八十四話
クレメンテの防具が届くまでの間、盗賊団についての調査を重ねることになった。
リフレが予想していた迷宮があると思われる場所は深い森に囲まれおり、巨大な結界が張られていて、簡単には近寄れないようになっていた。
リリットに『鑑定』で調べて貰ったところ、森の中に深い迷宮があることは間違いないということも判明する。
リフレが紙片に乱雑に書き記されていた状態で渡された盗品情報については、シグナルが詳しく調べてくれた。
・竜の肉塊
シルビア国の伝説の竜を燻製にして保存していたもの。製造日、不明。
戴冠式の日に限定して、国王の食卓に上がる。
・微笑みかける肖像
リーゼロッタ大国の不思議な美人画。
目が合えば微笑んでくれる。
・女神の大皿
シュリオン共和国の宝。熱心に願えば皿の上に女神が現れて、「好きにするといい」と言ってくれる。ただし、今までの歴史の中で祈りが成就した者は居ない。
・飛行絨毯
ミラージュ公国の空飛ぶ絨毯。
百人乗っても大丈夫。
・酒の魔法瓶
エメランド興国の国王の所持物。
飲んでも減らない至高の酒が満たされている。
・妖精の鐘
イクセルン国の妖精召喚道具。
鐘を鳴らせば妖精が姿を現し、持ち主の身を守ってくれる。
・一角馬の毛皮
ムスタジュマール法国の法衣。
清らかな乙女にのみ、纏うことを許されている。
迷宮は七層ある。一つの層につき、一つの宝を隠しているのかもしれないと、予想していた。
一週間後。
十分に準備を整えてから、迷宮に挑む。
朝食の席では、皆、緊張の面持ちでいた。
クレメンテは食が進んでいなかったが、エリージュにそれでは力がでないのでは? と指摘されたので、頑張ってたいらげる。
その後は、各々身支度に掛かることになった。
リンゼイは詰襟の上着にズボンという動きやすい服装に、この前母親から貰った純白の外套を纏う。
踝まですっぽりと覆う頭巾付きの外套はフリルやレースがあしらわれていて、リンゼイが着るには可愛すぎる一品であったが、防御面では最高に優れているので我慢をすることにした。
部屋から出れば、リリットとクレメンテと鉢会うことに。
「あら、それ、新しい鎧?」
「はい」
クレメンテの頭から爪先まで覆う鎧は街で購入した新しいものになっていた。軽くて動きやすいと言う。
『カッコイイよねえ~』
「まあ、兜で顔は見えないし、見た感じは――」
「……」
『……』
「あ、ごめんなさい。つい」
「だ、大丈夫です」
相変わらず失礼な物言いの多いリンゼイであったが、すぐに謝るところを見て成長しているなと思うリリットであった。
ウィオレケとも合流し、庭で準備運動をしていた怪植物を回収してから竜が休む広場に移動した。
『クエエエエ~~……』
『……』
プラタは切ない声で鳴き、メレンゲは不機嫌顔であった。
なぜかと言えば、リフレの黒龍が滞在を続けていたからだ。
花園と噴水を撤去してから広げた庭でも、竜が三頭も居たら狭く見える。
「な、なんか、ごめんなさいね」
『クエ~』
『……』
懐っこいプラタは仲良くなろうと接触を図ったが、慣れ合いを好まない気質の黒龍は無視。メレンゲも夫が他の雌竜を気に掛けるのが面白くないと、拗ねてしまっていた。
そんな竜達であったが、お仕事はきちんとしてくれるようで、主人らが乗りやすいように姿勢を低くしてくれた。
リンゼイは単独でメレンゲに跨り、プラタにはクレメンテとウィオレケが乗る。
怪植物は布に包んでウィオレケが背負い、リリットは安全な鞄の中に体を滑り込ませる。
「なんか、そっちの方が乗る人多くない?」
「姉上、気のせいです」
『そうだよリンゼイ、小さいことを気にするなんてらしくない』
「……」
リンゼイはそれもそうだと思い、飛び立つように指示を出した。
二頭の竜は大空に舞い上がる。
◇◇◇
辿り着いたのはセレディンティア王国の北部にある国境間際の森。
周囲は厳しい気候から作物も育たないので、開拓もされていない土地である。さらに、魔物も多いので、人が寄り付くような場所ではない。
開けた場所で降りてから、寒く深い森の中へと挑む。
まずは手書きの地図を広げた。これは数日前にこの場所へやって来た時に、リンゼイが上空から見た様子を描き移したものである。
森の中に結界の核となるものが四カ所あった。それを破壊すれば、迷宮の中に入れるようになる。
「あまり広い森でもないから、一緒に回った方がいいかもね」
「ええ、その方が安心です」
「行こう」
『はいは~い』
『了解デス~!』
鬱蒼とした暗い森の中を進む。
案内係のリリットを先頭にクレメンテ、怪植物、ウィオレケ、リンゼイという順に歩いていた。
風が強く、葉と葉が重なり合う音が落ち着かない気分へとさせてくれる。
魔物の気配はない。
それが余計に不気味だと、誰もが思っていた。
一時間ほど歩いた先に、一つ目の核を見つける。それは、見上げるほどの大きな樹に無数の呪文が掘られたものであった。
破壊をすれば結界の効果は薄れる。
単純な仕掛けであったが、結界の核となった素材が普通ではなかった。
『――み、みなさんに、残念なお知らせが』
リリットが言いかけたその時、大樹がくるりと振り返る。
嫌な予感がしていた面々は、既に戦闘態勢であった。
魔物樹。
意志を持った植物系魔物。怪植物の上位魔物でもある。
動きは遅いが、人を養分として取り込むために攻撃してくることもある恐ろしい魔物。
以上が魔物図鑑に書かれてある情報である。
リンゼイは蔓に囚われないように注意を促した。
樹皮の間から覗かせる紅い目がギロリと動く。
突然大きな体を震わせたかと思えば、何かが勢いよく落ちてきた。
『ヒェッ、なに!?』
『木ノ実ダーー!』
樹の高い位置から落ちてくるのは、大砲から放たれた砲丸のような、人の拳大ほどの木の実であった。数は多くないが、威力は大きい。木の実が着地した地面は抉れている。
木の実砲を避けながら、クレメンテは魔物樹へと接近する。
幹を思いっきり斬りつけたが、あまり手応えはない。
『ク、クレメンテ、リンゼイの魔術が来るよ!』
「!」
リリットの注意が聞こえて来たので、一度、横に避ける。
リンゼイの炎の玉は魔物樹の上部、葉が生い茂る場所に命中した。
炎は燃え移り、あっという間に木の上部は火事のような状態になる。
魔物樹は痛みを感じないのか、のっそりという動きは変わらずに、木の実を落とそうと体を揺り動かす。
「姉上、さ、最悪だ」
炎を纏った木の実が降って来る。最低最悪な目の前の光景に、ウィオレケは呟いた。
『ヒエエエエ!!』
炎が弱点の怪植物は悲鳴を上げながら咄嗟にウィオレケの足にヒシっと縋りつく。一発でも受けたら致命傷となってしまう攻撃へと化している。
こちらから攻撃を加えなくても、いずれ息絶えるだろうと考えていた。
炎撃から避ける為に、ウィオレケは魔術で強力な防御壁を張って耐える。
リンゼイは既に攻撃を止めて周囲に燃え移った火を消していた。
自分で起こした炎上の鎮火作業をしている姿を見たリリットは、なんだか切ない気持ちになる。
クレメンテは魔物樹の気を引いて、他の人の傍に寄らないようにしていた。
攻撃は先日買った手裏剣が活躍をする。
魔物樹は横の斬りこみには強かったが、縦の斬りこみには弱かったのだ。
クレメンテが八枚目の手裏剣を投げて命中させれば、魔物樹の体は傾いて倒れる。リンゼイはすぐさま水の魔術で炎を消した。
魔物樹の背に刻まれていた呪文を火で焼けば、結界の力が弱まる。
皆、無傷であった。
リンゼイは安堵の息を吐く。
「な、なんとか、大丈夫だったみたい」
「ええ、そうですね」
周囲は軽い焼け野原である。
ウィオレケはふるふると震えていた。
「……姉上」
「!」
弟からの無言の圧力を感じたリンゼイは、即座にクレメンテの背後に隠れた。
「義兄上の後ろに隠れても無駄だから!」
「ごめん! ごめんなさい! 悪かったって!」
リンゼイの間違った戦略のお蔭で森の一部が大変なことになった。
今まで単独での戦闘しか行っていなかった彼女は、協調性という言葉を知らない戦い方をする。
それは、時に周囲の者達を危険に晒すことにも繋がるのだ。
よって、リンゼイは弟からこってりと絞られることになった。
アイテム図鑑
魔物樹の木の実
薬の素材になる。
魔物樹を倒した後、リンゼイは焼け焦げたもの以外の木の実を全て拾って集めた。




