第13話:脱出
昨日はなんかえらいことになった。俺が女装しなければならなくなったのだ。俺以外俺の女装に賛成だから変更ははっきり言って不可能だ。あ〜、やっぱ当日休もう。夜にかき氷食いまくって腹下してしまおう。
そんな妙な決意を抱き登校。んで一気に文化祭練習時間。石川があまりの遅刻連続記録更新にさすがに先生がキレたりもしたが、俺のことじゃないんで省かしていただく。
ではまずリナが考えたシナリオを紹介しよう。
女装した俺が食パン加えて登校。そして北村と衝突。北村が仲間と共に毎朝ダンスの練習していることが判明。俺はそのダンスに興味をもち、一緒に踊らせてもらうことに。ダンスが終わるとチャイムが鳴り退場し他のグループにバトンタッチ。とまあこんな感じだ。一体どこに俺が女装する必要があるんだ?そして出会いのシーン一体いつのマンガだよ!ベタにも程があるよ!と、このような疑問を一気にリナにぶつけるとこう返ってきた。
「なんかネタ的要素入れたいじゃない?」
やってられるかぁぁぁ!!!なんでそのネタ的要素とやらでイジられてんの俺だけなんだよ!なんてことをリナに言ってみたら
「だって他の子だと可哀想じゃない」
「俺は可哀想じゃないのかよ!」
「当然よ」
「・・・・・・」
何故だか分からないがぐうの音も出ないとは。自分でも納得してる部分があるってのか?悲しすぎるだろう…
「さてみんな、シナリオはだいたい理解したわね?じゃあ練習していきましょう」
「なんだか向こうので納得いかず窓の外ばっか見てる人がいるけど」
「ん〜、あれは四の五の言わさずやらせるから」
なんかすごい言葉が聞こえた…。つーかシナリオに関与してんの俺と北村だけじゃん!
「じゃあ中林練習するわよ!」
「だから不満有りだって言ってんだろうが!」
「ふ〜ん、そんなこと言っていいの?この子がどうなっても知らないわよ?」
そう言ってリナは胸ポケットから何故か俺の恐竜シャーペンを取り出した。それは俺が小学生の頃から苦楽を共にしてきた相棒だった。
「有野…。どうしてそれを?」
「矢島がスポットライトでやることないから盗ってくれたの」
あの野郎!!!出番ないからってこんな嫌がらせを!
「くそ…決められた役を演じるのは苦手だがやってやろうじゃないか」
「そう言ってくれて助かるわ」
そんな訳で練習開始…なんだが女子のこちらを見る目がおかしい。そんなことを思っているとミオが話しかけてきた。
「やっぱこういうのって形から入るべきじゃない?」
「は?」
すると次にユキが口を開く。
「私ちょうど制服一着余ってたのよね」
さすがにここまで言われると察しがつく。つまり俺に女子の制服を着ろということだ。
「いや、さすがにまだ早いんじゃないかな」
「いやそんなことないわよ。私たちが慣れとか…ううん、どんなのか見てみたいし」
今慣れとかないとって言いかけたよな。女装似合うとひとかけらも思っちゃいねぇよ。いや、似合ったら似合ったで嫌だけど。ともかくこの場から逃げ出さなければ!
「あ、なんか急に腹痛くなってきた…」
「ふ〜ん、そんな見え透いた嘘が通るとでも?」
「ちょ、ホントだって!」
ふと出入口を見ると前にはチサト、後ろには中河がすでにスタンバっている。ここは中河の方が脱出は容易か。
「そういう訳ですまんが帰らせてもらう!」
俺は後ろの扉へ走る。待ってましたと言わんばかりに中河がガードする。
「中河、よく考えてみろ。俺の女装した姿を」
「・・・気持ちわりぃ」
「だろ?だったら通せ」
俺は中河を押し倒し、教室から脱出。
「悪い中河!」
俺は一気に下足室まで走り去った。
「こんなことして…明日どうなるんだ、俺」
俺は明日からの学校生活を思うと憂鬱になった。早く来てくれ文化祭。
だが俺は何かを忘れている気がする。
「あ!」
そうだ!リナに恐竜シャーペン盗られたままじゃねぇか!ということはあれを人質に何させられるか分からないってことか…。俺の絶望は深くなった。
最初は嫌がってても結局やらされるんですよね、女装って…。
私もそうでしたから…