純白の青年
〈2章〉純白の青年
丘のような場所に異世界転移してしまったトウキは転移した場所から二kmほど先に見えた街のような場所に向かうことにした。
その街は中央に高くそびえる城が建っており、それを囲むようにして背の低い建物が作られている。
「くそっ、結構距離があるな」
額の汗を拭いながら街まで歩くトウキ。
街の周りは森のようになっており、人が入り込んだ形跡が無く、辺りは言葉通り大自然だ。そして街の城がなければ見失ってしまうほどの高い木々が集まっている。
「あぁぁぁ、疲れたぁぁ、喉乾いたしもう死にそう」
近くに落ちていた木の棒を杖がわりにしてなんとか歩き続ける。足元は木の根っこなどで凸凹になっているため、妙に疲れる。
「あのアホ神のやろう.....勝手にこんな所にこさせやがって.....てゆうかなんで森なんだよ!? 近くに街あんだからなんでそこに落とさなかったんだよ!? 」
毒を吐きながら歩き続けると近くに川を見つけた
川の周辺はひらけた場所になっていて、野原のようだ。視界に川が映り込むと杖を放り投げて川に向かって走り出す。
「み、水だぁぁぁ! 」
川につくなり川に飛び込むトウキ。顔を水につけて思いっきり水を飲み込む。
「ぷはぁ〜生きかえる! 」
乾いていた体が喜んでいるのを感じるトウキ。
川ではしゃいでいると突然地面が揺れていることに気が付き我に返る。
「な、なんだよこの揺れ。地震? いや違う! なんなんだこの揺れは!? まるで足音みたいに..... 」
すると突然、木々の間から巨大なバケモノが現れる。そのバケモノはまるでゴリラのような形をしている。ゴリラは右手に巨大な斧のようなものを持ち、鎧を着ていた。そしてその周りには人の背丈ほどで剣のようなものを持っているバケモノが複数いる。まるで巨大なバケモノが小さいバケモノを従えているようだった。
「なな、なんだよあれ!? 」
腰が抜けてその場に尻餅をついてしまう。そして巨大なバケモノの周りにいた人の形ちをしたバケモノが襲いかかってくる。
完全に不意をつかれたトウキは動けない。バケモノの剣が振り上げられたその時。
「やぁぁぁ! 」
その声とともに目の前のバケモノが消え、代わりに背丈ほどの長い刀を持ち、足まで伸びる白いコートのようなものを着ている青年がトウキの視界に現れる。
彼のその姿は格式の高さを感じさせる雰囲気を発している。
「大丈夫か君! こんな所に一人でいるなど命が惜しくないのか! 」
トウキの前に突然現れた彼が叫んでくる。
トウキに背を向けそう言っている中も彼は刀を振り、懸命に人形のバケモノ達と戦っている。
「くそっ! 多勢に無勢か! あの子を守りながらでは勝ち目はない、仕方ないか..... 」
そう言って彼は腰にある短刀をトウキに投げてくる。
「君! このままじゃ私は魔獣から君を守りきれん!それを使って自分の身を守れ! 」
「えっ、そんな事言われても俺こんなの使ったことないし.....てゆうか魔獣って..... 」
「そんなこと言っている場合じゃないだろ! 死んでも知らんぞ! 」
「で、でも..... 」
そんな弱気なトウキを無視して彼はこう続ける。
「私があのデカブツを相手する! アイツを倒せば我々の勝ちだ! だから君は周りの雑魚に気をつけていればいい! 」
そう言って純白の彼は長い刀を横に大振りして相手との間合いをとってから巨大なバケモノ、彼が魔獣と言っていたモノにジェット機のような早さで飛んでいく。取り残されたトウキは短剣を鞘から抜き身構える。その姿はまるで生まれたての子鹿のようだ。
「あぁぁもうなんでこうなっちゃうんだよ!? 」
そんな弱音を吐き、へっぴり腰なトウキを一匹の魔獣が襲ってくる。
その魔獣はまるで虎が兎を狩るような目をしている。
「ガァァァァァ! 」
剣を振り上げトウキに勢いよく振り下ろす。その会心の一撃をトウキはなんとか受け止める。
「わぁ!? なんでこっち来るんだよ!? やばいやばいってこれぇぇぇ!? 」
次々に振り下ろされる剣を受け止める。
なれない刀で手首を痛めながらもなんとか自身を守る。
トウキは防戦一方で剣を受け止めるだけで精一杯だ。何度かかすり傷を負っているものの致命傷はさけてい続ける。
そしてその剣のぶつけ合いが止まり力比べをする形になり、トウキは相手に向かって気合をぶつけた。
「うぅぅぅ、くそがぁ! こんなところで死んでたまるか! 」
そう言ってトウキは魔獣の手を掴んで背負い投げをする。背負い投げは見事に決まり魔獣が地面に叩きつけられる。魔獣は衝撃で動けなくなっている。どうやら受け身を取れなかったようだ。
「どうだ! この俺が今まで鍛えてきた柔道の腕前は!? 」
トウキは父親譲りの柔道の腕前を存分に披露して調子に乗る。だかそんな喜びもつかの間、次の魔獣が襲いかかってくる。しかも一匹ではなく二匹同時にだ。
「ちょっ、一対二はずるいって!? 」
その場から全力で走り去るトウキ。だが逃がしてくれるはずもなくすぐに囲まれてしまう。逃げ場をなくしたトウキは仕方なく魔獣に向き直る。
よく見れば魔獣の数が増えている。
「まじかよ..... てか増えてるし、大勢で一人を狙うとかお前らそれでも男か!? 」
そんなトウキの嘆きは聞いてくれるはずもなく魔獣は一斉に飛びかかってくる。がその時。
「オラァ! 」
死を覚悟したトウキの前に巨大なハンマーを持った男が現れる。その男はハンマーを大きく一回転させ飛びかかってきた魔獣を一斉に蹴散らす。
「はん! 雑魚ばっかだな!」
トウキは安堵するとともにその彼を見て驚きを隠せない。その彼は全身に赤茶色の毛を生やし、顔はまるで狼のようになっていた。
一言で表すなら狼男のようであった。
そんな中さっきまで巨大な魔獣と戦っていた純白の彼が飛び下がってきた。
「やっと来たかロエド! あのデカブツなかなか強いぞ!ランクCはありそうだ。そう言えばスター二はどうした? 」
ロエドと呼ばれた狼男は親指で後ろにある高い木を指し、
「スター二ならあの木の上だよ 」
その言葉と同時に木の上から一本の光が走る。その光は巨大な魔獣の顔面を直撃して魔獣をひるます。その好機を二人は逃さない。
「よし! 今だロエド決めにかかるぞ! 」
「おうよ! 」
そう言って二人は魔獣の元へ走ってゆく。
はじめにひるんでいる魔獣の前にロエドが出る。魔獣はロエドに気づいてはいないようだ。
「これでもくらいやがれ! 」
ロエドが持っていたハンマーが赤く光り出す。その光はどんどん強い光になっていきその光が炎に変わる。
その燃え上がるハンマーを魔獣の腹部を狙って振り抜く。ハンマーは見事に直撃し頭から倒れ込む。
「どうだ! シド止めは任せたぞ! 」
「任せろ! 」
シドと呼ばれた純白の彼はひるんでいる魔獣に向かって背丈ほどの長い刀を振り下ろす。魔獣はその刀を防ごうとするもののシドの攻撃の方が早い。
魔獣は顔から腰にかけて真一文字に切られる。
その一太刀が致命傷となり魔獣は倒れ、絶命する。
一部始終を見ていたトウキは驚きのあまり空いた口が塞がらない。
「ま、まじかよ..... 」
冷や汗をかきながらトウキはそう呟いた。
ライフ to ファール 第2話目!
ご覧頂き誠にありがとうございます!
今回は新キャラ登場ということで新たに3人の人物が出てきました。純白のシド、狼男のロエド(獣人)と謎のスター二!
スター二さんは女子キャラなので乞うご期待!
今後もライフ to ファールをよろしくお願いします!