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麗人賢者の薬草箱  作者: 江本マシメサ
第七章 お宝と迷宮と……
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八十八話

 食事を終えて休憩していると、リリットが何かに気付く。


『むぐ!!』


 焼き菓子を頬張っていたので、胸をトントンと叩きつつ、怪植物モンス・フィトが差し出したお茶で口の中のものを流し込んでから話し始める。


『ドウシタノ~?』

『今、結界が消えた!!』

『エエ~!?』


 結界の核は残り一個とされていたが、それが無くなったと言う。


「もしかして、早く来いって意味なの?」

「可能性はありますね」

『多分、さっきの魔物が一番強い奴だったんじゃないかな~』


 手間が省けたと言えばいいのか、相手への警戒を強めればいいのか。

 こちらの情報も筒抜けだったことだけは分かる。


「陣形も考え直さなければならない」

「迷宮の規模にもよりますけど」

『どちらにせよ、リンゼイの魔術を何発も放っていたら、迷宮が崩壊してしまうというか』

『コ、怖イ!』


 とりあえず、攻撃魔術はウィオレケが担当して、リンゼイは補助に努めることにした。


 森の中心にある、迷宮への道が開かれる。


 リリットが大きな力を感じた場所に案内をした。

 そこには、大きな樹木があった。先ほど戦った魔物樹モンス・バウムよりも太くて高いものである。


 樹に仕掛けがあるようだった。

 リンゼイが杖の先端で軽く叩けば、扉のようなものが浮かんでくる。


「ここから入れってこと?」

「ですかね」


 もう一度、コンコンと叩いたら、扉が開く。

 大人三人が同時に通っても問題ない位の大きな扉であった。

 リンゼイはクレメンテとウィオレケの顔を見る。

 二人は覚悟出来ていると、頷いていた。


「では、行きますか」


 ウィオレケは重々しい様子で返事をして、リンゼイは「そうね」と軽い調子で呟く。リリットはお宝捜索モードになっており、真面目な顔つきとなった。怪植物モンス・フィトはなんだか寒くなったと、葉を柔らかくして自分の体に巻き付けていた。


 まず、クレメンテが中に入る。

 扉の向こう側には地下へと続く階段があった。


「木製の階段が地下へと繋がっているようです」


 階段も木、壁も、天井も木製である。

 手すりまでついているという、親切設計であった。

 壁や階段などの木は釘で留められており、手作り感の溢れる空間となっている。


 クレメンテに続いてリリット、ウィオレケ、リンゼイ、怪植物モンス・フィトと迷宮内に入って行く。

 全員が入れば、扉は自動的に閉まった。

 気にせずに先へと進んで行く。


 中はひんやりとしていた。

 壁や天井に光魔術も呪文が刻まれており、壁は発光しているので、明るい空間となっている。


「なんなの、ここ?」

「まるで、変わり者の魔術師の家のようだ」

「面白いですねえ」


 魔術師達の生活はほとんど魔術頼りであった。文明の品を嫌う魔術師の家には照明器具さえない。

 リンゼイはリリットに宝物がありそうな場所が分かるかと聞いてみる。


『あ~、ごめん。さっきから探っているんだけど、何かの術で妨害されているのかな~? う~ん』

 この迷宮が七層あるということは分かるが、それ以外の内部情報はぼんやりと霞が掛かったようになっていて、視えないと言う。


『役立たずでごめん』

「そんなことないって」

『リンゼイ、珍しく優しい』

「珍しくは余計だから」


 長い階段を下りて行けば、大きな内開きの二枚扉がある広間に辿り着く。

 戸は明るい緑色で、縁は赤色に塗られている。絵本に出てきそうな、可愛らしい扉であった。

 扉の上には看板が貼り付けられており、古代語である言葉が記されている。


 ――ここより先は、『妖精の森フェアリ・フルシュ』。


「妖精の森って……」

『そういえば、盗品表になんか妖精のやつがあったような』

「なんでしたっけ?」

妖精の鐘フェアリ・クロッシュ

『ソレダ!!』


 おそらく、この層に隠されてあるのは『妖精の鐘フェアリ・クロッシュ』だろうと予想する。


「妖精を呼ぶことが出来る鐘、だったかしら?」

「確か、そんな風な道具だったと。宝物ほうぶつ図鑑にはその程度の情報しか明かされていない」

「リリットさん、詳しい情報はご存知ではないですよね?」

『う~ん』


 道具の一つで妖精の召喚をすることはありえない話だとリリットは言う。


『だから、多分だけど、リンゼイの国の幻獣札みたいに、姿を現しているように見える道具なんじゃないかな~って』

「なるほど」


 本来、気まぐれな気質を持つ妖精との付き合いは大変だと言われている。軽い気持ちで呼び出せる存在ではないのだ。

 妖精魔術に精通していない者が可憐な妖精の姿を楽しむだけならば、『妖精の鐘フェアリ・クロッシュ』は素晴らしい宝だと言えるのだ。


「中は、どうなっているか」


 未踏の地なので、皆、緊張の面持ちでいた。


『扉、蔓デ開ケヨウカ?』


 怪植物モンス・フィトの言葉に、ウィオレケは頼むと返事をした。


 頭からするすると伸びた蔓が扉の取っ手を絡め取り、捻って回すような動作をする。

 鍵は掛かっておらず、簡単に開いた。


『――中はどうなっているのか、って、うわ!!』


 好奇心旺盛なリリットが扉の先を覗き込む。

 扉の向こうには、緑豊かな森が広がっていた。


「まさか、本当に森を作っているなんて」


 そこは迷宮内とは思えない程の別空間であった。

 広い空が広がり、燦々と降り注ぐ太陽の光があって、鳥の鳴き声が聞こえる。

 空は幻術などを使って作り出したものであるが、地面の土も、そこに生える草も、森の木.々、可愛らしい声で囀る鳥さえも本物であった。


「もしかして、妖精が棲むに相応しい場所をわざわざ作ったの?」

『そういう風に見えるね』

『アア、癒サレル~』


 怪植物モンス・フィトの言う通り、爽やかな風が吹き抜ける美しい森に見えた。

 魔物の気配もない。


『え~っと、これは、何かな?』


 それは誰にも分からない。

 侵入者を警戒する仕掛けもなければ、迷宮内を守る魔物も配置されていないという。

 さくさくと、一本道を進んで行く。

 ただただ、ひたすら本物の森と変わらない、のどかな風景が続いているだけだった。


「綺麗な風景を見せて、警戒心を解いたところで討ちに来るとかじゃないですよね?」

「その可能性もあるかも。気を付けきゃいけないわね」

「姉上、その台詞はせめて杖を握りながら言ってくれ」

「だって、持ち歩くのには重たいし」


 様々な宝石や柄の素材となる魔樹などで作った魔術師の杖は重たい。持ち歩くだけでも一苦労なのだ。

 通常、魔術師は杖を収納する空間を作り出して、そこから使う時だけ出し入れしている。

 だが、突然戦闘になれば、呪文を唱えて杖を取り出していると出遅れてしまう。

 なので、どこから敵が出てくるか分からない時は持ち歩かなければならない。


「まあ、リンゼイさんは女性ですから。あの、よろしかったら私が……」

「義兄上」

「!」


 ウィオレケにジロリと睨まれたクレメンテは「杖を代わりに持ち歩きましょうか?」という発言を呑みこんだ。

 リンゼイの為ならなんでもしたい思いはあったが、「姉の為にならない」と言われたので我慢をする。

 最近手助けが出来ていないと、物足りない気分となった。

 杖を取り出して、眉間に皺を寄せながら歩くリンゼイの姿を見て、切ない気持ちが胸を支配する。

 当然ながら、顔全体を覆う兜を被っているので、義弟に表情から感情が伝わることは無い。


『――あれ?』


 リリットは遠くに何かを捉え、目をぱちぱちと瞬かせる。


『ドウシタノ~?』

『いや、なんか、見えるんだけど』


 リンゼイ達にはまだ見えなかった。

 一体何が見えるのかと聞いたが、リリットはとんでもないものを見た、という表情を浮かべるばかりである。


「リリット、ねえ、大丈夫?」

『あ、う、うん』


 リリットは目をごしごしと摩ってから、再び遠くにあった光景を見る。

 最初に目に飛び込んできた存在ものに変わりない姿があった。


『よ、妖精が、お花畑で、踊っている』

「え?」


 その光景のどこが珍しいものなのか分からなかった。

 人間の感覚で言えば珍しいが、同族であるリリットが驚いた様子を見せていたので、拍子抜けをしてしまう。


『あっ、一人、こっちに来る!!』

「え、どうすればいいの?」

『殺意ハ、ナイッポイネエ~』

「だったら、構えなくてもいい。妖精に身を任せるんだ」


 リリットは依然として、口をあんぐりと開いて、呆然とした表情を見せていた。


「あれは――?」


 次に、視力が良いクレメンテが妖精の姿を目にすることになった。


 頭に二本の触覚が生えていた。先端にはほわほわとした綿のようなものが付いていて、軽やかな動きと共に楽しげに揺れている。

 六枚の羽は薄い紅色。軽やかなステップを助けるように羽ばたいていた。

 ふわりとはためくのは、柔らかな布で作られた妖精風のドレス。

 肩や腕は剥き出しになり、豊かな胸元は薄い布が覆っている。裾も太もも丈とかなり短い。一歩、一歩と踏み出す度にスカートが揺れて、中が見えそうになる。


「何? 何が見えるの?」

「え~っと」

「義兄上?」

『ギャ!!』


 怪植物モンス・フィトが悲鳴を上げて、ウィオレケの背後に回って足元にヒシっと抱き付く。


「おい、どうし――」

「何アレ!?」


 隣に居たリンゼイも叫ぶ。

 ウィオレケは視線を前方に戻してから、驚愕することになった。


 跳ねるようにしてやって来るのは――親父おっさんであった。

 しかも、ただの親父おっさんではない。

 可愛らしい妖精の姿をした、屈強な筋肉を持つ、いかつい顔の親父おっさんなのだ。


 真顔で迫って来る親父おっさんに、誰もが身の毛がよだつような状態となる。

 リリットは震える声で、自らが知りうる情報を提供した。


『あ、あれは、筋肉妖精マッスル・フェアリ


 筋肉妖精マッスル・フェアリ

 妖精族でも非常に希少な種族であった。


アイテム図鑑


魔術師の杖


調子に乗って杖に宝石を付けたり、魔物から取った素材を付けたりなどしてデコってしまえば死ぬほど重くなってしまう。

杖を持ち歩くために、体つくりをして、筋肉隆々になってしまう魔術師もまれに居るほどに。

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