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ReverseFlag 病床の王編  作者: 居村 るみ
三つ巴と始動
4/18

反旗 始動

5か月ぶりの更新です!すみません!

2124年?月?日

???


「ねぇねぇ!君、名前なんて言うの?」

少女が目を輝かせて聞いてきた。

自分に名前などあっただろうか。そう思い、少年は記憶を探る。

しかし物心ついた時からこの施設にいたため、名前についての記憶は一切なかった。

もしかしたら自分に名前があるかもしれないのでひとまず

「しらない」

と答えた。

すると少女は不思議そうな顔をして言った。

「キオクソーシツってやつかなぁ?だったらあたしが名前を付けてあげるよ!」

少女は少し思案している様子を見せるといきなり明るい顔になって

「ハルト!今日からあなたはハルトって名前よ!」


「ハルトのハルは晴れるって意味の晴で、トはひしゃくって意味の斗。ひしゃくって水をすくう道具なんだって!だからハルト君は晴れをすくう人なんだよ!最近雨続きだったけど今日は晴れてたの!」

その明るい性格に対し知ってることが多い少女に少年は戸惑っていたが何とか「晴斗」という単語は覚えた。

その日から少年はハルト…もとい晴斗として生きるのだった。

======================================================================================

2134年10月8日 

橘家


「夢…か…」

少年の目が覚める。

「あれから…もう十年経つのか…」

少年の名は橘晴斗。彼こそが少女に名をつけられて晴斗として生きていくことになった少年である。

今は施設を抜け橘家に養子として迎えられたため橘の姓を名乗っている。

幸いこの家では優しく、時に厳しく育てられまるで血のつながった家族のように生活できた。

学校にも中央区のグリトニル…ではないものの、近所の中学に入ることができた。

そんな生活を送る中で表情が増えてきたことに気付いたのは最近のことだった。

そんな晴斗もついに明日が15歳の誕生日。

…と言っても盛大にパーティをするわけでもなく、ケーキを食べるだけのつもりだったのだが、ある人物から声を掛けられる。

「おっはよー!晴斗!」

望月冬香。彼女はクラスのマドンナ的存在であり、晴斗の名付け親である。彼女もまた施設から出た後養子として迎えられたため望月姓をもらっていた。

そんな彼女の登校後の二言目が

「明日誕生日でしょ?だったらさ新しくできたショッピングモールでプレゼント買うから一緒にいこ?」

だった。まぎれもなくデートの誘いだったが鈍感な晴斗は二つ返事でオーケーした。

もちろん人気者が声をかけたことでクラスは驚きの声であふれた。

二つ返事でオーケーしたものの晴斗は内心驚いていた。小学校の中学年あたりまでは仲良しって感じだったが高学年に上がり会話が減って、中学に入ってからは全く会話をしなかったため少し緊張していた。

「てか、いきなりどうしたんだよ、今回の誕生日に限って…」

「ほら、来年は別々の高校行くかもでしょ?だったら昔からの長い付き合いの晴斗と思いで作ろーかなーってね!」

「なんだよ…ソレ」

「フフフ…久しぶりに話せた気がするよ!じゃ明日東区駅の南口で、9時に待ち合わせね」

「オイ」

結局その後、二人は話すことは無かったが冬香は終始満面の笑みだった。休み時間や下校中も鋭いしせんをかんじてはいたものの、それをことごとくスルー。もし冬香が声を掛けたのが美少年だったら皆も諦めるのだが、顔もせいぜい中の上という中途半端な位置、ずば抜けて良い成績があるわけでもなく強いて挙げるなら仲間を作りやすい性格である事ぐらいだ。

ただその仲間すらも敵意の目を向けているが…

その視線は家に着くまで続いていた。


「ただいま~」

「お帰り~…ってどうしたの?そんな疲れた顔して」

迎えて来たのは義母の橘りつだった。

「実はかくかくしかじかで…」

「あ~なるほど…ってわかるわけ無いでしょ?」

彼女は意外とノリが良い。

「あ、ハイ、実は」

晴斗は今日の事をすべて話した。

「えぇ!冬香ちゃんとデート!?」

「え!デート!?」

あの話をデートとして捉えていなかったため晴斗は盛大に驚いた。

「なんであんたが驚いてんのよ…まぁいいわ、明日はそれ相応の服で行きなよ。お母さん応援してるからね~」

「あ、うん」

と言い部屋に行き明日の服を選ぶ。

(それ相応の服装って言ったって母さんや…俺そんなに服持って無いぞ……ジャケット羽織るだけで良い…か?)

と考えているうちに冬香と出会った時の事を思い出す。

それは晴斗にとって…彼にとって良い思い出ではなかった。


それは10年前にさかのる。

晴斗は物心着いたときからソコにいた。表向きは児童保護施設、しかし実態は人体をつかっての実験を行う施設だった。当時五歳だった晴斗には研究内容を把出来なかったが「なんとか症」と言っていたことは覚えていたので何らかの病の研究らしい事は理解していた。

そこでは延々と続く暴行、狭い檻の中での生活だった。

そんな中ちょうど子供が消えた向かいの檻に入って来たのが施設の所長娘である冬香だった。彼女も被験者の一人として入ってきたらしい。

所長の娘だからと言って優遇される訳でもなくあくまで「被験者」なので晴斗や他の子供と同じような扱いを受けた。それでも彼女は、たった一人 、笑顔を崩さずにいた。

彼女と出会ってから約半年、脱出のチャンスが来る。月に一度、新しい子供を所長が連れてくる。

その中の一人、少年が逃がしてやると言ってきた。

なぜ彼が晴斗を逃がそうと思ったのか、今はまだ誰も知らない。

「どうするの?」

鍵のかけられた檻から出るには鍵が必要のはずだ

「こうやるんだ」

そう言って鍵穴に手を当てた少年の目が金に輝く、その直後

ガチャ

と鍵が外れた音がした

晴斗は目の前で起きた事を信じられずにいた

「さぁ早く!大人に見つかんないように!」

とせかす少年に晴斗は

「あの!」と声を掛ける。

「もう一人…もう一人助けて!」

と冬香のいる檻を指差した。

もう一人だけなら、と少年は冬香の檻の鍵を開ける。

冬香がそこから出たのと同時に

「何をしている!お前達!」

と、研究員が気付いてしまう。

「早く逃げるんだ!あっちに!止まらずにまっすぐ!」

そう言われ二人は彼が指を指す方向へ走り出す。

その先には壁あったため ぶつかる!

そう思っていた二人だったがぶつかる直前に壁がえぐれた(・・・・)

二人はその後も走り続け研究員から逃げ切る事に成功。

そして本物の孤児院に入り、それぞれが橘、望月の養子として迎えられた。

運良く二人の家が近かったためバラバラになることは無かった。

そんな過去を経た二人は十年来の友人でありお互いによき理解者である。


「ヤなモン思い出しちまったな…明日は誕生日だってのに…」

そうぼやいていると携帯にメッセージが届いていることに気付く。見るとつい一分前に冬香から届いたものだった。

『約束すっぽかしたらみんなに言いふらしてやる!』

冬香らしい内容で思わず吹いてしまう。

「変わんねぇよな…あいつは」

そうこうしているうちに服を選び終えた(とは言うものの普段着を適当にチョイスしたため、何か特別目立つような服ではないが)晴斗は明日に備え寝るのであった。


2134年10月9日

AM8:30

待ち合わせ場所には晴斗がいた。

友人との待ち合わせという経験が多くなかったために変に早く来てしまったらしい。暇潰しにウロウロしてみたものの腕時計の針はあまり進んでいない。

AM9:00

「来ないな……」

まだ来なかった。だが時間にそこまで厳しくなかった晴斗は

「10分や15分位良いかな」

と言った感じで余裕があったのだが

AM9:30

「遅い…」

まだ来る気配がしない。

「う~ん…集合場所間違ったかなぁ?」

と確認してみるが間違ってはいないようだ。

「なんだよ…すっぽかしたら言いふらすって言ったくせに」

AM9:50

「ごめ~ん。待った~?」

「ううん。だいたい一時間以上前に来たところ~」

「そっか~!良かっ……」

「良かねぇよ?一時間以上待ったっつってんだろうが」

晴斗は低めの声で言った。かなり怒っているようだ。

「今度から余裕を持って待ち合わせするように」

「私が親だってのに」

「返事は!?」

「ハイッ!」

「よろしい…ってか親は親でも『名付け親』ってだけだ…そんな威張んな」

「はーい」

何はともあれ合流できた二人はショッピングモールへと向かった。

「(今気づいたけど)お前そんな服持ってたんだ」

今までドタバタしていたから気付かなかったがブラウンのコートに黒いブーツ、ジーンズといった控えめの服装だった。

「まぁね。気づいてくれた?この日のために新調してきたのだよ。晴斗君」

(ゑ…マジか…)

と内心晴斗は思ってしまった。この流れで「晴斗の服も新しく買ったのかな?」と言った趣旨の事を聞かれたとき正直に答えるわけにはいけない。だがしかし、冬香は嘘に酷く敏感だ。嘘をついた場合冬香に「本当かなぁ?」と言われながらじっと見つめられてしまう。その眼力は凄まじいもので軽く意識を失わせる事が出来る………と晴斗は思っている。


が、幸運なことにそんな質問は数分経っても来なかった。

(って安心してる時に限って)

「そういえばさ、私もその服見たとき無いけど晴斗も新しく買ったのかな?」

(そう来ると思ってましたよお嬢さん‼)

仕方なくちゃんと本当のことを言うことにした。


「もう!君ってやつは!乙女心を知らないで!君にとって私は普段の私服とイコールなのかい!?」

「わ、悪かったって…じゃあわかったよ…今日はお前の欲しいもの買ってやるからさ…」

「やた!」

ショッピングモール内でそんな会話をしながら歩いてた。

そしてどんどん晴斗の懐は涼しくなってい行ったのだった。


「ここだよ!ここここ!今日一番来たかったとこ!」

「え~……俺もう…金無いよ…」

「?何で晴斗が払おうとしてんの?今日は晴斗の誕生日プレゼントを買いに来たんだよ?」

あ、そうだった… と言わんばかりの顔をする晴斗。それもそのはず。その日は一度たりとも「晴斗の誕生日」という単語は出ていなかったのである。



数分後、店から出てきた冬香の手には大きめのプレゼントボックスがあった。

「誕生日おめでとう!家に帰ってから開けてね~!」

「お…おう」

晴斗が受けとると冬香は笑みを浮かべる。

「気に入ってくれたら嬉しいな!」

その言葉に対し晴斗も笑顔で

「後で感想を送るよ」

と言った。

だが……

この時晴斗は知らなかった…

感想を送るのがずっと先になってしまう事を…


歯車は既に回っていた


晴斗がプレゼントを貰うのと同時刻。

玄関にて男が倒れる。

周りの人々は心配して男に近づく…が次の瞬間男の体から黒い霧のようなものが発生する。

勿論、人々はその様子に恐れを抱き逃げようとする。

が、しかし、自動ドアは閉じられ、その奥には防火シャッターが降りていた。そして、恐怖は絶望に変わり彼らを襲う。黒い霧が客の一人の体の中に入り込む。するとどうだろう。その客はなにもない場所を指差しながら悲鳴をあげているではないか。その客は間もなく絶命すると体から同じ霧が発生した。しかも量は先ほどの倍。

これを何度も繰り返し晴斗が目撃したときには最初の数十倍になっていた。

「あれは…一体……?」

目撃したばかりの晴斗は当たり前の疑問を口にする。

「なんか…怖いよ…晴斗ぉ」

と話しているところへ声がかかる。

「オイ!あんたら!早く逃げろ!あの霧に捕まったら死ぬぞ!」

「は…!?死…って」「え…」

二人は現実離れした話を聞き混乱したが、黒い霧のその奥、大量の人が倒れているところを見て混乱が解けた。だがそれと同時に二人の脳が危険信号を発信した。

二人とも幼少時代に生き地獄を見ていたがあそこで死ぬことはなかった。そのため死にたいする恐怖は人並みであった。

恐怖に支配され足が動かない状態が数秒間続いた。

その間に、霧は動く。スピードは軽いジョギング程度だが人間ではないためペースダウンは無い。

二人までの距離が数メートルになったところで、やっと足が動くようになり、晴斗冬香の腕を引っ張りダッシュで逃げる。どこに逃げるかは決まってない。きっとこれは計画的な犯行だと思った。玄関は閉じられていた。他の玄関も同じだろう。ではどこに逃げる?答えはたったひとつ。『そんなものはない』だ。

外からの救援がない限り現状を打破することはまず無理だ。

そんなことを考えていた晴斗は見知った顔を見つける。

一時たりとも忘れることが無かった顔。

「な…何であいつが…ここに…」

「ウ…ソ…嫌…なんで…」

冬香も気付いたらしく、明らかに言動がおかしくなっている。

そして二人は…

立ち止まってしまった・・・・・・・・・・

その顔は二人を向き、歪に笑う…

二人の意識はそこでブラックアウトしてしまった。


??? ???

「う…ここ…は」

目覚めたのは晴斗だった。彼は自分がベッドの上にいることを理解するのに少し時間がかかった。それもそのはず。目覚めて最初に見たのは天井ではなく、まるで星ひとつ無い夜空のような黒い空間だったからだ。天井からの距離で理解する事が出来ないのが原因だろう。

「お!…やぁやぁ!お目覚めかい?」

そう話しかけてきたのは中学生位の少年だった。

「疑問で頭がいっぱいって顔してんな。しょーがないかぁ…目ぇ覚めたらいきなり知らない場所にいるんだもんな。だったらまずは自己紹介からか…」

そう言って足元に置いてある白衣を着る。身長が低いせいでそですそがダボダボだ。

「俺はゼノ。ここの主だよ。あ、ここってのはこの空間…俺はクリアワールドって呼んでたりするけど…説明に困るな…まぁ、簡単に言うと異世界っぽい物だ!…何もねぇがな」


自分も自己紹介しないと失礼だと思った晴斗は体を起き上げる。すると

「あ…」

ゼノが声を出す。

「?」

「体…大丈夫か?なにか違和感は…?正確には肢体に違和感は?」

そう言われた晴斗は体を動かす。

手を開いたり閉じたり、体を捻ったり伸ばしたりした。だがなんの違和感もなかった。

「なんかあるのか?」

と晴斗が訪ねると

「いや…無いなら良いさ」

と答える。

これ以上、体についての質問は必要ないと思い改めて自己紹介をする。

「俺は晴斗、橘 晴斗だ」

「ハルト…そうかハルトか!よろしくなハルト。」

そう言いゼノは手を出す。

そして、すぐに表情を変え

「ところでハルトよ」

と聞く。

「お前 、目覚める前…いや、気を失う前の事覚えているか?」

そう言われ少し考える。

「確か…買い物をしてたら突然黒い霧が襲ってきて…それで冬香と一緒に……そうだ!冬香!冬香はどうした!?俺と一緒にいた奴だ!」

「落ち着け……大体わかったよ…それとお前が言ってたはあいつだろ?」

そう言ってゼノがもうひとつのベッドを指差す。そこには冬香が寝ていた。

「冬香……ゼノ…冬香は…?」

「今んとこは大丈夫だね。ひとまず死ぬこたぁねぇよ」

「今のとこは…?」

晴斗がそう聞くとゼノはああ…と言って説明を始めた。

「あの黒い霧は人体のエネルギーを糧に無限増殖する厄介なウイルスでな…お前らの体の中でもまだ増殖している。お前は手術でなんとかウイルスの増殖を抑えるようにしているが、あっちはお前ほど体が強くなかったから手術はしないでおいた。幸いあっちはウイルスを少ししか吸引していないようで進行は遅いけどな」

「良かった…冬香はちゃんと生きてるんだ…でいつになったら目覚めるんだ?」

と晴斗が問うとゼノが深刻な顔をして言った。

「問題はそこだ…あの娘が目覚める可能性…それは五分ごぶ

「え…」

「もう一度言うが冬香…だっけ?あいつが目覚めるかどうかは五分五分なんだ…」

「そ…んな…」

晴斗は驚愕しまた絶望した。そして…一つの信念が生まれた。

「許さ…ない…。殺してやる…誰がやったか知らないがでも!殺す殺す!殺して…!」

と、そこでゼノが殴りかかる。それも本気で

「ッッ!つ~ッ!あ~これ小指折れたかな~…」

「いきなり…」

何するんだよと叫ぶ前に

「復讐に燃える悲劇のヒーロー気取りか?おめぇはよ」

と怒鳴る。

「……人の気持ちがわかる気でいんのかよ…」

と逆に晴斗が言う。

「聖人じゃねぇさ…でもなそんな奴は何度も見てきたからな。…もちろん」

小声で呟いたその言葉を晴斗は聞き取れず聞き直そうとした直後

「いいか?復讐するなら、大事なことは3つだ!」

と大声で言う。さっき怒鳴ったときとはまた違う声だった。

「一つ…力を手に入れること。物理的にってだけじゃない。総合的な物だ。パワーはもちろん技術もだ。幸いにもお前はパワーはある」

するとゼノは晴斗の右の二の腕を叩く。

「次に仲間だ」

ゼノは親指と人差し指を立てて言う。

「さっきみたいにお前の暴走を止めたり…気さくに話せたり、一緒に戦ってくれる奴が必要だ。…俺を仲間にするのはいいが一緒に行動できないぞ。ここでやらなければいけないことがあるからな。そしてもう一つは…」

と間を置いて

「復讐心を捨てることだな」

これを聞き晴斗は「何言ってんだ?こいつは」という顔をする。

「いや、何も復讐するなってわけじゃないさ。悲しくなったらその分返してやんないと済まないってのはわかる。でもな?それを目標に生きちゃ駄目だぜ?そいつが達成されちまったときその後は何を目標に生きてくんだよ」

「それは…」

晴斗は言葉を詰まらせる。

「だろ?後先考えず一時の感情だけで復讐なんかするもんじゃないぜ。よく考えて行動するんだ」

晴斗は黙って聞いていた。確かにさっきは軽率に復讐すると言っていたが、その後の事など考えていなかった。

「まったく…あんたの言うとおりかもな…俺は何も考えちゃいなかった…」

それを聞きゼノはどや顔する。

「よ~し!落ち着いたところで…君らが倒れていた近くにこんなものが落ちていたんだが?」

どこから出したのかゼノはプレゼントボックスを持っていた。それは晴斗にも見覚えがあった。

「それは…」

冬香からもらった…誕生日プレゼントだった。

「せっかくだし開けてみたまえよ。晴斗君」

ゼノがニヤニヤしながらいった。きっと他人の恋人 (からの)の○○といったものが好物なのだろう。

晴斗がプレゼントボックスを開けると中にはヘッドフォンが入っていた。白を基調とし、緑のラインが入ってるもので、晴斗が好きな色をしっかりとマークしていた。

(しばらく話せていなかったけど…しっかりと覚えているもんだな…)

そう思いヘッドフォンを取り出すとその下に手紙が入っていた。こういう物はプレゼントの上に置くものでは?と内心突っ込みながら手紙を読む。

『晴斗へ

15歳の誕生日おめでとう!

私達が出会ってからもう十年だね。

最近はお互いに話すこともなかったからどこかで寂しいと思っている私です。

今回のこのプレゼントは集中するとき雑音が邪魔しないよう用意させていただきました。これからも私の最高の友人でいてね!

冬香より』

晴斗は笑った。やっぱり冬香は冬香だった、と。そして泣いていた。もうあの屈託の無い笑顔を見ることが出来ないかもしれない、と。

「ったく…くよくよすんなって!男だろ?泣く暇があるなら主犯をひっ捕まえて1発ぶちかます為の努力くらいしたらどうだ?」

と晴斗を勇気づけるようにように言う。どこか他人事のように。

「それも…そうだな…!」

と、晴斗が立ち上がった所でそう言えばと口を開く。

「何で俺を本気で(それも小指がおれるくらい)殴ったんだ?」

その疑問に対しゼノはこう答えた。

「痛みで怒りを抑えるためだ。一番効果的な方法だぜ?」


数分後

「お前が持ってる力だが」

と晴斗はゼノから説明を受ける。

のだが

「まずは謝罪を…悪い!申し訳ない!ごめんなさい!すみませんでしたぁ!」

「え?何?何!?」

突然の謝罪で晴斗は驚く。

「さっきも言ったがお前らの体の中にあるウイルスはエネルギーのひとかけらさえあれば無限増殖するんだ…エネルギーはごく少なくて済むのに毒素の強いウイルスが増え続ける」

「あれ?それってすごくね?」

「そう、凄いんだ。自然界じゃ見られない増殖能力!そこに着目して少しお前の体を改造して…」

「待て!」

と晴斗が話を止める。

「改造ってあれか?でっかい海の事か?」

「いや、それは海洋な?」

晴斗は頭が混乱し無意識のうちにボケに入っていった。

「改造ってのは初代の仮○ラ○ダーみたいな奴だよ?」

「いや…理解はしてるんだが…」

納得いかねぇ…と内心怒っていた。

「で…?俺も仮○ラ○ダーみたいに変身出来んのか?」

ゼノはそれを聞き鼻で笑い

「そんなわけないない。さすがにそんな技術持ってたら世間にばらまくわ」

とへらへらというゼノ。

その態度に晴斗はついにキレて

「勝手に改造した人間がそんな態度とっていいと思ってんのか?」

と言い放つ。

「大変申し訳ございませんでした」


さて(ふぁふぇ)本題に(ふぉんふぁいふぃ)入ろう(ふぁいふぉう)

キレた晴斗に殴られたゼノはひとまず晴斗の持つ(持たせた)力について説明を始める。

「改造を施したのはお前の四肢だ。両腕、両足に兵器改造が施されている」

そこで晴斗が思い出す。

「あ…だから体に違和感が無いか?って聞いたのか」

「そそ。そう言うこと。当たり前だが違和感に一番敏感なのは本人だからね。さて各兵器の説明に入るぞ…」


右腕 電気を発生し発生した電気を操る。

「物にぶつける時のイメージとしては一度弱い電気でマーキングしておいて一気に放出する感じだ…雷が地面に落ちるのと似たようなものだな。初めてやるからかなり集中した方がいいかもな」

とゼノはどこからか持ってきた的を晴斗の20メートルほど先に置く。

(こういうときこそプレゼントを使うべきだな)

晴斗はヘッドフォンを耳につけ集中する。

(この力を身につければあるいは…)

と心の中でゼノが考えていると…

「ん?今なんか言ったか?」

と晴斗が尋ねる。

「何も言ってないけど?」

「おかしいなぁ…さっき確かにこの力を身につければどうの…って言ったと思ったんだけどな…」

その発言にゼノは驚愕する。

「今、お前…俺の考えてることがわかったのか!?」

「何言ってんだよ。いきなりからかうのはやめろって…」

さっきの腹いせか?と、晴斗は思うがゼノ目は本気だった。

「もう一回俺を見ながら集中しろ…」

そう言ってゼノは目を合わせる。流石に晴斗も冗談ではないようだと悟り、集中することにした。

すると…

『もしも~し 聞こえるか?』

とゼノの声が聞こえた。

「腹話術…か…?」

「そんなわけねぇだろ!ハァ…晴斗が『患者』か…」

とぶつぶつ言うゼノ。すると今度は手鏡を白衣の胸ポケットから取り出すと

「その鏡で自分の顔を写しながらさっきと同じ事をしてみな」

と言った。晴斗は言われた通りに自分の顔を写し、同じように集中させてみた。

すると

「…なんだ…?これは一体…」

晴斗の目が翡翠ひすい色に輝いていた。

「革命症さ」

ゼノは答える。晴斗には聞き慣れない単語だった…だが記憶のどこかで聞いたときのある単語でもあった。

「革命症…」

「そうだ。革命症。それは単なる病気じゃなく漫画やアニメでいう特殊能力とか異能力みたいなもんだ。革命症の名前の由来は…」

「あまりにも強いそれ(・・)は国を転覆させるほどの…革命を起こせる程のものだから、か?」

と、晴斗は、昔どこかで聞いたときのある言葉をゼノに話す。

「お、正解だ。察しが良いね!そういうの好きだぜ」

とゼノは嬉しそうに言った。

「そして革命症の発現、もとい発病条件には三つある」


革命症について…

①自分の血縁者が複数人一斉に死ぬ

②自身の回りの不特定多数の人が同じタイミングで死ぬ

③自身の最も大切な人物が死ぬ

「基本はこの三つだが、病気である以上先天性もあるな」

そして革命症の種類

翡翠の目ニフリート

「これはお前が持ってるような精神干渉系の革命症だ。複数の能力が集まってるケースも多くない。他にも催眠とかもあるぞ」

深紅の目ガルス

「こちらは所謂いわゆる、超能力と呼ばれるものに酷似しているな。身体強化、発火、浮遊etc…ただし一人につき一能力だけだ」

青空の目ケオノア

「能力は常時発動型だからかなり限られる。青空は俺もあんまり見たとき無いな。症例が少ないがゆえに何とも言えん!」

「なるほど…よくわからん」

「覚えろよ…。はぁ…だったらもう少しお前の革命症についても研究と訓練が必要か…」

とゼノが面倒くさそうに言う。

「慣れると簡単だぜ?」

「忘れたのか?翡翠は複数の能力が存在する事もあるんだ…」


晴斗の革命症について以下の事がわかった。

①他人の考えている事がわかる

これは以前から知られていた事であったが、回りの人の思考を巻き込む形で読むことができるらしい。(ゼノを認識していない状態での使用で成功)

②相手の精神世界に潜り込むことができる

昏睡中の冬香の考えていることを読もうとして初めて知れた能力。一点集中を続けることで精神世界に潜り込む事ができる。

精神世界は様々なものがあり、昏睡中の冬香は意識が完全にブラックアウトしており、真っ暗な空間が広がるだけだったが、ゼノの精神世界はアニメに出てくるような研究室だった。


晴斗の革命症も判明しやっと四肢の兵器解説と練習が次のステップへ入るのだった。


右脚 炎

「攻撃のイメージとしては足に熱を纏わせる感じかな。やってみろ」

そう言われ晴斗は早速行動に移す。すると徐々に右足の温度が上がり、ついに発火する。

「うぉぉカッケー!」

ついこの間まで中学生だった晴斗は興奮を押さえきれず声を大にして言った。この足を見てもしやと思い左足を軸にして右足で虚空を蹴る。炎を纏ったその右足は 轟ッ! と音をたて燃え盛る。

「我ながらいいもん作ったなぁ…」


左脚 氷

「こっちは地面を氷が這わせるイメージをする。軌道はお前が考えろ」

晴斗は氷の道をイメージし蛇行させたり、絵を描いたりした。

「思ったより簡単にできるもんだな」

その言葉にゼノはこう言う

「イメージってのは、人間にとって2番目ぐらいに大切なもの…って思ってるな。俺は」


左腕 毒

「これは他のと違ってイメージどうこうってのじゃなくて相手に押し当てるだけでOK」

「おお!それは楽で良いな…ってあれ?それって…」

そこで晴斗があることに気付く。

「日常生活にかなり支障が出るよね?俺、ここでは左手で何か抑えたりしてないけど…」

一瞬の沈黙、そして…

「うああぁぁぁぁぁ!やっちまったぁぁぁぁぁ!」

と珍しくゼノは声をあげて焦る。

だが

「うああぁぁぁぁぁ!」

と焦りながら何かを探している。そしてその絶叫が止まったとき革手袋のようなものがゼノの手の上に乗っかっていた。

「応急措置だがこれは左手の毒をしてくれる、言わばフィルターになっている。当分はこれを着けててくれ」

そうして当分の間晴斗は革手袋をつけながらの生活を余儀なくされたのである。


クリアワールド 二年目

四肢の扱い、そして革命症の使用にも慣れてきた晴斗を見てゼノはあることを提案する。

「…もうお前、元の世界で暮らしてもいいんじゃないか?」

兵器も安全に扱うことができる晴斗にもう危険はない。そして何より外に出して自由に活動させたいという気持ちもあった。

「でも2年間もあっちにはいなかったんだぜ?そんないきなり現れて大丈夫かよ?」

と、疑問を投げ掛ける晴斗。食料や生活必需品の類いはゼノが買っていたので一切外に顔を出していない。

「安心しろ。こっちの時間では2年経っちゃいるが、実際あっちでは10ヶ月くらいしか経っていない」

それでもかなりの時間行方不明のままであることには変わりはないのだが…

「なら大丈夫か」

と何故か晴斗は安心する。

「それに俺もやりたいことが見つかったし」

その言葉に興味を示したゼノは

「ほほう?何をしたいんだ?」

と問いかける。

その問いに晴斗はこう答えたのだった。

「『患者』を助ける!…かな」

それを聞きゼノは爆笑した。そしてひとしきり笑った後

「大それてるな~。あー腹痛てー。じゃあさ、ついでに俺の頼みを聞いてくれ」

ゼノは口角を上げて言った

「お前が世界を救え」

と。

「お前も」

大それてるじゃないかと言おうとするが被せるかのようにゼノは言う。

「大それてるってこたぁ俺にもわかってる。でもお前にはそれができるんだよ。何せ力があるからな」

それを聞いた晴斗は

「何をすりゃいいかよくわからんが出来ることはやってみる」

と言った。

その後も少し雑談を…することはなく「思い立ったらすぐ行動」と言わんばかりに外へ出る準備をした。


数分後…

晴斗たちはドアの前にいた。壁も何もない所にドアがあるのでどこでもドアを想像させる。

「この先が外だ。まぁ…その…なんだ…頑張れよ」

とゼノからエールを貰う。

「じゃあ、冬香を頼む」

と晴斗が放った言葉に対しゼノは

「年上に物を頼む態度じゃねぇよな?」

と突っ込む。

「え?」

「俺、こう見えても25歳だぞ?」

「え?えぇぇえぇぇ!?」

ここに来て衝撃の事実だった。

「…まぁそれはそれとして。冬香をお願いします!」

と言い直した。

「ああ、頼まれた」

この会話を最後に晴斗は出ていった。

そしてこの空間に一人だけになった(正確には二人だが)ゼノは考えていた。

あのテロの日の事で、唯一の大きな問題が残っているのだ。

(何故冬香ちゃんが昏睡状態で留まっているのか…だよな…)

実はあのテロの日にゼノは現場にいた。

そこでウイルスの脅威、即死性も知れた。

(いくら時間がゆっくりと言えど時間は10ヶ月経っている…抗体を持ってる可能性もあるか…?いや何にせよ)

「晴斗…こいつぁ裏で患者関係のヤバいのが動いてるかも知れねぇぜ?」

ゼノは一人、苦笑していた。


西暦2135年 8月10日

晴斗は自身の家の前に立っていた。

その手には今までのことを記した手紙が握られていた。

それを家のポストの中に入れると家に背を向けて歩き始める。その顔はどこか寂しそうな、それでいてどこか楽しそうな表情をしていた。

「患者を助けるには人手が必要だな!そうだなぁ…チーム名でも欲しいかな?そうだ!絶望に反旗を振るう…反旗団と名乗ろう!」


3つのプロローグを経て物語はスタートする。

ReverseFlag

開始。

これ以降は一万文字を越えることはないと思います。

プロローグの3つ以外は基本、1話完結となります。


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(急いで作ったので誤字脱字が多いと思われます…)

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