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麗人賢者の薬草箱  作者: 江本マシメサ
第六章 忍び寄る、影
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八十六話

 二度にも渡る激しい戦闘を終えた一行は、青の霊薬エリキサを飲んで疲労回復を行った後に、探索行動を再開させる。

 薄暗い森の中を進むのは精神的に思わしくない。なので、会話をしながら進んで行く。


「とりあえず、『メディチナ』の次なる事業展開を考えなければいけない」


 ウィオレケの話を聞いて、(真面目か!)とクレメンテ以外の者達は心の中で思う。

 だが、彼の言う通り真剣に『メディチナ』について考えなければならなかった。

 既に、次回の即売会はいつなのかという問い合わせもたくさん届いている。


「次はどうしますかねえ」


 リンゼイはこの前のような夜会を開くついでに売りつける方法はちょっと、と及び腰な意見を主張する。前日まで多忙を極め、疲労感も一入ひとしおであった。


「やっぱり街に店舗を買って、のんびり薬を作って、ちょっとずつ納品したい」

「姉上、それは難しいと思う」

「分かってる」


 店舗を開いても、客が殺到することには変わりない。

 むしろ、毎日納品の請求が届いて忙しくなることは想定出来る。

 自社製品なので当たり前ではあるが、『メディチナ』の薬は独占販売状態になっている。それを良く思わない商人もちらほらと出て来ていた。

 大きな反感を買わないように、国で開催される夜会の参加は控えるようにしている。


「義兄上は?」

「そうですね……」


 クレメンテの方針は最初からぶれずに『リンゼイを支えること』に傾いている。

 現状として、一生遊んで暮らせる程の私財もあり、商売については消極的な姿勢でいた。

 そんな人物に話を聞いても、いい案が浮かんでくるわけがない。


「姉上と義兄上は、のんびり薬作りをして、静かな環境で商売としたいと」

「……」

「……」


 話を纏めれば、そういうことになる。

 元々は十年という月日を無駄にしない為に始めた商売であった。せっせとと金を稼ぐことが目的ではないので、どうしても残念な商人と化してしまう夫婦であった。


「……義兄上、姉上、一つ、いい話がある」

「な、なんですか、それは?」

「気になるわね」


 『いい話』に食いつくクレメンテとリンゼイ。

 話を聞きたがる夫婦に、ウィオレケは口の端を僅かに上げる。


『なんか、あの二人、悪徳商法に引っかかりそう』

『美味シイオ話には裏ガアルヨ~!』


 一人は王宮生まれ、戦場育ちの元王族で、一人は良家生まれの魔術師である。街中で常識は知らず、ある意味箱入り育ちと言っても過言ではない。

 クレメンテとリンゼイの行く末が心配になる。


「簡単な話だ。『メディチナ』の店舗を義兄上の領地に開けばいい」

「!」


 クレメンテがペギリスタイン公爵から拝領した土地は、セレディンティア王国の辺境の地にある。

 商人の馬車が多い日で三日に一回行き来するだけで交通の便も悪く、名所もなにもないので観光してくる人も居ない。

 よって、のんびり商売をするに相応しい場所でもある。


「あ、いいかもしれないですね」

「でも、あの村は良い所だけど、お客さんが来なくなって薬が売れないんじゃない?」

「ほどほどに売れて欲しいなんて我儘だね、姉上は」

「だ、だって、折角作るんだし」


 そこそこ売れる為には村の目玉を『メディチナ』の薬以外で作らなければならない。


「う~ん。領地の観光地化、ですか」


 のんびりとした村を敢えて活気があるようにするのは、領民的にはどうなのかと首を捻る。


「でも、あの村どんどん人口減っているって」

「ああ、言っていましたね」

「寂れて、ゆくゆくは廃村になるよりはいいんじゃない?」

「は、廃村……」


 その件については、一度国に提案書を出して、許可が下りれば領主代理をしているヨルク・ペギリスタインにも相談をしなくてはならない。


「まあ、領民の反対が募れば観光地化はしなくてもいいし、その時は普通に薬屋をすればいいんじゃない?」

「なるほど」

「帰ってからシグナルやエリージュにも相談しないとね」


 新たな方針が決まったので、クレメンテとリンゼイは嬉しそうにしていた。

 だが、そんな二人に釘を刺すのもまた、ウィオレケである。


「なんだか喜んでいるけど、『メディチナ』の新しい展開の話は終わっていないから」

「あ、さ、左様でしたか」

「まだ何かあるの?」

「義兄上の領地の観光地化はまだ先の話。まずは『メディチナ』の店舗が村の目玉になるように、銘柄力を上げなければならない」

「銘柄力、ねえ」


 まず、『メディチナ』の記号キャラクターを統一した方がいいと指摘する。

 今までリンゼイの横顔にシルエット、スメラルドの微笑み顔にプラタの姿など、商品によってバラバラであった。

 商品は女性向けと男性向けがあるので、少なくとも二つに絞る必要がある。


「姉上、商品に描かれることになっても、文句は言わないよね?」

「……そうね、『メディチナ』の為だから、我慢、しなきゃ」

「いや、個人的にはリンゼイさんじゃない方が」

「まだ、姉上になると決まっていないし」

「そ、そうですね」


 これも、帰ってから話し合わなければならない課題の一つとなった。


「でも、一番大切なのは、定期的に即売会などを開いて、商品を売ること」


 なので、販売方法も引き続き考えなければならない。

 きちんと考えるように言われ、返事をするクレメンテとリンゼイであった。


 『メディチナ』の方針がある程度固まれば、会話を聞いていたリリットはウィオレケに話し掛ける。


『ウィオレケ、凄いね!』

「なにが?」

『年少者とは思えない、経営理念が』

『坊チャン、夜遅クマデオ勉強、シテイタンダヨ!』


 その話を聞いた夫婦は、勉強不足だったと反省する。

 だが、ウィオレケは凄いことでもなんでもないと言う。


「義兄上は営業で貴族の家を回ったり、夜遅くまで仕事をしている。姉上はこの国で売れそうな薬の着想を出して、薬を作る為の材料を地図上から探し出したりするし」


 それは、どれもウィオレケには出来ないことだと言う。


『営業は無理だとして、薬草とかの材料探しって難しいの?』

「姉上みたいに知らない土地で探しだせる人はあんまり居ないと思う」


 彼は自分に出来ることがあればと、時間を見つけては経営について学んでいたと話した。


『うう、ウィオレケ~、良い子だ~』

「私達は果報者ですね」

「ええ、本当に」


 そんな話をしていれば、三体目の魔物と出くわすことになる。

 現れたのは大きな角の生えた四足歩行の獣。

 馬のようにも見える。

 清らかな乙女を愛する伝説の『一角馬ユニコール』という聖獣が有名だが、対峙している魔物の体毛は黒く、目は赤く不気味なほどに光っていた。

 長く鋭い角には今までの魔物と同じように呪文が刻まれている。


 暗黒馬魔ドンクル・シュヴァル

 高い魔力を持つ魔物で、かつて、今は無き魔界軍の騎兵隊の隊長をしていた女魔人の騎馬として活躍していたという。同一の存在であるかは不明。


『みんな気を付けて、あれ、魔術を使う魔物みたい!!』


 リリットが叫んだ瞬間に、角の先端から魔法陣が浮かび上がり、雷撃が雨のように襲い掛かって来る。

 リンゼイとウィオレケは魔防効果がある魔術師の外套の頭巾を深く被り、衝撃に備える。

 クレメンテは暗黒馬魔ドンクル・シュヴァルの近くに接近をして、魔術攻撃を回避した。馬の急所である額には角が生えているので、その近くに拳を叩きつける。

 魔物と馬の急所が同じな訳はなく、与えた攻撃は更に荒ぶらせる要因となった。

 暗黒馬魔ドンクル・シュヴァルは棹立ちになってからクレメンテを踏み潰そうとする。長い角での攻撃も目論んでいたのか、地面に向けていた。

 クレメンテは後方に飛んで距離を取る。

 その隙にウィオレケが氷の矢を放った。

 氷撃は胸に突き刺さり、ビクリと大きく体を震わせる。

 だが、再び魔法陣が浮かんだかと思えば、すぐに氷は解けて傷口が塞がっていった。


「な、なんてやつなんだ!」


 詠唱なしで魔術を発現させる魔物を前に、ウィオレケは動揺する。

 一気に叩き込まなければ、いつまで経っても埒が明かない相手であった。


アイテム図鑑


『メディチナ』経営方針書


従業員の一人である、十三歳の少年が考えたもの。

経営者夫婦は「なるほど」と頷くばかりであった。


◇お知らせ◇

10月から隔日更新とさせて頂きます。m(_ _)m

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