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麗人賢者の薬草箱  作者: 江本マシメサ
第七章 お宝と迷宮と……
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九十二話

 使用人の男性の後をついて行けば、豪奢な二枚扉の前に辿り着く。

 ここでも『鑑定』の力を使って中の様子を視てみたが、何も分からなかった。

 怪植物モンス・フィトに頼んで扉を開いて貰う。

 蔓を伸ばし、取っ手に絡めさせて捻れば、容易く戸が開いた。

 まずはリリットが隙間から軽く顔を覗かせる。

 室内は広く、地面にはふかふかの赤い絨毯が敷かれていた。天井から吊るされているシャンデリアもキラキラと輝いている。

 そして、人も大勢居た。

「国王陛下、万歳!」という言葉が聞こえる。


『ここは、謁見の間?』


 怪植物モンス・フィトも覗き込んだが、何か分からなかった。

 そろりと、慎重な足取りで中に入る。中の人々は前方に居る国王に夢中であったので、怪しい植物と妖精には気付かない。

 壁伝いに歩いて行けば、国王の周囲を警備している騎士隊の列の前に出そうになって、慌てて引っ込む二人。


 民草の声援はぴたりと止む。どうやら今から話が始まるらしい。

 リリットは怪植物モンス・フィトにその場で大人しくしているように言ってから、姿消しの魔術を自らに掛けて飛び上がってみる。

 玉座に座っているのは年若い少年であった。

 その姿を確認した途端にリリットは噴き出しそうになる。

 物憂げに玉座に腰掛けていたのは、白い毛皮に縁取られた真っ赤なマントを纏い、王冠を被ったウィオレケであった。


『まさかの王様役!!』


 リリットは予想外の配役に驚いてしまう。

 念の為に『鑑定』で調べてみたら、ウィオレケ 配役:国王と出ていた。

 彼の座る玉座の左右には、神官のような格好をした二人の少女が居た。

 顔つきが全く同じなので双子なのだろう。

 白に近い金色の髪を持ち、肌も抜けるような輝きを放っている。年頃はウィオレケと同じ位だろう。美少女という表現が相応しい者達であった。

 彼女らが、国王の言葉を代弁すると言っている。


「本日は、皆の者に国王陛下の宝をお見せしよう」

「よくよく、見ておれ」


 双子巫女は脇に控えていた者に手招きをする。


 男性が四人がかりで運んできたのは、大きな皿――の上に横たわる美女であった。


『あ、あれ、ここって飛行絨毯ヴォル・タペスがある階層じゃないの?』


 持ち込まれた大きなお皿は、不思議な力で満たされている。


 ――『女神の大皿デア・ピアット


 ここの層にあったのは、シュリオン共和国の国宝であった。


『あの美女は、もしかして……』


 皿の上で眠る美女は薄く白い、体の線に沿った形のドレスを纏っている。

 両手を枕にしながら眠っていて、リリットの居る方向から顔は見えない。

 しかしながら、濃い紫色の波打った髪の持ち主には覚えがあった。

 『鑑定』で調べようとしたその時、民草の集まりの中で騒ぎが起きる。

 集まった者達の中で、一人だけ不審な動きをする者が居た。

 前に出てくるまでは良かったが、国王の回りを警護していた騎士達に取り押さえ――られないでいた。


 男は止めようとしていた騎士達を次々と投げ飛ばしていく。

 何者だと、騎士が叫ぶ。

 男は、普通の薄汚い外套を纏い、頭巾を深く被っていた。リリットの居る位置からは顔が見えない。

 圧倒的な強さを見せる男。

 国王ウィオレケは呆然と、暴れる男の様子を眺めていた。

 左右に控えていた双子神官は楽しそうに微笑んでいる。

 剣を引く者も居たが、男はすぐさま拳で剣の平を叩いて弾き返すという、あり得ない芸当を見せていた。


 次々と騎士を倒しながら、男は叫ぶ。


「――リンゼイさん!!」


 リリットはハッとなって、男の情報を調べた。


 クレメンテ 配役:民草その一


『……あ、まあ、うん』


 暴れていた男の正体はクレメンテであった。配役は地味な彼にぴったりの、民草役である。

 リリットも思わず納得をしてしまった。


 戦闘をしているうちに頭巾が外れて、地味顔が露わとなる。間違いなく、クレメンテであった。全ての騎士を片付けると、急いで皿の上の美女の元に駆けて行く。


「リンゼイさ――」


 皿の上の美女へと手を伸ばしかけたその時、不思議な呪術によって動きを止められた。


「女神様に触れることは許さん」

「民草よ、気でも狂ったか?」


 圧力のような術で、クレメンテの体は地面に伏せられた状態となる。


「かの、女神は、国民すべての願いにより、降臨された」

「だが、見ての通り、目を覚まさない」


 彼女を眠りから覚ますのは、絶対的な愛だと言う。

 よって、女神を愛する自信がある物を集ったのがこの場であった。


『だから男ばかりなのか……』


 双子神官はこの中から一名、女神に口付けする者を選ぶと言った。

 集まった男達は野太い声で歓喜する。

 双子はチラリと、クレメンテを見た。


「当然ながら、乱暴な者は女神様に相応しくない」

「この男以外の者を選定する」


 その言葉を聞いたクレメンテは、今まで見たこともないような凶相を浮かべていた。


『ありゃ、怒っちゃった』


 腕に力を入れて、ぐぐぐ、と立ち上がろうとするクレメンテ。

 強力な呪術を掛けてある筈なのに、動き出す男を見て、双子神官は焦っていた。


「選定の妖精よ!」

「そこに、居るのであろう?」


 出てこいと言われてリリットは気付く。選定の妖精とは自分のことなのかと。

 出て行こうかどうしようか迷っていたら、ジロリと、双子神官に睨まれる。

 姿を消す術式を解いてから、よろよろと散漫な動きで飛んで行く。

 リリットが姿を現せば、会場内の男達がどよめきの声を上げる。


『ど、どうも~』


 民に向かって会釈をしつつ、双子神官を避けてから、ウィオレケの膝の上に着地をする。

 一体どうしたのかと、声に出さずに話し掛ければ、おかしな術中に嵌って喋れないし、身動きも取れない状態になっていることを訴えていた。


 そうこうしているうちに、クレメンテが立ち上がる。


「ヒッ!」

「な、なんだ、あの男は!」


 バチリと、布が破れるような音がした。以降、術から解放されて、クレメンテの体は自由となる。

 剣を抜いて、少女達に切っ先を向けていた。


「よ、妖精、早く、決めろ」

「そ、それか、あの者を止めるのだ」

『え~っと……』


 なんだ、この茶番は、とリリットは頬を掻きながら思う。

 この空間を作り出したのは、間違いなく少女達だろうと気付いていた。

 他の者達は、彼女らが作り出した幻術である。


 早くしろと言われたリリットは、女神を目覚めさせる男を一人指名した。


『じゃ、そこで荒ぶっているお兄さんにお願いしようかな』

「は?」

「何を言っている?」

『お願いしま~す』


 リリットはクレメンテの方に近づき、大丈夫かと声を掛けた。


「あ、リリットさん」

『ごめんね、助けることが出来なくって』

「いえ」

『じゃあ、そんな訳だから、リンゼイをお願いね』

「!?」


 さあさあと言いながら、眠れる美女を起こすようにと背中を押す。

 大皿の上に眠る絶世の美女神ことリンゼイは、この騒ぎの中でもビクリともしなかった。


「リ、リンゼイさん」

「……」


 クレメンテが声を掛けても動かない。


『クレメンテ、分かっていると思うけれど、女神様は口付けで目を覚ますんだよ』

「……」


 愕然とした表情をリリットに向ける。

 彼はリンゼイを助けようとしていたが、まさか本当に自分が口付けをして目覚めさせようとは思ってもいなかったのだ。


『思い切ってぶちゅっと!』

「いえ、出来ません」

『いいって! どうせ意識ないし』

「余計に出来ません!」


 顔を真っ赤にしながら狼狽えるクレメンテ。

 先ほどの、双子神官に凶相を向けていた人物のには見えない。


『いや、実際問題、リンゼイが目覚めないと物語がオチなくって困るから』

「……」


 リリットは背後を振り返った。

 双子神官の少女達が目を輝かせているのを見てしまう。

 視線を感じたからか、表情を真面目なものに戻していた。


『クレメンテ、早く』

「こんなこと、許されるはずが」

『わたしが許すから、さっさと決めて!』

「……わ、分かりました」


 クレメンテは皿の上に横たわるリンゼイに深々と頭を下げた。

 地面に片膝をついてから、謝罪の言葉と埋め合わせも絶対に行うと、意識のない者に伝えていた。


 震える手でリンゼイの肩に触れて、仰向けの状態にする。

 もう一度、声を掛けてみたが、反応は無かった。


 永遠にこうしている訳にもいかないので、決心を固めたクレメンテは顔を近づける。


 その様子を見ていた双子神官は、頬を紅潮させて儀式成功の瞬間に期待を寄せていた。

 あと少しで唇が触れそうになった時、クレメンテは急に顔を離す。


『ど、どうしたの?』

「――……ありません」

『え?』


 リリットはもごもごと小声で喋るクレメンテの肩に向かって飛んで行って止まった。


『ん、何?』

「……その、こ、この方は、リンゼイさんでは、ありません」

『な、なんだって~~』


アイテム図鑑


忘れな草


リリットの言いつけを守って、健気に壁に張り付いている怪植物モンス・フィト

リリットはすっかり存在を忘れている。

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