八十三話
クレメンテはウィオレケと街まで向かう。
目的の地は武器と防具を専門に扱う商店。武骨な男達が出入りをする場所だ。
看板替わりの大きな盾に店名が書かれた店は、都で一番の品揃えという評判がある。
店は地方からやって来た冒険者などで賑わっていた。戸を引いて、中に入る。
「わ、すごい」
「こういうお店は初めてですか?」
コクリと頷くウィオレケ。
壁に貼り付けられた盾や弓に、樽の中に立てかけてある鎗、剣の種類は数え切れないほどある。棚の中の鎧はきれいに磨かれていて輝いていた。
初めて来る店にきょろきょろと周囲を見渡して楽しそうにしている様子を見て、彼にも子供らしいところがあるのだなと、クレメンテは微笑ましい気分になる。
普段、落ち着いているように見えるが、ウィオレケはまだ十三歳の少年。
普段からもっと周囲の大人に甘えて、子供らしく振る舞って欲しいと考えていた。その為には自分自身がしっかりしなくてはならない。クレメンテは決意を更に固めることになった。
鎧売り場まで移動している途中に、見慣れない武器があったので、ウィオレケは質問をしてみる。
「義兄上、これは?」
「投擲武器、でしょうか?」
形は手のひらよりも小さく平べったい。金属で出来ており、ナイフのように尖がった四本の刃が突き出した武器である。クレメンテも初めて見る武器だったので、裏表と見ながら観察をしていた。
すると、近くに居た小柄な店の主が話し掛けてくる。
「お客さん、それは手裏剣という、異国の隠密職が使う武器なんですよ」
「へえ、シュリケン、ですか」
店主が威力を試してみないかと、壁に立てかけていた板を指し示す。
板にはいくつもの手裏剣が刺さっていた。この店は武器の威力を試せる板などが多数用意されている。
クレメンテは少しだけ離れてから、周囲に人が居ないのを確認して手裏剣を投げる。
投げた手裏剣は板に命中して、ぱっくりと二つに割れてしまった。
「あ、すみません!」
「え!? あ、いや、いいえ」
厚い板を二つに割ったので、店主は驚いていた。
クレメンテは申し訳なさそうな顔をしながらも、素晴らしい武器ですねと褒める。
今まで数え切れないほどの冒険者の投擲を見てきたが、板を割った者は居なかった。
武器が優れているのではない。使った人が優れていたのだ。
店主は何者なのだとクレメンテの顔を見上げる。その視線を勘違いしたのか、申し訳なさそうな表情で会釈をしてきた。
「すみません、板の弁償をします」
「いえいえお客さん、とんでもない!」
「義兄上、板が劣化をしていたのかもしれないから」
「あ、ですかねえ」
初めて使う武器であったが、不思議と手になじんで威力もそこそこあるように思えたので、三十枚ほど購入することにした。
店主に「他にも何かお求めで?」と聞かれたので、鎧の売り場で商品の紹介をして貰うようにお願いをする。
鎧売り場には様々な種類の防具が並べられていた。
最近の流行りは軽くて丈夫なリルコン織りという、複数の金属を溶かして編んでから叩いて鍛える鎧が人気だという。
「義兄上がいつも着ているような鎧は売っていないんだ」
「ええ、まあ」
「お客様は普段、どのような品を?」
ここは都で一番の品揃えがある商店だ。裏にある倉庫にも売れ筋ではない、世界中で買い集めた様々な種類の武器防具の在庫がある。なんでも用意して見せると、胸を張った。
「鋼鉄製の全身鎧なんですけど」
「え?」
頭から爪先まで全てを覆う板金鎧は数百年前に戦場を駆ける、馬に騎乗をして戦う騎士が纏う装備品だ。
店主も名前だけは知っていた。
話を聞けば、目の前の青年は全身鎧を纏って今まで戦っていたと。しかも、馬に跨った戦闘方法ではなく、自らの足で動き回り、剣を振るっていたという。
全身を固めた鎧の重さは軽くても四十四ポンド(約ニ十kg)を超える。
そのような重量物を纏った状態で、馬にも乗らずに戦闘を行うことなど不可能のように思えた。
だが、先ほどの板を割ってしまった腕力を振り返り、彼ならば可能なのだろうと考える。
この人物は、一体何者なのかと、改めてその姿を眺めた。
穏やかそうな雰囲気に見えていたが、眼鏡の奥にある目は鋭い。思わずビクリと肩を揺らしてしまった。
「申し訳ありません。当店、板金鎧のお取り扱いはなく――」
店主はこの店を開いてから三十五年、初めて品物が無いことへと謝罪を口にすることになった。
「そうでしたか」
「で、ですが、似たような品はございます!」
少し待っておくようにと言われ、クレメンテとウィオレケは待機することになった。
数分後。
店主は人形に着せた鎧を二人がかりで持って来る。
その鎧は一見して全身鎧のように見えた。
「これは――」
「溝付甲冑という品でございます」
板金鎧に似ているが、全身を覆うものではないと言う。
頭から腰までは板金鎧と変わらない。腰から膝までの装甲で覆われている部分は前面だけとなっていた。
「こちらは軽さと強さを兼ね備えた鎧でして、素材に凹凸を入れることによって、強度を上げた品になっているそうです」
「へえ、良い品ですね」
クレメンテは見た目の感想を述べる。重さは今まで使っていた品の半分ほど。触れてみた感じも良かった。
「ご購入される場合はお客様の寸法を測りまして、当店専属の鍛冶時師が体にぴったりと合うように鍛え直しますので、お届けには一週間ほど頂くことになります」
仕入れ額もそれなりだったので、値段は張ると店主は言った。
算盤に示された数字を見たクレメンテは、それでもいいからと言って購入を決めた。
採寸をしている間に、ウィオレケは店内を歩き回る。
先ほどから他の客の注目を浴びている気がして落ち着かなかったのだ。
取引を済ませたクレメンテはウィオレケに店を出ようと声を掛ける。
店主は店先まで出て行ってから、上客の見送りをした。
「それでは、品物は一週間後にまとめてお届けをいたしますので」
「よろしくお願いいたします」
店の主人以上に深々と頭を下げるクレメンテ。
その様子に、店主は額に大粒の汗を浮かべることになった。
「義兄上、行こう」
「あ、はい」
クレメンテとウィオレケが去った後の店内で、手裏剣が飛ぶように売れて、溝付甲冑の問い合わせが殺到したことはまた別の話である。
◇◇◇
その後、ウィオレケは雑貨屋で新しい鞄を購入した。
夕暮れの街中を二人で並んで歩く。
途中、噴水広場にあった屋台で薄焼きの生地の中にチーズと卵を入れて巻いたものを買って食べることにした。
「他に寄りたいお店とかありますか?」
「いや、特に」
広場の長椅子に腰を掛けてから、ガレットと呼ばれる食べるものに噛り付いた。
表面の生地はパリパリで、内側はもっちりとしている。ほんのりと塩気があって、香ばしい。中のチーズがトロリとしており、香辛料で味付けをした炒り卵とも相性は抜群であった。
あっという間にぺろりと平らげてしまう。
「お買い物に付き合ってくれて、ありがとうございました」
「うん」
何か素材でもと思って出かけたが、魔道具生成に仕えそうな品はなかった。
だが、気に入った鞄は買えたし、義兄との買い物も楽しんでいたことに気付く。
鞄を買って貰えたことも嬉しかった。
なので、ウィオレケからも改めてお礼を言った。
「さてと、帰りますか」
ウィオレケは目の前に差し出された手を掴んで立ち上がる。
夕暮れを背にしながら、二人は帰宅をすることになった。
アイテム図鑑
ガレット
セレディンティア王国の都名物の一つ。
生地の皮はパリパリもっちりで、中の具は甘いものからしょっぱいものまで多岐に渡る。三角形に折りたたみ、紙に巻いて食べ歩くことが可能。
お値段もお手頃で、お財布にも優しい。




