激闘天界大決戦!聖剣勇者の憂鬱編
あれ? ここはどこだ?
目を覚ますと、そこは雲の上。神々しい光が降り注ぐ、一面に白が広がる世界にいた。
俺はいったいどうしてこんなところにいるのだろうか。
「お目覚めになりましたか?」
目の前には、西洋風の鎧を着た、色の白い美人の女性がいた。髪は腰まで伸びている。
「あなたは、誰ですか? ここはどこ? 僕はどうしてここにいるのでしょう?」
「私はヴァルキリー。ここは天国です。あなたは寝る前にタバコを吸いましたね? そしてちゃんと火を消さなかった。家は燃え、一酸化炭素中毒で死んだのです」
ヴァルキリーは淡々と告げた。
「oh……」
まさかこんなあっさり死んでしまうとは……。
いやしかし天国に来れるとは運がいいな。生前良い行いをしていてよかった。現世に未練はないし、天国を満喫しようではないか。
「天国に来れたんですね。じゃあさっそく、美女のハーレムとおいしい食事オナシャス!」
「それは無理です」
ヴァルキリーはキッパリと言った。
「今、天国はロキの率いる悪の軍勢と戦うのに忙しいのです。あなたもそれに参加してもらいます」
「は?」
意味がわからない。天国はもっとアハハハウフフフって感じだろう。生前の世界ではそうだった。30分で5万円かかったけど。第一俺は生きていた時にも戦ったことはない。小説家兼ラノベ作家だ。
「戦いなんて無理ですよ。授業の武道とかもクソ弱かったし」
「大丈夫です。ここは精神の世界なので、あなたはあなたの望む姿で戦うことができます。あなたの妄想力は大したものでした。善行こそ積んでいなかったのですが、少しでも兵力が欲しい今、特別にあなたを天国行きにしたのです」
俺善行積んでなかったんだ……。しかしイマイチやる気せんな……。妄想力があって強いと言われても戦うのはこわい。
「天国で流れる血は現世にも悪影響を及ぼすのです。協力してください!」
「ふーむ……しかし現世とか知ったこっちゃないしなぁ……」
「ロキ達を倒したら天国は通常通りハーレムやご馳走を提供いたします」
「やりましょう! というか是非やらせてください!」
こうして、俺は戦うことになった。
「あなたは、あなたが書いた小説のキャラクターの能力を使うことができます。だれか一人を強くイメージして……」
誰にしようか……。炎の能力者、氷の能力者、戦士、魔法使い、迫真空手部……。
悩んだ末、俺は聖剣を使う勇者にした。
勇者の装備や能力を強く頭に思い浮かべる。
すると、光の粒子が身体を包み、鎧となっていく。傍では同じように聖剣が形作られた。
なんだか力も溢れてくる。これならいける気がする。
「成功したようですね」
ヴァルキリーは微笑みながらそう言った。
「ああ! これならどんな相手でも倒せそうだぜっ!」
口調が勇者に影響されているのを感じる。
「では、戦場へ案内します。移動呪文を使いますので近くに来てください」
ヴァルキリーは俺の手を取り、呪文の咏唱を始めた。
下に魔法陣のようなものが浮かび上がる。
視界が歪み、体が飛んでいくのを感じた。
轟音が聞こえる。そして人々の雄たけび。武器同士のぶつかる音。どうやら無事戦場についたようだ。
白い鎧に身を包んだ天国の兵士と、褐色の肌の独特な鎧を装備したロキの軍勢の兵士達が戦っている。 敵軍には巨大な魔物もいるようだ。呆気にとられている僕に、ヴァルキリーは言った。
「では私は次の英霊を探しますので。アディオス」
「えっ、ちょっと」
「勇者の力で倒しておいて下さい。では」
ヴァルキリーはまた移動呪文でどこかへ行ってしまった。
しょうがないので俺は戦いの最中へ向かい、無我夢中で戦った。大きいオオカミとか切ったし、大きい竜とかも結構切った。敵を倒したら剥ぎ取りも忘れず行った。ロキの魔法を聖剣から出る波動で相殺したりもした。キノコ採集したり、鉱石掘ったり、とにかく頑張った。
そしてついに、敵の軍勢は去っていき、俺たちは勝利した。
「ついにやりましたね。ありがとうございます。これで天国に血が流れることはないでしょう」
どこからともなくヴァルキリーがやって来た。
「あとは天国を満喫するだけだぜっ!」
「はい!」
「どうすればいいんだぜ?」
「天国では思いの力が形になります。好きな天国を思い浮かべて下さい」
「わかったぜ!」
おれはとりあえず文章にはできないようなセクシーでハッピーでキャッキャウフフなシチュエーションを思い浮かべようとした。が。おかしい、いつもなら簡単にできるはずなのに、むしろ思い浮かべようとしなくても頭に浮かんで困るのに、できない。
「どうしました? 」
「……できないんです」
「は?」
「妄想ができないんです!」
「あー……おそらく、妄想力の使いすぎですね……」
ヴァルキリーは申し訳なさそうに言った。
どうやら勇者になるのに妄想力を使いきってしまったらしい。
「じゃあせめて! あなたが俺のハーレムになるとか! とりあえずなんとかしてください!」
「あー、わたしオーディーン様に頼まれてたビデオの録画しなきゃ。今日は大河ドラマの日だったわ。では。アディオス!」
「あっ、まてこのっ」
ヴァルキリーは移動呪文で消えていった。
1人になって俺は、そういえば自分の小説も、敵を倒したあとの勇者の暮らしなど書いていなかったなぁと思うのだった……。