に身を任せグラドの手を握る。そして傷口が塞がり、治っていくイメージを頭の中で思い描きながら、
「治れ! 」
少しの間手を握り続け、そして手を離してみる。すると傷は何事も無かったように血を流していた。強く握ったせいかさっきよりも出血がひどい。
「どういうことだ、シド..... 」
お手上げというように両手をあげているシド。
「これは参りました。まさか魔法の使い方がわからないとは..... 」
椅子に戻り引き出しから布のようなものを出し、その布を傷口に巻きながらグラドがシドに目を向ける。
「本当に治癒魔法は使えるのか? 」
「ええ、それは勿論。私もこの目でしっかりと..... 」
「まぁいい、お前が言うのならそんなんだろう。実際シルテティアには治癒魔法が使えるヤツが必要だ。入団を認めよう…... 」
グラドは渋々といった表情でそう呟く。そのグラドの発言でなんの評価もされていない自分が入団出来るほど、治癒魔法が貴重なことを実感する。
「やったねトウキ君! 入団おめでとう..... 」
シドの言葉を止めてグラドがシドに条件をつけた。
「だが.....! シド、お前が責任をもってその新入りに魔法の使い方を教えておけよ 」
「はい、それは承知の上です 」
「それだけだ.....ほれ 」
グラドはそう言ってトウキに何かを投げてきた。それはこのギルドに入る前、壁に掲げられていた旗のマークに似ている模様のバッチだった。
「うわぁ、な、なんですかこれ? 」
「それはこのギルド、シルテティアに入団していることを示すバッチだ。大事につけとけ、それとアマネ・トウキと言ったか? 私はグラド・ジ・ホークだ、このギルドの長を務めている 」
グラドはヒゲをさすりながらこう続ける。
「改めてアマネ・トウキ、入団おめでとう。そしてこれから先、このギルドで共に戦う者として君のこれからの健闘を祈ろう 」
そう言われてトウキとシドはその部屋から退室する。ドアを閉めるなりシドが話しかけてくる。
「よかったね! トウキ君、入団おめでとう! 」
「は、はい、ありがとうございます。なんか妙に疲れました…... 」
「あははは、それはお疲れ様。 僕もまさかトウキ君が魔法の使い方を知らないなんて思わなかったよ 」
さっきの無様な自分を思い出して苦笑いするトウキ。
「はは..... なんかあの時、急に緊張がほぐれたから行ける気がしたんですけどね..... やっぱりダメでした 」
「ああ〜、トウキ君やっぱり気付いてなかったんだね、あれは急に緊張がほどけたんじゃなくて、僕が魔法を解いただけだよ 」
衝撃の事実に理解が追いつかないトウキ、それと同時にこの世界に来てから理解が追いつかないことが多すぎて嫌になる。
「トウキ君が少しでも早く入団してくれるように、ちょっと魔法をかけてたんだよ 」
にこにこしているシドのその言葉で理解する。さっきまでの異常な恐怖心や不安感などは全部シドの魔法のせいだったのだ。それを知ったトウキは嘆くようにシドを批判する。
「それは酷くないですかシドさん 」
トウキの思いとは裏腹にシドはにこにこしている。
シドの後ろを歩いていると、ある部屋のドアの前で立ちどまる。
「シドさんどうしたんですか? 」
「君には魔法の使い方を教えないとね、それに君にもパーティーを組んでもらわないとね 」
シドは相変わらずにこにこしている。トウキはこの笑顔は信じないと決意する。
ドアをノックしてその部屋に入るとそこには一人の女の子がいた。その女の子は金髪に赤眼、身長はトウキよりも小さく可愛らしい。よく見るとその子は頭に獣耳を生やしていた。
「トウキ君! この子が君の魔法の先生、そして君のパーティーを組む仲間だよ! 」
トウキはその可愛らしい女の子を見て何故かこの世界でうまくやっていける気がした。
ライフ to ファールをご覧いただき誠にありがとうございます。
今回も新キャラが出てきました!トウキとパーティーを組む女の子が気になりますね〜
また、評価やコメントなどを頂けるとありがたいです!Twitterなどでも呟いてくれるとうれしいです。
これからもライフ to ファールを応援よろしくお願いします!