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麗人賢者の薬草箱  作者: 江本マシメサ
第七章 お宝と迷宮と……
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九十話

 じっと見つめ合いながら対峙する二人。


『すごいよね、クレメンテ。わたしだったら絶対に噴く自信があるわ』

『メルヴハ、泣イチャウカモ~』

「……」

「……」


 だんだんと、表情は険しくなる。双方の睨み合いは続いていた。

 しかしながら、いつまでも視線を交わしている場合ではないので、クレメンテは自らを名乗った。

 あいにく、セレディンティア王国はイクセルン国とは国交は無い。一応王族の端くれであると付け加えたが、妾の子なので、話をして貰えるかと緊張の面持ちでいた。

 額に汗が浮かび、今すぐにでも目を逸らしたいと思った。

 相手はふざけた格好をしていたが、威圧感のある強い瞳を持っている。

 かの、イクセルン国の王弟の話はクレメンテも噂で聞いたことがあった。

 強靭な体を持ち、勇敢で度胸もある、絶対的な力を持つ英雄であると。

 戦場で相見えなくて良かったと、心から思う。

 その目に、狂気の影は無い。話せば分かってくれるという確信があった。


 顎に手を添えていたが、ついにパラティエ公が口を開いた。


「私を存じているのか?」

「え、ええ」

「私も、貴殿を存じていた」


 セレディンティア王国で様々な武勲を立てていたクレメンテもまた、他国で噂になるような王族の一人であった。


「まさか、このような場で会うことになるとは」

「あ、はい」


 消え入りそうな声で「光栄です」と言う。

 相手が妖精の姿でなかったら、感激していたかもしれない。

 頭の上から触覚を生やし、手作りの羽を背負って下着姿のようなドレスを纏っていなければ、その場に膝を付いていたかもしれない相手だったのだ。


「貴殿達は、これを取り戻しに来たのだろう」


 腰に着けていた柄の付いた釣り鐘型の花が付いたベルのようなものを掲げる。


「ええ」

「……」


 何故、『妖精の鐘フェアリ・クロッシュ』を持ち出したのかと聞けば、意外な答えが返ってきた。


「我が国は、この宝を死蔵していた。だから、相応しい場所に持って来ただけ」


 イクセルン国の宝である『妖精の鐘フェアリ・クロッシュ』は柄を振ってカランと鐘を鳴らせば、屈強な体を持つ妖精を召喚出来るという力があった。

 それは、その昔王族と妖精との間にあった交流の中で、友好の証として贈られた品であった。


 『――何か、困ったことがあったら、この鐘を鳴らしてください。未来永劫、あなたの血を引く者全てをお助けしますわ』


 その鐘は大切に保存されて、何世紀と国宝として眠ることになった。


「十年前だったか。我が国が戦火にまみれることになったのは」


 妖精の伝説だけがあやふやに残る現代で、妖精に助けを請おうと、一人の姫が国宝である『妖精の鐘フェアリ・クロッシュ』を持ち出して、誰も居ない国宝庫の中で振るった。


 十歳の幼い姫は童話に出てくるような可愛らしい妖精が、奇跡の力を使って国を助けてくれると、そんな風に思っていた。


 しかしながら、姫の期待は裏切られることになる。


 鐘の音を聞いて出て来たのは、筋肉質な親父おっさんにしか見えない存在ものだったのだ。

 姫はその姿を見て悲鳴を上げた。バケモノだと叫んだ。


 姫の叫び声を聞いて衛兵が駆け付けたが、その場に妖精の姿は無くなっていた。


 以降、『妖精の鐘フェアリ・クロッシュ』は悍ましい存在を呼ぶ物として、地下倉庫の奥深くへと封印されてしまったのだ。


 十年後、地下倉庫に私物を置きに行ったパラティエ公は誰かのすすり泣く声を聞いた。

 『妖精の鐘フェアリ・クロッシュ』と繋がった世界に居る妖精が、嘆きの涙を流していたのだ。


「こうして、私は彼らと出会った」

「……」


 『彼ら』で正解なのか。

 一同はそんな疑問を浮かべていたが、誰一人としてパラティエ公に質問する者は居なかった。


 事情を聞けば、涙なしでは語れない内容であった。

 かつての友の血を引くものを助けようと出てみれば、バケモノと罵られ、拒絶されるという。その話を聞いたパラティエ公は姪の態度を妖精に詫びた。


「私は、彼らに知って欲しかった。この世界が、楽しくも愉快なものであると」


 そんな時にパラティエ公は『迷宮宝箱ラベリント・アネクレン』の者と出会ったと話す。


 『迷宮宝箱ラベリント・アネクレン』とは、世界中の宝を集め、一番輝く形で保存をしようという目的を掲げる集団だという。


「事情は理解出来ましたが『迷宮宝箱ラベリント・アネクレン』とやらが盗賊団と呼ばれているのは、ご存じでしょうか?」


 それについては知らなかったとパラティエ公は言う。

 国内に『妖精の鐘フェアリ・クロッシュ』を気にする者は居ないと思っていたらしい。


「すべては、致し方のない事情である」

「……ええ、それも、そうですね」


 イクセルン国の場合は、国の保存状態にも問題があった。

 一方的に盗んだ側が責められることではなかったのである。


「国王には手紙を書こう」

「あ、ありがとうございます!」


 どこかに紙は無いかと周囲を見渡す。

 ウィオレケは姉の道具箱の中から紙とペンを出した。それを、王族名鑑と共にリンゼイに手渡す。

 どうして私がと、恨みがましい顔で弟の顔を見たが、パラティエ公に挨拶をした方がいいのかと思い直したので、仕方なく持って行くことにした。


「あ、あの――」

「なんだ?」


 リンゼイは初めましてと、ぎこちない笑顔で挨拶をした。「クレメンテの妻です」とも言う。

 それから、これに書いて下さいと、紙とペンと下敷きになる本を差し出した。


 パラティエ公はさらさらと紙面に文面を書いていく。

 その様子を二人で眺めていたが、突然質問をされた。


「貴殿らは、どう思う?」


 その問いかけに、クレメンテとリンゼイは顔が引き攣った。

 パラティエ公の妖精の姿についてなのか、筋肉妖精マッスル・フェアリにという存在についてか、それとも、今回のイクセルン国の対応についてなのか。

 夫婦は次に発せられる言葉をドキドキしながら待った。


「――私の、この姿について」

「!」


 クレメンテは無理矢理作っていた笑顔が凍り付き、リンゼイは一番答えにくいことを聞いて来たと、噴き出しそうになったが、咳き込むようにしてなんとか誤魔化した。


 リンゼイはクレメンテの腕をぽんぽんと叩く。

 問いかけに答えろという合図であった。


 クレメンテはゴクリと固唾を呑んでから、震える声で質問の回答を口にした。


「あの、正直に言えば、似合っていないと」


 取り繕うように、他の、きっちりとした格好の方が似合っていると言った。

 その発言を聞いたパラティエ公は快活な様子で笑い出す。


「はっ、当り前だ!」


 妖精と同じことをして楽しい気持ちを分かち合おうと、わざと似合わない格好をして踊っていたと言う。


「国には、私の機嫌を取ろうと嘘を吐く者ばかりだった」

「さ、左様でございましたか」

「だが、ペギリスタイン殿は正直者だ!」

「……あ、はい」


 それは、クレメンテがお世辞を言って気に入るという手段を知らないだけであった。

 今回はそれが良い方向へと傾いたのだ。


「受け取れ」

「!」


 パラティエ公は『妖精の鐘フェアリ・クロッシュ』と国王への伝言が書かれた紙をクレメンテに差し出した。


「国にある私の私財と交換に、ペギリスタイン殿に渡すよう、手紙に書いてある」

「え!?」


 『妖精の鐘フェアリ・クロッシュ』と手紙を、ぐっと胸に押し付けられ、すぐに手を放したのでクレメンテは慌てて抱え込む。


「彼らも、十分に心は癒されただろう」

「……」

「……」

「大切にしてくれ」


 思いがけない国宝の譲渡に、クレメンテもリンゼイも困惑の表情を浮かべていた。


「あ、の、パラティエ公は、どちらに?」

「……」


 手紙を託したということは、国には帰らないということになる。

 ここに居る妖精達も、『妖精の鐘フェアリ・クロッシュ』が離れてしまえば、姿を維持出来なくなるのだ。


「盗みを働いた私に、居場所など、ないだろう」

「そんなこと、ないですよ」

「……」


 黙り込むパラティエ公と夫婦の間に怪植物モンス・フィトが割り込んで来た。

 何を言い出すのかと、はらはらしながら見下ろす。

 皆の期待(?)を裏切らずに、怪植物モンス・フィトはとんでもないことを言ってくれた。


『公様、メルヴ達ト一緒ニ来ル?』

「一緒に、とは?」

『ミンナデ楽シク暮ラスノ! メルヴモ、拾ッテ貰ッタンダヨ!』

「……」


 怪植物モンス・フィトは拙い言葉で説明をする。

 クレメンテの屋敷は居場所がない者が集まって、愉快に暮らす場所であると。

 薬屋を営んでおり、働く場もあって給料も出ることも教えていた。


「私のような老いぼれ、迷惑だろう?」

「……いえ、そのようなことは」

「えっと、狭い家ですが、それでも良かったら」


 しどろもどろと、屋敷へ来ることを勧めるクレメンテとリンゼイ。


 まだ、脳内の理解が追い付いていなかったが、パラティエ公に遠慮は要らないと口にしていた。


アイテム図鑑


突然の選択肢


パラティエ公おっさんは仲間になりたそうな顔でこちらを見ている。

仲間にしますか?


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