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麗人賢者の薬草箱  作者: 江本マシメサ
第七章 お宝と迷宮と……
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九十一話

 結局、身の振り方を考えていなかったパラティエ公はクレメンテの屋敷に滞在することになった。

 まずは身支度を整えることを勧めてみる。

 ついでに駄目元で『迷宮宝箱ラビリント・アネクレン』の情報で何か知っていることがあったら教えて欲しいとクレメンテは願ったが、彼も誘ってきた人物についてのみ知るばかりであった。


 パラティエ公の知っていることとは、組織名が『迷宮宝箱ラビリント・アネクレン』ということ。活動内容は迷宮内に世界各国の宝を飾ること。誘ってきた男はシフォン・イズルーンと名乗ったこと。以上である。


「今思えば、不審な点は多くあった」


 必死に妖精達を励ませるような地を探す中で、シフォン・イズルーンという男の迷宮へのいざないいは誰にも迷惑を掛けずに行えるもので、願ってもないものであったのだ。

 男は仮面を被り、全身を覆う外套を纏っていたという。そして、素顔を見せることは一度もなかった。


「激しく憤っていたので、我を忘れていたのかもしれない」

「……ええ」


 女装姿で話すパラティエ公の言葉は大変説得力があるものであった。

 クレメンテは視線を外しながら返事をする。


「この先、私も同行しようかと」

「いえ、大丈夫です!」

「いいのか?」

「はい。良かったら、私達の家に来る準備をしてくださればと」

「分かった」


 クレメンテの勇気ある断りの言葉に、リンゼイやウィオレケらは心の中で称賛を贈った。

 あのような姿をした人物に同行されては、真面目に探索出来ないと思ったからだ。


「では、下の層へ繋がる道へと案内をしよう」

「ありがとう、ございます」


 前を歩くパラティエ公とクレメンテとは距離を置いて、あとの者達も続いて行く。

 湖から更に奥に進んだ先は行き止まりとなっていた。

 パラティエ公が木にぶら下がっている蔓を引けば、仕掛け扉が出て来て薄暗い階段が姿を現す。


「では、気をつけてくれ」

「はい、ありがとうございます」

『公様、マタ、アトデネエ』

「ああ」


 すっかり妖精姿に慣れてしまった怪植物モンス・フィトは頭から生やしている葉を手を振るように揺らしながらお別れをする。

 リリットは鞄の中に身を潜ませ、リンゼイとウィオレケは軽く会釈をしながら通過して行った。


 全員が通り過ぎれば、扉は閉まってしまう。


「……」

「……」

「……」

『……』


 怪植物モンス・フィトだけが、ふんふんと鼻歌を歌いながら呑気な様子で階段を降りていた。

 他の者達は、表情を青くしたままでいる。


『アレ~、ミンナ、ドウシタノ?』

「いえ、ちょっと気持ちの整理が」

「まさか、王族が犯人だったなんて」

「まあ、犯人と言って良いのか分からないけれど」

『でも、あの見た目は破壊力があった』


 混乱状態の中で、これではいけないとウィオレケは探索に集中するように言う。

 今は中年妖精について考える時ではない。奪われた国宝を取り返すことを考えなければならないのだ。


 先ほど見たことは全て忘れることにした。

 精神の疲弊を回復させようと、全員で赤の霊薬エリキサを飲むことにする。

 気持ちを入れ替えて、階段を降り進んだ。


 行きついた先は、先ほどと同じような開けた場所であった。

 鉄で出来た扉が出迎えてくれる。

 またしても、扉の上には看板があった。


 ――ここより先は、『童話の城ファブラ・カストロ』。


『あー……、ここも妙に怪しい場所だなあ』

「どのお宝があるかどうかで、中の状況も予想出来るかもしれないのですが」

「童話と言えば、うちの国の飛行絨毯ヴォル・タペス?」

「そういえば、本があったな」


 ウィオレケは幼い頃に読んで貰った話を語り出す。


 昔々、あるところに美しい姫が居た。

 一度も外に出たことのない、籠の中の小鳥のような娘であった。

 そんな彼女は毎晩のように星に願う。

 『一度でいいから、外に出て、空を飛んでみたいわ』と。

 当然ながら、その願いは長年叶うこともなく。

 姫は十八歳の誕生日を迎える。

 美しい姫君の為に世界中から贈り物が寄せられた。

 ドレスに宝石、装身具などが山のように届けられる。

 どれもこれも、今までたくさん受け取ったことのある品々で、姫の心が揺れ動くような品物はなかった。

 しかしながら、その中に不思議な絨毯があった。


「――天空都市の魔人から贈られた品、飛行絨毯ヴォル・タペス

「それで、空飛ぶ絨毯を受け取ったお姫様はどうなったんですか?」

「一人で城の中を飛び出して、大冒険をするっていう長編だったような」


 その童話を模して作ったお城ならば、中には美しい姫君が居るということになる。

 どういう風に絡んでくるのか、全く想像も出来なかった。

 ふと、眉間に皺を寄せていたリリットが、恐ろしいことを口にする。


『また、中に居るの姫が女装したおっさんだったら……』


 全員背筋をぞっとさせ、表情を青くしていた。


「ちょっと、メルヴ」

「ハ~イ?」


 リンゼイは怪植物モンス・フィトに釘を刺しておいた。

 もしも、この中に可哀想な中年男性が居ても、屋敷に来るように誘ってはいけないと。


『分カッタ~』


 これで大丈夫と、周囲と視線を合わせながら安堵する。

 クレメンテは心の準備が出来ているか問いかけて、皆が頷いたので扉の取っ手を握りって捻る。


「――!?」


 扉を開いた瞬間に光に包まれる。

 リンゼイの叫びが響き渡る。


「――やられたッ!!」


 それは、魔術で作られた光であった。


 ◇◇◇


『……うう』


 固い石の床の上でリリットは目覚める。

 薄目を空ければ、近くに怪植物モンス・フィトの姿があった。

 他の者の姿はない。

 部屋には調度品など何もなく、殺風景な場所であった。

 現在地は先ほど立っていた扉の前ではないことだけ分かる。


『メルヴ~、起きてる~』

『ウウウ~ン』


 ぼんやりとする意識の中で、怪植物モンス・フィトに声を掛けながら、目を擦ろうとしたら、手に何かを握っていることに気付く。


『ん?』


 二つ折りになった紙には、よく分からないことが書かれていた。


 リリット・リリティア

 役名:妖精


『なに、これ……?』


 想像出来るのは、自分たちが物語の中に引きこまれて、役割を与えられたということ。

 ウィオレケが語った物語の中では妖精が出るような話は聞いていなかったような気がした。ザックリと簡単に語っただけであったので、もっと詳細を聞いておけば良かったと後悔をする。


 視線を怪植物モンス・フィトへと移す。


『大丈夫?』

『平気ダヨ~』


 起き上がった怪植物モンス・フィトの葉と葉の間にも白い紙が挟まっていた。


 リリットは紙を引き抜いて、勝手に中に書いてあることを見てみる。


 メルヴ・メディシナル

 役名:雑草


『……』


 リリットの役もよく分からないものであったが、怪植物モンス・フィトの雑草役も妖精以上に訳が分からないものであった。


 二人が居るのは石を詰んで作った部屋である。

 おそらく、迷宮内に作った城の中に居るのだろうな、と推測していた。

 『鑑定』の力を使って周囲を視てみたが、情報はぼやけていて把握することは出来なかった。


 リリットと怪植物モンス・フィトの役名が書かれてあった紙はその辺に丸めて捨てた。


『さて、どうしようか』

『ミンナヲ、探サナイトネ』


 出来ればウィオレケに会えたらいいなあと思うリリットであった。


 ここで待っていても助けてくれそうな展開は期待出来ないので、行動を起こすことにする。

 怪植物モンス・フィトにお願いをして、扉を開けて貰う。

 僅かに開いた隙間からそろりと顔を出してみれば、通路には誰も居なかった。

 勇気を振り絞って出てみる。


 このまま飛んで行くのは怖いので怪植物モンス・フィトの葉と葉の間に身を隠させて貰った。


『出発シテモイイ?』

『お願い』


 テポテポと進んで行けば、前方より誰かが走って来る。


『止まって! 壁に寄ってくれる?』

『ハ~イ』


 ささっと壁に張り付くような体勢でじっとする。

 リリットは体を丸めて葉の中に隠れた。


 走って来たのは使用人のような格好をした男性である。

 怪植物モンス・フィトの姿には一目もせずに駆けて行った。


『さすが、雑草役。眼中にない』

『雑草ッテ?』

『あ、なんでもない』


 とりあえず、使用人が走って行った先に誰か居るのではないかと思い、後ろを追跡することにした。


アイテム図鑑


謎の役割表


リリット:妖精役

怪植物モンス・フィト:雑草

リンゼイ:???

ウィオレケ:???

クレメンテ:???


物語の全容は、謎に包まれたまま。

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