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麗人賢者の薬草箱  作者: 江本マシメサ
第六章 忍び寄る、影
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八十話

 掴まれた手を放してもらおうと腕にぐっと力を込めて引いたが、思いの外きつく握りしめられていたのでビクともしなかった。

 今度は、じっと母親の顔を睨み付ける。

 すると、ニヤリと笑った。


「は、放して!」

「放したら、逃げるだろう?」

「……」

「リンゼイよ、どうした?」

「どうしてって、無理だから! 帰れないから!」


 リンゼイの身には契約が掛けられている。残り九年、セレディンティア王国で過ごさなければ祖国には帰れない。


「その仕組みは、常々おかしなものと思っていた」

「え?」

「貴重な若い人材を、よその国に縛り付けておくとは」

「!」


 リンゼイの母は片手に持っていた矢を放り投げ、魔術式を展開させて異空間から杖を取り出す。

 呪文を口ずさみながら杖を振り、呪文を完成させた。


 突然、リンゼイの足元が光で包まれる。

 それから、国で装着することを決められていた踝に巻かれてある足輪が外れて地面に落ちた。


「――なっ!?」

「どうだ、自由の身となった感想は?」

「これは、絶対解けないようになっているって」

「ここ二十年ほど、使っている品は私の監修の元で作られた品だからな」

「!?」

「外すことはたやすいことよ」


 衝撃の事実。

 母親が国王に仕える数少ない魔術師であることは知っていたが、まさか魔道具の製作に関わっていたとは知らなかった。


「こ、こんな、ことをして、いいと」

「なに、問題ない」


 リンゼイの国の魔術師不足は年々深刻なものとなりつつあった。

 よって、魔術師と契約を結んだ国の推薦などがあれば、術の解除をしてもいいという法律が最近出来たと言う。

 他にも、優秀な者は学費免除で国家魔術師として採用する話も上がっていた。


「先ほど、セレディンティア国王から契約解除の許しを貰った」

「はあ!?」

「まあ、少々手荒なことをして書類を書かせたが、長年のお前の行いはよく褒めていた」

「……」

「随分と書類に署名するのを渋っていたがな」


 国王を脅してまで契約破棄を迫ったのかと、母親の行為を恐ろしく思う。

 しかしながら、無理なことをしているようで、彼女の行為は筋が通っているものであった。

 このままリンゼイが国に帰っても、何ら問題は生じない。


「ウィオレケも一緒に連れて帰るからな」

「え!? でも、父上は……」

「離婚する」

「なんですって!?」

「私の可愛い子を、勝手に追い出してから!!」


 「あの禿クソ親父が」と良家の夫人とは思えない汚い言葉を口走る。ちなみに、リンゼイとウィオレケの父は禿げていない。

 末息子のことはずっと探していたらしい。竜で世界中を飛び回っていたという。

 ふと、一年間も連絡をしていない娘のことも思い出して調査の手を伸ばせば、そこにウィオレケも居たと。


 連れて帰る話をすれば、夫は大反対。

 数日間彼女なりに悩んでいたが、仕方なく結婚した婿など捨ててしまえばいいという答えに至っていた。


「ちょっと待って、離婚とか、早まらないで」

「いや、許せないのは今回のことだけではない。出会った時からいけ好かない男だったのだ!」

「無責任だって!」

「責任? 家督なんか子に譲ってやるわ。ああ、そうだ、リンゼイ。お前が次期当主となればよい」

「は?」

「その器がある」

「と、突然、そんなことを言われても!」


 とりあえず、落ち着いた場所で話をしないかと説得をした。

 しかしながら、母親は話に応じない。


 突然笑みを深める母。

 リンゼイは警戒心を強める。


「……来たか?」

「?」


 誰かが走って来る音が聞こえた。

 母親の背の向こうからやって来る人物を、リンゼイは覗き込む。


 その者は距離と取って立ち止まり、得物を向けながら叫ぶ。


「姉上を離せ!!」

「ちょっと、ウィオレケ!」


 母親に杖を向けて睨み付けるのは、ウィオレケであった。

 親に対してなんてことをしているのかと慌ててしまう。

 リンゼイを放さないと大変なことになると、ウィオレケは脅し言葉を叫んだ。


「『大変なこと』とはどういうことかな、私の可愛い子よ」

「い、いいから離すんだ!!」

「大変なこととは、『こういうもの』、だろうか?」

「!?」


 急に、気配もなく背後から羽交い絞めにされるウィオレケ。

 何かの術中に陥っているからか、体が全く動かなかった。

 一体誰がと僅かに動く顔を上げれば、にっこりと艶やかに微笑む母親の顔があった。


「――な!?」


 目の前には姉の手首を掴んで離さない母親が居る。

 だが、ウィオレケを拘束しているのもまた、母親であった。


「は、母上が、二人!?」


 その時になって気が付く。

 ここに居るのは、母親ではないと。


「姉上、それは母上ではな……むぐ!」


 即座に口を覆われるウィオレケ。


「母上、じゃない?」


 リンゼイも改めて母親の姿を見れば、目の中の光が虚ろなように見えた。

 ならばと思い、自らも杖を取りだろうとしたが、もう片方の手も握られてしまった。


「――あうっ!」


 それは、人間の女性が一般的に持っているであろう力を凌駕している。

 リンゼイは叫ぶ。


「クレメンテ、助けて!!」


 すぐにクレメンテは動いた。

 リンゼイを拘束している手首を掴んで、力任せに捻りあげる。

 人の形をした『何か』は、強い圧迫に耐えきれずに掴んでいたものを放した。

  触れた皮膚の感覚は人と変わらないものであったが、中にあるはずの骨の位置などがおかしいことにクレメンテも気付く。

 これは、人ではないと一瞬で判断をした。

 リンゼイの母は手に握っていた杖を後方に引き、すぐさま突き出してきたが、クレメンテは寸前で後方へと飛んで避ける。

 眼前にあった杖の先端ががカッと光った。しばらくの間視力を奪う強い光を放つだけの魔術である。

 クレメンテは目を閉じてから勘で動く。

 リンゼイの手を引いて後方まで下がり、光がなくなったタイミングで瞼を開いた。


「大丈夫ですか?」

「え、ええ」

「手を出していいものか、迷ってしまって」

「いいの。でも、あれ、多分母じゃない」

「……」

「本体は別にあるから」


 リンゼイの母親は杖を剣のように振るい、戦闘態勢で居る。


 一応、間違いがあってはならないので、リリットに『鑑定』で調べて貰うことにする。


『クレメンテ、リンゼイのお母さん、二体共人形だから!!』

「やっぱり!」

「分かりました」


 クレメンテは申し訳ないと思いつつも、リンゼイの母に接近をして、突き出された杖は握ってから引き抜いた。奪った杖はその辺に投げ捨てる。

 今度は拳を突き上げてくるので、手首を掴んだ後に背負い投げて地面に叩きつける。リリットは動力となっているコアが胸部にあることを調べ出した。

 隙を狙っていたリンゼイは迷わず、胸の位置に短剣を突き刺す。

 コアを砕けば、母親の姿を模した人形は動きを止める。


 クレメンテが動くのと同時に怪植物モンス・フィトも行動を開始していた。

 拘束をしているもう一体に近づき、葉を鋭くして人形の足元を切りつける。

 切り裂いた足の切り口からは、緑色の液体があふれ出てくる。

 腕の力が緩んだ隙に、ウィオレケは人形から離れることに成功した。


『坊チャン、大丈夫?』

「ああ、ありがとう」

『イエイエ』


 リリットは強い魔術反応を調べ、腹部にコアが埋まっていることを発見した。

 怪植物モンス・フィトは蔓を頭の上から生やして人形をぐるぐる巻きにして動きを止めて、ウィオレケは短剣を取り出して、迷うことなく腹部に突き刺した。

 二体目の人形も動きを止める。


 リンゼイは人形の機能停止をリリットから聞いた後、クレメンテにお礼を言ってからウィオレケの元に駆け寄ってぎゅっと体を抱きしめた。


 母親の人形制作については二人とも把握していなかった。

 人に見紛う程の精緻な人形を、恐ろしく思う。

 それと同時に、ここまで壊して良かったのかと、顔色を青くした。


「で、でも、壊していなかったら、姉上が連れて行かれていたし」

「あなたもね」

「は?」

「ウィオレケを連れて帰った後、父上とは離婚するつもりだったみたい」

「なっ、馬鹿なことを!」


 互いの安否をした後で、改めてクレメンテにお礼を言うことになった。


「すみません、助けるのが遅くなって…」

「そんなことないって」

「義兄上のおかげで助った」


 リンゼイと対峙していたのは母親であった。なので、どうしていいのか分からなかったと言う。


「びっくりしたでしょう?」

「ええ、まあ……」


 姉弟はクレメンテやリリットにも母親について話すことになった。

 リンゼイとウィオレケ母、リフレ・アイスコレッタは傍若無人という言葉が相応しい、とんでもない人物であった。

 自らの子供にはとことん甘く、それ以外の他人と夫には非常に厳しい態度で接する暴君でもある。だが、子供への愛情は今まで分かりやすく示すことはしなかった。

 なので、今回の件についてはリンゼイもウィオレケもひたすら困惑するばかりである。


「母上は、どうしてあのようなことを」

「あの人の考えなんか分かる訳もないけど」

「確かに」

「でも、良かったです」


 皆、無傷でここに居る。それだけで良かったとクレメンテは言った。

 少し離れた場所でうんうんと頷いている怪植物モンス・フィトとリリットにも謝罪をする。


「リリットも、メルヴも、母がしようもないことをして、ごめんなさいね」

『うん、びっくりした』

『大丈夫ダヨ~』


 怪植物モンス・フィトは庭で水を浴びているところを捕獲され、リリットはお菓子を食べているところを捕獲されたという。

 あまりにもあっさり捕まり過ぎだろうとリンゼイとウィオレケは思ったが、指摘しないでおいた。

 それから、戦闘面での協力のお礼も伝えた。


「二人のお蔭で助かった」

『いいってことよ~』

『頑張ッタ~』


 人形の処分はどうしようかと考えていると、シグナルがやって来る。

 浮かない表情だったので、どうかしたのかとクレメンテは訊ねた。


「旦那様、奥様、若様」


 後に続いた言葉は驚くべきことであった。


「リフレ・アイスコレッタ様、奥様と若様の御母堂様が、客間でお待ちです」 


 更に、応対はエリージュがしているという、なんとも恐ろしげな状況であった。


アイテム図鑑


リフレ人形


リンゼイの母を模した人形。

遠隔操作で活動をする。込められた能力は本人の十分の一ほど。腕力だけは数十倍となっている。

怖すぎるお人形さん。

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