転入初日!
お久しぶりです
グリトニルに編入生が来た…
それだけを聞いても誰も驚きはしなかった。都市まるごと学園のマンモス校…もといスーパーザウルス校のグリトニルは、他の地区にも分校があった。そのため、そこから編入する人間はかなり多いからだ。だがそれが言い間違いだったら?
グリトニルに転入生が来た!
頭の良い生徒はそれに気付いた。転入生という事は編入試験を受けずにこの学校に来た、いわば無関係な人物。生徒の誰もが情報を持たない人物である。そんな人物を高校生が気にならないハズは無いだろう。
新聞部は一眼レフとメモ帳を片手に。放送部は学園テレビの取材スタッフを派遣。終いには風紀委員が野次馬を警官のごとく止めに入ると言う始末。
それでも生徒は集まるのをやめない。1年三組に集まれ!と一年生が走る。生徒数十万人、一年生三万人、この内の少なくても二千人は集まったのでは無いだろうか。残りの二万八千人は諦めた奴と寝ている奴だ。
そしてついに生徒の紹介が始まる。
「皆さん。紹介します。彼が転入生の…」
……………………
時は少し遡る…
グリトニルに転入することになった晴斗は混乱していた。
世界一のスーパーザウルス校の入学に難なく成功したこと、そして…
「なんでこんな格好させらるれんですか!?」
全身黒ずくめで校舎の裏から入ることの二つにである。
「そうでもしないと生徒達が嗅ぎ付けて尾行してくるからね…」
「そんなレベルの問題なんですか!?てかストーキングって…」
晴斗と一緒に歩いているのは白鷹 光留。
晴斗の一つ上の先輩に当たる人物で、この学校の…正確には晴斗の入る校舎の生徒会副会長を務めている人物だ。目付きが少々キツめだがそのわりに穏やかな口調で、晴斗は聞いていて安心するような気分になっていた。
「裏口から入ってくれると、風紀委員が案内をしてくれる」
「あの…先輩は…」
「俺は他の生徒の動きを食い止めに行くから…」
「………」
校舎に入ると光留の言うとおり一人の男子生徒がいた。
こちらです、と手を引かれ暗い道を歩かされる。いくつもの分岐がある迷路のような道を進み着いたのは小さな部屋だった。
「あの~ここは…」
「ここは準備室です。教職員はここで授業の準備に取りかかります」
「にしては…」
広かった。軽く教室が2つ入る位の広さだ。こんな所が教員の準備室ならば教室はもっと広いのではないかと晴斗は思ったが。
(だがまぁ、こう言うのって悪い意味で期待を裏切るんだろうな)
とも考えていた。
少しづつ教室にざわめきができ、人の気配が増えてくる。
するとこの教室の担任と思ぼしき人物から教室に入るよう促される。
がちゃりとドアを開け、教室に入ってみて驚く。
期待は良い意味で裏切ってくれた。
広さは準備室とより少し狭いが特筆すべきはその席の配置である。
大学の講義室のような席の配置で、階段のようになっていた。
「紹介します。彼が転入生の、橘 晴斗君です。晴斗君、自己紹介を」
「…え、あっはい」
(おっと、放心してる場合じゃねぇ…)
「橘 晴斗です。転入生という立場ですが、仲良くできたらいいなあ…なんて思ってます。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく、晴斗君の席は真ん中の空いてる席で良いね」
(何でど真ん中の席が空いてるんだよ!)
転入生という事あって、色々な人から様々な質問が飛んでくる。
どこ出身なの?
好きな食べ物は?
彼女いるの…?
etc…
だがそれをいちいち聞き取るのは少々面倒だった晴斗はアレを使うことにした。
「ちょっと待っててね~」
そう言って晴斗が取り出したのはヘッドフォン。それを着けて…
(接続!)
このクラスの人間の思考を読み取ることにした。
最初に読み取ったのは金髪の少女。
晴斗は彼女を指差し言う。
「ナキ・テンエイ。生徒会の一員で周りからはナキ、ナキ子って呼ばれてるね?で、質問の出身地のことだが、俺は東区出身だよ。駅前で交通の便は良かったね」
まるで心の中を読まれたかのように(実際読んではいたが…)言い当てる晴斗を見てその場にいた人間が驚いた。
無理もない、本人だって最初は驚いていたのだから。
「さあどんどん来な!いくらでも質疑応答に付き合ってやるよ!」
……………………
「君で最後だね。名前は藤波 宏介。質問は…彼女はいるかって話だが…いないね。てか居た試しもねぇな」
「マジかよ!ルックスいいのにモテなかったのか!?」
「そーゆー事になるな」
「聞いたか女子諸君!こいつを狙うなら今の内だぞ!」
「おいよせ」
質疑応答を5分で済まし、もう5分で次の授業の準備を…と思い、ヘッドフォンを外すため手をかけた瞬間
『うっ…うわぁぁあああ!!』
男の叫び声が聞こえる。
正確にはそれが頭に流れ込む。
「ちょっとトイレ行ってくる」
と出来るだけさりげない風を装って、ドアを出た瞬間…
音もなく、高速で移動する。誰の目にも着かない程に。
きっと動体視力か何かを上げるような革命症患者でもなければ見ることもままならないだろう。
右義腕による高速移動。これもあちらでの修行の成果だ。
その声の持ち主がいたのは校舎裏だった。
今時じゃあ絶滅危惧種と言っても過言ではない、ポンプにリーゼントのヤンキー、その目の前にはいかにも苛められる側の少年らしき人物だ。
「ひ…ひい…」
「ってんじゃねぇ…よ!」
ヤンキーは手に持つバットを少年に振り下ろす。
…が少年に当たる事は無かった。
代わりに…
「良くないですね…そーゆーの」
晴斗がバットを掴んでいた。
「な、何だ…?何者だ…お前は…」
「いや別に、通りすがりの転入生ですよ」
そう言うと晴斗はバットを離す。
「暴力は嫌いです。何があったか話してください」
「…ああ、分かっ…!?う、後ろだ!」
「後ろですねー?」
と、後ろからの攻撃を避ける。
晴斗の違和感はここだった。
何故…悲鳴を上げた側の人間がバットを持っていたのか。
簡単なことだ…苛められてる風を装った人間が加害者だからだ。
「あんたが加害者ね。見るに…患者かな?」
「患者?僕が狂ってるって言うのかい?この力を得た僕が‼」
少年の腕が肥大化する。
「お前も僕を馬鹿にしやがってぇええ!!!!!」
腕を振るい晴斗に拳を当てようとする。
だが…晴斗は動かなかった。
晴斗が見ていたのは彼の「目」。
(翡翠の目ってことは精神、神経系の複合型…となればこれは幻覚と捉えるべきか?)
予想は的中。
攻撃は一切当たらなかった…どころか痛みさえも感じなかった。
「う…うわー期待はずれ感すごいなー」
その言葉を残し晴斗は姿を消し、少年の背後に回る。
「はいはーい、少々ピリッとしますよー」
そう言って右手の親指と人差し指を当て、少しだけ電流を流す。
「簡易スタンガン。これでいいかな?」
少年は白目を剥いて倒れる。すると驚くことにヤンキーは彼を抱えたのだ。
「協力に感謝する。君が話題の転入生…橘 晴斗君か。俺は風紀委員長、天童 定吉だ」
「え…!?風紀委員がその髪型して良いんですか!?」
「俺もかなり疑問に思うが…風紀委員長のしきたり…らしい。と言っても俺も前委員長から伝え聞いただけだが…」
さてと、と定吉は彼を連れて校舎内に入る。
「もう少しで授業だ。遅れないようにしてくれよ」
そう言って彼は去っていった。
晴斗も急いで帰ろうとしたが
キーンコーンカーンコーン
始業のベルが鳴ってしまった。
「あああああああ!!!!!!!!」
少年は保健室に連れてかれました